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理想の男性になってしまった兄を諦めたい妹の話

作者: 空見こはく

場所:1LDKのリビングにて、三衣奈と一樹の様子。両親は海外で仕事をしているため、三衣奈と一樹は2人暮らしをしている。


三衣奈N:「私、瀬名三衣奈は、お兄ちゃんのことが大好きだ。好きといっても、家族としての好きではない。私としても認めたくはないんだけど、私はお兄ちゃんのことを、完全に異性として意識してしまっている……」


三衣奈N:「もちろん、それが一般的にとてもイケないことなのは分かっているんだけど、自分でもマズイと思ってるけど、この気持ちは決して私だけのせいじゃない」


三衣奈N:「……それは、兄、一樹が私にとってあまりにも理想的で完璧な……」


一樹:「おーい、三衣奈?」


三衣奈:「はっ!? な、なに? 兄さん……」


一樹:「なにって、今日はお前が日商簿記2級を受かったお祝いに、お前の好きな料理をつくってやるって言ったろ?」


三衣奈:「えー、やっぱりいいよ、兄さんも今度大学の試験あるんだし、時間もったいないよ」


一樹:「まあ、料理の内容にもよるけど、1、2時間も割けないほど、俺は忙しい生活してないし、勉強不足でもないよ」


一樹:「それにさ、お前が学校帰ってきてから、毎日夜遅くまで勉強してたの知ってるから、料理じゃなくても、何かお祝いくらいしてやりたいなって俺は思ってる。まあ、あんまりお金のかかることはやってあげられないけどな」


三衣奈N:「そうやってお兄ちゃんは、屈託のない笑顔を私に見せてくれる」


一樹:「でも、それもあんまり俺に気を遣うようなら、無理に祝ったりはしないけど……」


三衣奈:「う……なんでそんな寂しそうな顔するの……?」


一樹:「っ! ああ悪い、そんなつもりじゃ…こんな顔見せたら、余計気を遣わせちまうだけだな……」


三衣奈:「…………ハンバーグ」


一樹:「……は?」


三衣奈:「……ハンバーグ! 私の好きな料理、つくってくれるんでしょ?」


一樹:「……ああ、了解だ! 俺のつくるハンバーグはかなり美味いぞー!(キッチンへ向かう)」


三衣奈:「……知ってるよ」


一樹:「ん? なんか言ったか?」


三衣奈:「(嬉しそうに)……なんでもない!」





場所:学校の教室、昼休み


さち:「はいはいー、ごちそうさまー」


三衣奈:「ごちそうさまじゃないっ! 私はいま本気で困ってるの!」


さち:「今の流れのどこに困った要素があったんですか? 困ってるのは毎度毎度のろけ話を聞かされる私のほうですー」


三衣奈:「そ、そりゃあ……さっきのは若干のろけが入っちゃったのも認めるけど……」


さち:「自覚はあるんだ……」


三衣奈:「でもでも、私と兄さんは血が繋がってるし、このままの気持ちじゃマズいのも分かってる……」


さち:「うん」


三衣奈:「……これまで何度も兄さんを諦めようとした。兄さんへの気持ちを忘れようと、さちに紹介してもらった男の人とも何人か会ったし、気持ち悪いナンパについていったりもした!」


さち:「うんうん」


三衣奈:「でも全然ダメだった! 他の男の人と会えば会うほど、兄さんがどれだけ異性として魅力的なのか分かっちゃうだけで! 何かあると無意識のうちに兄さんと比べちゃって!」


さち:「うおおおおっ! 無料ガチャ単発でSSRきたあああ!」


三衣奈:「私の話聞いてた!?」


さち:「聞いてるよ。毎日毎回似たような話を。フラれた女の未練タラタラな心境テンプレを」


三衣奈:「て、テンプレって言うな! 大体まだ私はフラれてないし!」


さち:「ちゃっかりこれから告る可能性盛り込んでるんだよねこの子」


三衣奈:「と、とにかく! 何とかして私はお兄ちゃ、兄さんのことを諦めなくちゃいけないの!」


さち:「別に言い直さなくても。というか、まだ諦めることを諦めてなかったのね……。で? 今度は何か良い案でもあるの?」


三衣奈:「うん、私が兄さん以外の人を好きになる方法は諦めた」


さち:「えっ!? ついに禁断ルート突入ってこと!?」


三衣奈:「違う!」


さち:「さんざん私を振り回しておいて、あっさり自分の想いに素直になっちゃうの!?」


三衣奈:「私は最初から素直だよ! ……話は最後まで聞いて。……いい? 私が兄さん以外の男の人を好きになるんじゃなくて、兄さんに私以外の人を好きになってもらうの」


さち:「ちょっと待って、前提がおかしいんだけど。そもそも三衣奈のお兄さんは、三衣奈のことをそういう異性としては想ってないでしょ」


三衣奈:「う……」


さち:「なんでちょっと泣きそうなのよ……」


三衣奈:「うぐっ、と、とにかく! 私の心は傷付くと思うけど、兄さんが、私以外の人のことを好きになって……私の手が……と、届かなく、ぐすっ、なっちゃえば……諦めも……つくかな……って……ひくっ……思って…………」


さち:「泣きそうどころかギャン泣きっ!?」


三衣奈:「泣いでなんがな゛いも゛んっ!」


さち:「あーはいはい! ……なんでそうまでして気持ちを隠そうとするのかねー。いや、まあ全然隠せてないんだけど……」





場所:教室。授業終わりの帰り際


さち:「で、気持ちの整理はついた?」


三衣奈:「……ちょっとだけ」


さち:「……まあ、この際三衣奈の気が済むまで、逆にお兄さんのこともっと好きになっちゃうのもアリなんじゃない? そりゃあ、一般的にはマズイとは思うけどさ、気持ちの問題って、一般的とかそういうのでどうにかなるものでもないじゃん」


三衣奈:「さち……ありがとう……」


三衣奈:「けど、さちにも色々と手伝ってもらってるし、私もなるべく自分の気持ちには早めにケリを付けたいと思ってる。このままだと、私がいつ兄さんを襲ってもおかしくないし」


さち:「そうだね! それは早急に手をうったほうがいいね!」


さち:「…………けど、どうしたものなのかなー。三衣奈の話を聞いてる限り、確かにお兄さんは良い人だとは思うけど、なんか良い人で終わっちゃうタイプなような気がするんだよねーって、ちょっ、こわいって、顔が近い! そんな目で私を見るな!」


三衣奈:「ふんっ! さちだって、兄さんと一緒に暮らしてみれば私の気持ちが分かるようになるよ!」


さち:「なぜそこでムキになる……でもそれはどうかなー。三衣奈は完全に大好きフィルター掛かっちゃってるしなー」


三衣奈:「むっかっ! そんなに言うなら、今日からさちは1週間、私んわたしんちに泊まってみなさい!」


さち:「えっ! 今日から!?」


三衣奈:「そう! で、私は今日からさちんさちんちに1週間泊まる」


さち:「1週間はちょっと……」


三衣奈:「なに? 逃げるの?」


さち:「だから顔が怖いって……その、本当にいいの?」


三衣奈:「なにが?」


さち:「私が1週間も三衣奈のお兄さんと2人っきりでも……」


三衣奈:「…………」


さち:「もしもーし、三衣奈ー?」


三衣奈:「……ん!(何かをさちに押しつける)」


さち:「ちょ、急になに……。これ、三衣奈の携帯だよね」


三衣奈:「さちが私んちに泊まってる間、私が兄さんやさちに連絡をとりたくなって我慢できなくなるかもしれない……だからこれはさちが持ってて!」


さち:「どんだけ必死なんだよ……」


三衣奈:「あと、念のためさちんちの電話線も切っちゃっていい?」


さち:「それでOKが出ると思ってるの!? ダメに決まってるじゃない! ……私の家からの電話に出ないようにすればいいんでしょ?」


三衣奈:「ありがとう、さち。さすがは私の親友ね」


さち:「嬉しいような嬉しくないような……」


さち:「はぁー、親になんて説明すればいいかな……帰って着替えも準備して……お母さんのキャリーバッグ借りないと、1週間の荷物は入らないよね……あ、さちはお兄さんにちゃんと話つけといてよ」


三衣奈:「もちろん。これは私のための闘いだからね」


さち:「不安しかない……」





さちN:「それから1週間後の学校」


場所:教室。朝の授業前


三衣奈:「で!? どうだった!?」


さち:「うわっ! 朝から顔が近いし目が血走ってる!」


三衣奈:「なにもなかったよね! そうだよね!? そうだって言ってくれるんだよね!? だってさちは私の親友なんだもん!」


さち:「ちょっと落ち着けって! というか三衣奈からすればなんかあったほうがいいんじゃないの?」


三衣奈:「なななななんかあったってこと!?」


さち:「あーもううるさい! いまの私ら超目立ってるから! ……ここで話すとアレだから、昼休み屋上で話すよ……」


三衣奈:「昼休みね! 屋上ね! 絶対だからね! いなかったら校内放送ジャックして呼び出すから!」


さち:「怖いよ。ちゃんと行くから早まるなよ」





さちN:「そして昼休み、屋上にて」


三衣奈:「で、私の兄さんと1週間2人っきりで過ごしてみて、どうだった?」


さち:「私の兄さんって、まあ間違いじゃないけれど……結論から言うわね」


三衣奈:「うん」


さち:「3回告白した」


三衣奈:「ほらみなさい! 私の兄さんがどれだけ魅力的なのかって……えええええええええーーーーっ!?!?!?」


さち:「はは、そりゃ驚くよね。私だって驚いてる……告白だって、初めてだったし……」


さち:「最初は、私の思ってたとおり、良い人だけど特にって感じだったんだけど、会話の流れで何となく将来の話になって、私の話も真剣に聞いてくれて、色々考えてくれて、自分でもバカだなって思ってる夢を応援してくれて……」


さち:「私が階段で転びそうになったときも助けてくれて、見た目より力強くて、だけど謙虚で偉そうじゃなくて、私に気を遣ってくれて、なのに自然体でいる感じがしてこっちは変に気を遣わなくてもいいというか、すごく居心地がよくて……」


三衣奈:「さ、ささささささちがっ! 乙女の顔になってる……!」


さち:「乙女言うなっ! けどまあ、少しだけ三衣奈の気持ちも、分かっちゃったかな……」


三衣奈:「3回も告ってる時点で少しだけじゃないと思うんですけど! 兄さんの好きなところも超分かるんですけど! というか私だって告白したいの我慢してるんですけど!?」


さち:「いやいや、三衣奈は一樹さんのことを諦めることが目的でしょ?」


三衣奈:「『一樹さん』呼び!? いったいどこまで進展してるの!?」


さち:「あー大丈夫、そこは安心して。3回ともフラれたから」


三衣奈:「ふうぅぅーーーー」


さち:「露骨に安心するのもどうかと思うけども」


三衣奈:「……兄さんは、なんて?」


さち:「あー、やっぱ気になるよね……。でも、言わない。三衣奈は聞かないほうがいいと思うし」


三衣奈:「家に帰ったら盗聴器確認しないと」


さち:「携帯預けた意味ねえー!」


三衣奈:「ねっ? どのみち一緒だからいま話してよ」


さち:「この子怖いわー……あんた自分の目的忘れていないか……?」


さち:「はぁー、まあいいや、いつものことだし……。『今は他に好きな人がいないし、三衣奈を1人にしておけない』だってさ」


三衣奈:「兄さん……」


さち:「ほらやっぱ嬉しそうな顔した。……三衣奈。言っとくけど一樹さんは、当たり前だけど三衣奈のことを妹としか見てないからね! ちゃんと本人確認とったから!」


三衣奈:「ひどい! どうしてそんなことするの!?」


さち:「いやいや諦めたいって言ったのはあんたでしょうが! 未練がましくしてないで次の恋に行け!」


三衣奈:「この間は気が済むまで好きになってみたらって言ってくれたのに!」


さち:「都合の良いときだけ蒸し返すんじゃないの! なんなの!? 諦めたいの!? 諦めたくないの!?」


三衣奈:「うっ……」


さち:「長い付き合いだし、三衣奈には助けられたこともあるから協力してるけど、あんまりフラフラしてるともう関わらないよ?」


三衣奈:「……ごめん、ついカッとなっちゃって……」


さち:「……まあ、叶わない恋の辛さを少しでも知っちゃったからさ、三衣奈の気持ちも分からなくはないけどね」


三衣奈:「…………」


さち:「あーあ、一樹さんと付き合えたら、三衣奈に借りを返せたのにな!」


三衣奈:「……うん」


さち:「さて、次はどうしようか?」


三衣奈:「……次?」


さち:「一樹さんのことまだ、諦めることを諦めてないんでしょ?」


三衣奈:「……っ! ……うんっ!」


さち:「よし、じゃあまずは一樹さんのことを調べないとね。一樹さんがコロッと落ちちゃうような人とマッチングさせないと」


三衣奈:「兄さんはそんなにチョロくないよ!」


さち:「分かってるわよ。だから、誰よりも一樹さんのことに詳しい三衣奈の力が必要よ」


三衣奈:「誰よりも……詳しい……!」


さち:「なるほど、こうやって扱えばいいのか」


三衣奈:「分かったよさち! とりあえず、仕掛けた盗聴器から兄さんの好みを探ってみる!」


さち:「ってオイこら!」

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