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16 協力者

その週の土曜日、時刻は午前九時。俺はとある場所へと赴いていた。


 ピンポーン


 インターフォンを鳴らし家人が出てくるのを待っていると、フォン越しに「はい」と男の声が聞こえた。


「高遠と言いますが剛志君は御在宅でしょうか?」


「高遠・・・・・・あ! もしかして律樹か?」


「そうそう、覚えていてくれたか。小三の時転校した高遠律樹だ」


「懐かしいな。すぐ出るからちょっと待ってろ」


 すると直ぐに中からダンダンダンと階段を下りてくる音が聞こえ、その足音は玄関の方へと近づいてくる。そしてドアが開かれるとそこには懐かしい顔が現れた。


 彼の名前は下村剛志。転校する前一番仲の良かった友人だ。


「でっかくなったなー律樹」


 顔を合わせて早々俺のことを上から下まで眺めてから剛志が言う。


「お前は親せきのおばちゃんか。お前は何と言うか・・・まあ普通だな。あんま変わった感じがしないというか、そのまま大きくなった感じ?」


「あはは、よく言われるよ。そんで急にどうしたよ、ていうかもしかしてこっちに帰って来たのか?」


「高校入学と同時にな。今は昔住んでいた家にまた住んでる」


「そうなのか? じゃあ家族そろって戻って来たってことか。確か親の転勤だったよな」


「んーそうじゃないんだけど、とりあえず俺だけかな」


「ふーん。まあ立ち話もなんだし上がれよ」


「悪いがそうさせてもらうぞ。ほい、これ手土産」


 来る途中コンビニで買ってきたジュースとお菓子を見せる。


「はは、最初から家に上がる気満々だったなー」


「そう言うこと。お前なら絶対家に入れてくれると信じてたぜ」


「そこらへんはホント相変わらずだなあ。まあいい、俺はトイレ行ってくるから先に部屋へ行っててくれ、場所は覚えてるだろ?」


「当然。何回遊びに来たと思ってるんだよ」


「だな」


 勝手知ったる何たらで剛志の部屋に向かった。


 


「それで今日はいきなりどうしたよ?」


 トイレから戻って来た剛志にペットボトルのコーラを渡す。それを一口飲んでから彼はそう尋ねてきた。


「実はお前に協力してほしいことがあってな。ああお前と会いたかったというのもあるぞ」


「それは知ってる。でも帰って来たんならもう少し早く来てくれても良かったんじゃね? とも思ってるけどな。まあ半分冗談だから気にすんな。んで協力って?」


「一哉のことは知ってるだろ? それ絡みで手伝ってほしいことがあるんだが」


 一哉の名前を出すと一瞬目見開くも直ぐにいつもの狐みたいな細い目に戻す剛志。


「一哉ってあの橋本一哉のことか?」


「その一哉のことだな。それと例の事件のことも本人やそれ以外から聞いてるぞ」


「そうか・・・・・だったら俺じゃなくて平田とか松山の方が適任だと思うが、確かあいつら三人仲良かったはずだし全員逗麻高へ行ってたはず。もしかして律樹もか?」


 平田はヘイ太で松山は比呂斗のことだろう。


「まあな。一哉とはクラスも同じだ。ついでに言えば文字さんもな」


「へー、それはまた面白いことになってるな。んで橋本は実際どんな様子だ?」


 剛志と話をして思ったが、彼と一哉は特段仲が良かったわけではなさそうだ。俺の記憶でも二人が一緒に居るのを見たことがないし、六年たった今でもその関係性は変わらなかったということだろう。二人にたいした接点がないことは俺にとっては好都合だ。元よりそんな気がしてコイツに当たってみたわけなのだが、一応目論見通り事が運べそうだな。


「たぶんお前の想像通りだと思うぞ。学校のSNS見るか?」


「いや見なくてもお前の言葉で察したよ。中学の時もかなり晒され吊るし上げられてたからな。アレは見ていて気持ちのいいものではなかったよ。それにみんな騒ぎ過ぎだっつーの」


「そんなにか? というより目的の一つがそれなんだが」


「当時のことも聞きに来たってことか。いいよ、俺が知っていることなら全部話すぜ」


「取り敢えず事件にかかわるSNSの情報を知りたい。できれば事件前のもあると助かるな。それと押切って奴がどんな人間なのかも教えてくれ」


「押切か? あいつならつい最近会ったばっかりだぞ。高校は違うが同じバスケ部だったし普通に遊んだりしてるぜ。あいつの何を知りたいかはさておき、SNSの方はとりあえず今把握している分だけでいいか? 掲示板なんかは学校側が動いて削除されたって聞いたから望みは薄いかもだけど、拡散されたものは時間さえもらえれば多少は集められるかも」


「助かるよ剛志。しかしいくら学校が動いたとはいえ全部削除されたとは考えにくいな。スレ主が自主的に消さなかったものだって残っているだろうし、学校が運営に削除依頼しても相手にしてもらえないことは普通にある話だ。ていうかぶっちゃけ何個か見つけたし、探せばまだまだ拾えるかも」


「なーんだ、すでに動いてんじゃん。じゃあ俺は個人に狙いを絞って探してみるか。こう見えても割と色んな奴と繋がってるんだぜ。進路や就職に影響するからヤバい投稿やリプは普通消すんだが、頭の悪い奴の何人かはそのままにしているはずだ。それと時間は掛かるが裏アカも何人かは特定できると思うぜ」


「マジか? お前暇人なの?」


「バカヤロ。普段は家にいないことの方が多いんだよ。今日はたまたま家に居ただけだ。ていうかよく俺が家に居るって分かったな。それとも取り敢えずインターフォン鳴らしてみただけなのか?」


「玄関の脇に高そうな自転車があったからな。お前昔からサイクリング好きだったし、それがあるってことは家に居る可能性が高いと思っただけだ」


「流石俺の親友だな。覚えていてくれて嬉しいぜ」


 両手を広げ近づきハグをねだってきたので「気持ち悪い」と言ってキッチリ叩き落としてやった。


「元な。今は知り合い以上友達未満?」


「痛ってーな・・・・・まあ関係性何てどうでもいいか。とりあえずこうして再会できただけで俺は十分だし。んで次は楓紀のことなんだが・・」


 そう言いながら無造作に床に置かれていたスマホを手に取り弄り始める剛志。


「どんな奴だ?」


「そうだなあ・・・・よし、会ってみた方が早いな。とりあえず動きやすい格好に着替えて再集合な」


「え?」









「まさかお前もバスケ部だったとはな・・・・いやその身長なら寧ろ当たり前か。というか上手すぎだろ律樹」


「そうだね。僕も中学じゃあ一応エースって呼ばれてたけど君には敵わないよ」


「二人とも嘘つくな! お前ら全然余裕そうじゃねえか。俺なんかもうバテバテだぞ」


「そんなことないって、俺も結構限界近いぞ」


「剛志の場合ニヤケ面だからそう見えても仕方がないよ。でも僕は本当に敵わないと思ってる。それだけの実力があれば逗麻校でもやっていけるのに、もったいないなあ」


「ニヤケ顔言うな。この優男め」


「それって貶してるつもりかい?」


「ちげーよムカつくからあえて褒めてるんだよ。慇懃無礼ってやつ?」


「だったらもっと褒めないとな、剛志。,ていうか疲れた、悪いけど休憩させてくれ」


「だな。飲み物買ってくるけど律樹は何がいい? さっきのお返しで今度は俺が奢るぜ」


「ならお茶を頼む」


「僕はいつものね」


「誰が楓紀に奢るって言ったよ? お前なんてあそこにある水道で十分だ」


「あーあ、せっかく高校で仲良くなった女の子と今度剛志を交えて一緒に遊びに行こうと考えてたのになあ」


「いらんお世話だつーの。それにお前に借りを作ると高確率でロクなことにならんしな」


「ちぇっ、やっぱ剛志にはこの手は通じないか」


「ったりめーだ」



 俺達は逗麻高から程近く、昔よく遊んだ思い出のある長靴公園というところに来ている。長靴公園の名前の由来は上空から見ると公園全体の形が長靴に見えるからだそうだ。ここには大きく分けて二つのエリアがあり、一つはブランコやアスレチックなどいくつかの遊具があるエリアと、小学生の野球くらいなら十分に出来る広さのフリースペースがある。その端っこの一角にバスケットゴールが一つだけあり、俺達はそこで汗を流していた。昔見た時は『高いなあ』と感じていたゴールも、当然ながら今は普通に見える。



「すまないな、僕の我がままで付き合ってもらって」


 ゴール裏のフェンスにもたれながらそう言ったのは、俺がどんな人物であるのか剛志に尋ねた押切楓紀、その人だ。彼は一哉や剛志が通っていた逗麻西中出身だが、小学校は俺たちが通っていた逗麻小とは別の織谷小出身者だ。西中はこの二つの小学校出身者で大半が構成されている。


 あの時剛志は彼とメッセージでやり取りしていたようで、その後何故か三人でバスケをすることになり、小一時間バスケを楽しんで今に至るというわけだ。


「俺も最近運動不足気味だったし丁度良かったから気にすんな。それと押切の話を聞きたいと言ったのは俺だしな」


「楓紀でいいよ。みんなそう呼んでるし剛志の親友なら尚更ね」


「ははっ、親友じゃねえけどそうさせてもらう。それで楓紀、単刀直入に聞くけど一哉のことと例の事件のことは当然知ってるだろ?」


「・・・・そうだな、あの学校に通っていた奴なら知らない者はいないかな。それと僕がどう関係あるんだい? 言っておくけど僕は無関係だし知っていることもみんなと大差ないと思うよ」


 剛志が言い放ったように楓紀は人当たりが良さそうな典型的な優男顔で、尚且つかなり顔立ちが整っているし、さぞかしオモテになることだろう。だがそんな甘く端正な顔立ちが一瞬曇ったことを俺は見逃さなかった。


「・・・寧ろ無関係な奴だからこそ知っていることは全部話せるって事だろ? 俺が聞きたいのはまず、あの事件で気になることは無かったか? だな」


 告白云々の件は一先ず置いておこう。いきなりそんな話してもプライベートなことだし普通は簡単に話してはくれないからだ。たぶん今日はその話にはならないだろう。

 


「その前にどうして律樹がそれを調べてるか聞いてもいいかい? 最初君は六年前に転校してつい最近戻ってきたばかりだって言ってたろ。だからイマイチ動機が分からないんだ」


「簡単に言えば人助けみたいなものだな」


「人助け? それはなかなか殊勝なことだけど、君に見返りはあるのかい?」


 見返りねえ・・・・あまり考えたことなかったけど、言われてみればどうして俺こんなことしてるんだっけな。文字さんのため? それとも・・・・


「強いて挙げるなら俺の学校生活が順風に行くことかな」


 学校で一哉とまともに話せるようになればそれだけ俺の居心地も良くなるはず。一哉の立場が改善される可能性は低いが、それは放置していても大して変わらないものだと俺は考えている。一哉を見限って他の奴と仲良くなることだって出来るだろうが、知っている奴を見捨ててまで得られるものって、いったいどれくらいの価値があるのだろうか?


 別に一哉に対して特別な思いは一切ないが、何故か『関わりたい』と思う気持ちが心の中に存在していた。いくらその理由を考えても答えは出なかったが、一つだけ引っ掛かりの様なものはあった。


 それは中学時代によく見た夢のことだ。


「波風立てない方が穏やかに過ごせると僕は思うけどね。それに一哉本人にとっても迷惑だと思わないかい?」


 楓紀の言葉は暗に止めておけと言っている様にしか聞こえない。その理由が俺のためを思ってのことなのか、それとも別の理由からなのかは判断何出来ないが、後者であればこうして楓紀に会ったことは無駄ではないような気がした。


「別に事を大きくするつもりはねえよ。ただ真相を知りたいと思ってるだけだ。正確に言うと一哉が犯人ではないというていで動いてると言ったら信じてくれるか?」


 その言葉に先程の曇ったものではなく、単純に驚いた表情を見せる楓紀。そしてポンと反動をつけながらもたれていたフェンスから離れた。


「あの事件の犯人は一哉じゃないって?」


「あくまでもそういう『てい』だってこと。つい最近こっちに戻ってきた俺に真相何て分かる訳ないだろ。ただ本人が無実を訴えているし、他にもそう思っている奴らがいるから俺もそれを念頭に置いて動いている。それとも一哉が犯人でないと困る理由でもあるのか?」


「そういう訳ではないが・・・・・・しかしあれは状況からしてアイツが犯人としか考えられない」


「その状況ってやつをこれから調べてるんだ。もう一度聞くけど、当時何か気になること無かったか? それと他に犯人になり得そうな奴とかもいれば教えて欲しい」


「だから犯人は一哉以外にあり得ない。それに僕はあの時あの場に居なかったから怪しい奴なんて見てないし、聞いたこともないよ」


 ん? 今の言葉何か引っ掛かるな・・・・・・・ああそうか!


「見てもないのにどうしてそう言い切れるんだ? 現場を見たのならまだしも見てないのにそこまで言い切れる理由ってなんだ?」


「それは・・・・さっきも言ったけど状況的に見て・・・」


「ならその詳しい状況を教えてくれ。楓紀が断言するその理由をね」


 現場を目撃したり、カメラなどで撮られた映像を見たのならそれは直接的な証拠になるが、建物の作りなどの物理的なものや、誰かの証言によるものなら状況証拠となる。俺が今まで聞いた話では事件発生の直前と直後の目撃者はいなかった。楓紀がどう説明してくるかはだいたいの察しが付くので、その後の対応が重要になるはずだ。


「僕はあの日学校には居たけど部活があったからその時間に教室には居なかった」


「ちょっと待って、楓紀は一哉と同じクラスだったのか?」


「いや違うよ。僕は隣のクラスだったって意味。隣ならあれだけ騒がしければすぐ気づくでしょ?」


 そこも調べなければならないことの一つだ。楓紀の言う通り相当現場は荒れていたらしいから、様子を見に誰かが駆けつけてくるのが自然の流れだからだ。


「了解。続けてくれ」


「ガラスが割れた音は聞いてないからその時は普通に体育館で練習してたと思う。それで一哉が暴れて大騒ぎになってるって聞いたのは練習の合間の休憩中だったのは間違いないよ。バスケ部の奴ではないけど体育館にやってきて事件のことを大声で話していたのを覚えてるしね。後は色々と噂が飛び交ったけど、僕と同じクラスだった奴がその時一哉しか教室に居なかったことを証言したのが決め手になったんだよ。彼は第一発見者でもあったし、一哉のクラスを見に行くまで数人の友人と一緒だったことは証明されているから犯人ではないことは明白だったね」


 ほう、第一発見者の情報がここで出てくるとはな。それと予想通り楓紀は人伝で聞いただけで判断してということは分かった。


「因みにそいつに名前は?」


「石渡岳だよ。逗麻小出身だしたぶん君も知ってるんじゃないかな?」


 石渡? そんな奴同じ小学校に居たっけな・・・・・・いや待てよ、確か今の同じクラスにそんな名前の奴が居たような・・・


「もしかしてそいつ俺と同じ逗麻高に行ったか?」


「ああそう言われればそうかもしれない。仲が良かったわけではないから定かではないけど、卒業式の時もベッタリとした長い髪だったのは覚えてる」


 なら間違いない。同じクラスに石渡という男子生徒は確かにいる。下の名前は覚えてないけど、特徴からして間違いなさそうだ。まさか同じクラスに事件の第一発見者が居るとは思っても居なかった。しかし小学校の時石渡という奴がいた記憶はない。


「もしかしてそいつ小学校の時転校してきたんじゃないか?」


「どうだろう? あまり話したことないし詳しいことは分からないな。でも剛志に聞けば分かるんじゃないかな?」


「呼んだー?」


 タイミングよく剛志が戻ってきた。

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