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学祭二日目 中編

 それから私たちはグラウンドの隅に陣取り、暁斗の応援をしたり、談笑したりしながら午前の部を終えた。

 お昼ご飯を教室で食べた後は、午後の部の時間だ。一年生から三年生まで順番に競技を行ったあと、最後に行われるのが選抜リレー。地獄の時間である。


 一年生が走っている中、私はTシャツ短パンになり、走る準備をした。各学年走るのは十人なので、あっという間に出番は来てしまう。

 バクバクと心臓が鳴るのを感じながら、私はゆっくりと息を吐いた。リレーなんて一年ぶりだ。中学の頃は毎年走っていたけれど、まさか高校でも走ることになるなんて。最近は動いていないから、速さも体力も落ちている。さっきも全力疾走したばかりだ、明日はきっと筋肉痛だろうな……

「はぁ」

 大きくため息をつくと、近くにいた光が、大丈夫?と声をかけてくれた。あんまり気負わなくて良いと思うよ、と笑顔で言われ、私もこくりと頷く。一番ダメなのは、緊張しすぎて足が鉛のように重くなることだ。前に経験したことがあるから分かる。

「ライ、俺も応援してる」

 シオンの声援にもこくりと頷き、すぅ、はぁ、と一つ大きく深呼吸した。よし、心を決めよう。私は大丈夫、ヘマしてもきっと暁斗が挽回してくれる。

「んじゃ、行ってくるね」

 二人に笑顔で言って、先に集合場所へ向かった美来たちの方へ走り出す。大丈夫、足は動く。ささっと走って終わらせちゃおう。


 一年生のリレーが終わり、二年生の番だ。私はもう一度深く息を吸って、ゆっくり吐いた。

「頼花に一番でバトン渡すから、待ってて」

 にかっと笑う美来に、それだとプレッシャーやばいから、とぎこちなく笑い返す。

 あぁ、やばいすっごく緊張してる。私が緊張してることに気付いたのだろう。暁斗はポンポン、と私の背中を軽く叩いて、

「んな緊張すんなって。いつも通り走ればお前速いんだからさ。失敗しても俺がカバーしてやるから楽しんでこーぜ!」

 と励ました。いつも通りっていつのこと言ってるの、とつい笑みが溢れる。今の私は、きっと普通に走ってもめちゃくちゃ遅いだろうに。

「ありがと。んじゃ、私は最下位で暁斗にバトン渡すから」

 にやっと笑うと、

「おうよ、ドンとこい!最下位で渡されようが俺が必ず一位でゴールしてやる!」

 と、暁斗もにやっと笑って返した。


 良い感じに緊張がほぐれたら、移動の時間となった。リレーは一人トラック半周なので、暁斗と美来とは待機場所が違う。因みに、アンカーの暁斗は一周走ることになっている。


 パァンッとピストルが鳴り、リレーが始まった。皆がギリギリの良い戦いをしていて、ほぼ同じ順位だった。途中、A組とC組がバトンパスを失敗し、順位が落ちるも大きく離されることはない。

 四位でバトンを渡された美来は、宣言通り爆速で走り、一気に他の選手との距離をつめた。そして。

「頼花っ」

 私がバトンを受け取ったとき、順位は一位。C組の皆から歓声が上がった。


 私は思いっきり走った。ここで追い越されたらいけない。しかし、美来が離してくれた距離が、どんどん詰められていくのが足音で分かった。ザッザッザ、と迫る足音が怖くて萎縮する。

 迫り来る恐怖に耐えながら、なんとか全力で走りきる。そして、目の前で待つ暁斗にバトンを差し出す。

「頼んだっ」

「おうっ」


 暁斗は私からバトンを受け取り、ものすごい速さで走っていった。私が詰められた距離をぐぐんと伸ばし、もう独走状態だ。C組の歓声はより一層高まり、黒鳥くぅ~ん!と黄色い声も上がる。

 私はプルプル震える足をなんとか動かしながら、トラックの中央に戻る。私が崩れ落ちるように座り込むと、美来が、お疲れ様!と笑顔で迎えてくれた。

「頼花凄かったじゃん!ちゃんと一位キープしてバトン渡してた!」

「危なかったけどね……美来も有言実行、凄いよ」

 はぁはぁと荒く息をしながらも、笑顔を浮かべる。これで私たちは一位確定だ。


 二人して喜びながらレースを見守る。暁斗は二位と結構距離を離し、一位でゴールしていた。うっしゃあっ!とガッツポーズをすると、C組が、きゃあああ!と歓声を上げた。私は立ち上がって喜ぶ気力はなかったので、座りながら美来と喜んだ。


「頼花お疲れ!」

 トラック中央に戻るやいなや、私に笑顔で言う暁斗。私も笑い返しながら、暁斗もお疲れ~と労う。

「頼花、一位でバトン渡してくれたじゃん。お陰で余裕でゴール出来たわ」

「いやめっちゃ怖かった。バトン渡したときほぼ同じだったじゃん。途中で抜かされてたら心折れてたかもしれない」

「はは、危なかったな」

 全クラスゴールし、その場から退場する私たち。テントに戻ると、私はタオルを頭に被ってお茶をがぶ飲みした。


「頼花ちゃんお疲れ様!すっごくカッコよかったよ」

「あぁ、凄かった」

 お疲れ、と労ってくれる二人に笑顔で答えながら、お茶を飲み干す。水筒の中身が空になってしまい、新たに飲み物を買ってこないと死んでしまう、と立ち上がる。

「ちょっと飲み物買ってくる。美来と暁斗はどーする?」

 同じくリレーで疲れただろう二人に声をかけると、美来は首を振って水筒を持ち上げた。

「まだ結構残ってるから大丈夫」

 暁斗は水筒を逆さまにし、丁度飲み切ってしまったみたいだ。

「俺も買いに行く」

 そう言って立ち上がった。もちろん光とシオンも一緒だ。


 三年生が走るのを横目に、

「終わったねー。あとは片付けと後夜祭だけだ」

 と言葉を溢す。今年は自分が競技に参加したからか、なんだかあっという間に感じてしまった。体育祭を一緒に過ごす人がいたことも大きいかもしれない。

「だなー。なんかあっという間」

「今年の学祭は楽しかった!」

「ああ。最後の学祭、皆と過ごせて良かった」

 三人も笑顔で言い、私は改めて、皆と仲良くなれたことに感謝した。学校で人気者の三人とこんなにも仲良くなれたのは、偶然にも好きな物が被ったからだ。好きな物について語れる人は貴重。これからも皆と仲良くしていきたい。


「そーいえば、先輩は明日からまた受験勉強ですよね。大学どこ行くんすか?」

 不意に暁斗がシオンに聞き、それ今する話?と、光が顔を顰めた。確かに、と苦笑しながら私もシオンの方を向く。

「シオンは頭良いから、国内一偏差値が高い某大学だったりして」

 半分冗談で言えば、シオンはこくりと頷き、

「そうだ。よく分かったな」

 と答えた。私は当たると思わなかったので、つい、

「え、ほんとに!?」

 と声を上げてしまった。暁斗も光も驚いたようにシオンを凝視している。

「え、マジすか。先輩そんな頭良いんすか」

「うっそ、信じられない……」

 私たちの反応を見たシオンは苦笑して、

「まぁ、受かるかは分からないけどな」

 と溢した。これからまた勉強漬けだ、と呟く。

 その姿を見て、ふと思った。シオンはこれから残り全ての時間を勉強に費やすのなら、もうこうやってだらだらと話すのも最後かもしれない。なんたって目指す大学が大学なのだ。ゲームだってもうあまり出来ないだろう。下手したら、もう絡むことなく卒業する可能性があるわけで……


 そう考えたら、なんだか急に悲しくなった。一年という差は、学生にとってとても大きい。

「……シオン。受験が終わったらまた皆で集まって、ぱあっと遊ぼうね」

 もうこれが最後にならないように、私はシオンにそう提案した。私の声色が少し悲しそうだったからかもしれない。シオンは私を見つめ、ふっ、と優しく笑って私の頭を撫でた。

「あぁ。ライは大切な、俺の初めての友達だからな」

 その言葉が嬉しくて、笑顔が溢れる。

「うんっ」


 自販機でお茶を買った後、私たちはゆっくりとグラウンドに戻った。グラウンドではもうリレーが終わっていて、後片付けに入っていた。

「後夜祭が始まるまでの教室待機の時間も、頼花ちゃんとこ遊びに行くね」

「俺も遊びに行く」

 光とシオンがそう言って、自分のクラスのテントへと戻っていった。私と暁斗も二人でテントの元へと戻る。


 戻ってみると、もうテントの撤収作業が始まっていて、私と暁斗のリュックは揃って地面の上に転がされていた。ブルーシートから下ろされたリュックは砂まみれで、私はパンパンとリュックについた砂を払う。

「ゆっくりしすぎたね。もう残ってるの私たちくらいだ」

 早く教室に戻らないと、とリュックを綺麗にしながら暁斗に声をかける。

「だな」

 それから無言で準備をし、無事に支度が出来た私はリュックを背負って立ち上がった。辺りを見回すと、もう体育委員しかグラウンドに残っていなかった。


「行こっか」

 振り返って暁斗に言うと、暁斗は、頼花!と真剣な顔をして私の名前を呼んだ。そのいつになく真っ直ぐな目に、私は首を傾げる。

「ん?」

 何を言われるのか分からず、黙って暁斗の顔を見つめると。暁斗は、言いにくそうに言葉を発した。

「その……昨日のこと、謝りたくて」

 最初、何のことを言っているのか分からず首を傾げる。

「その……いきなり抱きついて、ごめん……」

 そう謝られて、昨日の出来事を思い出した私は、あっ、と声を上げる。


 確かに、思えば昨日のあれから二人っきりになっていなかった。今まで周りに誰かしらいたし、今日はいろいろ想定外のことが起こっていたから完全に忘れていた。でも、そうだ。私は昨日、暁斗に……

 思い出した瞬間、ものすごく恥ずかしくなって暁斗の顔を直視できなくなった。思いっきり顔を逸らし、なんで今更……と溢す。せめて、全て終わってから言って欲しかった。今言われたら気まずすぎてどうすれば良いか分からなくなる。

「その、謝るタイミングがなくて!こういうのは直接会って謝らなきゃって思ったから……」

 微妙な空気が漂う。互いに何も言えず、黙って突っ立っていると。

「おい、今は教室待機の時間だ!後夜祭の準備するんだから早く戻れ!」

 先生に怒られてしまい、すみません!と慌てて私たちはグラウンドを飛び出した。


 グラウンドから出て、教室へ向かう途中。こんな空気で光とシオンに会ったら申し訳なさすぎると思って、私は暁斗の方を見た。

「暁斗」

 名前を呼ぶと、暁斗はビクリと身体を揺らし、私の顔を見つめる。その顔がしゅんと落ち込んでいたので、本当に悪いと思っていたんだな、と感じた。

「確かに昨日は驚いたし、おふざけにしてはやり過ぎてると思った。からかわれたんだって思ったら本当に腹が立ったし。……私が乙女ゲーム好きだからって、ああやってからかわれるのは流石に嫌だよ。それに、どうすれば良いのか分からなくなる」

 なんだか気恥ずかしくなり、ふいっと顔を背けてしまう。

 乙女ゲームのああいうシチュエーションは、きゃあきゃあ一人で騒いで好きに妄想するのが一番良いんだ。だって、ゲームをしているだけで赤面するし、きゅうっと胸が苦しくなるんだから、リアルでやられたら心臓が止まりそうになることくらい簡単に想像がつく。モテモテで恋愛経験値が私より高そうな暁斗には分からないだろうけど。


「まぁでも、暁斗が本当に悪かったって思ってるのは分かったから。昨日のことは忘れる。だから今まで通り、仲良く幼馴染みとしてやっていこ」

 気まずい雰囲気を無くそうと思い、そう笑って暁斗の顔を見上げると。なぜか暁斗は苦しそうな顔をしていた。どうしてまだそんな顔をしているのか分からなくて、じっと暁斗の顔を見つめる。

「頼花、俺は……」

 暁斗が何かを言いかけた瞬間。

「あーっ、やっと見つけた!」

 光が階段の上からそう声をかけ、トタタッと駆け寄ってくる。少しして、シオンもゆっくりとこっちに歩いてくるのが見えた。

「教室に戻っても、まだ二人が戻ってないっていうんだもん。遅いから探しに来ちゃったよ」

 ぷくぅ、と頬を膨らませる光に、ごめんごめんと謝る。

「リュックが地面に転がされていたから、綺麗にするのに時間がかかっちゃったんだよ」

 ね?と暁斗を振り返ると、ハッとした暁斗は、お、おう、とぎこちなく笑った。その笑いに何か勘づいたような顔をしたけれど、光もシオンもスルーしてくれた。その心遣いに助かった。


 四人で話ながら、C組の教室へと戻った。私がリュックを自分の机に置くと、私を取り囲むように三人が周りの席に座った。皆が立って廊下やら教室で談笑していたせいで、席は結構すかすかだったのだ。自分の席をイケメンズに使われた女子は、きゃあっと小さく声を上げた。


「てか学祭終わったら定期考査じゃん。勉強ってもうしてる?」

 暁斗の問いかけに、うへぇっと嫌そうな顔をした光。

「だからなんでそういう話をするの?絶対今じゃない」

「や、だってほんとのことじゃん。もう二週間切ってるんだぜ」

 現実を突きつける暁斗に苦笑しながら、だねーと言葉を返す。

「私はいちおうちょっとずつしてるけど……自信はない。いっつも微妙な点数だし」

 頭の良い三人が羨ましいよ、と嘆くと、光もうんうんと頷いた。

「僕も自信ない。獅苑先輩みたいに一位取ったことないし」

「いやそれは比べる難易度高すぎる。私からしたら光も暁斗もシオン……先輩も雲の上の存在」

 教室に結構な人がいるので、一応先輩を付けて呼んだ。一瞬不思議そうな顔を三人ともしたけれど、すぐさま理解しスルーしてくれた。


「それな。先輩は化け物すぎる。俺まだ一桁取ったことねぇのに……」

「僕は毎回一桁だよん」

 いえーい、と暁斗を挑発する光に、なんだかんだ二人って仲良いよな、と思いながら皆に勉強法を尋ねる。

「皆はどうやって勉強してるの?参考までに聞かせて欲しい」

 真似したら、もしかしたら私の順位も伸びるかも、と前のめりになると。心なしか教室が若干静かになり、私たちに注目している感じがした。きっと皆も頭の良い三人の勉強法が知りたかったのだろう。


「勉強法なぁ~……俺、ひたすら問題解いてるだけだよ。学校のテキスト丸暗記すればそこそこ点取れるじゃん。だから間違えなくなるまでずっと繰り返してる。あと、手動かすとか?」

 椅子の背もたれによしかかりながら答える暁斗に、あぁ~、と頷く。

「確かにそれは言えてる。でも途中で飽きちゃうじゃん。またこれか!って投げ出したくなる」

「それは分からなくもない」

 苦笑する暁斗に、今度は光が自分の勉強法を話す。

「僕は日々の積み重ねタイプ。テスト直前に勉強量増やしても続かなかったからね。毎日無理なくって感じ?授業の予習復習してたら意外と乗り切れるよ」

 にこっと笑う光に、正論過ぎる……とうなだれる。

「分かってるけど、テスト週間じゃなかったら勉強のやる気が出ないんだよ~。それに予習復習してもすぐ忘れちゃうし」

 光とは暗記力の差がありすぎるのかも……と呟くと、光は、あははと笑った。

「確かに、昔から記憶力が良いとは言われてたかな」

 そして最後、シオンが勉強法を話した。

「俺は、分からない部分があれば時間をかけてでも調べ尽くしている。あとは……そうだな、どうしてそうなるのか、どうしてその答えになるのか、きちんと答えられるようになるまで理解力を高める、とか。原理や理屈が分かっていれば、最悪知らない問題が出てきてもある程度は対処可能になる」


 淡々と話すシオンに、おぉ~、と三人して声を漏らす。

「流石シオン先輩。ザ・理系って感じの勉強法ですね」

 私の言葉に苦笑するシオン。

「それは褒めているのか?」

「もちろんですよ!私は途中で投げ出したくなりそうです」

 にこっと笑顔で返すと、暁斗が呆れながら、

「お前は全部そうじゃねーか。んで?何か役に立ったのか?」

 と尋ねる。その言葉に、んー、と考える私。

 役に立ったは立った。皆、ちゃんとした勉強法があり、たくさん努力していることが分かったし。私も頑張らねばと自分を奮い立たすことも出来た……と、思う。

「私に三人の勉強法の真似が出来るとは思えなかったけど……でも、負けないように頑張らなきゃとは思ったよ」

 そして、にこっと三人に笑いかけた。

「貴重な情報ありがとう!三人が友達で良かったよ。これからもよろしくね!」

 急な挨拶に、呆気にとられた三人。それから面白そうに笑い、

「んだそれ」

「こちらこそだよ、頼花ちゃん」

「末永くよろしくな」

 と、それぞれ言葉にした。

 私は友達が少ないけれど、質は素晴らしく高い。こんなに素敵な人たちと仲良くなれた運の良さに感謝しつつ、素敵な友達を手放さないようにしようと思ったのだった。

学祭二日目中編です!リレーとかすっごく緊張しますよね……足が遅くなっちゃうんです笑。次で学祭は終了です。

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