学祭二日目 後編
しばらく四人で談笑していると、クラスにお弁当が届いた。人数分配られる夜ご飯を見て、光とシオンも一旦自分の教室へ戻っていった。
私もお弁当を受け取り、美来の元へ向かう。美来は私の顔を見た後、首を傾げてチラッと暁斗の方を見た。
「黒鳥くんたちと食べないの?今日ずっと一緒じゃん」
そういう美来にふるふると首を振り、
「後夜祭で合流するから良いんだ。この二日間あんまり美来と話せてないし」
そう言って、いつもみたいに机をくっつける。美来は嬉しそうに笑って、じゃあ食べよ食べよと手を合わせる。
「「いただきまーす」」
二人して声を合わせ、笑い合う。確かにあの三人と一緒に過ごすのも楽しいけれど、美来と一緒にいるのもとても楽しい。私にとっては両方大切な人だ。
「というか、美来もあの三人と仲良くなってくれれば五人で過ごせるのに」
絶対楽しいよ、とのり弁を食べながら言えば、えー、無理無理、と美来は首を振った。
「黒鳥くんはまだしも、犬上くんと颯風先輩は怖いもん。ちゃんと仲良くなれる気がしない」
「え、光も怖い?人懐っこくて犬みたいじゃない?」
美来の感想に驚いてそう聞けば、んー、と箸を口にしたまま考え込んだ美来。なんて言えば良いんだろ、と呟く。しばらく考える美来に、黙って待っていると。
「なんか、腹黒そうじゃない?なんて言うか……取り繕ってる?みたいな。たまに怖いことさらっと言うし」
そんな言葉が返ってきた。腹黒かぁ……と私も呟き、お弁当を食べる。
確かによくいるよなぁ腹黒キャラ。何考えてるのか分からなかったり、いつもニコニコしていることが多い光。そうか、美来には光が腹黒に見えるのか。全く考えたことなかった。
「ま、犬上くんは頼花に懐いてるみたいだし、大丈夫だと思うけどね」
最後にそう軽く良い、ウインナーをパクッと口に入れた美来。
「とにかく、そういうことだから。うちのことは気にしないで良いよ」
「……分かった」
まぁ、本人があまり近付きたくないと思うのなら、それはそれで良い。人には相性があるし。私から仲良くするよう強制するものでもない。
「ってか気になったんだけど。頼花って倉崎さんとも仲良くなったの?」
不意に美来にそう聞かれ、へ?と目をぱちくりさせる。倉崎さん?どうして。
「別に何も?そんな話したことないけど……なんで?」
不思議に思い尋ねると、美来は、そーなんだ?と首を傾げて倉崎さんの方を見た。
「いや、今日頼花を代理で種目に出させたじゃん。その時、一緒に頼花説得してくれる人って募集かけたら倉崎さん立候補してきて。ちょいちょい頼花のこと気にしてる感じだったし、それとなく頼花のこと聞かれたりしてるからさ。悪巧みとかそんな感じはしなかったから、ただ単に仲良くなりたいだけなのかなーって思って」
「えっ、そうなの?」
全く気付かなくて、私も思わず倉崎さんの方を見た。すると、たまたまなのか、タイミングよく倉崎さんと目が合ってしまい、さっと目を逸らされた。
「ほら、目逸らされてるし。仲良くとかじゃないんじゃない?」
美来に言いながら、きっと暁斗との仲を応援して欲しいとかそういうことだろうな、と考えた。だって、それしか倉崎さんが私に話しかける理由がない。
「えぇ、違うと思うけどなぁ……」
私の言葉に、そう返す美来。美来とはなんか、考え方が結構違うんだな、と思いながらお弁当の最後の一口を食べた。ま、人と考え方が違うのは当たり前だけど。
お弁当を食べ終え、後夜祭の時間となる。私たちは放送の指示に従って、クラス毎にグラウンドへと向かった。最初は学祭の結果発表が行われるため、クラス毎に並ばなければならないのだ。花火は全ての表彰が終わった後、みんなが散らばってからだ。
六時を回ると、外は良い感じに薄暗くなってくる。グラウンドに座って先生の話を聞きながら、花火が打ち上げられる時はどのくらいの暗さなのだろうかと考えた。
学祭での展示、売り上げ、独創性。体育祭の各競技で優勝したクラス、全体でのMVP。それらが順々に発表されていく。最後に、各学年のクラス順位が告げられ、長い、長い校長の話は終了となった。
私のクラスは学年二位、なんとも微妙な順位だった。悔し涙をする者もいれば、やったぜと喜ぶ人もいる。
因みに、私はどっちでもない。嬉しくも悔しくもない。こう言えば、薄情だと言われるかもしれないが、実際私には本当にどうでも良いことだ。私の知り合いが何か賞を受賞していたら、嬉しくなるけれど。
セレモニーが終わり、花火の時間。私たちはスマホで連絡を取り合いながら、大勢の中なんとか合流することが出来た。
辺りを見回せば、男女でカップルらしきペアがいたり、大人数でわいわい騒いでいたりと、皆思い思いにすごしていた。美来は同じ美術部の人と一緒だった。
「花火始まるな!」
スマホ片手に、興奮気味に言う暁斗。どうやら暁斗は、一部始終をスマホに納めるらしい。変に声を出して、録音されないように気を付けないとな、と考えた。
「だね。今年は頼花ちゃんと一緒に見られるから、去年よりきっと綺麗なはずだよ」
同じく楽しそうにする光に、そうかもしれないね、と相づちを打つ。
「私も去年は一人で寂しく見てたから、今年は綺麗に映りそう」
「言えてるな。俺も今日の花火は楽しみだ」
四人でわいわいと話しながら、花火の打ち上げを待つ。
「……それにしても。なんか、あっという間だったな」
ふと口から出た言葉。私の言葉は静かに、闇の中に溶けていった。
「だな。というか、今年は月日が経つのが早い」
私の言葉に静かに同意する暁斗。なんだか一気に、私たちの周りにしんみりとした雰囲気が蔓延した。
「きっと、今年が今までよりすっごく楽しかったからじゃないかな」
ぼーっと空を見上げながら呟く光に、だな、とシオンも同意する。
「友達がいると、こんなにも毎日が一瞬で過ぎ去っていくのかと驚いた」
「……なんか、今でも信じられないよね」
しんみりとした雰囲気にやられたのか、学祭の雰囲気にやられたのか。分からないけれど、今の私の口は、よく動く。するっと、なんでも言葉が飛び出ていってしまう。
「暁斗も、光も、シオンも。私にとっては、今一緒にいられることが奇跡って呼べるくらい、眩しい人たちで。きっと、好きな物が被ってなかったら、こんなに仲良くなってなかったと思う」
だんだん真っ暗になっていく空を見上げながら、私は勝手に一人で話し出す。一体何を話しているんだろう、と、自分でも不思議だけれど、言葉が止まらなかった。
「暁斗が漫画好きだと知らなかったら。光がアニメ好きだと知らなかったら。シオンがゲーム好きだと知らなかったら。きっと、私たちは今、ここに一緒にいない。私が頑なに二次元好きのことを隠していたら。恥ずかしがって、胸を張って好きだと言えていなかったら。きっと、私たちはこんなに仲良くなれなかった」
私の言葉は静かに、静かに溶けていく。急にこいつは何を語っているんだ、と思われているかもしれない。それでも。なぜか、言わずにはいられなかった。
「だから、さ。何が言いたいのかっていうと……」
そこで、くるっと振り返って、三人の顔を見た。皆は私の顔を真面目な顔で見つめていて、それがなんだか凄く面白かった。
「自分の好きな物を、好きって教えてくれて、ありがとう」
にこりと微笑むと。パァン!と丁度良く、背中で花火が弾ける音がした。驚いて振り向くと、学祭の最後を締めくくる花火が、もう打ち上げられていた。
ぱぁん、ぱぁん、と花火が夜空に咲く中。何言ってんだよ、と暁斗が隣に立って話し出した。
「こっちこそありがとうな。あの時、頼花がツッコんでくれなかったら。スルーされてたら、きっと今、こうしていられなかったから。今、頼花の隣に立てている機会をくれて、ありがとうな」
花火から目を逸らし、暁斗を見上げると。暁斗も同じように私を見下ろし、にかっと笑っていた。
「僕もだよ。あの時、頼花ちゃんがクラスの子に、堂々と好きって宣言していなかったら、きっと僕、頼花ちゃんのことを知らないままだった。今こうして一緒にいなかった。だからこちらこそ、僕に頼花ちゃんっていう存在を教えてくれて、ありがとう」
「俺もだ。ライが図書室で『トバ国』の話をしなければ気が付かなかったし、そもそもゲーム内で話しかけられなかったら、俺たちは今一緒にいない。俺と出会う機会をくれて、俺に話しかけてくれて、ありがとう」
笑顔でそう言ってくれる光とシオン。皆の笑顔を見ていると、私も自然と笑顔になってくる。
夜空には大きな花火が咲いているのに、それに目もくれず、互いに笑って、ありがとうを伝える私たち。それがなんだか面白くて、くすぐったくて。ぷっと吹き出してしまう。
「あは、何改まって照れくさいこと言ってるんだろーね、私たち。花火を見ないでさ」
「言い出したのは頼花だろ?」
「そうだよ。花火見てないの、僕たちだけじゃない?」
「ま、それも思い出ってやつだな」
四人で空を見上げ、花火を見る。ぱぁん、ぱぁん、と空に咲き、一瞬で散ってしまう花は綺麗で、儚かった。花火に見とれていると、一瞬で、学祭が終了してしまった。
学祭終わってしまいました……次はエピローグ的なもので、第一部は終了です。次か、次の次でラストかは文量的に微妙なところですが……




