第43話 皆の想い
ぎゃあぎゃあと騒いでいた栃だったが、落ち着いたら説明すると山吹になだめられ、渋々作業をしていた。
そして仕事を終えた万屋が社からいなくなった後、話は再開されたが進展はない。
華火と真空は疲れから、いつの間にか大広間で身を寄せ合って眠っていた。
今なら黎明の協力の元、侵入してくる者がいれば捕らえる事ができる。だから皆も眠った方がいいと黎明自身が言っていたのは何となく覚えている。
それを信用しなかった男狐達が交代で仮眠していた事を、朝になって知る。
しかし、積もる話も多少はできたようで、送り狐達と青鈍と木槿が少しばかり打ち解けていたように思えた。
そして蘇芳の言った通り、宮大工が到着する。すると共に、白衣白袴と浄衣も渡された。
「『着慣れておけ』だそうですよー。あ、玄さんの分もありますねー。『血で汚れた物の替え』、だそうですー」
夜通し起きていたであろう黎明が荷物を受け取り、中の手紙に目を通している。
「あの相談役、ろくでもねーな」
蘇芳としてはやはり、保護した男狐達も送り狐として育てたいのだろう。
しかしそれにしても、青鈍は恐れ知らずな口を利くなと、華火は内心苦笑する。
黎明は昨晩言った通り、青鈍達から幻牢と狐の面を受け取り、宮大工と入れ替わるように社を出て行った。華火達は改修が終わるまで、大楠の側でそれを眺める。
「なぁ。昨日はよくわかんねぇから黙ってたけどよ、華火の天気の事、何で言っちゃいけねぇんだ?」
柘榴が気を遣っているのか、普段よりも小さな声で話し出した。
「柘榴にしては賢い判断だな」
「……それ、褒めてんのか?」
白藍が驚いた顔をすれば、柘榴が怪訝な顔をする。
「じゃあ黎明様がいないうちに、こっそり話しちゃおうかしらね」
「それならこれを使え」
紫檀が声をひそめれば、青鈍が懐中から何枚もの和紙が折り畳まれた束を取り出し、紫檀へ渡す。それを見て、山吹が尋ねた。
「もしかして、ずっとこれを使って会話していたの?」
「そうだよ! すっごい面倒だったけどねぇ」
そう言いながら、木槿が青鈍から手の大きさに畳まれた和紙の束をひったくれば、間に挟まる鉄の矢立を取り出し墨をつけた。
『いつもじゃないっぽいけど、監視されてるからね』
和紙の束を脇に挟み、そこから取り出した一枚へすらすら筆を走らせる。
すると、木槿は皆が読んだ事を確認するように見回し、更に書き足す。
『本音は全部ここに書く。じゃないと、いつ殺されてもおかしくないから』
物騒な言葉が目に入れば、それは炎に包まれ消えた。
「書いたらすぐ消す。これ、鉄則ね!」
得意げな顔をした木槿がまた一枚和紙を手に取り、筆を動かす。
『何で華火ちゃんの天気を上の奴に言っちゃいけないのか? それはね、華火ちゃんが予言の白狐かもしれないから』
そこに書かれていた文字に華火が首を傾げれば、木槿の炎で消し去られてしまう。
何か、誤解されているのか?
いったい何を言い出したのかと思い、木槿を見る。すると彼は視線に気付いたのか、顔を上げて笑う。そしてまたすぐ下を向く。
『まだわかんないけどね。だからこそ、上に金の天気を伝えたら、華火ちゃんはもうここに戻って来られないと思う。まだ他にも話したい事はあるけど、取りあえず今はこれだけ』
戻って来られないとは……?
木槿が綴る文字に疑問を抱きながらも、昨晩の青鈍の言葉を思い出す。
『予言の白狐らしき統率者はその送り狐と共に葬れと言われた』
まさか、確証が無くとも、処分されるのか?
そんな馬鹿げた事が本当に行われるのだろうかと、信じられずにいた。そんな華火の手を、真空が握ってくる。
「しばし、離れる事になります。しかし、上へ呼ばれる事があれば、絶対にわたしにも伝えて。華火だけで上には行かせない」
力強い声とは裏腹に、真空の手は小刻みに震えている。
その言葉に対し、送り狐の皆がこちらを見た。
「あったり前よぉ! 上から呼ばれても、無視すればいいわ」
「用があるなら、向こうから来ればいいよね」
「その間に、迎え撃つ準備をする」
「その前に、華火を隠す場所も必要だろう」
「それなら華火は自分の部屋にいたらいいだろ! その間に、俺達がどうにかすればいいだけだ!」
紫檀が場を和ませようとしているのか、小さくも明るい声を出した。それに頷く山吹が、栃と値段交渉している時に見せる笑みを浮かべる。すると、玄が真顔でぼそりと呟き、白藍は腕を組んだ。そして最後に柘榴が少しだけ大きな声を出し、木槿の背を叩く。
「えっ、俺も?」
「当たり前だろ!」
「まぁ、一泡吹かせる機会を逃す手はねーけどな」
「私は穏やかな生活に戻りたいのですが……」
「自分達がいつ、そんな生活をしていたのか思い出せないのだが?」
驚く木槿に柘榴が白い歯を見せて笑う。すると、青鈍が口角を上げ、とんでもない事を言い出す。それに対し、裏葉が悲しげに目を伏せ、袖で顔を隠した。しかし月白の言葉に裏葉が吹き出し「面倒事に巻き込まれたくないので話を合わせて下さい」と、震える声で囁く。
「おれにも連絡しろよ! すぐ華火のところへ行くからな!」
「織部、自分も対象なのをお忘れなく。そしてその言葉は、足手まといにならないよう、もっと強くなってから言いましょうね」
頼もしい言葉を告げてくれる織部へ、華火は微笑む。しかし彼は竜胆の言葉で顔を真っ赤にし、黙ってしまった。
『そろそろ、考えはまとまりましたかな?』
「白蛇様、うるさくしてすみません」
『いつもより夜更かしをして、起床が遅くなっただけの事。普段ならもう起きている時間。なので、気にする事はありませんぞ』
大楠から降りてきた白蛇を華火が見つめれば、彼は穏やかな笑い声を上げた。
『こうして皆で語り合える時間は何よりも尊いもの。それを守る為ならば、わしも協力を惜しみませんぞ!』
白蛇の言葉、そしてここにいる皆のそれぞれの想いを受け止め、華火は力強く頷いた。




