Traveler
レビュー執筆日:2020/4/29
●ブラックミュージックを軸にしっかりと印象に残るメロディを聴かせる、彼らの実力というものを充分に感じられる一枚。
【収録曲】
1.イエスタデイ
2.宿命
3.Amazing
4.Rowan
5.バッドフォーミー
6.最後の恋煩い
7.ビンテージ
8.Stand By You
9.FIRE GROUND
10.旅は道連れ
11.052519
12.Pretender
13.ラストソング
14.Travelers
『Pretender』『宿命』『イエスタデイ』等といった数多くのヒット曲を世に送り出した4人組バンド・Official髭男dism。遅ればせながら今作を聴いてみたのですが、個人的にはかなりの「当たり」でした。
今作を聴いてまず感じたのは、その多様な音楽性でした。冒頭を飾る『イエスタデイ』のようにストリングスを導入して直線的なリズムで進めていくいわゆる「J-POP」的な曲がある一方で、洋楽的なファンキーなリズムを聴かせる『最後の恋煩い』のような曲もありますし、『FIRE GROUND』ではロック色のあるひずんだギターサウンドを響かせる一方で、『Pretender』ではメロディをシンプルに綴ったバラードを聴かせてくれます。
まあ、「一つのバンドが様々な音楽性を見せる」ということ自体はそう珍しくはないかもしれません。個人的には、そういうバンドは「ロック」を主軸にしていることが多いように思えるのですが、彼らに関してはゴスペル・ジャズ・ファンク等といったいわゆる「ブラックミュージック」を主軸としている点が興味深く思えます。特に、『宿命』や『Rowan』、先程挙げた『最後の恋煩い』からそういった要素を強く感じられるのではないでしょうか。先程、『FIRE GROUND』を「ロック色のある」と書きましたが、全体的なリズムの取り方やホーンを導入している点から、曲全体の雰囲気としては「ロック」よりも「ファンク」に近い印象を受けます。
また、彼らの綴るメロディも魅力的。平板な感じになったり変にサビだけが浮いてしまったりすることなく、曲全体を通して丁寧にしっかりと印象に残るメロディを展開していく点も好感が持てます。特に、『イエスタデイ』『Pretender』において顕著であり、一見「分かりやすいJ-POP」のようでありながら、決して陳腐なものになっておらず、「王道」というものを上手く乗りこなしているように感じられました。
少し聴いただけで強烈な個性を感じられるようなバンドではないのですが、アルバムとして聴くと、「ブラックミュージックという軸」「しっかりと印象に残るメロディ」といった特徴が明確に浮かび上がってくるのではないでしょうか。メジャーでこれが初のアルバムのようですが、充分に彼らの実力というものを感じられる一枚でした。
評価:★★★★★