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第22話 来訪者

 今は予言でごたついてるから訪ねない方がいいって言われてるけど、見たい。


 真空まそらは、いても立ってもいられなかった。


 役立たずなんて噂されているけれど、こんな噂が立つのは妬まれている証拠。

 だってわたしは、もう一つの噂を知っているもの。


 やはり直接確認しようと、真空は立ち上がる。


 華火様は楚々《そそ》とした女狐らしい。

 それに、何と言っても牡丹様の妹君。

 気になる。気になりすぎる。

 何より、弟君達も溺愛しているとのお噂。そのせいで、男狐が華火様に近付けないらしい。

 でもわたしは幸運な事に、女狐。

 だからそのお姿、しかとこの目で!!

 

 可愛く美しいものに目がない真空は、こうして噂の立つ女狐を追いかけるのが趣味だった。


 華火様、待っていて下さいね!

 真空、統率者の先輩として、助言しに行きます!


 思いついた理由に満足し、ふふふと笑う。

 そして手土産は何がいいかと考えながら、真空はこっそり社を抜け出した。

 

 ***


 あの噂、本当は嘘なんじゃないか?


 織部おりべはずっと、華火の噂に振り回されてきた。


 本当は凄い力があるのに、雅様と咲耶様が凄すぎて、霞んで見られているだけで。


 そう思う事で自分を慰めている事にも気付いているが、考える事をやめられない。


 おれが、役立たずの実力を試してやる。


 比べ続けられた存在に対して、織部の中で暗い感情が膨れ上がった。


 ***


「華火、今だ」

「おう!」

「違う。こう……」

「やあっ!」

「コントローラー振っても意味ないから」


 襲撃されてから、一週間程が過ぎた。

 あの日から、玄がそばにいる事が多い。それ程までに、青鈍と木槿むくげを警戒しているようだった。


 そして今は皆との鍛錬を終え、夕餉を待ちながら大広間で休憩していた。

 その間にゲームをやってみるかと玄から問われ、華火はコントローラーを握っている。

 しかし初めての為、見兼ねたであろう玄が華火を足の間に座らせ、後ろから操作を手助けしている。


「可愛いわねぇ」

「平和だな」

『実に微笑ましい』


 穏やかな声で呟くのは、紫檀・柘榴・白蛇。彼らは縁側でのんびりとくつろいでいる。

 すると、華火の袖口から管狐が顔を出した。


『今、大丈夫ですか?』

「大丈夫だ」

『牡丹からです。『華火! 会いに行くのが遅くなってごめん! だからね、今から会いに行く!』だそうです』


 姉の管狐が竹筒から姿を現せば、姉の声で言伝を話し出す。

 一度、竹筒同士を触れ合わせ、その中を管狐に行き来させる。そうする事で、縁のできた竹筒からも管狐は姿を現す事が可能になる。だからこそ、遠方にいてもやり取りができる為、管狐の存在は有り難がられていた。


 しかし、内容が内容なだけに、華火は慌てた。


「今から!?」


 華火が大声を出せば、玄の体がびくりと揺れる。

 驚かせた事を詫びようと後ろを向けば、玄は黒い耳をぴくりと動かし、外を見ていた。

 それと同時に、柘榴と紫檀が立ち上がった。


「はーなーびー!」


 外から大きな声が聞こえれば、玄関の戸が開く音がする。そして何かを置く音がしたと思えば、凄い勢いで大広間のふすまが開かれた。


『ではこれで』


 姉の管狐が消えれば、白衣緋袴姿の牡丹が現れた。白く長い髪をふわりと揺らし、淡い赤の目を見開く。

 そして、華火の横へ滑り込むように座った。


「華火、玄が婿殿になるのか?」

「は?」

「仲睦まじいな」

「違います」


 牡丹の言葉が理解出来ず、華火は首を傾げ続ける。そして急に離れた玄が、早口で否定の言葉を告げた。

 すると、また外から声がした。


「牡丹様、置いて行かないで下さい!」

「あ、悪い!」


 慌ただしく牡丹が玄関へ向かうので、華火達も後を追う。

 そこには、真っ白な髪にも負けない程の、肌の白い女狐がいた。


 巫女装束に身を包み、真っ直ぐに切り揃えられた前髪は、晴天の空を思わせる鮮やかな青い瞳のすぐ上にある。やや吊り目だが、大きな為、可愛らしさが滲む。

 そして、青の紐を使い、肩辺りで二つ結びにした長い髪を前へ垂らしている。

 牡丹よりは背丈が低いが、華火とは目線が一緒だ。


「貴女が、お噂の華火様?」


 大きく開かれた青い瞳に見つめられ、華火はたじろぐ。


 噂の確認をしに来られたのか?


 どう返事をするものかと迷った時、共にいた柘榴・紫檀・玄が、華火を庇うように動いた。

 その瞬間、女狐の頬が染まった。


「ひゃあぁぁぁあ!! お噂以上です、華火様!!! その魅力に、もう周りの男狐も虜になっているではありませんかっ!!」

「真空、あんたは少しは落ち着け!」


 真空と呼ばれた女狐が握りしめる手には大きな紙袋があるが、それが激しく揺れる程に拳が震えている。

 そんな彼女の背を牡丹がべしっと叩けば、動きが止まった。


「えーっとね、連れてくる気はなかったんだ。だけどね、ばったり出くわして。しかもね、華火の姿が見たくて隣の県から来たんだよ。だからね、このも、入れてほしいんだけど……」


 牡丹がそう言えば、後方から声がした。


「夕餉が出来たぞ」

「さっき牡丹様の声がしたけど……、って、そちらは?」


 こちらへ声をかけながら歩いてきたのは、割烹着に身を包む白藍と山吹。その顔は、同じように困惑した表情を浮かべた。

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