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15 振り振られ

「一先ず高遠君の考え聞いてもいい?」


 アイスクリームとアンコを同時にすくって口に放り込み頬を緩ませたと思ったらすぐにそんなことを言い出した小島さん。


「俺の?」


 俺もどら焼きにかぶりつき嚥下してから答える。


「うん。だって言い出しっぺだし当然だと思うんだけど。もしかして考えなしに提案したってことは無いよね?」


「うーんどうだろ・・・」


 実のところ自信をもって言えるような策は持っていない。もちろんある程度考えてはいるが、直ぐに結果が出るようなものでは無い。


「とりあえず今やるべきことは情報の収集やその整理と精査かな。如何せん情報が偏りすぎていて見えていない部分が多いと思う」


「偏りすぎってどのあたりが?」


「そうだなあ・・・まず小島さんがどこまで知ってるか教えてくれるかな」


「橋本君が告白して振られた翌日にその子の鞄を投げて教室の窓ガラスを割った、だったかな。それと机とかも滅茶苦茶になってたとか、私が知っているのはそれくらいだよ」


「そうだね、当事者以外はみんなそれくらいしか知らないと思う。俺自身も完全な部外者だったけど一哉本人やその友人たちから当時の状況を聞いているから少しだけ情報は多い。でもそれだけじゃ足りないと思ってる。つまり今現在俺達が知り得た情報はみんな同じ方向から見たものでしかないってこと」


小島さんはスプーンをクルクルさせながら「足りない情報かあ」と呟く。お行儀悪いから止めましょうね。


「うーん分かんないや」


「例えばどうして一哉はあんな暴挙に出たのか? ああこれは一哉が犯人だと仮定した場合の話な」


「え、だって振られたショックでやったんじゃないの?」


「それもそうなんだけど、もっと別の具体的なことがあると思わない?」


「うーん・・・・更にショックなことがあったとか、かな」


「そう言うこと。要は引き金になった出来事があったかもしれないと想像できるよね。一番考えられるのは振られたことを必要以上にバカにしてきた奴がいたとかさ。それでカッとなって暴れてしまったと考えることもできるし」


 一哉自身はその辺りのことは何も語ってなかったけど、単純に言いたくなかっただけの可能性もある。一哉が犯人でも無実でも、どちらにせよそう言った細かい要素を集めないと真相は見えてこない。


「だったら橋本君が無実だった場合、一番必要な情報って何かな?」


「一番最初に思いつくのは、やはり疑わしい人物が他に居なかったのか? ってことだな。もしかしたら広まっていないだけで一哉以外を疑っていた、もしくは真犯人を知っている人物が居るかもしれないだろ」


「でもそれって探すのは・・・・」


「難しいだろうね。でも出来ないと決まってるわけじゃないことは確かだよ。だから当面は情報収集に徹するつもり。それで小島さんはどうする?」


「どうするも何も、玲美ちゃんに啖呵を切っておいて何もしないってのはないよ。でも私が出来ることと言えば精々高遠君を手伝うか玲美ちゃんからもう少し詳しい話を訊くことくらいかなあ。まあ、ああ言った手前直ぐに訊くのは無理だと思うしけど・・・それと今の私にはこうやって気軽に話せる友達いないから・・・・・なんか役に立てそうもなくてゴメンね」


「そんなの謝ることではないさ。そう言えば小島さんは東中から来たんだっけ?」


「うん。だから当時の話を訊こうにも玲美ちゃん以外誰も知らないから・・・・」


「俺も似たようなものだからなあ・・・」


 一応同じ小学校だった奴の大半は事件の起こった逗麻西中に進学しているので、多少は取っ付きやすい。だけど別小出身の連中に関しては分からないことだらけだ。


「噂話程度でもいいから何か事件に関係しそうな話って聞いたことない?」


 後で連絡取れそうな同小の奴に当たってみるつもりだが、その前に出来るだけ情報を集めておきたい。それと当時のSNSもいくつか調べる必要がありそうだな。


「ホント私が知っているのは玲美ちゃんから聞いた話だけだし・・・・・・・あっ」


「お、何か思い出した?」


「あーいや・・・・」


「言い辛いこと?」


 どうやら話して良いものかと悩んでいるようで、またスプーンを回転させ始める小島さん。色々飛び散りそうだし他のお客さんに迷惑掛かりそうなのでホント止めようね。


「本人が居るわけでもないし、事件とは関係ないかもだけど・・・・まあいっか」


 そう前置きしてスプーンを回すのを止めカタンと器に置いて話を続ける。


「なんか橋本君が告白する少し前にもある人が告白して振られたらしいの」


 関係あるかは別として若干興味はそそられるな。


「へー、誰が誰に?」


「告白した人の名前は聞こえなかったけどおそらくうちの高校に通っている人。告白された方は押切君という男の人だということはハッキリと聞いたよ」


 押切ねえ・・・・聞いたことないな。俺が去ってから転校してきたか、もしくは別の小学校出身の奴だな。


「ところでその話は誰からどういう経緯で聞いたの? それともう少し詳しく分かる?」


「体育の授業の休憩中に他のクラスの女子がそんな話をしているのが聞こえてきて・・・別に聞き耳立ててたわけじゃないからね」


「どっちでもいいから続きをプリーズ」


「絶対信じてないでしょ、まったくもう・・・えーと詳しくだよね。そうそう、押切君が断った理由、別に好きな子が居るからだって。そしてその相手と言うのが何故か二人も噂になっていて、一人が一つ上の先輩で名前は確か・・・・・ゴメン忘れたかも。でももう一人は高遠君も良く知っている人だよ、誰だかわかる?」


「よく知っている人でそいつと同じ中学と言ったら今のところ文字さんしか思い浮かばないな。ていうか正解でしょ? 彼女普通に美人だし、絶対モテてたはず」


「うん簡単すぎたね、失敗失敗」


「いや別にクイズ出し合ってるわけじゃないし。でもその告白の時期は間違いないのか?」


「噂してた人達の勘違いでなければ間違いないんじゃないかな。最初は橋本君の事件のこと話してて、そこに一人の女子生徒が『そう言えばその直前に~』って言ってたから信憑性は高いと思うよ」


 なら調べてみる価値はありそうだな。押切なる人物と文字さんの関係も気になるが、それよりその人物について調べることが先決だろう。


「押切が何処の高校に行ったか話してた?」


「ううん、名前しか出てこなかったから分からないかな。でも高遠君なら誰かから聞けるでしょ?」


 比呂斗かヘイ太に聞けば確実に知ってそうだが、俺が事件を探っていることを一哉に悟られるのは極力避けたいとこだ。となればまず最初にアイツらとはあまり接点なさそうな奴を探すか。


「名前だけ分かればなんとかなるだろ。今日はとりあえずこんなもんかな。ところでさっきからたまにスプーンをクルクル回してるけど、癖なの?」


「あはははー、やっぱ気になるよね。ほら勉強してるとき解らない問題とかあるとペンを机にコンコンしている人とかよくいるでしょ、それと同じで昔から考え事してると無意識に出ちゃうのよ」


「それは良いんだけど、流石にスプーンはやめておいた方がいいぞ。さっき回した小島さんの時制服にクリー飛び散ってたし」


「えっウソ!? どこどこ?」


 あっちこっちと制服を引っ張りながら汚れを探す小島さん。


 こんな明るい性格していて無視されてたなんて信じられないな。当然原因があったのだろうけど、それが彼女自身なのかそれとも別な要因なのか。後者だとしたらどうせくだらないものなんだろうな。


「大丈夫ちょっとしか飛ばなかったし、もう見えなくなってるから安心してもいいよ」


「本当にー?」


「いやこんなことでしょうもない嘘ついてどうする。それよりそろそろ行こうぜ」


「そう言えば高遠君がみんなのご飯作ってるって言ってたもんね。ありがとうね、今日は時間取らせてしかも奢ってもらっちゃって」


「交換条件みたいなもんだし気にすんな。こっちこそ助かったよ、もう無いと願いたいけど、もし似たようなことあればまた頼むかも」


「その時はシークレットを希望します」


 と言いながら可愛らしくペコリと頭を下げる小島さん。


「いやせめてパーフェクトで頼む、値段的にな」


 と頭を下げ返す俺。 二人して何やってんだか・・・・




 小島さんと甘味屋の前で別れそのまま帰宅した。


「ただいまー」


 家の玄関にはかぎが掛かっていなかった。これは孫七さんが来てから毎日のことだ。彼が日中何をしているかは知らないが、少なくとも俺より遅く出掛け、早く帰ってくる。もしかしたら殆ど外出していないのかもしれない。


「お帰りなさーい!」


 え?


 元気よく出迎えてくれたのは熱で伏せっているはずの夏鈴さんだった。


「えーとただいま・・・・・夏鈴さんもう治ったんですか」


「そうよ、あれくらい半日も寝てたら治るわ」


 あれ? 孫七さんは二、三日掛かるって仰ってませんでしたっけ?


「それは良かったですけど・・・本当に病気だったんですか?」


「なあに、ワタシを疑うの? やーねー、嘘は言ってないって神に誓ってもいいわ。それより早くご飯食べたいわ。お昼だって食べてないのよ」


 何か知らんけど左手を右肩に、右手を左肘に添えるのは誓いのポーズか何かだろうか? あまり見たことないしマイノリティな宗教か何かに入っているのかな。


「だったら棚にあるカップラーメンでも食べてくださいよ。何かあったときのために買い置きしてある共有の食糧なので勝手に食ってもいいですから」


「そうだったの? んーでも律樹が作るなら待ってる」


「了解です。なら今日は早くて簡単なのにしますか。ところで孫七さんは部屋ですか?」


「お爺ちゃんなら出掛けてるわよ。私の体調が良くなったのを確認したら何処かへ行っちゃった」


 この時間にいないのは珍しいな。買い物でも行ったのかな?


「そう言えば夏鈴さんって剣道やってるんですか?」


 玄関の隅に今朝出るときには無かった茶色の細長い布で覆われたものが目に付く。それは昨日の時点で夏鈴さんの所有物だということは知っていた。


「ああこれ? 剣道じゃなくてそうねえ・・・こっちで言うところの槍術みたいなものかしら。少し汗を掻きたくて素振りをしてたの、アナタも一緒にやってみる? ああもちろん夕食を作るのが先よ」


 姉さん、あんた高熱で十分汗を掻いたのと違いますか? それとどんだけ食い意地張ってるんだよ。孫七さんが食費を多めに渡してきた本当の理由が分かった気がする。


「すいませんあまり興味ないのでやめときます」


 ここはハッキリ言っておかないと無理やりやらされそうで怖い。


「そう、残念ね。ところでこの家にはワタシとお爺ちゃんの他には律樹と光男さんしか住んでいないのよね?」


「今のところはそうですね」


 もしかしてこのまま住み続けるつもりでいるのか? 


 彼女には二つ空いているうちの一つの部屋を使ってもらっているが、余程気に入ったのだろうか?


「・・・・ならやっぱりワタシの勘違いね。こっちに来てから鈍ってるだけかもしれないし」


 ん、どういうこと? 部屋が余っていることを再確認したかったんじゃないの?


「何か気になることでもあったんですか? もしあるなら遠慮なく言っ下さいよ。じゃないといきなり言われても困るんで」


「そうよねえ、気になることでもあるし、主である律樹には一応聞いてもらった方がいいわね」


 真の主は祖父ちゃんで、あくまで俺はただの管理人みたいなものなんだけど、別に訂正するほどでもないか。


「実はね、この家の中に私たち以外の気配を感じたの」


「気配ですか? それってもしかして・・・・」


 霊とかそんな類の奴じゃないよな? やめてくれよ、俺そういうのあまり得意じゃないんだから。


「今は感じないけど、昨日から時折感じるのよ、ワタシ達以外の何かがね。でもアナタが想像しているものとはたぶん違うと思うわ」


「オバケとかではないってことですか?」


「これはそういう類の物じゃない。しっかり生きている者の気配よ。何か心当たりはないかしら?」


 心当たりとかいきなり言われてもなあ。というか・・・・


「そもそも本当なんですか? 普通生き物の気配なんて人間が感じることなんて出来ます?」


「程度の差はあれ鍛錬すれば誰でも身につけられるはずよ。一緒にやる?」


「いややらないですから。それと心当たりはありませんよ。仮に夏鈴さんが正しかったとして、あまり考えたくないですがネズミとかが入り込んでいるとかじゃないですかねえ」


 漫画じゃあるまいし、鍛錬して身につけられるくらいなら今頃世の中の常識になっているはずだ。幽霊の気配を感じると言われた方がまだ現実味がある。


「そんな小さなものじゃないわ。少なくとも人と同じかそれ以上はあるわね」


 ハァ・・・もしかしてこの人めっちゃ美人だけど中身は残念な人なの? 普通に考えてこの家の中に隠れ住むのは無理があるし、そもそもそうする理由が思い浮かばない。数年遅れの中二病を患っているのだろうか?


「そこまで言うなら一緒に家の中調べてみますか? それで何も出てこなかったらこの話は終わりってことで」


 これなら互いに納得いくと思っていたら、彼女は首を横に振ったあと言った。


「もう家中全て探したわ。だけど誰も居なかったし、怪しいものは何も出てこなかったけどね」


 なんだ、既に探したんだ。ということはこの人本気で言ってる・・・・・・・・ん、全部?


「あのー今家の中全部って言いました?」


「ええ言ったわよ。何か問題でも?」


「えー・・・問題しかないですね。全部ってことは俺の部屋も?」


「当り前じゃない。全部って言ったら全部よ」


 この家の個室は全て鍵が取り付けられている。それは一階にある俺の部屋も例外ではない。


「どやって開けたんですか? 普通に鍵が掛かってたと思うんですが」


「それはえーと・・・・・・ピッキング・・だったかしら? そうピッキングよ、ワタシ得意なのよ」


 何で最初疑問形だったんだ? まあこの際そんなことはどうでも良くて、もっと大事な話をしなくては。


「夏鈴さん、他人の部屋に勝手に入るのは不法侵入と言ってれっきとした犯罪ですよ、理解してます?」


「家族なのに?」


「家族なのは夏鈴さんと孫七さんだけです。例えシェアハウスでも賃貸契約が発生している以上部屋は各個人の所有物なので勝手に入ったらダメなんですよ」


「ワタシも律樹ももう家族みたいなものじゃない。その家族を守ろうとして何がいけないのか分からないわ」


「守る?」


「そうよ。もし気配の持ち主が悪い奴だったらどうするの? それこそ大変なことになるじゃない」


「だったらまず俺か孫七さんに相談するとか警察を呼ぶとか色々方法はあるじゃないですか」


 このままじゃ埒が明かないな。これ以上言っても分かってくれないようなら、心苦しいがここの管理者として然るべき処置を執らなくてはならない。


「こんなところで何騒いでおるんだ?」


 そこに玄関のドアが開く音がしたので振り返ると、出掛けていた孫七さんがいた。


「あっお爺ちゃん、聞いてよ律樹が全然わかってくれないの」


「それはこっちのセリフです。孫七さんこのままだと夏鈴さんをここに泊まらせるわけにはいかなくなります」


「まあまあ二人とも落ち着け。まずは律坊の話から聞くから部屋に戻りなさい」


「・・・・わかった」


 孫七さんが言ったことを素直に従い夏鈴さんは二階へと上がっていった。それを見送ると孫七さんが「ここではなんだしリビングで話をするか」と言う。


「すまんな律坊。どうせ夏鈴の奴がまた非常識な行動をして困らせたのだろう」


 食卓に向かい合って座るなり孫七さんがそんなことを言った。


「ということは何があったのか孫七さんは分かっていると?」


「詳しいことは分からんがある程度は想像できとる。それに昨日気になること言っておったしな」


「この家の中に俺達以外の何者かがいる、ですか?」


「そうじゃ」


「なら話が早いですね。彼女は居もしない何かが居るって言うんです、そんな不可解な話信じられますか? しかも勝手に他人の部屋に入ったりもしたようです」


「普通はそうじゃな。だが夏鈴が嘘を言っているとはワシは思っておらんぞ。それと勝手に部屋に入ったのも決して悪意があったのでないはず」


 何言ってるんだ? 最初に非常識な事って自分で知ってたじゃないか。それなのに彼女を肯定するなんて矛盾してないか?


「はは、納得してないって表情じゃな」


「当り前ですよ。普通に考えて気配とか分かるわけないじゃないでか」


「それは少し違うな。気配は感じることが出来る。それはオカルトでもなんでもなくて事実だ」


「まさか漫画やアニメじゃあるまいし、ありえないですよ」


「では尋ねるが、律坊が言う気配の気とはなんじゃ?」


「そうですねえ・・・仮の話でいいなら生き物が持っている何かじゃないですか?」


 ファンタジーの世界なら魔力とか、あとは生命力の根幹みたいなもの、例えば魂とかかな。


「それも否定はせんが、もっと現実的なものがあるではないか」


「現実的なものですか・・・・・ちょっと分からないですね」


「音、光、匂い、味、それに感触だな。この五つと言えば何か、もう分かるじゃろ?」


「五感ですね。でもそれが何か・・・・・あーそういう意味ですか」


「気配とはつまりこれら五つの要素のことを指し示しているとワシは考えておる。もっと言えばそれらの異変や違和感を察知することが気配を感じることだな。まあこれはあくまでもワシが得た経験から辿り着いた一つの答えにすぎんが」


 確かに理屈は通っている気がする。それに全部かは分からないが五感は鍛えることが出来ると聞いたことがある。実際盲目の人が舌を鳴らしてその反響でどこに何があるかを把握出来るのは割と有名な話だ。


「では夏鈴さんもその類の力を?」


「あやつの場合はそうとも言えるしそうでないとも言えるな」


「何ですかそれ、分かってないのと同じじゃないですか。もしかしてそれ以外の特別な力が彼女にあるとでもいうのですか?」


 それこそ第六感と呼ばれる眉唾的なものでしかない。


「それは夏鈴本人しか分からないことだしなあ。何にせよワシが言いたいのは夏鈴には少しだけ人と違うものを持っているということじゃよ。それを信じろとは言わん。だが本当に悪意があってやっているということだけは信じてほしい、頼むこの通りじゃ」


 頭をテーブルに着けながら懇願してくる孫七さん。ただ孫可愛さに頭を下げているのか、それとも今聞いた話は真実であるが故の行動なのか、俺には判断しかねたのだが、それでも一つの答えは出ていた。否、状況的に出さざるを得なかったと言った方が正しいのかもしれない。


「・・・・分かりました。今回勝手に他人の部屋に入ったことは不問にします。だけどこれからはまず俺に相談してから行動するよう孫七さんの方からキツク言うようお願いします。それと光男さんにも隠さずちゃんと謝るよう伝えてくだ・・・・・・・」


 そこまで言ったところで、あることを不意に思い出し絶句してしまった。


「ん、どうした律坊?」


「ああいや、なんと言うかその・・・」


 そう言えば彼女だけでなく孫七さんも初日にあの部屋を覗いたんだったよな? というか二人揃って施錠されたドアをホイホイと開けるなんて普通ありえないだろ。空き巣をやってたって言われても完全に信じてしまうぞ。


「孫七さんはあの部屋を見たんですよね?」


「あの部屋? ああ光男君の部屋のことか。確かに少し変わっていたが、それが何かしたか?」


 あのメルヘン部屋を『少し変わった』だけで済ませるなんて、どんだけ懐が深いんだよ。


「いや何でもないです。お互いの為に忘れてください」


 よく考えたら夏鈴さんが謝るのって光男さんにとってただの罰ゲームでしかないのでは? だとしたら今回のことは黙っていた方がベターな気もする。


「では光男君には言わない方向でいいのかな?」


「本人の為にもそうした方が・・・・・」


「律坊がそういうならワシは何も言わん。それと夏鈴から話を訊く必要はなさそうじゃな」


「それはお任せしますよ。とにかく今後は勝手に人の部屋に入らないように。それと彼女がここに住む件に関してはもう少し待ってください」


「もしかしてまだ源六と連絡が取れんのか?」


「そうなんですよ。まったく祖父ちゃん何してるんだか・・・・とりあえず祖母ちゃんに言伝は頼んでおきましたがいつ返事が返ってくるかは期待しない方がいいかも」


 RHINEは既読がついているので少なくとも見てはいるはず。だがそれでも何も言ってこないってことは何かしら理由があるのだろう。それが一体何なのかは全く想像もつかないが・・・・。


「どれ、あとでワシの方からも連絡してみることにするか。それで了承が取れれば問題ないんじゃろ?


「ええまあ。祖父ちゃんが了承した証拠があれば俺は何も言いませんよ。でも俺のことは無視して孫七さんにはちゃんと反応するって言うのはなんか腹立たしくはありますが」


「あやつにはあやつなりの考えがあるんじゃろ。とにかく律坊は待っておればいい」


「頼みます。んじゃ夕食の準備に取り掛かりますね」



 冷凍してあったご飯と半端になっていた食材を使ってチャーハンを作った。夕食時に夏鈴さんと顔を合わせた際、彼女はしょんぼりした様子で頭を下げてきた。どうやら孫七さんから相当言われたようで、今後は勝手な行動は慎むと明言してくれ、俺はその言葉を受け入れ和解となった。


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