学祭準備 前編
夏休みが明け、学祭準備期間に入った学校はいつもより少し騒がしかった。皆が浮き足立っていて、どこかそわそわしている。そんな感じだ。
夏休みが明けた後、私は美来からアクト様グッズを受け取った。初のアクト様グッズに、私は自分が学校にいることを忘れて大はしゃぎしてしまった。今思えば黒歴史だったなぁと思う。あの時のことを思い出すだけでも恥ずかしい。
「頼花、ほらっ、アクト様グッズっ!」
そう言って手渡された袋に、うわあああ!と歓声を上げた私。丁寧に袋を開け、顔を出したアクト様のイメージキャラが描かれたタオルやTシャツを、私は思いっきり抱きしめた。
「ふわぁぁアクト様だぁぁ!!イケメンすぎる尊すぎる嬉しすぎるぅぅぅ!!」
そして他のグッズも確認し、ふああ!と変な声を出し続ける私。美来も一緒になってきゃいきゃい騒いでいたけれど、冷静になると頭がおかしい人にしか見えない。皆の記憶を抹消したいぐらい恥ずかしい。
もちろんシオンから『トバ国』のグッズも貰った。流石に教室で渡されたら目立つので、放課後図書室でこっそり渡して貰った。その時もテンションが上がって騒いでしまい、ちゃんと図書局員に怒られた。
そんな感じで夏休み明けに大量のグッズを手にした私だが、その代償か、女子からの視線は今までと比べものにならないくらい冷めていた。先輩からもひそひそと遠巻きに何か囁かれることが多くなり、大変居心地が悪くなった。まぁ、直接成敗されないだけましだと考えているけれど。
美来はそんな私の状況を心配してくれ、何か手伝えることある?と聞いてくれたので、それならイケメンズと私と一緒に学祭回って欲しい、と頼んだら、それは無理と即答されてしまった。何でも、気まずすぎて息が出来ないとのことだ。美来ならすぐ馴染めると思ったが、イケメンズはハードルが高いらしい。まぁ、確かに共通の趣味が無ければ絡みにくいかもとは思う。
「園崎さん、ちょっと手伝ってくれない?」
学祭のクラス展示で使うダンボールに色を塗っていたらそう声をかけられ、顔を上げる。
私のクラスは学祭で展示をすることになり、なんでもSNS映えするスポットをたくさん作るらしい。私にはよく分からないので、ただ女子に言われるがまま動くロボットと化していた。
「ダンボールが足りなそうなの。ゴミ捨て場前に置いてあるダンボールを一セット、持ってきてくれない?」
そこで辺りを見回すと、確かにもうダンボールは残り少なくなっていて、足りなさそうだった。
「分かった」
よいしょ、と立ち上がり、筆を新聞紙の上に置く。
それにしても、ダンボール一セットか。一階から三階まで運ぶのは大変そうだ。C組とゴミ捨て場は、丁度正反対の場所にある。廊下で作業している人もいるから、うっかり物を壊さないようにしないと。もし壊しでもしたら恨みを買ってしまう。
ゴミ捨て場まで行くと、学祭準備のために用意されたダンボールがたくさん積み上げられていた。両手を広げたぐらいの大きさのダンボールが、十枚で一括りにされている。もう一人助っ人が欲しかったな、なんて思いながらダンボールを持つ。
しかし、大きすぎてどう持てば安定するのか分からず、何度も持ち上げては下ろすを繰り返す。結局両手を広げて持つことにした私は、まるで通せんぼをするかのように階段を上った。階段を下りようとした人は、何とも邪魔そうな顔をして私の横を通り過ぎていた。
途中何度か休憩を挟みつつ、廊下で作業している人の邪魔をしないよう試行錯誤しながら無事教室についた時には、もうへとへとだった。若干汗もかいている。さながら巨大迷路を攻略したような気持ちになった。
「持ってきたよ」
そう言って、ダンボールを空いている机の上に置けば、頼んだ人は、
「あー……ごめん、さっきダンボールB組から寄付してもらって。でも、ありがとうね」
と申し訳なさそうな顔をする。マジか……と思いながら教室を見回せば、確かにさっきよりダンボールが増えていた。
途中でも良いから連絡して欲しかった、と少しだけ思いながら、私は笑って大丈夫、と答える。それから筆を取り、さっきの作業の続きをする。
色塗りが半分ほど終わったところで、不意に、頼花!と肩を叩かれ、思わず筆を落としそうになってしまった。せっかくここまで終わったのに、筆を落としてまた最初からです、なんてことになったら泣いてしまう。私は肩を叩いてきた暁斗を睨み付け、
「驚かせないでよ、筆落としてダメにするとこだった」
と言うと、暁斗は悪びれた様子もなく、わりぃわりぃと言って笑った。そして、
「体育祭の練習終わったからヘルプきた。頼花一人だろ?俺が手伝ってやるよ」
と言って、近くにあった未使用の筆を取る。
「そこの赤色でここ塗りゃ良いんだろ?」
「え?あぁ、うん」
私が答えるなり、よしきた!と言って塗り出す暁斗。塗る場所が近いせいで、私の肩と暁斗の肩がぶつかりそうになる。私は一つため息をついて、暁斗の前に移動した。互いに四つん這いになって無心で色を塗る。
最後の場所は暁斗が塗った。終わったぁ!と暁斗が叫び、伸びをしながらにかっと笑う。私も達成感を感じて笑い返す。
「お疲れ様」
「おう!頼花もお疲れ」
立ち上がって完成した物を見ると、我ながら上手く塗れていたので、自然と口角が上がった。
「頼花、今度はあっちのダンボール塗ろうぜ」
下書きがされている新たなダンボールを指指し笑う暁斗に、だね、と返すと。
「きゃあっ」
不意に悲鳴が聞こえ、咄嗟に振り返る。見ると、ハサミを手にした倉崎さんが震えていた。ざっくりと切られた私の推しのファイルを持って。
「……は?」
一瞬、目の前のことが信じられなくて。そんな言葉が溢れてしまった。
私が呆然とする中、倉崎さんは泣きそうな顔をして、切られた推しのファイルを持って私の目の前までやってくる。そして。
「そ、園崎さん……その……ま、間違ってファイルを切ってしまって……」
なんて、震えた声で話し出す。ビクビクと怯えた風にそう話す様子は、あたかも故意ではなかった、と訴えているようだった。
しかし、そんなことは絶対にあり得ない。だって私は、推しをそこら辺にほっぽり出すような真似はしないし、そのトワのファイルだってちゃんと机の中にしまっていたのだから。だから、偶然なんて、あり得ない。
無残に切られたトワの顔。くりぃむ色の美しい髪と、緑色の美しい瞳を持つ美青年。そんな彼が、真っ二つに切られていた。ご丁寧に、頭のてっぺんから首まで。
「……な、んで?」
声が震えてしまう。間違って切るなんてあり得ないでしょ、わざとでしょ?そう言いたいのに、上手く口が回らない。トワが切られたことがショックで、今にも涙が零れそうだった。
「本当に悪気はなかったの。ただ、偶然……その、紙に重なってたみたいで。気付かなかったの……」
倉崎さんのそんな言い訳に、頭の中がいろんな言葉で埋め尽くされていく。
……紙に重なってた?偶然?机の中にしまっていたのに?そんなの、あり得ない。
「でも、これ。ちょっと古いし、汚れてたし。買い換える良いきっかけにはなったんじゃない?」
にへら、と笑う倉崎さんに。私の中で何かが、切れた。
「は……何、言ってるの?それはっ……トワはっ……特別な……っ!!それに、ちゃんと、机の中にしまってた。偶然とか、嘘でしょ?あり得ないから。わざと、切ったんでしょ?」
拳を振るわせながらそう睨むと。倉崎さんは、違うわ!とすぐさま否定した。
「机の中にしまっていたら、今こうなっていないもの。園崎さんがそこら辺に置いていたことが悪いのに、私のせいにするの?」
最初の震えた声はどこへやら。強気にそう言う倉崎さんに、その取り巻きたちも加勢した。
「そうよ、私見たもの。園崎さんが机の上にファイルを置きっぱなしにするところ。それなのに倉崎さんのせいにするとか、酷いよ!」
そうよそうよ、と取り巻きが口を揃えて言ったせいで、一気に私が悪者になってしまう。傍観していた人も、ひそひそと囁きあい、一気に私の立場が悪くなった。それが、悔しくて。私は黙って零れ落ちそうな涙を堪える。こんなところで泣いたら相手の思うつぼだ。絶対に泣くもんか。
私が反論しないことに勝ったと思ったのか、倉崎さんはにっこりと笑って私にファイルを差し出した。
「大切なファイルを切ってしまったのは謝るわ。ただ、本当に大切な物ならもう少しちゃんと管理しておいた方が良いわよ」
そして、わざとらしく、さっきの言葉はなかったことにしてあげる。あなたも混乱していたんでしょう?と微笑んだ。その笑顔が憎らしい。
いつまで経ってもファイルを受け取らない私に、無理矢理ファイルを持たせて、倉崎さんは教室を後にする。すれ違い際、倉崎さんは言った。
「調子に乗るから悪いのよ。次はこれで済まないから」
手にしたファイルを見ると、胸が締め付けられて。ひそひそと囁かれる教室の居心地が悪くて、私は教室を飛び出した。涙は流さなかった。なんとか、堪えた。
……トワのファイルは、私にとって特別な、思い入れのある物だった。トワは私が最初に好きになった二次元キャラ。
適当にテレビを付けたら、トワが映っていて。私は一瞬で恋に落ちた。笑顔が素敵で、優しくて。理想の王子様だった。あの衝撃は今でも覚えている。小学四年生の、あの日。トワと出会った私は、その日から人生が変わった。
トワが好きで好きでたまらなくて。何度も何度もアニメをリピートした。それこそ台詞を覚えてしまうまで。
トワのおかげで私の世界は広がった。トワが読書好きだったから、私も真似をしていろんな本を読んだ。トワの声がカッコ良かったから、同じ声優さんが出ているアニメを見た。トワを愛していたから、トワを生み出してくれた作者の他の作品を見た。
そうしているうちに。いつの間にか、私の“好き”は広がっていた。そして、二次元というものを愛するようになっていた。それこそ、二次元がないと生きていけなくなるくらいまでに。
トワのファイルは、中一の頃に苦労して手に入れた物だ。トワは作品内でもあまり出てこない、いわゆるサブキャラだった。主人公のグッズは多いのに、登場回数が少ないトワのグッズはなかなか売られていなくて。通販なんて出来ない私は、片っ端からお店を回って探し回ったのだ。リサイクルショップから二次元グッズ専門店までいろいろ。
そしてようやく手に入れたトワのファイル。私が愛してやまないトワを手に入れられたことが嬉しくて。私に優しく笑いかけてくれるその姿が尊くて、愛おしくて。見ているだけで、元気が貰えた。
辛くても私が立ち直ってこられたのは、トワのお陰だ。初恋の相手で、私に生きる意味を与えてくれた人。そんな、特別なトワだから。私は常に一緒にいたくて、学校にも持ってきていた。それなのに。そのせいで、こんな……。
私は静かに、そっとトワの頬を撫でる。切られても私に笑いかけてくれるその姿が痛々しくて、辛い。ポタポタ、と彼の頬に涙が落ちた。
新しく買い代えれば、と倉崎さんは笑って言っていたけど。代わりなんて、ない。私はこのトワと、今まで一緒に生きてきたんだ。喜びも悲しみも、このトワと一緒に。大切な、忘れがたい想い出がたくさんある。新品のトワのファイルをあげる、と言われても嬉しくない。だってそれには、今まで一緒に築き上げた想い出が一切無いのだから。この代わりなんて、ない。
「……ごめん、なさい」
口から溢れ出たその言葉のせいで。なんとか我慢していた涙が止まらなくなってしまった。ここは学校なのだから泣いてはいけない、そう思っても。涙が止まらなくて。せめて声だけは出ないようにと、強く、強く、口を噛んだ。
皆がわいわいと騒いで楽しそうに学祭準備をする中、空き教室で、私は一人、場違いに泣いていた。静かに、声を潜めて。
どれくらい時間が経ったのだろうか。いつしか廊下のざわめきも小さくなって、外もオレンジ色に染まっていた。
学祭準備期間で助かったな、と心の底から思った。
学祭準備期間中は、昼休みにホームルームをするため、最後に集まる必要がない。各自の持ち場につき、四時を過ぎたら各自で解散だ。六時ギリギリまで作業するところもあれば、即解散するところもある。
私のクラスは割と最後まで作業する人が多いので、私はこの空き教室にまだいなければならない。こんな泣き腫らした顔で教室に行く勇気なんて、私にはない。せめて、荷物を全て持ってくれば良かった。そうしたら帰れたのに。
……いや、帰ったら帰ったで親に心配をかけてしまうか。
しばらく泣いたからか、私の気持ちは少し楽になった。私は改めてトワの頬を撫でながら、先ほどのことを思い返す。
倉崎さんは言った、調子に乗っているからだと。それはもちろん、私がイケメンズの人たちと仲が良いことを言っているのだろう。暁斗との作業が終わった瞬間にファイル切られたし。
でも、あれは不可抗力だ。だいたい幼馴染みなんだから、仲が良いのは当たり前だろう。趣味も合うし。ただの友達として仲良くしてるだけだ。私が恋心を持っているわけじゃないんだから、大目に見てくれと叫びたくなる。
だいたい、なんで私の人間関係に口を出されなきゃいけないんだろう。友達と話して何が悪い。皆私の大切な同士だ。
というか、仲良くなりたいんなら私に構わず本人と絡め!ぐいぐい話にいけ!勝手に仲良くなれ!私と皆の仲を引き裂いたところで、自分が仲良くなれなければ意味が無いだろうに、馬鹿なのか?私の推しを傷付けて……許せない!!
考えていたらだんだんとイライラしてきて、無性に机や椅子を蹴っ飛ばしたくなる。もちろんそんなことはしないけれど。
どうやって一矢報いてやろうか、と考えていたら。ガラガラガラ、と教室のドアが開き、ビクンと体が跳ねる。誰かが空き教室に入ってきてしまったみたいだ。どうか話しかけられませんように、と机に突っ伏して寝たふりをすると。
「頼花っ」
「頼花ちゃんっ」
「ライっ」
三人が一斉に私の名前を呼んだので、恐る恐る顔を上げる。すると、そこには心配そうな顔をした暁斗と光、シオンがいた。
「え、なんで……」
訳が分からず呆然と呟くと。暁斗がゆっくりと私の側に来ながら説明した。
「いや、なんかすっげぇ顔で教室飛び出てったし、しばらく帰って来なかったから探しに来た。そしたら途中で二人にあって、事情話したらついてくるって言って」
そこで、トワのファイルと私の顔を見て、
「大丈夫か?」
と、心配そうに言った。光もシオンも心配そうに見つめている。
「……ごめん」
心配をかけてしまって、そして学祭準備をしていたのだろう光とシオンまで巻き込んでしまったことに申し訳なくなりながら、俯いて謝る。まさか、探しに来るとは思わなかった。四階の隅っこ、図書室の近くにある薄暗い空き教室なら、誰も来ないと思ったのに。
「なんでお前が謝るんだよ」
私の謝罪が気に食わなかったのか、不機嫌そうに言う暁斗。泣き腫らした顔を皆に見せたくなくて、俯いたままトワの頬を撫でていると。
「ライ。お前、いじめられているのか……?」
疑うように尋ねるシオン。その言葉に、えっ、と暁斗は驚いた声を出し、光は、もしそうなら僕、頼花ちゃんをいじめた人たち片っ端から潰してくる、と恐ろしいことを言った。
光の発言に恐ろしくなりながら、違うよ!と慌てて否定する。思わず顔を上げてしまったので、ばっちり目が合ってしまった。
「だが、そのファイルにその泣き顔……何も無いとは思えない」
真っ直ぐに見つめて問うシオンに、一瞬言葉が出なくなる。
……いじめ、ではないと思う。いや、いじめの境界線なんて分からないから、もし誰かがそうだと思ったのならそうかもしれないけど。
じゃあ、これはいじめ……?ひそひそ話されることや冷たい目でみられることはよくあるけど……これは、そうなの?分からない。でも、このトワの一件だけは絶対に許せない。これに関しては、何か行動を起こしたい。
「もし言いたくないのなら、無理に言わなくても良い。だが……俺はライの味方だ。苦しい時はいつでも頼って欲しい」
そんな風に優しく語りかけてくれるシオン。ライは俺の初めての友達だからな、という言葉に、僕も僕も!と、光が王子様のように跪き、私の手を優しく包み込んだ。
「僕も頼花ちゃんの味方だよ。頼花ちゃんは僕の大切な人だから。辛いときは頼って欲しいし、何でも言って欲しい」
ぎゅ、と握ってくれた手が温かくて、ひんやりと冷えていた身体が温まっていく。
「頼花」
暁斗に名前を呼ばれ、私は光から視線を移す。暁斗は真剣な顔をして、
「さっきは何も出来なくてごめん。でも、俺は頼花の、そのトワに対する想いをクラスの誰よりも理解しているつもりだ。だから……お前が、そのファイルをその辺に置きっぱなしにしていたとは考えられない」
と、静かに言った。その先は、言葉にしなかったけれど。でも、暁斗の言わんとしてることが分かって、私は苦笑した。
まさか暁斗に、そんな真剣な顔で言われるとは思わなかった。トワに対する想いをクラスの誰よりも理解しているつもりだ、なんて。
「随分と言い切るね」
「当たり前だ。誰よりも頼花のことを見てるし、誰よりも長く一緒にいたからな」
推しの話もめちゃくちゃ聞いた、と話す暁斗に、ふっ、と笑みが溢れた。
暁斗も、光も、シオンも。私のことを心配してくれる人がいるし、味方だと言ってくれる人がいる。そして、今ここにはいないけれど、美来もそうだ。私には、四人も味方がいる。二次元が大好きで、二次元に恋をしている私を受け入れて、友達だと言ってくれる人が。
「……ありがとう」
そのことが嬉しくて、お礼を伝えると。三人は笑顔で頷いた。
私には、こんなに素敵な友達がいる。それならば。やることは一つだ。いつか言った、自分の気持ちに嘘はつきたくないという言葉。私は、誰になんと言われようと、この三人と離れることはしたくない。三人とアニメや漫画、ゲームの話をしたい。私の大好きな物の話をしたい。
だから。ちゃんと、向き合おう。自分の気持ちを伝えよう。面倒なことになったと流さないで。ちゃんと、言葉で。
「ねぇ、暁斗、光、シオン。これからも……これからも、私とたくさん、漫画やアニメやゲームの話、してくれる?」
私がそう尋ねると、三人はきょとんとした顔をして、それからくすりと笑顔を浮かべた。
「当たり前だ!」
「もちろん!」
「ああ」
その言葉を聞けて安心した私は、もう一度、ありがとうと感謝を述べた。そして、もう大丈夫だと頬笑む。
「私、ちゃんと向き合ってくるね。自分の気持ちを伝えてくる。……自分の気持ちに、嘘をつきたくないから」
私の決意に、こくりと頷く三人。
「おう、頑張れよ!頼花なら大丈夫だ」
「でも、無理はしないでね?頼花ちゃんが傷付くのは嫌だから」
「困ったら頼ってくれ、ライ」
その言葉に励まされながら、私は空き教室を飛び出した。目指すは倉崎さんだ。きっとまだ、学校に残っているはず。倉崎さんはいつも、最後まで学校に居残っている人だから。
学祭準備前編です。次回は後編、倉崎さんとのお話です。