100 椅子取りゲーム開始?
「最後でしたって・・・・」
それではまるでそのみーちゃんと言う少女が死んでしまったかのような言い方だ。
小学校まではもう少しかかる。横を歩く望月先輩はどこか遠くを見ている、そんな表情に見えた。
そんな顔を見続けるのが心苦しくなり、目を背けた道路の反対側にはランドセルを背負った女の子二人が手を繋ぎ並んで歩いているのが見えた。一人は背が低く黄色い帽子を被っているので今年入学したばかりなのだろう。もう一人はその子よりも二回りは大きく、五、六年生と言ったところか。普通に考えればあの子たちは姉妹か何かのだろう。
「言葉通りだよ。みーちゃんはその日に亡くなってしまったの」
静かな声でただ事実だけを語った。少女たちを見るのをやめ視線を先輩に戻す。
「そうでしたか・・・・・だけどその話と小学校で起きている事とどう関係が?」
亡くなってしまった。その言葉を聞いてなんとなくあの姉妹たちをもう一度見てしまう。その死んでしまったみーちゃんは何歳くらいだったのだろう?
「以前あの公園の話はしたよね。霊的なエネルギーが溜まりやすい場所だって」
先輩から発せられた言葉は想像したものではなかったが、その先に答えがあるのだろうと思い至る。
「そりゃ半分当事者みたいなものだし覚えてますよ。そう言えば結局その後どうなったんです?」
そのことは当然ながら気にはなっていた。しかし経過観察中とは聞いていたが、あの後どうなったのか詳しい話はまだ誰からも聞いていない。
「少なくとも数名に影響が出たよ」
簡単に言ってしまっているが、それって大ごとなのでは?
「もしかしてそれが小学校まで波及したってこと?」
普通の人間や妖怪の仕業でないのならやはり幽霊の仕業ってことだろうか? だとしたら何となくだが先輩が何を言いたいのか分かってきた気がした。しかも数名ってことは他にも俺が知らないだけで何か異常な事態が起こっている可能性があるってことだよな?
「小学校に影響を及ぼしたのは間違いないけど、それはあの事故の影響を受けた人間の影響じゃなくてね、また別の存在が悪さしたって言うのか、とにかく人間が関わったのではないよ。もうその存在が何なのか律樹君は気付いてるんじゃない?」
「・・・・今の話から推測するに、その幽霊の正体っていうのが三十年前に亡くなったと言うみーちゃんってことになるんですが、違いますか?」
「合ってるよ」
「先輩はその幽霊のことよく知っているみたいでしたが、今までも似たようなことを?」
「知っているというより知り合いかな。あの子はね、悪い子じゃないんだけど度が過ぎる時があって、私が中学生だった時もちょっとした騒ぎを起こしたの」
先輩が中学生の時にねえ・・・・・前も思ったけどもしかしたらあの話のことか?
「もしかして文化祭の展示の時に起きたっていうあの騒ぎのこと?」
「へえ、その頃律樹君はこっちにいなかったのによく知ってるね。まあでもあの中学じゃ割と有名な話だし知っててもおかしくないかあ」
「偉いぞー」と小さな子供にするように頭を撫でてこようとしたが、上半身を横に仰け反らせこれを躱す。
一也の事件を調べる際、剛志が集めた情報の中にあった逗麻西中で起きた不思議な事件の話を今思い出した。あの話は数が足りなくなったって言うより、逆に一人分多かったって話だ。真の身の周りで起きた事件とは対照的にも思える。
しかし本来あるべきものが無くなるのと、本来あってはならないものが存在してしまうという事象は一見真逆に思えるが、よくよく考えてみると性質的には同じなのかもしれない。
「でもまさかここで繋がるとは思ってなかったですよ。Rhineを送った時点で気付いてたんですか?
それとももっと前から?」
先輩の実力や情報網がどれほどのものなのか知らないが、この手の人間は真実を知っていてもすぐに開示することはせず、もったいぶるタイプに思えるのは考え過ぎだろうか?
「現在進行形であの小学校に異変が起きていることは知らなかったよ。あの子は地縛霊ではないから自由気ままに移動できるから一応アンテナは張っていたけど、今回は引っかからなかったの。でも律樹君から話を聞いてほぼ間違いなくあの子の仕業だってすぐに分かったよ」
アンテナってなんだろ。もしかして協力者的な奴でもいるのか? それって人間? それとも・・・
「そうだったんですね。それでその幽霊の正体が三十年以上前に亡くなった女の子だというのは分かりましたけど、実際どんな能力を使ってるんです? いやそもそも幽霊って存在自体が一体どんなものなのかよく知らないんですよね」
ホラー映画とかである呪いとかその類だろうか?
「だいたいは律樹君が想像した通りだと思うよ。たまに亡くなっても成仏出来ずにこの世に残ることは別に珍しいことではないの。だけどほとんどの場合何の力も持たずただそこにいるだけの存在だから基本的には無害なんだよ」
「だけどみーちゃんはメッチャ悪影響かましてますよね」
「その通り。あの子はただの零体ではないの。この間教えた霊的なエネルギーの性質のこと覚えてる?」
「確か幽霊がそれを得ると強くなるとか、みたいな感じだったでしたっけ?」
「うん。本能であのエネルギーを吸収しようとする。言葉通り自我があろうが無かろうがそれは同じ。つまり食事みたいなものね」
「じゃあみーちゃんも文字さんが引き起こしたあの時にエネルギーを吸収してパワーアップして、数を合わなくさせる力とでも言うのか、とにかくあの時何かしらの力を得て小学校で悪さを始めたと」
真の話では奇怪なことが起き始めたのはあの公園で文字さんがソニックをぶっ放した直後だ。時系列だけ見れば確かに辻褄は合う。
「そうだね。確かにあの時力を得たことは合ってる。だけどよく考えてほしいのだけど、さっき話に出たけど私が中学二年の時の出来事もあの子の仕業よ」
「知ってますよ。先輩が言うんだから別に疑っては・・・・・・って、それちょっとおかしくないです? みーちゃんは最初から特殊な力を持っていたってこと?」
「最初からではないよ。例外を除いて最初から特殊な力を持った零体は存在しない。みーちゃんも最初はどこにでもいるただの幽霊だったのは確認済みだから。結論から言うとあの子がエネルギーを得たのはこの間が初めてではないってこと。本人もその時の記憶が曖昧らしいみたいだけど、私が調べたところでは殺されてしまった三十年前には既にエネルギーを得ていたみたい」
「ちょっと待ってください。みーちゃんは誰かに殺されたんですか?」
話の内容からして事故か殺人のどちらかだとは思っていた。心の中でせめて事故であってくれと願っていたが、悪い方の予感が当たってしまったようだ。
「そう言えばまだちゃんと教えてなかったね。あの日みーちゃんは公園から家に帰るまでの間に誰かの手によって殺害されてしまった。そして遺体は次の日に見つかったのだけど、その場所というのがあの公園だったの」
「あの公園で・・・・・しかも『誰かの」と言うことは、つまり三十年たった今でも犯人は捕まっては・・・」
「・・・・残念だけど。時効は成立してしまったし誰が犯人なのかもさえ分かってないの」
「指名手配どころか犯人が分からないんじゃどうしようも出来ないよなあ。それどころか三十年もたってしまったんだ、見つかるどころか生きているかもさえ疑わしいってことですよね」
「でも諦めていない人もそれなりにいるの」
「そりゃ当然家族は一生許さないだろうな」
「家族もそうだけど他にもいるのだけど・・・・・まあ今はこの話はやめようか。私たちが今すべきことは現在起きていることの解決。そうでしょ?」
「そうっすね。みーちゃんの境遇は同情しかないけど、だからと言って人に迷惑かけていいわけじゃない。それに先輩のお知り合いの幽霊さんみたいだしすぐに解決出来そうな気がしてきた」
「そう簡単にうまくいくと思う?」
「いかないと困るんですけどね。理想は真の冤罪を晴らすこと。だけどその前段階としてこれ以上みーちゃんが悪させないようにしないと現状だと何かあれば全部真が疑われちゃいますから、まずはそっちメインで動くのがベストだと思ってるんですが、先輩はどう思います?」
「方向性に異論はないよ。だけど私が懸念しているのはもっと別のこと」
「別のこと?」
「説明してもいいのだけど、たぶん学校に行けば分かるはず。まあ私の推測が間違ってたのなら問題は簡単に解決できるのだけど・・・・ゴメンなさい、もし当たってたのなら少々面倒なことが起きるかも」
「よく分からんけど、謝るってことは先輩なにかやらかしたんですか?」
「そうだね、盛大にやらかしたかも」
「ふふ」と小さく笑って歩くペースを上げる望月先輩。やらかした人間の表情にはとても見えなかったが、彼女のことだ、きっとまだ俺に隠していることがあるのだろう。
それから少しして小学校の建物が見えてきた。三年という通常の半分しかここには通わなかったが、それでもその当時の思い出を一言で語るのは難しいだろう。正門まで学校の敷地沿いにある道を歩きながら少しだけノスタルジックを堪能した。
学校に着いたらそのまま来客用玄関脇にある事務室に来いと言われていたので、正門に到着しそのまま敷地に入ろうとしたところで「ストップ」と先輩が俺の腕をつかんだ。
「どうしたんです?」
アポは取っているので堂々と入っても大丈夫。そう続けようとしたら、
「ねえおかしいと思わない?」
腕を掴んだまま先輩はキョロキョロと辺りを見渡し始めた。おかしいって一体何のことだ?
「もしかして変なのが近くにいるんですか?」
先輩は霊能力者だ。先輩にしか見えない存在が近くにいるのだろうか? トウラも言っていたが幽霊というのは割とどこでもいるようだし、今俺のすぐ近くにいたとしても今更驚きはしない。
「その逆だよ。本来いるべき存在がこの辺りでは全然見当たらないの」
「この辺に居付く地縛霊がどこかに行ってしまったとかそんな感じの意味?」
そもそも俺には幽霊は見えないので「おかしくない?」と言われても答えようがないのだが・・・
「そうじゃない。目の前は小学校でしかも授業はとっくに終わっているはず。なのに子供の姿が全く見当たらないのは異常だと感じない?」
「たまたま学校の行事か何かがあって遅くなってるだけでは?」
確かに児童らしき姿は道路にも敷地内にも見えないが、普通に車は走っているし、大人や未就学児くらいの子供の姿はある。敷地内も今のところ人影は見えないものの子供がはしゃいでいる声は聞こえている。全く気配がないのであれば薄気味悪いがそういう状況ではない。
「よく思い出して。さっき律樹君が不審者っぽく見てた姉妹っぽい子達って多分だけどこの学校の児童だよね。それ以外にも何人かとすれ違ったの覚えてない?」
「いや全然そんな目で見てないから。今の時代たったそれだけでも結構やばいんで言葉に気を付けてくださいよ。まあでも確かに何人かランドセル背負った子見ましたね。じゃあ先輩の言う通り学校自体は終わってるってとになるけど、まさか既に何か始めってるとか言わないでくださいよ」
「残念ながら手遅れかな」
「マジっすか・・・・」
「ああゴメン。本当に手遅れって意味じゃなくて、既に何かが始まってしまっているって意味。その何かというのはおおよその見当はつくから安心して。下校している子もいるってことは始まったのはついさっきの可能性が高いと思うし、見た感じ中に入れないわけでもなさそうだから何とかなるよ」
何か得体のしれないものが既に始まってるとか聞いて全く安心出来んのだが・・・・
「それじゃあこの辺りに児童の姿が見えないのはそれが理由だとして、これからどうするつもりで?」
「そうだなあ・・・・ここからは別々に行動しよっか。律樹君は予定通り従姉のお姉さんのところへ。私は直接みーちゃんのところに向かう」
「居場所は分かってるんですか?」
「まだここからじゃ分からないけど、近付けばおおよその位置は掴めるはず。それと中に入ったら律樹君の意思とは関係なく何かが始まるかもしれない。というより巻き込まれると言った方が正しいかな。もしそうなったら絶対にそれに逆らわないこと。いい、絶対だからね」
「せめて何が始まるかくらいは教えてくださいよ。ていうかここに来れば分かるってこのことだったの?」
「想定内だけど少し予想外だったかな。まさかここまでだとは思ってなかったから」
専門家が予想外と口にしたということは結構ヤバめなのか? しかも中に入れば巻き込まれるの確定っぽいし・・・・・
そして先輩は続けた。
「中では椅子取りゲームが始まってると思うんだ」




