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涙と笑顔の再会(1)

 この日は午前中外商が来てヴィクトルの授業もなかったためミレイアは午後にマイアの部屋に来た。


「お母様、見てください」

「どうしたの?」

「珍しい宝石だそうです。今日来た外商が商品にするつもりはないからもらってほしいというので受け取りました」

「まあ不思議な色ね。黒のような紫のような。キラキラしていて綺麗ね。それにしてもミレイアが外商に対応しているのね。私の仕事なのにごめんなさい」

「いえ、私は話を聞いて頷いてるだけですから。本を買う時は多少選びますけど。お母様、これお渡ししましょうか?」

「貴方がもらったのだから持っていたら良いわよ」

「けど私は宝石なんて身に付けません。外に出かけませんから」

「それなら魔力を込める練習をしてみたらどうかしら。その前に魔力を纏わせる練習も必要だけれど」

「なるほど。そうします」

「きちんと先生がお側にいる時でないと駄目よ?」

「はい。お母様はなにか欲しいものはありませんか?あの外商はおかしなものも持ってきますがわりと何でも用意してきます」

「そうなのね。私は特にないから大丈夫よ」

「では必要なものがあればおっしゃってくださいね」

「ありがとう。けれど本当にごめんなさいね。私が女主人としての役目を果たせないから」

「大丈夫ですよ。この家に来るのは外商と仕立て屋とヴィクトル先生くらいですしお父様に用事があれば王宮に訪ねて行くでしょう。やることがそもそもないです」

「来客の対応だけがお仕事ではないのよ。でも今さら私が勝手にしていいことはないものね」

「お父様に……」


 ミレイアはまずいと思って言い淀む。だがマイアから魔法が暴走する気配はない。


「そうね、レアンドロ様にお伺いを立てなければね。そもそもお話をしないと」


 マイアは暗い顔をするがそれだけだった。ミレイアセラピーの効果は絶大のようだ。


「そうだお母様」

「なあに?」

「この前ヴィクトル先生とナタリーの話をしましたよね」

「ええ、ミレイアの家庭教師と侍女のことね」

「はい。ヴィクトル先生忙しいと言っていたはずなのに昨日の夜ナタリーと食事に行ったそうなのです。ナタリーから聞きました。そしたらすぐ正式に交際することになったそうです」

「まあ、そうなの。良かったわね」


 ミレイアは政略結婚の話でもレアンドロの話でもないから大丈夫かと思ってマイアに2人の話をしていた。


「良かったのは良かったのですがナタリーはその時ヴィクトル先生に本当はナタリーがここで働き始めた当初から気になっていたと言われたそうです。それなら可愛い恋人がほしいとか男爵や子爵がとか言わずもっと早く告白すれば良かったのに。先生が理解に苦しむことをしないでほしいです」

「あらあら、そうなのね。けどそれならきっときっかけをくれたミレイアに感謝しているわね」

「今度来たら一番にこの話をしようと思います」


 無表情のまま怒っているミレイアにマイアはクスリと小さく笑った。


「奥様、お嬢様、お話し中失礼いたします」


 ノックの音がして侍女長が部屋の外から2人に声をかけた。マイアが落ち着いているからと部屋のドアを開け放っておくのをやめたのだ。

 マイアがどうぞと声をかける。そしてドアを開けた侍女長。


「どうしたの?」

「はい、今日からこちらで働くことになるメイドが来たのです。お嬢様にご挨拶をと思ったのですが」


 この国での女主人は社交はもちろん使用人の管理や収支管理もする。だがマイアはそれはできないと考えられていた。


 そこで侍女長が雇われた。フロランスというその侍女長はレアンドロの母、王太后の元侍女で先代国王の遠縁にあたり、レアンドロが5才になった頃結婚を期に家庭に入った。伯爵夫人として生活していたフロランスはレアンドロの婚約者の母親が社交場で会う時は上品でおおらかに見えるが噂では家の使用人に酷い仕打ちをしているということが気がかりだった。


 内情を調査すると案の定酷いことになっており、先代国王は幼馴染みであり長年王家に仕えてきたからこそ息子の婿入りを決めたもののどうしようかと判断を迷っていた。


 一方王太后はマイアが誰を好きなのかをわかっていたもののレアンドロがマイアの好きな人がリュシアンだと思っているとは知らずレアンドロもマイアを憎からず思ってるのではないかと思っていた。


 そこで王太后は伯爵家に嫁いだフロランスにその話をしてフロランスの伝手で調べることにした。フロランスは伝手を頼ってレアンドロと婚約する前のマイアのことを知っている元使用人に話を聞いて、マイアは母親の気性を継いではいても本当の彼女はおおらかで優しいはずだと報告した。


 前オルガン公爵の弟の話とは別に、王太后の勘とフロランスの話が婿入りをそのまま決行するに至った理由だった。


 それでも長く変わらないマイアとレアンドロの生活が心配な王太后はレアンドロの元で働いてくれないかと相談をしていて、伯爵家を息子が継いだ後、今から3年前に侍女長として働くことになったのだった。


 といっても彼女はレアンドロに約束した。女主人はマイアで自分はあくまで侍女長で出過ぎたことはしないと。侍女長となった彼女は新たに侍女やメイドを雇い幼いミレイアに報告し、使用人たちにはマイアが怖くても本分を疎かにしてはいけないことを徹底させ、伯爵夫人として家を守ってきた実績のある頼もしい侍女長はあくまで侍女長でこの家の女主人はマイアであることを全員に伝え厳しく指導した。


 というわけでこの家の使用人たちがみな優秀なのは侍女長のおかげだった。


「奥様もお会いになってくださいますか?」

「私も?え、ええ、そうさせてちょうだい」


 マイアは初めてのことへの緊張と怖がらせないかという不安があったが椅子から立ち上がった。


 侍女長の後ろから前に出てきた女性と子供を見てミレイアはレアンドロの話を思い出した。


「シュゼット?」


 マイアは驚いて呆然とする。


「お嬢さ……いえ、奥様、お久しぶりでございます。シュゼットです」


 マイアは静かにハラハラと涙を溢しシュゼットは侍女長に背中を押され部屋に入ると涙を浮かべながらマイアにハンカチを渡した。


「覚えてくださっていましたか?」

「も、もちろん……シュゼット……ごめんなさい、ごめんなさい」

「大丈夫ですよ」

「どうしてここに?」

「今のオルガン公爵様に呼んでいただいたのです」

「レアンドロ様に?」

「はい。お話は少し聞かせていただきました。お辛い思いをしていたのでしょう」

「いえ、違うの。私はお母様のようになって、たくさんの人を傷つけて迷惑を」

「それでも貴方は優しい方です。誰かを傷付けたいと思うはずがありません」

「シュゼット……」

「これを覚えていらっしゃいますか?」


 シュゼットが左腕の袖を少し捲ると火傷のあとが残っていた。


「前公爵夫人が母と私にお茶を被せた時、貴方は身を挺して守ってくださいました。それから自身の火の魔法がお茶と同じように誰かを傷付けてしまうかもしれないと不安に思われておりました。私はこの火傷の跡を見るたびお嬢さ……奥様がこの家で1人お辛い思いをしていないかと思っておりました」

「……その跡残ってしまったのね」

「良いのです。亡くなった母もこれは私たちとお嬢様との繋がりだと言っておりました」

「アレットは亡くなったの……」

「はい。ですが母もこのお話を聞けば喜んでいたと思います」

「そうなの……でもよくこんな良い思い出のない家に戻ってこようと……レアンドロ様もどうして……」

「お嬢様と出会えたことが何より大切な思い出ですよ。今の公爵様は素晴らしい方ですね。何年も私たちを探してくださったそうです。わざわざ使いではなく直接話に来てくださいました。愛されておられるのですね」

「え?違うわ。そうじゃなくて」

「そうです、お嬢様……もうマイア様でよろしいですよね」

「え、ええ」


 シュゼットはレアンドロからはマイアが望まない結婚をしたと聞いていたがこんなにマイアのために動いてるレアンドロを嫌いなわけないと思いきっと何か食い違いがあるのだろうと深く考えないでいた。このシュゼットは母親譲りのハニーブロンドに緑色の瞳という愛らしい容姿のわりにさっぱりした性格をしていた。


「私の娘も一緒に連れてきました。マイア様のご息女様のメイドにぜひ……あ!!すみません!!」


 そこでようやくミレイアのことを放っていたことに気付いたシュゼットは慌ててミレイアに頭を下げる。


「シュゼットと申します!!失礼いたしました!!」

「良いのよ。話はお父様から聞いているもの。私はミレイアよ」

「今日からお世話になります。よろしくお願いいたします」

「ええ、よろしく」

「それからマイア様、お嬢様にぜひ仕えさせていただきたい娘です」


 シュゼットはドアのそばにいた娘を呼んでマイアとミレイアに紹介する。


「娘のロゼットです。7才です」

「まあ、貴方の娘なのね」

「はい。亡くなった旦那に似て茶髪に茶色い目で得意技は群衆に紛れることです」

「「は?」」


 マイアとミレイアは揃って呆然とする。


「それがですね、私と母は屋敷を着の身着のまま追い出され馬車で国からも追い出されたのですが、母が、前公爵夫人のことをあの女は執念深いから国外追放だけに飽きたらず追っ手を寄越してきたら面倒だと言い出して私たちは容姿が目立つのでほっかむりを被り隠れて移動していたのです。結局追っ手なんて来なかったんですけどね。でもナンパ避けにもなるしとそのまま生活してたんです。それに対してこの平凡な容姿の娘!!姿を隠さずに誰にも声をかけられずに買い物にいける素晴らしい特技です!!そう思いませんか!?」

「そ、そうね。シュゼット、とにかく貴方のお話を聞かせてちょうだい」


 侍女たちが椅子を用意してきて4人で座って話すことにした。




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