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10 入部します

 翌日の火曜日


 昨日と同じく弁当を作り登校した。朝ならばと思い立ち駐輪場で祖父ちゃんに電話をしてみたがやはり出てはくれなかった。電波とか電源がどうのと言うアナウンスは一切ないので間違いなく呼び出しているはずだ。それでも出ないということは何かしらの理由があるのだろう。お金に関しては祖母ちゃんが何とかしてくれると言ってくれたし、当面の心配はこれで無くなった。


 学校内では相変わらず一哉とは少し話す程度だけに留まっている。学校以外では普通に遊んだりもしたし、この間の土曜日なんかはヘイ太達と一緒に家に泊まりに来た。そう言えば先日文字さんと二人で話した時のことを聞かれると思っていたが、何故か一哉はその話題には一切触れてこなかった。当然疑問に思ったがわけだが、俺から切り出すのも変だと思いそのまま放置してある。まあ特段変わった話をしたつもりはないので別にいいんだけどね。


 昼休みはミツと言う女子生徒が現れなかったこと以外はほぼ昨日と同じような感じだった。なので今回はゆっくりと過ごすことが出来た。


 放課後になってまず最初に向かったのは昨日開いていなかった菜園部の部室へと向かうことにした。直ぐに行っても誰も来ていない可能性があったので適当に時間を潰してから武道場へ移動する。


 あれ? やっぱり開かないや。


 昨日同様古びたドアが開くことが無かった。仕方がないので事務室へと足を運ぶ。その途中、一年生を勧誘しているヨミ先輩を見かけた。二人組の女子生徒に対して昨日のようなハイテンションでアドリ部をアピールしていた。


 昨日あれだけモモ先輩に勧誘はするなよって言われてたのに早速破ってるし・・・・・


 と言っても俺はどうこう言える立場でもないし放っておくことにした。もしモモ先輩に会ったら一応報告するつもりではいる。


 トントンとノックをして事務室のドアを開ける。しかし昨日と同じく水堀さんの姿はない。


「あれ? 確か昨日も来た生徒さんよね。水堀さんなら今しがた席を外すって出て行ったばかりよ。すれ違わなかったかしら?」


 昨日の女性が俺を見るなり作業を止め対応してくれる。


「えっ、そうなんですか? 武道場の方から歩いてきましたが会いませんでしたよ」


「それはおかしいわね。確か彼女も武道場に行ったはずよ。それですれ違わないのは・・・もしかしてお手洗いかもしれないわね」


 確かにその可能性はありそうだ。かといってトイレから出てくるのを待っていたら変態だと勘違いされそうだしもう一回武道場へ行ってみるか。


 しかしそれは徒労に終わってしまった。五分くらい待っていたが一向に現れる気配がないので仕方なく今日も帰ることにした。


 そしてまたもしてもヨミ先輩を発見。場所は下駄箱付近だ。今度はギャルっぽい三人組に声を掛け勧誘している様子だったが、彼女らが全く興味を示していないことは一目瞭然だった。絡まれたくないので見つからないようコッソリと自分の下駄箱に向かう。


 ふー、どうやら上手くいったようだな。


 と、安心したのも束の間、靴を取り出そうとするとデジャブが発動。開けた瞬間ヒラリと紙が落ちたのだった。読む必要もないと考えたが念のため確認するとやはり入部届だった。昨日と違う点は日付と部活名だけでなく、今回は漢字で書かれた俺のフルネームとクラスが既に記入されており、ただ出すだけで手続きが完了できるという非常に親切なものだった。


 ハァ、俺の名前とクラスを調べるのはそう難しいことじゃないけどさ、普通ここまでやるかね?


 その辺に捨てるわけにもいかず鞄にしまう。これでこの鞄の中には入部届が二枚に増えた。


 玄関を出るとき後ろから「リッキーまた明日ね」と聞こえたのは俺の中で幻聴と言うことにして振り返ることはしなかった。



 今日の夕食はどうするかな? 早ければ明日辺り孫七さんお孫が来るかもしれないし今日のうちに食材を買い足しておくべきかな・・・・・・・ん、あの人どこかで見たことがあるような?


 駐輪場へ向かう途中、何となく見覚えのある女子生徒が近くを通り過ぎていった。同じ学校の生徒なので見覚えがあること自体は不思議ではないのだが、何故かその人物のことが気になってしまった。思い出そうとしながらその女子生徒をを目で追っていくと、彼女はとある建物へと入っていった。


 あそこって確か武道場だよな・・・・・・あっ思い出した、あの人菜園部の部長だ。説明会の時前に出て話してたから見覚えがあったんだ。それに武道場の入り口ってこっち側にもあったんだな。道理で渡り廊下側のドアが開かなかったわけだ。あっちからではこっちの入り口は見えないから気付かなかったぜ。


「高遠君?」


「あれ河島さん、もしかして今帰り?」


 声に反応し振り返ると体に似合わぬ大きめのリュックを背負った河島さんが居た。


「うん、美術部は昨日行ってきたから今日は帰ろうかなと思って。高遠君は?」


「それなんだけどちょうど今菜園部を見に行こうと思っててさ、一緒に行ってみる?」


 なんていいタイミングで来てくれたんだ。これで水堀さんへの義理は果たせる・・・・って特に何かしてもらった訳ではないんだけどね。


「菜園部ですか?」


「そう菜園部。なんでも部員が少ないみたいで水堀さんから入らないかって誘われてたんだ。まあ入るかは分からないけど、とりあえず見てみようと思ってる」


「水堀さんが?」


「三年の先輩に頼まれたらしくて色々声掛けているみたいだよ。大変だよね、顧問でもましてや先生でもないのにさ。実は河島さんにも伝えといてって言われてたんだよね。全然話す機会無かったから放置してたけど」


「そういうことでしたか。なら折角なので私もついて行ってもいいですか?」


「いいも何も最初から誘ってるし。それと同級生なんだし敬語はやめようぜ。教室で他の奴には普通に話してるだろ?」


 彼女が男子と話している姿はあまり見ていないが、女子とは普通の口調で会話しているのを何度も見ている。


「あ・・・・うん気を付けるね」


 何だ今の間は? やっぱり俺のことが苦手っぽいな。


「・・・まあいいや、あそこの武道場が部室になってるみたい。昨日もさっきも校舎側から入ろうとしたら開いてなくてさ、でもさっき部長らしき人があそこから中に入って行ったから見学できると思うし行こっか」


 河島さんを促し部室へと向かう。こちら側の入り口は階段を二段登った位置にあり、扉もスライド式ではなくガラス張りの前後に開閉できる大きなものだった。その奥は広めの玄関になっていたのだが、その両サイドにはギッシリと大きいものから小さいものまで鉢植えやプランターが置かれていた。


「これって野菜の苗なのかな?」


河島さんがそのうちの一つを指差し聞いてくる。


「多分キュウリじゃないかな。その隣はトマトで、その脇に同じようなのが並んでいるのがナスだね。あっちはたぶんピーマンとかパプリカが生るやつだと思う」


「高遠君って野菜に詳しいのです・・・・詳しいね」


「言い直さなくてもいいって。まあ向こうじゃ祖母ちゃんの畑手伝ってたから自然と覚えた。ああ畑って言っても家庭菜園を少し大きくしたくらいなものだけどね」


「へーそれは期待出来そうだ。しかも二人も居るし、さすが沙苗ちゃんだね」


 その声の持ち主は河島さんではなく、いつの間にか玄関の上がった先にさっき見かけた菜園部の部長だった。


「えーとここの部長さんですよね?」


「そうよ。色からして二人とも一年みたいだし、聞いていた風貌からして沙苗ちゃんがスカウトした子なんでしょ? じゃあ入部届二枚用意しなくちゃ」


「え? あ、あの・・・・」


 既に俺達が入ることが決定事項のように話を進める部長に対し動揺を微塵も隠せずにいる河島さん。別に俺達はスカウトされた記憶はない。お願いされたので一応顔だけでも出そうと思っただけで今のところ入るつもりはないし、河島さんだって同じなはず。


「ダメよ鈴原さん。二人には興味があったら見に来てね、程度くらいにしか言ってないんだから。それにいつもそうやって無理強いするから誰も居着かないのよ」


 奥から水堀さんが出てきた。彼女は学校の事務院で教師ではない。基本部活動には関係ないはずだがどうしてここに居るのだろう?


「えーでもここでこの子らを逃したら部の存続が・・・・・」


「仮に同好会になったとしても好きなことが出来ることには変わりないんだし、別にそこまで部に拘る必要ないんじゃない? それにこの子達が入部したとしてもあと二人必要よ、当てはあるの?」


「・・・ないです」


「でしょう? 無理やり入部させて来なくなったら割り当てられた花壇の手入れを残ったメンバーでやらなくちゃいけなくなるし、そうなったら活動時間多くなって大変よ」


「あのすいません、花壇の割り当てってどういうことですか?」


「新入生は知らなくて当然かあ。あのね、菜園部に割り当てられるのは何も野菜を作るための場所だけじゃないの」


「それは知ってます。説明会で部か同好会かで使えるスペースが変わってくるって言ってましたから」


「菜園部はとある理由から少し変わった事情があってね、まあ今はそれを説明しても仕方ないから詳細は省くけど、この学校には昔から至る所に花壇があってその管理を菜園部が任されているのよ。部だったらその全てを、同好会なら半分をって感じでね。同好会だった場合残りの半分は生徒会と美化委員が共同で管理する体制になってるし、もし菜園部が無くなったら美化委員会の人数を増やして管理する慣例になってるの。今月末の在籍数で一年間の割り当てが決まるから出来るだけやる気がある人を入れないと困るのは目に見えてるよね」


 なるほどねえ。下手に人を入れて部として存続させると大きい仕事を課せられるってことか。そして水堀さんが言った通り入部したはいいけど来なくなったりしたら残された人間が負担を強いられるって訳か。


「もしそうなったとしても私が何とかします。だから二人ともお願いだから菜園部に入ってくれない?」

 

 と言われてもなあ、今の話を聞いちゃったらなんか入る気になれないんですけど・・・・・


「何とかっていうけどあなたは九月で引退でしょ。それに受験も控えているのにそんな余裕ないんじゃないかな? 国立志望なら尚更だと思うよ」


「でも・・・」


「でも、じゃない。厳しい言い方かもしれないけど残される後輩のことを考えてあげるのも先輩役目だよ。あなたが卒業した先輩に対して申し訳ないと思う気持ちは分からなくもないけど、だからと言ってそれを何も知らない後輩に負担をかけて良いことにはならないわよ」


 よく分からないが鈴原先輩は先輩で何か事情がありそうだ。察するに自分の代に同好会へと降格させてしまうことが卒業していったその先輩に対して申し訳ないのかもしれない。


 まあ野菜作り自体は嫌いではないし無理が無い程度なら手伝ってもいいとは思うが、そうなるとアドリ部の方は正式に断る必要が出てくるな。


 水堀さんの言葉に何も言えなくなってしまった鈴原先輩。


「あのー」


 そこへ河島さんが恐る恐る手を挙げる。その高さは本当に申し訳程度でしかない。


「もしかして入ってくれるの?」


「鈴原さん」


 一瞬で目の輝きを取り戻し前のめり気味になった鈴原先輩に『人の話聞いてた?』と言わんばかりに呆れた様子で窘めようとする水堀さんだったが、河島さんが続けた言葉で表情を一転させた。


「私菜園部に入ります。いえ入りたいです」


「え? すみれちゃん本気で言ってるの?」


「ちょっ沙苗ちゃん、いくら何でも本人が希望しているんだからその言い方は無いんじゃない? それで仮入部じゃなくて正式に入部ってことでいいの?」


「はい、よろしくお願いします」


「ねえ聞いた? 聞いたよね沙苗ちゃん! やったー、二日目にして早速一人ゲットー! これであと三人、いや二人かな」


 確か菜園部は三人いると聞いている。部として存続するためには七人だから、たった今河島さんが入ったからやはりあと三人では?


「ってことでそこの君も入るでしょ? さっきの話だと野菜作りに興味あるみたいだし、なによりこんな可愛い子が入ったのよ。これで入部しなきゃ男じゃない!」

 

「河島さんが可愛いことは否定しませんけど、それとこれでは話は全く違いますから」


「か、可愛いって・・・・」


 あっやべ、思わず本音が漏れてしまった。


 恥ずかしかったのか顔を真っ赤にさせ俯く河島さん。


 ナニコレ、更にメッチャ可愛くなったんですけどー?


「はいはいそこまで。すみれちゃんが自分で決めたならもう私は何も言わないわ。でも高遠君は別。ちゃんと自分の意志で決めなさい」


 ごもっともで。


「そうですね、実は別の部も昨日見てきたんですが正直そこに入るか迷ってるんですよね。結構魅力的な無難ですが少々問題と言うか懸念がありまして」


 ヨミ先輩のテンションについていけるか正直不安があるからだ。鈴原先輩も似たり寄ったりな気もしないでもないが、幾分あの人よりはマシな気もする。


「うちの学校は別に兼部でも問題ないわよ。まあ兼部だと部員として半人前になってしまうけど」


「半人前と言うのは?」


「一人としてカウントされないのよ、つまり0.5人として扱われるの。鈴原さんたちは兼任してないから今のところ三人なんだけど、すみれちゃんはどうするつもりなの?」


 いきなりのことで失念してたけど河島さんは美術部に入ると明言していた。実際昨日見に行ったと言ってたし。


「・・・・・今のところここ以外は考えてないです」


「ちょっと待て、河島さん美術部に入るんじゃなかったの?」


「あのその・・・・・ちょっと私には無理かなって・・・・・」


 俺の言葉に複雑そうな表情で答える河島さん。絵が好きだから美術部に入ると言っていたが、もしかしてうちの高校の美術部のレベルが高すぎて引いちゃったとか? いやそんな話聞いたことないし考え過ぎだろうか?


「もしかして今の話を聞いて遠慮しちゃってる? 私は別にそっちを諦めてまで入ってもらおうだなんて考えてないわ。私も好きなことをするし、すみれちゃんもそうしたらいいと思うよ」


 意外にも大人な対応を見せる鈴原先輩・・・・・って言ったら失礼か。とにかく彼女の言う通り俺も好きにしたらいいと思う。


「美術部かあ・・・・何となくだけどすみれちゃんの言わんとする気持ちは分かるかも」


「あー、そういうことか」


 どうやら水堀さんと鈴原先輩は美術部と聞いて何か思い当たることがあるようだ。


「そういうことって何ですか?」


「あ、いいの高遠君。私が決めたことだし、最初からすごく入りたいと思ってたわけじゃないから。それにこれは私自身の問題で高遠君には関係ない話だから」


 ・・・・・ちょっと、いや結構ショックかも。確かに関係ないけどさ、ストレートに言われると心にくるものがあるんですよ・・・・・・


「そうだね、俺全く関係なかったしなんかゴメン」


「ち、違うの。そうじゃなくって高遠君が気にすることじゃないっていうか、私の方こそゴメンなさい」


「いいのいいの、ホントのことだしさ」


 河島さん優しいなあ。その言葉だけで十分だよ。



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