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父親

 夕食を食べてからミレイアは改めてレアンドロに話すことをまとめるためにカミニャンと話し合いをしていた。表情からはわからないがそわそわしてドアの目の前を行ったり来たりしていたミレイアはドアをノックする音がした瞬間にドアを開けた。


 侍女はいきなり開いたことにもドアの目の前にいたミレイアにも驚く。


「まあお嬢様?驚きました。旦那様がお戻りになりましたよ」

「ええ行くわ。カミニャン」

「にゃーん」


 落ち着かないミレイアを温かい目で見守っていたカミニャンはミレイアに抱き上げられたあと頭に乗っかった。


 そのままレアンドロの書斎に行く。ノックをして久しぶりに聞いたレアンドロの声の後にゆっくりドアを開ける。


 ドアを開けた瞬間はニコニコ笑顔だったレアンドロはミレイアを見るときょとんとした。ミレイアというよりミレイアの頭の上に乗っているカミニャンを見て。


「お父様、お帰りなさいませ」

「あ、うん、ただいま」


 レアンドロはすぐに笑顔に戻ってミレイアに椅子に座るように促す。


「その猫だね、話は聞いてるよ。名前は?」

「カミニャンです」

「カミニャン?」

「はい」


 カミニャンを乗せたまま椅子に座るミレイアはまったく表情を動かさないまま答える。


「どうして頭に乗ってるのかな」

「腕に抱いてると痺れてきたので」

「それで頭……?」


 カミニャンは頭から肩を伝って床に降りた。そしてミレイアの足元で丸まる。


「えっと、良い子だね」

「はい。お父様、お話があります。お父様はお母様のことをどう思ってらっしゃいますか」


 神の使いだけどと思いながらミレイアはすぐ本題に入る。


 レアンドロはまたも呆気にとられる。それから金髪碧眼の美しい顔を歪めて困る。ミレイアが会いたがってくれてると聞いて嬉しい反面どう接しようと不安もあったがさらに話題が話題で困った。


「お母様のことかー。何かあった?」

「いえ、これといって何かがあったわけではありませんが」

「そっか。んーお母様の様子はどう?」

「相変わらずです」

「だよね。僕がというかお母様は僕に不満を持ってるからね」

「お父様に不満ですか?」

「そうだよ」

「なぜですか?」


 レアンドロは戸惑う。


「んーお母様はミレイアのことは大好きなんだけど僕のことは嫌っているからね」


 レアンドロの言葉にミレイアは首をかしげる。


『カミニャン、お父様は何を言ってるのかしら。お母様は私のことなんてなんとも思ってないしお母様はお父様のことが好きなのに』

『お父上は両親が不仲なことを子供の貴方に言うことを戸惑っているのでしょう。そしてどうやら彼は貴方の母に嫌われていると勘違いしているようです』

『そうなのね。わかったわ』


「お父様、お父様は勘違いをしていると思います」

「え?どうして?」

「わかりませんがそんな気がします。お父様はどうしてお母様がお父様を嫌っていると思われるですか?」

「えっとね、それをミレイアに言うのはちょっと……」

「私のことは気にせず話してください」

「あ、はい、えっと……お母様は陛下のことが好きなんだよね」

「陛下」

「僕の兄だよ」

「それはわかります」

「あ、うん」


 レアンドロはそれが勘違いだと知らないため娘に母親が父親ではない人を好きであると告げることに罪悪感を感じた。


「どうしてお母様が陛下のことを好きだと思うのですか?」

「お母様は子供の頃から陛下の婚約者だった王妃殿下のことを敵視して張り合おうとしていてね」

「それは」


 それは陛下ではなくお父様との仲を疑っていたからだと言おうとしたミレイアの膝の上にカミニャンが飛び乗った。


『まあまあ。貴方が母親の気持ちを知ってるはずがないのですからここは話を聞きましよう』

『わかったわ』


「お母様のお父様、ミレイアのお祖父様もすごくお母様を王妃様にさせようとしててね。僕が婿入りすることに表面上では了承してたんだけど兄上の方が僕よりいろんな面で優れていたから交代にならないかって虎視眈々と狙ってたんだよね。それとまあ他にも理由があってお母様と会う時は兄上も一緒だったし妃殿下も同席して4人でだったんだ。お母様は妃殿下が持つ魔法が光魔法であることに劣等感を持ってたみたいでね。妃殿下が光魔法を持ってるから兄上の婚約者が妃殿下なんだって。僕はお母様の火をすごく綺麗だと思っているけどお母様にとってはそれが兄上じゃなくて僕の婚約者に決まった原因だからね」

「……お母様の火が綺麗ですか?」

「うん。とても綺麗でまっすぐな炎でね。確かに危ないから子供の頃よく止めさせようとしてたんだけど炎の中でもお母様が泣いてたから強く言えなくて。そんなに兄上が好きなのに僕にはどうすることもできなかったからね」

「あの、お父様は王妃様のことをどう思ってるのですか」

「妃殿下のこと?義姉さん……とか?」

「関係性ではなく。お父様と王妃様は親しいと耳にしましたので」

「そうなの?なんでかな。ああ、僕や兄上は魔力が安定するまで兄弟以外の子供と会わないって決まりがあったんだ。何て言うかな、僕たちの魔力はとっても強くて道具を使って抑えられてたんだけどいつ外に出しちゃうかわからなくて危なかったからね。その道具は完全に魔力を抑えつけるようなものじゃないから魔力を使おうと思えば使えるしやったことはなかったけど外そうと思えば自分で外せたから兄弟でもしものことがあっても自衛できると兄弟で会うのは良くて、僕は7才まで兄上以外の同世代の子供と会ったことがなかったんだ。兄上はもっと強い魔力を持ってたから9才まで僕以外は大人としか話してなかった。兄上は将来王位を継ぐって僕よりずっと厳しく育てられてきたし自分にも他人にも厳しいし短気だし冷たい印象を持たれやすいんだ。そんな兄上がおっとりしてる妃殿下とまともに会話ができるはずがないからって父上が言うものだから僕が頑張って話を振ってたんだよね。多分そういうのがあったからじゃないかな」

「そういうことでしたか」

「うん。結局兄上と妃殿下が2人で会話を成立できるようになるまで5年くらいかかったよ」

「あの、今の話を全部お母様に話してみてはどうですか?」

「え?全部?今のを?」

「はい。お父様が思っていたことも全部話した方が良いと思います」

「でもお母様は僕のことを嫌ってて顔を見せるだけで余計に逆上させちゃうし話ができる状況がないんだよね」

「なぜ私が生まれたのかしら」

「え、え、ごめんね、でもミレイアが生まれてくれて嬉しかったよ」

「そういう意味ではないです」

「そう?でも当時は落ち着いてる時間もある程度あったんだ。落ち着いてるとは違うか。先に兄上と妃殿下が結婚してしまったから現実を受け止める時間が必要だったのかも。でもここ最近はまったく人を寄せ付けないくらいだって聞いてるから多分難しいと思うんだけど」

「では私が何とかします」

「どうするの?」

「アニマルセラピーです」


 ミレイアはそう言ってカミニャンをレアンドロの膝に乗せる。


「動物に触れて癒されることで心を落ち着かせることができるとヴィクトル先生に教わったのです。お母様がお父様とお話できる状態になったらお話ししたら良いです」

「なるほど。確かに心がほっとするような……」


 レアンドロはカミニャンの背中をゆっくり撫でながら言う。


「けどそれならちょうど良かったかもしれない」

「何がですか?」

「お母様が昔親しくしていた人を呼ぶことができたんだよ。お母様は6才までは穏やかで誰とでも分け隔てなく接することのできる優しい子だったそうなんだ。僕たちがお母様に会う前に親しくしていた使用人とその子供がいたらしいんだけど訳あって国外に行かされてしまったんだよ。僕はお母様にできることはないかって考えてその親子をずっと探していたんだ。当時向かった国はわかったけど平民のその2人を探すのに今までかかってしまったんだ。お母さんは残念ながらもう亡くなってしまっていたんだけどお母様と年の近かった子はミレイアと同い年の娘と暮らしていたんだよ。状況を話したら娘と一緒にで良ければと戻ってきてくれることになったんだ」

「そうなのですね。お母様もきっと喜びますね」

「とても仲が良かったそうだからそうだと良いね。再来週には来る予定になってるからミレイアもよろしくね」

「はい。それでは次の話です」

「うん、どうしたの?」


 話題が話題だったが普通に話せてることにほっとしながらレアンドロが聞く。


「話というよりお願いです」

「お願い?」

「魔法局に入りたいのです」

「え、魔法局に?」

「はい。お願いです」


 カミニャンはミレイアに言った。父親は娘のお願いに弱くて駄目と言いづらいものだと。ミレイアは半信半疑だったがその通りにすることにした。ただミレイアはお願いだと言えば良いとだけ聞いていたので無表情のままお願いを繰り返していた。


「う……可愛い。でも魔法局?どうして魔法局?」

「はい。魔法の研究です。駄目ですか?」

「んー……」


 レアンドロは駄目と言いづらかった。けれど魔法局は危険なところだ。そんなところに可愛い娘を入れさせるなんて考えられなかった。


「お父様?」

「うーん……魔法局は危険なところで」

「知っています。ヴィクトル先生に聞きました」

「魔法の勉強がしたいなら魔法の専門家を雇おうか?」

「私は研究と調査がしたいのです」

「そうなの?何の?僕が代わりにやってあげようか。僕は指示するだけだけど」

「駄目です。私がやります。何の研究かは話せません」

「んー……でもどちらにしても魔法局って研究内容を教えてもらえないと研究させられないし」

「では物に2つ以上特殊魔法を込める研究です」

「え、2つ以上?それは無理なんだよ」

「やってみないとわかりません」

「それはもう研究されつくされててどんな魔術師でも無理だと証明されてるんだよ」

「王族が使う腕輪とチョーカーが2つの特殊魔法を込められています」

「あれ?もうヴィクトルから聞いてたんだ。そうだね、でもあれは特別なんだ。だから国宝なんだよ。それにあの2つも今まで調べてる」

「テオドール殿下が強化させた後もですか?」

「もちろん。結局はっきりしたことはわからなかったよ」

「私に調べさせてください」

「えっとね、調査したのは専門家だからね、ミレイアが見てみても何もわからないよ」

「私ではなくカミニャ」

「にゃーん」


 レアンドロの膝に乗っていたカミニャンがミレイアの膝に飛び移り鳴いた。


『落ち着いてください。作戦Bです』

『わかったわ』


 レアンドロが魔法局入りを許可しないのはわかっていたことだ。だがそれでは何もできない。ミレイアとカミニャンはお願い作戦が効かなかった場合の作戦を考えていたのだ。


「夢のお告げです」

「え、夢?お告げ?」

「はい。今から数年後に未知の魔法を使う女性が現れ世界が破滅してしまうそうです。私はそれを防ぐために調査と研究をしなければならないのです」

「それは……夢だよね」

「お告げです」

「夢と現実が混ざっちゃったとか」

「お告げです。神からの」

「神からの?」

「神は何でも知っているので私に知恵を授けてくれました」

「へぇ……」


 レアンドロは困った。ミレイアの話をはいそうですかと受け入れるのは難しい。可愛い娘の話でも。だがレアンドロは仕事上有能な男であった。


「それじゃあ神様は知ってるかな。国宝の腕輪とチョーカーを作った初代国王の友のこと」

「はい」

「じゃあ彼の名前は知ってる?」


 ミレイアはカミニャンに尋ねる。


『彼の記憶はないのだからお父様も知ってるはずないわよね。はったりかしら。メモに名前が書いてあったとか?』

『書いていませんよ。何故でしょうか。ただ彼の名前はケンタです。フジモトケンタ』

『フジモトケンタね』


「フジモトケンタ、だそうです」

「え」


 答えられると思っていなかったレアンドルは目を見開いて驚く。


「どうしてお父様がご存知なのですか?彼の記憶は誰にも残っていないとカミニャ……神は言っていました」

「本当に神……?初代国王の日誌だよ。ずっと封印されていたものを僕と兄上が見つけた。その日誌に彼のことも彼の記憶がある日なくなったことも書いてあった」

「日誌」


『カミニャン、知っていた?』

『知りませんでした。私はケンタを元の世界に帰したあとこの世界の別の国へ行きました。以前も話しましたが私は実際に見聞きしたもの以外のことまで全て知っているわけではありません』


「どうやらただの夢ではなさそうだね。じゃあ僕が調べるよ」

「それは駄目です」

「どうして?世界が破滅するんでしょ。ミレイアは危ないから関わらない方が良いよ」

「神は私に世界を救うように言ったのです。私がやらないといけないのです」


 神のお告げ作戦を聞いた時ミレイアはレアンドロと同じようなことを考えた。そういうことにするならいっそのこと父たちに調べさせた方が良いしカミニャンはサラの居場所を知っているんだからヒロインのサラをそういう名目で捕らえてしまえば良いのではないかと。カミニャンは答えた。


『神は人間の世界に介入しすぎてはいけないという決まりがあり、サラをこの世界に転生させた時点でサラに関して神の役割は終わっていました。この世界の人間になったサラを神の力でどうこうすることはできないためあくまでも人間たちが何とかしないといけないのです。そのためアドバイスすることはできますが直接どこにいるなんという少女が魅力魔法を使っているから捕らえよとは言えません。そしてサラは頭の回る女性で魅了を使い大人たちから情報を得る可能性があります。乙女ゲームではあり得ないような動きをすれば怪しむでしょう。秘密裏に動いても彼女の魅了にかかった者はどんなに口の固い者でも彼女の望むことをしてしまう、それが魅了魔法の恐ろしいところです』


 ミレイアは魔法局に入ったら怪しまれるのではないかと考えたが乙女ゲームは悪役令嬢の過去を詳細に明かしているものではないため知られないようにすべきではあるが物語を大きく変えなければ不審には思わないはずだということだ。


「神は言いました。世界を滅ぼしうる女性にこちらの動きがバレてはいけないと。だからお父様もお告げのことを誰かに話してはいけません。どこから情報が漏れるかわかりませんから。私が調べることもただの公爵令嬢の気まぐれだとかで調べる内容も公にしない方が良いでしょう」

「それは中々難しそうだな。その女性というのは闇魔法のような魔法を使うのかな。精神に作用して人から重要情報を盗もうとする悪いやつは過去にもいたよ」

「闇魔法とはまた違いますが精神に作用しそうなものです。ですが未知の魔法なので対処法もわかりません。なので魔法局にある稀少な魔法の情報も調べたいです」

「なるほどね。感知魔法で闇魔法をかけられた人を調べられるんだけど未知の魔法じゃできないかもしれないか」

「感知魔法で……なんですか?」

「通常感知魔法の持ち主は呪いや幻覚とかの闇魔法を使われた者にかかった闇魔法を感知することはできるんだ。感知魔法は物体にかけられた魔法を特定したり人の持つ魔法を知ることができる。子供の魔法量を測定するのが魔法局の感知魔法の持ち主の仕事の1つだよ。魔法は火なら赤、水なら青っていうように体の中に巡る魔法の色が感知魔法を持ってる人は見える。無効化魔法は光と闇と同じで基本魔法を持たないから感知魔法持ちから見ると色が全くない透明で魔力を放出させて別の魔法を消させることで確定させる。というわけで人に流れる魔力の色がわかる感知魔法の持ち主には闇魔法をかけられた者の体の中に黒い靄を感知するんだ」

「闇魔法をかけられると体に黒い靄ができるのですか」

「感知魔法の持ち主が言うにはね。でも闇魔法はその人があたかも初めからその感情を持っていたとさせることができるものだからそういう闇魔法をかけられた場合は色は見えない。だけどそれが見える優れた感知魔法を持つ人がたった1人いる。現在の感知魔法の第一人者のその人は精神に作用する闇魔法をかけられた人の中にも黒い靄を見ることができるんだ。その人なら自分にかかった闇魔法も感知できる。その未知の魔法もわかるのかは判断できないけどとりあえず精神に作用する魔法に対して対抗するのなら彼は適任な気がするよ。彼に話を通してみるのは駄目かな」


『カミニャン、どう思う?』

『良い考えかもしれません。それにしても貴方のお父上は初代国王に似て聡明ですね。私が思っていたより現在のこの国のトップたちは有能なのかもしれないと考えを改めました』

『お父様を馬鹿だと思っていたの?』

『そういうことではありませんよ。ただこの国は数百年私からすると愚かな争いを繰り返していたのであの頃のような人たちはいないと思っていました。ヒロインサラもいきなり国の中枢に魅了をかけるようなことはしないでしょう。特に魔法局で権威と呼ばれる人間は研究漬けで仕事以外であまり出歩きません。サラと接触する可能性は低いでしょう。確かに秘密裏に貴方だけで動くのは難しいですから権力者に話を通しておくのは良いことですね』

『わかったわ』


「お父様、それではその人に話をしてください」

「うん、精神に作用するなら闇魔法の権威と闇魔法に対抗できる光魔法の権威にも協力してもらうのはどう?」

「あまり多くの人に話すのは良いとは思えませんが……」

「神のお告げの話をするのは兄上だけだよ」

「……陛下に話すのですか?」

「この国で起こることを陛下に話さないわけにはいかないからね。けど兄上は話を聞いてもなにもしないよ。僕はミレイアが知り得ないことを知ってたからそれが本当のことだと思って行動するけど兄上はこういう夢とかお告げとか曖昧な話は信じないからね。実際にその未知の魔法を使う女性が現れて世界を滅ぼす可能性があるとわかれば捕らえろとかって話になるよ。もちろん僕もミレイアの話を聞いたからってその子が特別な魔法を持っているとわかったとしてもなにもしてないなら捕らえようとはしないからね。ミレイアに危害を加えたとかなら別だけど。対策は考えるし研究と調査は許可するけど彼女本人へは問題を起こすまではとりあえず様子見かな。それで良いかい?」

「はい」


 レアンドロはミレイアが頷くのを見るとミレイアの膝の上のカミニャンを見る。カミニャンと目が合うとレアンドロは頷く。


「じゃあミレイアの魔法局入局を許可しよう。試験があるけどヴィクトルに教えてもらえばミレイアなら確実に合格するだろう。ただ魔法局が危険なところであることには変わりないしミレイアがこの屋敷を出るだけでも危険と隣り合わせのようなものだから護衛をつけたい。という話もヴィクトルから聞いてるかな」

「聞いています」

「じゃあ話が早いね。テオドール殿下の婚約者になる9才になったら魔法局に入れるようにしよう」

「9才……いえ、違います。今すぐです」

「神のお告げでは具体的にいつだと言ってた?」

「10年後です」

「じゃあまだ時間があるよね」

「それはそうですが」

「神のお告げは大事だけどミレイアはまだ7才だしそのことに囚われすぎて欲しくない。全部僕たち大人に任せてほしいくらいだしね。だからそんなに急いで動かなくて良いんじゃないかな」

「8才では駄目ですか?」

「……うん、じゃあテオドール殿下が8才の誕生日を迎えてからでどうかな。今殿下はチョーカーだけをつけてる状態で8才の誕生日には魔力の状態を検査するだけで9才の誕生日にチョーカーを外す予定になってる。けど殿下の魔法で強化されてるならもう安定してると考えて8才で外すという案も出てる。それを8才で外してミレイアと正式に婚約すれば良いかな」

「はい。8才で婚約することは公にしないでください」

「どうして?」

「神のお告げです」


 ミレイアとテオドールの婚約は9才。それが乙女ゲームの設定だった。その事実が変わってしまえばサラもおかしいと思うだろうというのがカミニャンの話だ。


「神のお告げね。えっと、わかった。護衛のことがあるから秘密にすることはできないけどミレイアの安全のためだと言えば国民たちに公表するのを遅らせることはできるはずだよ」

「ではそうしてください。話は今ので終わりです」


 そう言ってカミニャンを抱えて立ち上がるミレイア。


「ミレイア」

「なんですか?」


 すぐにでも部屋を出ていきそうなミレイアにレアンドロは立ち上がって手招きする。ミレイアは首をかしげてからレアンドロの目の前にいく。レアンドロはミレイアの頭をそっと撫でる。


「お父様?」

「ごめんね」

「何がですか?」

「これまで中々会えなくて」

「特に気にしたことはありません。貴族が家庭を省みないとか外に愛人がいてということはよくあることだと小説で読みました」

「え、え、違う、ってどんな小説読んでるの」

「外商が流行りの小説だと薦めてきたので買いました。買うもののリストは毎回お父様に渡ってると思っていました」

「そうだけど本の内容までは知らなかったよ。それは子供が読むにはどうなんだろう」

「シリーズもので来月新作が出ます」

「面白いの?」

「勉強にはなります」

「わかった。でもおかしなものは薦めないように外商には話しておかないとな。で、僕は家庭を省みない……わけじゃないつもり……そんなふうに見えないだろうけど、でも愛人もいないし、ミレイアのことが大好きだよ」

「別にそれが良いとも悪いとも思っていません。貴族はそれが普通だそうですから。政略結婚はそういうものだと」

「だから僕はそうじゃないんだって。マイアにもミレイアにもどう接したら良いかわからなくて逃げてたんだ」

「お父様はとっても優秀だそうですから家庭ではそれで良いと思いますけど」

「ううん、僕はミレイアを甘やかしてこうやってよしよししたりしたかったんだ」

「そうですか」

「嫌?」


 レアンドロは片膝を立ててミレイアの頭を撫でて世の女性たちを今でもドキドキさせる綺麗な顔で見つめる。もちろんミレイアがドキドキするはずがなかったがミレイアはムズムズしていた。


「嫌ではありませんがムズムズします」

「ムズムズ」

「そわそわかもしれません」

「そわそわ」

「あ」

「あ?」


 無表情だったミレイアの口元が緩んで控えめにはにかむ笑顔を見せた。


「嬉しい、です」


 自分の今の気持ちが嬉しいだと気付いたミレイア。そのあまりの可愛さにレアンドロはミレイアを抱き締めた。カミニャンはタイミング良くぴょんと床の上に飛び降りた。


「可愛い。可愛いよミレイア。テオに渡すのが惜しいよ」

「お父様苦しいです」

「あ、ご、ごめんね、そうだ」


 レアンドロはミレイアから離れると机の上に用意していた小包を手にしてミレイアに見せる。


「遅くなったけど誕生日おめでとう」


 毎年ミレイアに会いづらくて誕生日おめでとうのメッセージとプレゼントを執事を介して渡していたレアンドロが初めて直接ミレイアにプレゼントを渡す。


「ありがとうございます」


 もう無表情に戻っていたミレイアはそれを受けとる。


「開けてごらん」

「はい」


 ミレイアが小包を開けると緑色の髪飾りが入っていた。レアンドロはミレイアの髪の毛にその髪飾りをつけると衝撃が走る。


「え、可愛すぎる」

「あの、ありがとうございます」

「可愛い」

「お父様?」


 もはや可愛いしか考えられないレアンドロにミレイアは無表情のまま戸惑っていたが書斎の時計を見るといつも支度をして眠る時間が近かった。


「あ、あの、私そろそろ寝る時間です」

「え?あ、そうだね」


 ミレイアは夜の21持に寝て7時に起きる子だった。自分のペースを崩さないミレイアをレアンドロはもう一度抱き締めたあと立ち上がってドアを開けた。


「お父様は?」

「ん?」

「お父様はまだお休みにならないのですか?」

「帰る前に仕事を持ってこられちゃったからここでまだ仕事するよ」

「そうなのですか。では、おやすみなさいお父様」

「うん、おやすみミレイア」


 ミレイアはカミニャンを頭に乗せて部屋を出ていった。

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