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学祭一日目 後編

「んで、何からやる?やっぱ射的か?」

 ざわざわと賑わう縁日コーナーにやってきた私たち。到着するなり、暁斗が目を輝かせてそう言った。

「うん、それでいいよ」

 私たちは四列で並び、順番が来るのを待った。丁度鉄砲は四つあり、タイミングが合えば一斉に皆でチャレンジ出来る。


「一人三回までの挑戦となっております」

 係りの人に鉄砲を渡され、さぁ何を狙おうかと商品を見る。

 お菓子や小さなぬいぐるみが景品として置かれているが、どう考えても、それがこの鉄砲で手に入る未来は見えなかった。だって、手渡されたのが輪ゴムを飛ばす鉄砲なのだから。


「なぁ、なんか欲しいのとか狙ってんのある?」

 隣に立つ暁斗がそう言葉を発し、私は肩を竦める。

「いや、特に。取れると思ってないからね」

「頼花ちゃん、諦めたらダメだよ!なんなら一緒に協力して取ろっか?」

 暁斗の隣に立つ光がそう声をかけると、いやそれ反則な!これ勝負だから!と、暁斗がすぐさまツッコむ。私と同じく端にいるシオンは、

「一人三回までだから、二回目まで個人勝負で、何も取れなかったら協力すれば良いんじゃないか?」

 と言いながら構えた。その様子に、それもそうか、と二人とも構える。気が付けば周りには観客がたくさんいて、見て、三人で勝負してる、と女子が囁く声が聞こえた。一応私もいるのだけど、皆には見えていないらしい。


 私も仕方なく構える。的は、とりあえず一番近くにあるガムだ。紙の箱だし、一番落ちやすいかもしれないと考えた。

「じゃあ、いくぞ」

 せーの、という暁斗の合図で、一斉に打ち出す。

 私が打った輪ゴムは箱の横を勢いよく飛び去り、壁に当たって落ちていった。的は目の前にあるから、ただ真っ直ぐゴムを飛ばすだけなのに当たらないなんて。

 なんてコントロール力がないんだ、とがっくりしながら隣を見ると、三人とも何を狙ったのかは分からないけれど、悔しそうな顔をしていたので何もゲット出来なかったらしい。私だけ外した訳ではなかったらしく、ほっとした。


「次いくぞ」

 せーの、という暁斗の声で、再び一斉に打つ私たち。今度も同じく的の横を通り過ぎ、私は射的センスが皆無なのかもしれない、と落ち込んだ。

 しかし、隣を見ると、三人もじれったそうな顔をしていたので、私と同じで外したのかな、と、また少し安堵した。


「おい、ちょっと協力しようぜ」

 暁斗が輪ゴムを装着しながらそう言い、私含めた三人はこくりと頷いた。

「で?どれ狙うの?」

 どれを狙ったとしても、私のゴムは当たらないんだろうな、と考えながら尋ねる。すると暁斗は、一番上の中央に鎮座している、手のひらサイズのクマのぬいぐるみを指指した。

「あれ」

「え、うそ、本気?」

 他の的よりでかくて重い、全く落ちそうにないぬいぐるみを見て顔を顰める。あれだったら、ガムの箱より大きいからもしかしたら当たるかもしれないけど。でも、なぁ……


 そこで光とシオンの反応を伺うと、二人ともそのぬいぐるみ目当てで良いらしい。真剣な顔で角度を調整していた。

「あれ、俺ら二回打っても落ちなくてさ。さっきは少し傾いたんだ。だから、次で決める」

 同じく真剣に構える暁斗に、

「ちょっと待って、俺らって、もしかして三人全員あれ狙ってたの?え、協力プレイは三回目からでしょ?」

 私だけ違う物狙ってたの!?と思い声を上げると、光とシオンがぬいぐるみから目を離さないで、

「そうだよ。それなのに二人と狙いが被ったんだもん。しかも、当たっても落ちないし」

「次は協力プレイだからな。タイミングを四人で完璧に合わせて一斉に当てれば、落ちるかもしれない」

 と言った。その言葉に、うそぉ、と思いながら私も鉄砲を構えた。


 じゃあ、勝負と言いながら三人は同じ的を狙っていて、私だけ違うところを狙っていたということか。しかも外している。

 さっきの言い方から、三人とも的には当たっていそうだった。つまりあのじれったそうな顔は、当たったのに落ちないのか悔しいな、の顔か。うわ、私だけ的に当たらないとか恥ずかしすぎるでしょ。

 今度こそは当てる、というか当てないと目立つし恥ずかしい!そう思いながら、鉄砲を握りしめる。


「皆、良いか?」

 暁斗がぬいぐるみを見据えながら尋ね、私たちは、うん、と返事をする。

「じゃあ、行くぞ」

 せーのっ!

 暁斗の合図で一斉に打ち出す私たち。私の輪ゴムは、今度は奇跡的にクマの顔へとヒットした。他の三人の輪ゴムもクマの顔にヒットする。

 一度に四つの輪ゴムの攻撃をくらったクマは、その勢いに押され、パタリ、と後ろに倒れた。


「……っ、しゃあっ」

 暁斗がガッツポーズをし、はじけるように笑う。光も、やったぁ、と嬉しそうに飛び跳ね、シオンもほっとしたように笑う。

「おめでとうございます!景品をどうぞ」

 係りの人にクマのぬいぐるみを貰った暁斗は、あざすっ!と嬉しそうに笑った。周りの人も、暁斗の笑顔につられてパチパチと拍手を送る。


 観客の拍手にお辞儀をしながらそそくさと退場した私たちは、人が少ないところまで避けて感動を分かち合った。

「やったね!まさかぬいぐるみが取れるなんて思わなかったよ」

 可愛らしいクマのぬいぐるみを見ながらそう言えば、だな、と暁斗も頷く。

「こいつマジで手強かった。当たったのに落ちねぇんだもん。三連続で輪ゴム当たったのに落ちないことあるかって」

「だが、最後の協力が功を奏したな。同じタイミングで打てば、ぬいぐるみも耐えられなかったらしい」

「ですね!パタンって綺麗に倒れて嬉しかったなぁ」


 わいわいと話す三人に、私は、ふと疑問に思ったことをそのまま伝える。

「そういえば、なんでクマのぬいぐるみを狙ったの?協力プレイならまだしも、一人でこれを取れるだなんて普通思わなくない?」

 だから私は取れそうな物を選んだのに、と呟くと。暁斗はさも当然のように、

「だって、あの中じゃこれが一番頼花が好きそうだったし」

 と笑った。その理由に、え?と暁斗を凝視する。すると、光とシオンも立て続けに、

「僕もこれ、頼花ちゃんにプレゼントしたいって思ったの。それなのに、結局四人で取ることになっちゃってさぁ。僕が一人で取って、カッコよく渡したかったのに」

「俺もライに贈ろうと考えていた。三人とも同じ考えで、結局協力しているみたいになったけどな」

 なんて話した。その言葉が信じられなくて、一瞬頭がフリーズした。


 ……私に贈り物って。しかもなんか、このシチュエーション……よく、乙女ゲームで見る、攻略対象たちが主人公のために頑張るシーンに似て……

 そこまで考えたところで、暁斗が、ほら、と私にクマのぬいぐるみを差し出した。ハッと現実に返った私は、ぶんぶんと余計な考えを振り払って、それを受け取る。

「ありがとう、皆。四人で取った思い出だもん、大切にする」

「おう!」

「うん!」

「ああ」

 私の言葉に、笑顔で頷く三人。本当に、友達思いの素敵な三人だ。私も何か返せないかな、と考えながら、四人で縁日コーナーを満喫した。


 縁日コーナーを一通り巡ったあとは、光が行きたがっていた三年B組へ向かうことにした。

 B組に入ると、光が言っていた通り、素敵な写真スポットがたくさんあった。カップル向けの場所は分かりやすく、ピンク色の紙の花をたくさん使い、ハートが作られていた。なんか、幸せいっぱいって感じがして、凄いなぁと思った。

 他にも黒板アートで綺麗な桜が描かれていたり、天井からスズランテープや飾りが吊されていたりと、準備に時間がかかったんだろうなぁと思えるものばかりだ。とても手が込んでいる。流石三年生。


「頼花ちゃん頼花ちゃん、一緒に写真撮ろ!」

 ぐいぐい、と腕を引っ張られ、全写真スポットに連行される私。私と光のツーショットがたくさんだ。写真係を任された暁斗は、何やら不満そうだった。

「最後、ここも撮ろうよ!」

 にこりと満面の笑みでそう言われ、私は曖昧に頷きながら、あのカップル向けの写真スポットに二人で並ぶ。腕を組み、ピースをする姿は本当に付き合っているようにしか見えなくて、正直光の距離感には驚いた。暁斗もなかなかだとは思っていたけれど、光は暁斗より凄いかもしれない。


 写真を撮り終え、満足したのだろうか。

「僕、もう良いよ」

 そう言って退場しようとする光を、待って待ってと急いで止める。あんなに暁斗が不満そうにしていたのだ、きっと皆で写真を撮りたかったに違いない。

 というか、せっかく四人で来たのに私たちだけで終了、は流石にない。


「二人も撮りたいでしょ?私カメラマン役するよ。四人で撮りたいなら誰かに頼むし」

 私が笑顔で提案すると、暁斗は不機嫌そうに、じゃあ、と言って私の腕を撮った。

「俺もここで撮る」

 シオンに写真を任せ、立ったのはあのカップル向けの写真スポット。光を一睨みしてから、私の後ろに立った。


 どんだけ光に対抗意識燃やしているんだ、と一人苦笑しながら大人しく笑顔を浮かべる。

 はい、チーズ、とシオンが言おうと口を開いた瞬間。ふわっと後ろから抱きつかれて、私の思考は一気に真っ白になった。近くで、きゃあっ!と黄色い声が上がる。


 え、何、どゆこと。これって、もしかしなくてもあれだよね、バックハグ……

 暁斗にバックハグされたと頭が理解した瞬間、一気に身体中が熱くなり、急いで逃れようと暁斗の腕を掴む。

「ちょ、馬鹿、何やってんの。さすがにこれは……」

 テンパりながらシオンと光の方を見ると、二人とも驚いたように目を見開いて唖然としていた。

 恥ずかしさでどうにかなりそうになりながらもがくも、なぜか暁斗は離してくれず。むしろ、ぎゅっと強く抱きしめられて、暁斗が耳元で囁いた。

「このままずっと、こうしていたい……ダメか?」

「……っ!?」

 甘く囁かれた声が、暁斗のものだとは信じられなくて。私は身体から湯気が出るんじゃないかというほど熱くなった。視界も潤んできて、本当にやばい。


 乙女ゲームで幾度となく見た、バックハグ。そして、幾度となく囁かれた甘い言葉。それが現実に、しかも、幼馴染みの暁斗にされてしまうなんて。

 幼馴染みという枠組みが乙女ゲームの設定にもよくあるよな、なんて、今考えてしまい。さらに身体が熱くなってしまった。


「……ばかなこと、言わないでよ……っ!」

 落ち着け頼花、冷静になれ。これはあれだ、暁斗がやるいつものおふざけだ。私が最近乙女ゲームに手を出したって知ってるから、それを真似て私の反応を面白がっているんだ。なんて趣味の悪い。ふざけるにも程がある。


 暁斗の腕を掴む力を強くしても、私の力なんて微々たるものなのか、一向に解放してくれない。腰が抜けそうで、どうしようかと途方に暮れていると。見かねた光が、私と暁斗を引き剥がすのを手伝ってくれた。

「暁斗、何やってるの!頼花ちゃんが嫌がってるでしょっ!」

 しかし、光も暁斗には及ばないみたいだ。暁斗の腕はより一層私を強く抱きしめ、あろうことか体重を軽く私に乗せてきた。より密着した身体に、本当に腰が抜けそうになる。


「は?お前の時も頼花困ってたじゃん。俺に火つけたお前が悪いんだ、責めるなら自分の軽はずみな行動を責めろ」

 耳元から聞こえるその声に、いつもと変わらないはずなのに、妙に緊張する。

「はぁ!?ちょっと獅苑先輩、先輩も何か言ってください!」

 言い返された光は、暁斗の腕を掴みながらシオンに助けを求める。するとシオンは少し考えた後、

「早く写真を撮ってしまおう。写真を撮ったら暁斗はライから離れる。それでいいか?」

 そう諭すように呼びかけ、暁斗は、分かったと頷いた。光は不満そうだったけれど、シオンに言われ大人しく下がった。


「じゃあ、撮るぞ」

 はい、チーズ、と写真を撮られたけれど。はっきり言って、ちゃんと笑えていたかは分からない。むしろ、顔が真っ赤で変な顔をしていないかの方が心配だ。

 写真を撮り終えると、暁斗は約束通り私から離れた。やっと解放された私は、すぅ、はぁ、とゆっくり深呼吸して、速まった鼓動をなんとか落ち着かせる。


 しばらく経って、平常を保てるようになり顔を上げると、暁斗が私の方を見て、何やら笑っていた。その姿に無性に腹が立ち、一発蹴りを入れてやろうか、なんて考えがよぎる。

「さいってい」

 思いっきり暁斗を睨み付け、私はシオンの側へ避難する。


「シオンは?何か撮りたいのある?」

 カメラマンするよ、と聞いたら、シオンは遠慮がちに、ライと撮りたいのだが……と言った。その言葉に、もちろん!と笑顔で快諾する。写真は光に頼んだ。

 カップル向け以外の写真スポットで写真を撮り、ありがとうとお礼を言うシオン。その真摯さに、なんの!と手を振る。

「シオンはあそこで撮らなくて良いの?あれ撮ればこのフィールド完全制覇だよ」

 光と暁斗も撮ってたし、と言うと、いや……と、シオンは躊躇いがちに首を振った。

「あそこで確かに完全制覇だが、あれはカップル向けなんだろう?ライも人目を気にしていたし、無理しなくて良い」

 その言葉に感動して、あぁ、なんて素晴らしい心遣い、まさに王子様!と崇めたくなってしまった。この真摯さを是非とも暁斗に見習って欲しい。出来れば光も、この距離感が普通なのだと分かって欲しい。

「そんな、もう一回あそこで撮るぐらいもうなんてことないよ。完全制覇しちゃお」

 そう言って笑えば、シオンは、ありがとう、と微笑んだ。そして二人で並び、写真を撮る。もちろん距離感は普通だ。二人のように、馬鹿みたいに近いことはない。

 最後、せっかくだからと黒板の前で四人で写真を撮り、その場を後にした。


 それからは適当に校内をぶらついた。なんか気になる物があれば中を覗き、たまにどこかで休憩してだべる、の繰り返し。ゆっくりとした時間が流れていった。

 あれから、私が暁斗に本気で怒ったと気付いたのか、暁斗はあまり私の側に来なかった。ちらちらとこちらを見て、何か口を開きかけてもすぐ閉じる。その繰り返しだ。それがなんともうざったく、イライラしたので思いっきり無視をした。乙女ゲームの真似をして私をからかったのだ、当然の仕打ちである。

 光もシオンも、そんな私と暁斗の様子を見て、触らぬ神に祟りなし、とスルーしていた。

 もちろん、私としてもこれにツッコまれたら変な空気になってしまうことが分かっていたのでありがたかった。だって、注意されても普通に暁斗と話せる気がしなかったのだ。あの恥ずかしさと身体の熱は、そうそう消えるまい。


 それからもだんだんと時間は過ぎていき、気が付けばもう学祭一日目終了の時間になっていた。明日は体育祭と花火だ。

 明日の学祭も楽しもうね、と約束し、私たちはそれぞれ帰路についた。明日は朝から皆と一緒に行動出来る日だ。

 明日の学祭では、今日みたいなことは起きませんように、と密かに願った。

学祭一日目終了です!暁斗がぐいぐい来ていましたが、自分でも書いていて暁斗積極的だなぁって思いました笑。次回は学祭二日目、体育祭です。

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