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102 椅子取りゲームの敗者は・・・

 職員室から真直ぐ真の教室へと向かった。その途中教師や生徒とすれ違ったが、やはり俺の存在は認識していないようだった。それ以外のことは全て平常とも思える状況に見えたが、少しだけ違和感を抱いていた。それが何なのか今のところハッキリしていないのだが、その違和感の正体がもしかしたら解決への糸口に繋がるのかもしれない、そう期待している自分がいた。


 しかしそれよりも早く望月先輩が全てを解決してくれることを願っている。これこそが正真正銘俺の本心だ。誰かに他力本願だと罵られても俺は怒るつもりは毛頭ない。律子姉さんではないが、良い結果が出るのならその過程はぶっちゃけどうでもいいのだ。


とりあえず先輩と合流できれば理想なんだけど、そう上手くはいかないよなあ・・・


 そう考えつつ道中窓の外とかも注意深く観察しながら歩いてきたが、結局真のクラスである四年二組の教室の少し手前に辿り着くまでに先輩の姿を見つけることは出来なかった。


 さてどれくらい教室に残っているのかな?


 ここまで来る間に何クラスか教室の中を覗いてみたが、どのクラスも大半の生徒は既に教室内に居なかった。この現象が起こる前に帰った生徒もいるだろうし、クラブ活動などで学校内に残っている生徒もいるはず。


 そう言えば俺達以外の人間も敷地の外に出られないのか?


 確かめようにもここは三つある校舎の内の真ん中の建物だ。窓の外を覗いても敷地の外に通じる道はここからでは見えない。せめてそれを先に確認しておくんだったと今更ながらに後悔したが、既に真の教室は目と鼻の先。今から戻って確認するのは時間の無駄になる。ならばこのまま歩みを止めず進むべきだ。


「えっ?」


 四年二組の教室を覗いた瞬間思わず声を漏らしてしまった。と言ってもその声を拾う人間は近くには居ない。


 四年二組の教室の席は全て埋まっていたのだ。つまり椅子の数だけ生徒が座っているということは、教卓の両端に手を置いている担任らしき人物も含め全員がこの教室に残っているということ。


 一瞬この状況は一体? とも思ったが、クラスで問題か何か起きて学級会を開いていると考えればそこまで不思議なことではないと思い直す。


 そしてその問題とはやはりここ最近このクラスで起きているという不思議な現象のことが発端なのだろう。


 だがおかしなことに教室内からは一切声が聞こえてこない。聞こえないというより誰も喋っていないと言った方がより正確だ。教壇に立つ教師すら前を真直ぐ見ているだけで言葉は発していない。もしかしたら生徒に対して考える時間を与えているタイミングだったのかもと思いしばらくの間様子を窺っていたが、五分、そして十分経過しても状況が変わることはなかった。


 彼らは微動だにしていないわけではない。みんな瞬きもするし眠たそうに欠伸をしている生徒もいた。『まるで生気を抜かれたような』という表現があるが、今見ている光景は決してそう言ったものではなく、よくある学校での日常風景そのものだ。


 しかしやはり異常と言わざるを得ないだろう。傍から見て一体何をしているのか全く分からないし、そもそもこの場にいる全員何もしておらず、生徒はただ椅子に座っていて、教師は立ったままずっと前を見ているだけ。こんな無意味な時間を過ごす理由とは一体なんなのか気になって仕方がない。


 一度この場を離れて望月先輩を探すべきか、それとももう少しここに留まり様子を窺うか?


 ・・・・・・・そう言えば真はどこに座ってるんだ?


 教室の中に足を踏み入れずとも顔だけ覗き込ませれば確認することが出来る。しかしいくら探しても真は見当たらない。


 まさかクラスが違うとか? いやそんなはずはない。確かに真は二組だと言ってた。それに真から聞いていた担任の男性教師の特徴も一致しているしここで間違いないはずだ。


 しかし席は全部埋まっていてどこを探してみても空席は見つからない。ということはやっぱり俺の勘違いなのか? やっぱり中に入ってちゃんと確認してみるか。


 まるで空き巣が忍び込むかのような面持ちでゆっくりと足を踏み入れる。当然ながら誰も俺のことを気にする生徒はいないが、やはり場違いなだけあって少し緊張してしまう。


「律樹お兄ちゃん?」


「うひゃっ!」


 突然後ろから呼びかけられ思わず変な声が出てしまった。だが俺のことを『律樹お兄ちゃん』と呼ぶのは知っている限り一人しかいない。


「真・・・・お前は俺の姿が見えるのか?」


 振り返ると不思議そうに俺の顔を見上げる真がいた。


「うん、バッチリ見えてるよ。それよりどうしてお兄ちゃんがここにいるの?」


「例のアレを調べに来たんだが・・・・それより何か異変を感じないか?」


「異変? お兄ちゃんがここにいるのがちょっとだけ妙な感じがするかな」


「それは俺自身が感じてるよ。それ以外に何かないか? というかこの学校にいる人間は俺のことを認識していないみたいなんだが、どうして真だけ俺のこと見えてるのかそっちの方が不思議なんだがな」


「そうなの? うーんでも心当たりはないなあ」


 真が嘘を吐く理由はなさそうだし本当にこの状況を理解していなさそうだな。しかし・・・


「お前も結構冷静なんだな」


 俺自身突拍子もない事を言っている自覚はあるが、それを普通に受け止めている真も相当だな。


「だって僕自身色々あったし、あの家に住んでいれば大抵のことじゃ驚かなくなったよ。そもそも僕にはトウラがいるしね」


 それもそうだな。よく考えなくてもうちの住人は真とペンシーを除いてみんな普通ではないもんな。


「ところでここは真のクラスでいいんだよな?」


「うん」


 やはり間違っては無かったか。ではこの状況を真はどう見る?


「じゃあさっきからずっと誰も喋らないんだけど、これっていつものことなのか?」


「どう言うこと?」


「言葉のまんま。それとほら、明らかに部外者の俺がここにいても全然気にしてないのはどう考えてもおかしいだろ? ていうかお前のことも目に入ってなさそうなんだが」


 真は教室の中にいる生徒からも見える場所に立っている。しかし俺と同じでまるでその姿が見えていないと言った様子だ。


 まだ状況を掴めていないのか、真はゆっくりと俺の横を通り過ぎ教室の中へと入り恐るおそる室内を見渡したあと、


「・・・・・本当だ。みんなどうしちゃったんだろう?」


 訳が分からないと言った感じで一歩下がりながら言う。


「どうしちゃったか俺も分からんけど、誰がこの状況を作ったのかは一応目星がついてる。そして真に悪さして追い込んだのもおそらく同じ奴だ」


「僕を・・・・それって何者なの?」


「それは・・」


 ガタン!


「えっなに?」


「なんだなんだ、こいつら一斉に立ち上がったぞ」


 それまでただそこに居るだけで何もしていなかった四年二組の生徒たちが前触れもなく全員立ち上がり机を運び始める。


「今誰か喋ったか?」


「ううん、何も聞こえなかった」


「だよな。号令どころか目配せみたいのもなかったよな・・・・・」


 なんか薄気味悪いな。これじゃまるで誰かに操られているみたいだ・・・・


「みんな机を後ろに運んでるけどまさかこれから掃除を始めようってんじゃないよな?」


「今日の掃除はもう終わったよ。ねえ運んでいるのは机だけで椅子はそのまま見たいだよ」


「椅子だけ・・・・・・これってまさか先輩の言ってた通りなのか?」


 本当にイス取りゲームを始めるつもりなのか? しかもなんでこのタイミング?


「おい真、嫌な予感がするから一旦教室から離れるぞ」


「・・・・分かった」


 ドアはすぐ後ろだ。急げとばかりに真の腕を手荒く掴みそして振り返る。


「えっ?」


 しかし俺も真も閉めた覚えのないのに教室のドアは閉まっていた。


 一体いつの間に?


 だが今は悠長にそんなことを考えている場合じゃない。閉まっているなら開ければいいだけの話。


 だが取っ手に手を掛け開けようとしてもドアはピクリとも動かない。ならばと反対側も試してみたがやはり重たくて動かせる気がしない。内鍵をいじって再度試してみたが結果は変わらなかった。


「もしかして僕達・・・」


「ああ完全に閉じ込められちまったな」


「でもそれってここにいるみんな同じだよね?」


「その発想はなかったが全くその通りだな」


 理屈から言えば確かに閉じ込められたのは俺達だけでなくこの場にいる全員だ。念のため教室の後ろに移動しもう一つのドアも開けようと試みたが、予想通りの結果だった。


「これから何が始まるんだろう?」


 真は不安そうに俺の裾を掴む。落ち着いているように見えてやはりこの異様な状況に堪えかね始めているのだろう。


「とある情報筋の話とこの状況から推測するにやっぱイス取りゲームだよなあ」


「とある筋? イス取りゲーム?」


「詳しい話は後だ。今はこの様子を見るしかない」


 何とか先輩と連絡を取れないかとスマホを確認したが圏外のままだった。念のため真のスマホも確認してもらったが無意味な行動に終わった。


 そうこうしているうちに生徒たちは机を後ろに運び終わると今度は大きく空いたスペースに椅子を動かし始める。やがてそれは円形状に形成され、全て並べ終わると担任を含め俺達を除いた全員が椅子の前で動きを止め、その場で棒立ちしていた。


「始めないのかなあ?」


「・・・・・真」


「なに?」


「俺の推測が正しければ俺達が参加するのを待っているんだと思う」


 俺が教室に足を踏み入れた段階では何も起こらなかったが、真が教室に入った途端みんな動き出した。まるで四年二組の生徒が全員揃うのを待っていたかのようなそんなタイミングでだ。


「僕達を? でもみんな僕達のこと見えてないんだよね。だったらあの輪に僕らが入っても誰も分からないんじゃないかな」


「いや生徒や先生はそうかもしれんが、この状況を作り出した首謀者は俺達のことを認識しているはずだ」


「それってさっき律樹お兄ちゃんが言いかけた人のこと?」


「人ではないけどな。今回は妖怪ではなく幽霊なんだが、その専門家が今この学校に来ているからその人が必ず何とかしてくれるから安心しろ」


「でもその人って今どこにいるの?」


「ここに来てからすぐ別行動だったから今どこにいるのかは分からん。でも彼女は犯人を捜すと言ってたからたぶんもうすぐここに来るはず」


 俺には見えないがこの近くにみーちゃんがいる可能性は高い。だとしたらその気配を感じて先輩はここへと辿り着くはずなんだが・・・・・・大丈夫だよな?


「そう言えば真はここに来る前どこに言ってたんだ? それとお前の席ってどこらへん?」


 自分が離籍していたのに席に空きが無かったことをさっき見た時真は気付かなかったのだろうか?


「廊下側の一番後ろだよ。それと帰りの会が終わった後お兄ちゃんを待つ間図書室で過ごそうと思って一度行ったんだけど、教室に戻ってくださいって放送があったんだ」


 つまり俺が最初にいた前のドアではなく今いる後ろ側のドアの目の前の席ってことか。ちゃんと覚えてないがここに誰かが座っていたことは間違いない。


「俺が来てから放送はなかったと思うが、呼ばれてすぐに戻ったのか?」


「えーとね、すぐではないかな。途中でトイレに寄ったから五分くらいはかかったと思う」


 俺は廊下から十数分くらこの教室の中の様子を観察していた。だとするとその放送は真にしか聞こえないものだったか、あるいは俺の様な部外者には聞こえないものだったのだろう。そんなことが出来るの存在が何なのか今更考える必要もあるまい。


「因みに誰の声だったか覚えてるか?」


「女の子の声だったかな。たぶん放送クラブの子だと思う」


「それはおかしいだろ。呼び出しなんてものは先生がやるのが普通じゃないのか?」


「そう言われてみれば・・・・・」


「たぶんその声の持ち主が今回の犯人だろうな」


「じゃあ幽霊って女の子ってこと?」


「ああ。それもちゃんと後で説明する。今はこの状況をどう乗り切るかに集中しようぜ」


 と意気込んでみたはいいものの、俺のプランは望月先輩が来るのを待つか、ゲームに参加するかの二つしか選択肢はなかった。


 そう言えば望月先輩「巻き込まれても逆らわないこと」とか言ってたよな。でも俺はどの時点で巻き込まれ始めたんだ? この学校の敷地に入り込んだ時? それとも校舎に入った時? あるいはこの教室に足を踏み入れた時か? 


 まあ何にせよ相手のフィールドにどっぷり浸かってしまって現時点で解決策が他力本願オンリーの時点で逆らうも何もないんだけどね。


「じゃあイス取りゲームにどう勝つか考えないといけないね」


 ゲームに勝つか・・・・・・・本当にそれが最善策なのか? 


 漫画やアニメだと確かにこういった状況で勝ちに行くのはセオリーだし普通はそれが一番最初に思い浮かぶことだ。だけど直接的な原因ではないにしろ、三十年前あの公園で行われたイス取りゲームがみーちゃんの命を奪ったことを俺は知っている。最悪の場合一番最初の脱落者が命を奪われる。なんてこともあり得ない話ではないはずだ。その不幸に見舞われるのが俺達だろうがそれ以外の人間であろうがそんなの関係ない。誰も死なないよう回避する方法を何としても考えださねば・・・・・


 情けない話だが、やはりここは先輩を待つ他ないな。まあ正直なところ人の命を奪うような幽霊なら既に先輩が除霊なりしているはずだからそこまで深刻にならなくても良さそうにも思えるけど、最近エネルギーを得てパワーアップしているって話だし、警戒するに越したことはないだろう。


「そうだな。どうすればいいのか先輩を待つ間に二人で考えるか」


「先輩? その人がさっき言ってた専門家の人?」


「ああ。いわゆる霊能力者ってやつだ。そこら辺のインチキ霊能力者じゃなくマジでガチの方だから」


「夏鈴お姉ちゃんよりスゴイの?」


「この分野に限ってはな。トータルだと圧倒的に夏鈴さんだろうな。知ってたか、あの人も普通に幽霊見えるんだってさ」


「えー知らなかった。あっでもトウラも見えるらしいよ。でも僕は怖がりだから例え近くに居たとしても絶対に教えないでねって言ってある」

 

 すると突然スピーカから音楽が流れ始める。


「これって・・・」


「・・・始まってしまったのか?」


 およそイス取りゲームには相応しいとは思えないヒップホップなビートが教室内に響いている。そして今まで俺たちのことを意識していなかった生徒たちが一斉にこちらを見てくる。


「参加しろってことだよな・・・・」


「でもその先輩を待たなくてもいいの?」


「待つのがベストだが、このまま放置して不戦敗になるのは上手くない」


 最悪の事態を想定した場合ここで参加しないというのはあり得ない。だが悪あがきはさせてもらうぞ。


「いいか真。お前は何が何でも椅子を確保しろ。いいな絶対だぞ」


「分かった」


 これでいい。みーちゃんの昔話から推測するに一番危険なのは一番最初の脱落者だ。だったら気は進まないが自分がその最初の脱落者になれば少なくても真やそれ以外に危険は及ばないはず。


 先輩早く来てくれよ・・・・・


 そして俺たちが輪に加わると生徒たちは椅子の周りをゆっくりと回り始めた。





 





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