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出会い

 華火の兄達が帰り、昨日から続く疲れをようやく癒す時間が訪れる。今日は回復に努める為、お役目は無し。食事も管狐に頼み、昼も夜も外のものを運んでもらった。

 そして皆がまだ談笑を続ける中、玄だけは眠気を理由に部屋へ引っ込んだ。


 いつもだったら眠くなるまでゲームするけど、今日も何も考えずに眠れそう。


 湯浴みの最中も船を漕いでいた玄は、黒い無地の浴衣が着崩れるのも構わず、布団に勢いよく転がる。

 そして山吹の毛で作られた狐のぬいぐるみをいつものように抱きしめ、目を閉じた。


 山吹もみんなも、変わらずそばにいてくれる。

 それに、華火の存在も強く感じる。

 だから――。


 その事実に気が緩み、思考も途絶えた。


 ***


 ――富士山麓


 各地から指南所を目指してきた妖狐が、巨大な朱塗りの鳥居の御簾みすが上がるのを待っている。大体は狩衣を着ているが、着流し姿の者もいる。しかし皆、自分のお役目が何かを求める者達の集まりだ。


「おぉ、黒狐がいるぞ」

「金も銀もいるが、黒は珍しいな」


 今しがた到着した玄に、無遠慮な視線が浴びせられる。


 うるさい。


 慣れた事とはいえ、これからを共にするかもしれない狐達に、玄は苛立つ。そしてその視線から逃れる為、結ばずにいる長い黒髪で顔を隠すようにうつむく。

 その瞬間、少し離れた場所から殺気が放たれた。


「物珍しいか? ならば、暇潰しにでも付き合え」


 低い声を出した銀狐を中心に、群れが割れる。その男狐が抜刀すれば、離れずにぼけっとしていた深紅の目の白狐が奇声を上げた。


「うわぉうっ!! てめぇ、危ねーだろうが!!」

「そんなところに突っ立ているのが悪い」

「あぁん!? 刀いきなり抜く奴にそんな事言われたかねーよ!!」


 何だ、あれ。


 騒々しい男狐達を眺めていたら、声をかけられた。


「黒狐、初めて見た! 名前は何て言うの?」

「……玄」

「玄ちゃんね! 俺はどこにでもいる白狐の木槿むくげだよ。白狐ってどれも似てるから、ちゃんと覚えてねぇ?」


 初対面でここまで馴れ馴れしくされた事がない玄は、白く長い髪を首の後ろで結ぶ木槿に困惑する。

 すると、少しだけ高い位置で長い髪を結う、別の白狐がこちらへ近付いて来た。


「お前、何やってんだよ。困ってんだろ、そいつ。にしても、すげぇな。全部が黒だな」

「青鈍、ほら、黒狐だよ、黒狐! いいなぁ。俺も珍しい狐になりたかったぁ」


 こそこそ言われるのは慣れてたけど、直接言われるのはまた別の意味で困る。


 玄よりも少しばかり背丈が高い白狐達をどうすればいいか悩み始めた時、先程の銀狐がいた方向から何かを殴りつけるような音が響いた。


「なっ、何をする!?」

「ってぇ!!」

「今から自分らのお役目を知るのに、戦う奴があるか。子供は帰んな」


 銀狐と白狐の揉め事を止めるべく、彼らよりも背が高い藤色の目の白狐が薙刀の柄で頭を叩いたようだった。

 その証拠に、真横に倒された薙刀が持ち上げられれば、銀狐と深紅の目の白狐が殴られた場所を押さえ込む。


「黒狐って、何か特殊な事とかできるの?」


 騒ぎを起こした男狐達を見ていた木槿だったが、玄に対する興味がまさったように質問してくる。

 その時、彼の後方から穏やかな声がした。


「色が違うだけで、僕達は同じ妖狐だよ」


 木槿が不思議そうな顔をして振り向く。

 玄も気になり向こう側を覗けば、声に似合う優しげな容姿の金狐がいた。


「そうだよね?」

「……あぁ」


 背丈が同じくらいの男狐と目が合えば微笑まれ、玄は毒気を抜かれて相槌を打つ。


「確かにそうだな。でも、やっぱり俺らからしたら珍しーわ」


 青鈍と呼ばれた男狐が可笑そうに笑えば、金狐もくすりと微笑む。


「この先、共に過ごす仲間になるかもしれない。だから、これを機に見慣れてくれればいいよ。あ、僕の名前は山吹です。よろしくお願いします」


 礼儀正しく頭を下げる山吹に、玄もつられる。


「俺は、玄」

「俺は木槿です!」

「俺は青鈍だ」


 それぞれが自己紹介を終えれば、穏やかな空気が流れる。これは山吹のお陰なのだと、玄は感じた。

 そんな雰囲気をぶち壊すように、銀狐達の声が響く。


「お、おいっ! やめろって!」

「あ? 喧嘩してぇなら相手になってやるって言ってんだよ」

「色違いだからとこそこそ言う奴が悪い」


 止めに入ったはずの藤色の目の白狐が薙刀を大きく振り回し、深紅の目の白狐と銀狐はそれをすれすれでかわしている。


「馬鹿だな、あんた。そんなの言わせておけ。で、実力で何も言わせなくしてやれよ」


 藤色の目の白狐が不敵に笑う。すると、彼が手にしていた薙刀からぼうっと紫色の炎が上がり、得物が消失した。


 珍しい力の持ち主だな。


 霊力を具現化するのは相当器用でないと出来ない。それをいとも容易く行なっている男狐に、玄は感心する。


「これで少しは頭が冷えたか? 俺の名は紫檀。これも何かの縁だ。よろしくな」

「自分は白藍。すまない。少々やりすぎた」

「俺は柘榴だ。よくわからんが、よろしくな!」


 話がまとまった所で、大鳥居の御簾が上がり、妖狐達はぞろぞろと動き出した。

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