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第40話 処罰

「どうしてここに戻ってきた?」


 青鈍が誰よりも先に開口したのも無理はない。華火ですら驚いているのが現状だ。


 青鈍達を知る皆が、事情があったのだと蘇芳に訴えた。返答は、場所を移すのみ。それは上へ連れて行く、という意味だと、誰もが思っていたに違いない。

 しかし犬神と別れた後、蘇芳は真空達の大社へ連絡を入れ、全ての者を預かる流れとなった。

 そして黎明が青鈍達の監視を任されながらも、皆で華火達の社へと連れられた。

 だいぶ朽ちて崩れはしたが、大広間は無事な為、白蛇含め、皆でそこにいる。


「口の利き方ー!」

「よい。まずは事情とやらを話せ」


 青鈍のぞんざいな話し方に、黎明がようやく断罪役らしい真剣な顔でたしなめる。それを蘇芳が制せば、本題に入った。


「俺らが話さずとも、知ってんだろ?」

「いや、知らぬのだ。無能な相談役ですまぬ」

「蘇芳様ー! 何で謝るのですかー!?」

「私は、ここにいる全ての者に詫びる。不甲斐なく思うだろう。だからこそ、力を貸してほしい」


 青鈍が再度、口を開く。すると皆の前に座る蘇芳が困り果てたように答える。それに対し、蘇芳の隣にいた黎明がぎょっとした顔になれば、皆が騒つく中、まさかの相談役が頭を下げた。


 蘇芳様がここまでするとは……。

 青鈍や木槿むくげは上と言ったが、三ノ宮の大社の者は無関係なのでは?


 目を疑う光景に、華火はそう確信する。

 しかし、青鈍は鼻で笑った。


「そんな簡単に頭を下げるなんざ、おかしいだろうよ。何を企んでいる?」

「私は事実を告げたのだ。だがそのように捉えるとは……、もしや気付いているのか? どのような処罰になるのかを」

「処罰! やっぱりね! 俺達用済みなんでしょ! じゃあさ、無理なお願いだろうけど、せめて月白と裏葉は軽減してよ。それが出来なきゃ保護! 完全に巻き込まれてるんだよね、予言の騒動に!」


 処罰という言葉に、木槿が過剰に反応する。でもそれは共にいる男狐達の為だとわかり、華火はやはり皆の旧友なのだと、改めて理解する。

 そこへ、紫檀が割り込んだ。


「あたしからもお願いするわ。処罰は免れないと思う。けれども蘇芳様の権限で、騒動を起こしている奴を捕まえるまで、この四匹を保護してくれないかしら? 処罰はそれからでもいいじゃない」


 紫檀が言い終えれば、黎明が蘇芳を見つめた。

 すると、蘇芳の口角が僅かに上がる。


「ならば、同時に進めようではないか」

「同時に、ですか?」


 思わずといったように、蘇芳の言葉に山吹が反応した。


「青鈍と木槿は印付きではあるが、送り狐となる者。腕は確かだろう。しかし、そちらの野狐達よ。お前達はどのように生計を立てていた?」


 急な蘇芳の質問の意図がわからず、華火は首を傾げそうになる。その前に、月白が答えた。


「まだ未練のある魂を裏葉が集め、俺がその魂の望む夢へ誘い、未練を断ち切る事を生業にしている。こんな野狐達の、何を気にされているのだろうか?」


 月白が尋ねれば、蘇芳の目が細まる。


「前回の騒動での報告内容が気になっていた。だからこそ、合点がいった。お前達、故意に指南所へ赴いていないな?」


 故意に?

 蘇芳様は先程から何を言っているのだろうか?


 華火が理解できずにいれば、普段の悠然と構える相談役の面影しかない蘇芳が薄く笑う。


「相談役とは、面倒な事まで見抜くのか」

「隠すと罰が重くなりそうなのでお伝えしますが、私達は自由でいたい。お役目に縛られるなんて生活は、したくないのです」


 月白が肩をすくめる。それに続き、裏葉も理由を告げた。

 もう二匹とも面は着けてはいない。だからこそ、他者を見下すような、けれども、冷たい程の美しさをたたえる月白の銀の瞳がはっきりと見える。さらさらとした長い白髪も、その瞳を映えさせるもののように思えた。


 裏葉は対照的に、白く長い髪は手櫛でまとめ上げたような雑さがあり、後れ毛が頬を隠す。前髪も長く、しかし想像以上に優しく儚げな渋い薄緑色の瞳が、隙間から覗いている。


 そんな男狐達の言い分を聞き、蘇芳が口を開く。


「やはり気付いていたか。自分の力が他の者よりも特殊である事を」


 指南所とは、自分の適性を知る為の場所。善行を積んだ魂を計られ、基準値に達した者だけが中へ入れる。

 そこで初めて自分のお役目を知る者が殆どだ。稀に予測の付く事があるとすれば、それは通常のお役目に必要な力よりも珍しいもの、という事になる。


 だからこの先、限られたお役目の名が出てくるのだろうと華火は考えていた。

 けれど、蘇芳の口からは関係の深い名が出た。


「魂にそこまで干渉できる力とは、送り狐のものだろう。詳しく調べてもよいが、騒動が落ち着いてからでも構わぬだろう」


 蘇芳の言葉にはっとしたのは華火や柘榴、真空や織部のみ。他は予想が付いていたのか、それとも反応しなかっただけなのか、微動だにせず蘇芳の言葉の続きを待っていた。


「だからこそ、この騒動に加担した四匹よ、処罰を言い渡す」


 ごくりと、誰かの喉が鳴る。

 その中で、黎明だけが懐中から巻物を取り出し、蘇芳の言葉をしたためようとしていた。


「色加美の町の統率者と送り狐達の助けとなり、善行を積み直せ。よって、()()()での保護とする」


 一瞬、聞き間違えたのかと思い、華火は頭の中で言葉を反復する。

 しかし、それを真空の声が遮った。


「お待ち下さい! 華火を痛め付けた相手を何故ここに? また何か騒動を起こすかもしれません! それに――」

「真空さーん。物怖じしない性格はひっじょーに好ましいのですが、冷静に、質問して下さいねー」

「こんな時でも貴方は……!」


 黎明の対応に、真空の声がわななく。それ程までに自分の身を案じてくれた友という存在に、華火は背中を押された。


「私からも質問させていただきます。善行を積み直させるという事は、後々送り狐としてお役目に就かせようとしているのでしょうか?」

「送り狐となれる者は少ない。だからこその提案でもあるのだが、はて……」


 蘇芳が華火へ動じずに答えれば、四匹へ視線を送る。それを辿れば、苦虫を噛み潰したような顔をする月白と裏葉が見えた。青鈍は眉間にしわを寄せ、木槿は笑っている。


「今回の騒動の件で助力するのであれば、意思を考慮しよう」

「この騒動が解決すれば、彼らは解放、ですか?」

「いや、善行を積み直す事が処罰だ。よって、解放はない」

「……いい加減にしろよ」


 蘇芳の言葉に、今度は山吹が問い掛ける。すると、信じられない事を口にされ、青鈍が唸るように囁いた。


「お前が言っている処罰の本当の意味は、餌になれ、って事だろ?」

「そうだ」


 青鈍が睨みつけながらぶつけた言葉にも、蘇芳は何の揺らぎもなく、肯定した。

 それに対し、玄が静かに尋ねた。


「蘇芳様、説明して、下さい」

「ここの者は二度、襲われている。それには理由があるのだろう? ならばまた、何者かが来るはずだ。そして騒動に加担した者がいれば、より確実に姿を現すだろう」


 蘇芳の考えに、それぞれが目配せをし合う。

 その中で紫檀と目が合えば、彼は軽く微笑んでくれた。


 何だ? この胸の苦しさは。


 先程、紫檀から認められた時と似た痛みを胸に感じるが、彼はすぐに前を向いた。すると今度はほんの少し、寂しさを感じる。

 自身の心の変化に戸惑っていれば、紫檀が発言した。


「蘇芳様や他の上の方がこんなに手こずる相手なのに、あたし達を餌にするのはおかしい話じゃないかしら?」

「お前達だからこそ、なのだが?」

「はぁ?」

「お前達は今まで統率者が居なくとも、お役目を果たしてきた。そして今、統率者を迎え、力も増した事だろう。この四匹も、そんなお前達と対等に渡り合える力の者達。だからこそ、任せられる」


 紫檀へ理由を話し終えた蘇芳が、騒動を起こした四匹へ視線をずらした。


「お前達に選択の余地は無い。上へ行けば、裁かれる。このまま私の話に乗れば、生き長らえる。助力するのであれば、自由なままここでの生活を送れ。助力しないのであれば、餌の意味を終えたのち、送り狐としての道を拓き、縛りある善行を積み続ける処罰を与え続けるだけだ」


 蘇芳の言葉に、青鈍が舌打ちする。


「どれも選びたかねーよ」

「山吹達を助けた後も、ここで生活していいの?」

「よい。また悪さをしないよう、私の管轄へ置いておく。次に騒動を起こせば、私が直々に裁こう」


 青鈍が吐き捨てれば、木槿が身を乗り出した。それに黎明が動きを見せようとすれば、蘇芳が手で制し、木槿へ答える。そしてそのまま、部屋の隅にいる白蛇へ顔を向けた。


「この件に関しては、ここの主に問いたい。許可していただけるだろうか?」

『蘇芳殿の考えなら、悪いようにはならないはずでしょう。しかし、わしよりも先に聞かねばならぬ者がおります。わしはその者の意見を優先しますぞ』


 蘇芳へ向いていた白蛇の顔が、華火の方へ動く。


『華火殿。この者達を許す事ができますかな?』


 この言葉を切っ掛けに、大広間にいる全ての者の視線が集まる。それらから、華火への気遣いが伝わる。そして青鈍達からは、どんな言葉も受け入れようとしている、静かな視線を感じた。

 だから華火は青鈍達だけを見つめ、口を開く。


「私はこの者達をよく知らない。もし、私からの許しが欲しいのであれば、本音で私と会話をする事だ。そして、ここの送り狐達を大切にしてくれ。それと、ここの主、白蛇様の言葉には従う事。それが私があなた達に与える罰だ。この条件を呑むのなら、許す」


 それに、彼らのお陰で私の目が覚めた。

 それには感謝しているからな。


 華火がそんな想いを込めた言葉を伝えれば、ひと呼吸置いて、木槿と竜胆の笑い声が重なった。


「華火ちゃんって面白いね!」

「織部もですが、華火さんもなかなか」

「竜胆、いろいろおかしいだろ!?」

「華火、本当にいいの!?」


 笑い続ける木槿は放っておかれ、竜胆は織部に詰め寄られている。そんな中、真空が泣きそうな顔を向けてくる。


「いいんだ。それに、これ以上被害を出さない為にも、力を合わせるべきだ」


 華火がそう言い切れば、ここの送り狐達は納得したように頷いてくれた。

 すると黎明が巻物を持って、青鈍達の前に膝をついた。


「善は急げーって事で、名と血判をこちらへー」


 へらへら笑う黎明がぐいぐい巻物を押し付け、催促する。それに対し、木槿が最初に動き名を記せば、己が刀で指を切り、判を押す。すると他の三匹も渋々それにならう。


「では早速だが、問わせてもらう。犬神が受けた知らせの中に、この社から尋常ではない光が発せられたとの情報も寄せられたようだが、答えられる者はいるか?」


 山吹の結界があっても、光は漏れるからな。


 結界は、外へ術の影響が出ないようにする為のものであり、晴れ間などは外からでも見える。

 だからこそ、華火は自身が生み出した天候だと説明しようとした。しかしそれより先に、青鈍が口を開いた。


「ここの統率者、うまく天候が操れねーようだ。それが原因だ」


 耳を疑う言葉に、華火は反応できずにいた。

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