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決着

「それでは、互いに準備はよろしいですか? わたしが『じゃんけんぽん』と合図をしたら、互いに手を出してください。もちろん後出しは禁止です。不正だと判断した場合、ペナルティを与えますので、気をつけてくださいね!」


 レフェリーがそう言って後ろに下がると、俺達は互いに適度な間合いに詰める。

 俺が出す手は……そうだな。

 奴は、さっきのやりとりで優位に立っている。

 こういう心理戦ではその時点で勝敗は決していると言っても過言ではないのだが、だとしたら俺の勝機はこの状況を逆に利用することにしかない。


 心に余裕のあるとき、人は心を開いているとも言える。

 だとすれば自ずと、手形も『握り拳(ぐー)』ではなく『五本指(ぱー)』に近づく可能性が高い。

 奴が『五本指(ぱー)』を出すのだとしたら、俺が選択すべきは『二本指(ちょき)』ということになるのだが……

 しかし奴が、そんな俺の思考を逆読みしてあえて『握り拳(ぐー)』を出すという可能性も捨てきれない。

 だとしたら俺が出すのは、最悪でも『あいこ』の形に持ち込める『五本指(ぱー)』ということに……


 俺が、出す手を『五本指(ぱー)』に決めたとき、奴は余裕の態度を崩していなかった。

 これならいける……だが、それを悟らせてはいけない。

 そう考えて、レフェリーに自信なさげに視線を送る。

 彼は、俺の準備が整ったのを悟ったのか、奴にも視線を向けた。

 レフェリーが「それでは……」と言いかけたとき、不意に奴が口を開いた。


「戦いの前に……ただ手を出し合うだけでは、駆け引きがありません。私は、『握り拳(ぐー)』をだすと宣言します。もちろん私が嘘をついている可能性もありますが、あなたは私を信じるならば、『五本指(ぱー)』を出せば勝てます。さて、どうしますか……?」

「どうするか……だと!?」

 奴が『握り拳(ぐー)』を出すならば、予定通り俺は『五本指(ぱー)』を出せば良い。

 だが、最悪なのは、奴がそれを読んで『二本指(ちょき)』を出した場合だ。


 その場合、俺は敗北を喫することになる。

 しかもそれはただの敗北ではない。

 俺の元々の予定など関係なく、奴の心理戦に敗北したと言うことになってしまう。

 そうなると、俺はこの戦いだけでなく、今後の人生における全ての戦いにおいて……


 などと考えかけたが、すぐにそれは無意味だと思い直す。

 今後の人生など……そもそも、この戦いに負けた瞬間に、そんなものは残されていないのだ。

 俺はこの一戦に俺の人生をかけている。

 敗北は、死を意味していた。だというのに、奴の心理戦に乗せられて、負けた後のことを考えてしまっていた。

 その時点で、俺の敗北は確定していたのだろう。

 このことを思い出せていなければ、俺はおそらく『握り拳(ぐー)』を出していた。

 そうすれば、奴が俺の心理を出して『二本指(ちょき)』を出した場合に勝てるし、奴が正直に『握り拳(ぐー)』を出した場合も、『あいこ』に持ち込むことが出来るからだ。

 だが、相手の言葉に踊らされている時点で、いずれにせよ俺の勝ちはなかったのだろう。

 おそらく奴は、俺の心理を読み取って『五本指(ぱー)』を出す。


 つまり俺の出す手は……



 長期戦を危惧した観客達の予想を裏切って、決着はたったの一戦で片付いた。

 歴史的な一戦を勝ち抜いた俺は富と名声を手に入れたのだった。

完結です。

二話完結の作品を『長編』とするのには違和感もありますが……

いろいろ試してみたかっただけなので、ご容赦ください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 熱いジャンケンを読ませて頂きました。 面白かったです。
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