ダンジョン・フォークロア
ダンジョン終盤は、とりあえず広い。
その為、次に進むのに苦労するのだが、見方を変えると良い事もある。
「全力機動はやっぱり怖いな」
太郎は自分の装備の性能把握のため、いくつか全力での能力テストをしていた。
狭い場所では、全力で移動しようにもすぐに壁にぶち当たる。なので、広いダンジョンで最高速度を試していたのだ。
終盤は森なのだが、木々の上には広い空間があるので、太郎がどれだけ動き回っても問題ない。
人目につく、つかないという話も、そもそも人があまり来ない終盤ならば気にするほどでもない。
本気で情報の隠蔽を考えるのなら慎んだ方がいいのだが、ダンジョン内なので、モンスターと勘違いされるだろうと、太郎は楽観視している。
――事実、太郎の姿は見られていて、「高速飛行をする謎のモンスターが森の上にいる。ドローンを飛ばしても壊されるぞ」といった噂が広まっていた。
チート装備を使っている場合、太郎は時速200kmで動くことができる。
そしてその速度下でも自由自在に動き回れる。慣性の法則は仕事をしていないので、Gによる不調を起こさない。付け加えると、大気による壁だって超技術により無効化されるので、太郎は風圧に耐える必要がない。
この場合、ネックになるのは太郎の精神力、認識力、判断力である。
周囲の状況を的確に把握し、最適な行動をとることができれば、どんなあり得ない動きだって出来るだろう。
太郎の能力が、その速度に対応していれば。
今は完全に振り回されているので、障害物の無い場所で練習を重ねている。練習のついでで、モンスターを倒しているところだ。
それに慣れれば、次は森の中で同じ事をやる予定であった。
太郎がそうやって全力機動の練習をしていると、稀に冒険者のグループが戦っているところに出くわす。
善戦している者らがいれば、苦戦しているところもある。
ただ、どちらの場合も、太郎は関わらずに距離をとる。関わる事で、チート装備の情報が漏れるのを防ぐためだ。
冷たいかもしれないが、太郎の攻撃では冒険者ごとモンスターを倒しかねない。多数をまとめて殺す武器は、味方が多数いる戦場には絶望的に向いていないのだ。助けに行って命を奪うようでは本末転倒、意味がない。
太郎が冒険者に気が付くように、冒険者も太郎に気が付くこともある。
そうやって太郎に気が付いた冒険者は、やはり木々の上にいるのはモンスターの仲間で、森を楽して抜けようとする者への懲罰モンスターではないかと噂した。
同じ冒険者であれば、打算混じりだろうが助けてくれるだろうという認識でいるからだ。
太郎の噂は、ダンジョンに現れるレアモンスター、裏ボスとして、冒険者界隈に広がっていくのだった。




