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歓談

 いつも通り王妃教育を受けてから王宮にある庭に向かうミレイア。そこにはテオドール、シャルル、ダミアン、ジョセフの4人とその後ろに護衛や侍女たちがいた。4人のそばにはヴィクトルがいて何か話していた。ミレイアに気付くとヴィクトルも後ろに下がりテオドールたちは椅子から立ち上がった。


「や、やあミレイア」

「殿下、ごきげんよう」


 ミレイアに会えることを楽しみにしていたと同時に緊張していたが友人たちの前でカッコ悪い姿を見せないようににこやかに挨拶するテオドールにいつも通り無表情のミレイア。


 シャルルは魔法局以外で初めて会うミレイアに元気よく両手で手を振る。ミレイアはそれに頷いて応える。


「シャルルは魔法局で会ってるんだよね。この2人を紹介するよ。ダミアンとジョセフだよ」

「初めまして。ミレイア・オルガンよ」

「お会いできて光栄です。ダミアン・アビンソンと申します。以後お見知りおきを」


 現宰相の息子ダミアンは銀髪に紫色の目をした美しい子供だった。


「ジョセフ・カルセルです」


 言葉少ななジョセフは青髪に青い目をしたこちらも美しい子供だった。


 人の顔の美醜などわからないミレイアだったが使用人たちがミレイアについている妻帯者な3人の護衛をかっこいいと騒いでいたりシェフや庭師はかっこよくはないけど良い人だと言っているためこの2人もかっこいいと呼ばれる部類の者なのだろうと考えていた。


「わーテオ!!テオ!!僕も紹介ってやってー!!」

「え?シャルルとミレイアはもう知り合いでしょ?」

「ダミアンみたいにやりたいー」

「テオ、煩いからやってあげなよ」

「う、うん、ミレイア、シャルルだよ」

「……知っておりますが」

「ちょっとー!!のってよーミレイアの意地悪ー!!」

「……のるとは?」

「初めてのご挨拶みたいにやってよー!!」

「……ミレイア・オルガンよ。初めましてアーティス様」

「えー!!いつもみたいにシャルルって呼んでよー!!」

「……シャルルが初めての挨拶をと言ったのでしょう」

「むむむー……じゃあもう良いや!!ミレイア、遊ぼうよ!!」

「ストップストップ!!」


 テオドールが慌てて声をあげる。ミレイアとシャルルは首をかしげながらテオドールを見る。


「シャルルはミレイアと魔法局で少し話しただけなんでしょ。なんでそんなに親しげなの」

「えーだってダミアンとジョセフが秘密って言うからー」

「秘密?どういうこと?」


 戸惑いながらテオドールはダミアンとジョセフに視線を向ける。2人はため息をつく。


「仕方ないでしょ。オルガン嬢に相手にされてないテオにシャルルがオルガン嬢と親しいなんて話聞かせられないよ」

「シャルルにはお前がショックで死ぬかもしれないと言った」

「テオが死んじゃうのは困るから内緒にしてたんだよー!!」

「そんなあ……。呼び方も……」

「殿下、それはシャルルが家名ではなく名前で呼んでほしいと言うので」

「僕は名前で呼んでもらえないのに……そうか、シャルルは僕と違って明るくて元気だしシャルルの方が良いのかな」


 うじうじするテオドールにミレイアは再び首をかしげダミアンはため息をつきジョセフはシャルルの頭を小突いていた。


「殿下、シャルルの方が良いとはどういうことですか?」

「僕も名前で……いや、呼んでほしいけど無理なんだろうな、でもなぁ……」

「まあまあ、とにかく座って話でもしようじゃないか」


 ダミアンが促し1人を除いてテーブルを囲んで席に座る。


「……何をしているの?」


 席に座らなかったジョセフはおもむろにしゃがんだり立ち上がったりを繰り返し始めた。


「ああ、それはスクワットですよ」

「スクワット?」

「ジョセフ座ってるとすぐ眠っちゃうから運動してなきゃいけないだってー」

「……そうなの。おかしな人ね」

「そうでしょージョセフって変人なんだよー」

「お前に言われたくない。俺は好きでやっている」


 スクワットをしながらジョセフが言う。


「まあそのうち慣れますよ。ジョセフは勉強も運動しながらでないとできませんからこういう人だと思ってください」

「わかったわ」

「それにしても本当に黒猫を普通に乗せているのですね」

「カミニャンよ」

「ええ、カミニャン様ですね。聞いてますよ」

「カミニャン研究室でもミレイアと一緒だよー」

「ずっと頭の上に乗せてるわけじゃないわ」

「オルガン様、お猫様はこちらに」

「お猫様?」


 王宮の侍女がミレイアの隣の椅子を引いた。1席多いと思ったがそういうことかとカミニャンをその椅子に乗せる。


『確かにカミニャンは神の使いで偉いのだけどお猫様とはおかしな呼び名ね』

『貴方の飼い猫だからと高貴な猫扱いのようですね。私は猫ですからなんでも良いのですが』

『そう』


「ねーねーミレイア、木登りよー!!」


 座ったばかりだというのに早くもシャルルがミレイアの手を取ってお茶を用意しにきた侍女の横を通りすぎ、近くの木の側に行く。


「こうやって登るんだよ」

「そう」


 自然の流れでミレイアも木に手を伸ばそうとすると侍女たちが慌てだす。


「駄目ですよシャルル様!!」


 護衛たちもおろおろする中ヴィクトルが側に来て制止する。


「降りてきてください」

「ちぇーヴィクトル先生の意地悪ー」


 シャルルが大人しく木から降りてくる。


「ミレイア様もやろうとしてはいけません」

「いけないことでしたか?」

「いけません駄目です。ご令嬢は木登りなんてしません」

「そうでしたか。シャルル、木登りは駄目だそうよ」

「えーつまんなーい」

「つまらなくないです。ご歓談をしてください。大人しく」

「お父様みたいなこと言うー。つまんなーい。ヴィクトル先生のばーか」

「馬鹿で結構です。大人しく席に戻ってください」

「ちぇー」

「ミレイア様もです」

「はい」


 最後の授業以来のヴィクトルをミレイアはじっと見つめる。


「お嬢様と言われないのは不思議です」

「もう先生ではありませんからね」

「シャルルではありませんがオルガンと呼ばれなくて良かったと思いました。なぜでしょう」

「そうですね、それほど私のことを身近に感じてくださったのかもしれませんね。そうです、逆もありますよ」

「逆ですか?」

「お話ししてミレイア様が仲良くなりたいと思ったら名前で呼んでみたら良いですよ」

「なるほど。わかりました」

「殿下のことも名前で呼んでみては?」

「いえ。特に殿下と仲良くしたいとは思いませんので」

「そ、そうですか」


 それを聞いていたテオドールは目に見えてショックを受けてダミアンとジョセフは笑いが止まらなくなっていた。


「シャルル様、見てください。殿下が青ざめて死にそうです。大変です」

「あれー?ほんとだー!!テオ大丈夫ー?」


 ヴィクトルがそう言い、シャルルは駆け寄ってテオドールの肩を揺らしたりしてみた。シャルルは自由に育てられて周りもシャルルをルールに縛り付けるようなことをしなかった。シャルルを叱りつけるのは親かヴィクトルくらいでそれすら言うことを聞く時と聞かない時があった。


 テオドールたちと親しくなって少しは協調性も見られるようになったが好き勝手は相変わらず。テオドールの困った顔を見るのも好きだ。だがテオドールが本気で嫌がることはしないしテオドールが死んでしまうと聞けばミレイアと親しいことも秘密にするし心配もする。


「シャルル、ミレイアとそんなに親しいの?」

「うん!!仲良しだよ!!一緒に研究してるもん!!」

「シャルルはヤンと一緒に研究してるんじゃなかったの?」

「ヤンも一緒だよ!!でもそうじゃない時もあるよ!!」

「シャルル、ミレイアと手繋いでたね」

「うん?うん!!」

「シャルル、異性で婚約者じゃない人とは手を繋いだらいけないんだ」


 ダミアンが言う。


「そうなのー?」

「正確には不用意に触っちゃ駄目だよってことだよ。ダンスとかエスコートする時以外に婚約者以外の女の子に触れちゃ駄目なんだ。見てごらん、テオがショックで死にそうだ。テオが死んだら嫌だろう?」

「うん!!僕テオが死んだら嫌だからもうしないよ!!」


 レアンドロによる回復魔法でいくら仕事をしても体力的には疲れない必殺奥義を行使されて馬車馬のように働かされているが策略家で有能な宰相の息子ダミアンも同じように有能な男だった。


「ミレイア様も気を付けてくださいね。シャルル様と同じようにしていては貴族社会でやっていけません」

「わかりました」


 ヴィクトルの言葉にミレイアはこれまでのシャルルを思い返し、道理で幼い頃の教育や王妃教育と逸脱した行動をしていると思ったと納得した。


 ミレイアにとってシャルルが初めて会った貴族の子供だったがダミアンやジョセフ……ジョセフは変わっているが2人のような態度が普通なのだと思ったミレイアは、ここは大人しくご歓談するのが貴族の普通だとテーブルに戻った。


 ヴィクトルは安心して元いた位置に戻った。侍女や護衛たちもほっとしてさすがヴィクトルだと尊敬した。ミレイアの付き添いでエマも来ていたがここは職務に忠実にレアンドロに報告しないといけないがミレイアが同世代の子供たちと上手くやっていると聞けば喜ぶだろうと使用人仲間たちにも伝えようと意気込んでいた。それからヴィクトルが頼もしかったとナタリーに教えようとも思った。


「ミレイアはシャルルと一緒に研究してるの?毎日一緒なの?」

「魔法局に行くのは毎日ではありませんから違います」

「魔法局にいる時はずっと一緒なの?」

「ずっとではありません。シャルルは自由にどこかに出かけたり戻ってきたりしていますから」

「僕も魔法局に入ろうかな」

「許可されないだろうね」

「ミレイアはシャルルとどんなことを話すの?」

「研究の話です。研究内容は部外者に話せません」

「う……そ、そうだよね」

「こほん。オルガン譲、そのピアスはテオが誕生日に贈ったものではありませんか?」

「ええそうね。侍女たちにこれをつけさせてほしいと頼まれて」

「頼まれたんですか」

「そうよ」


 聞いたダミアンも腕立てをしていたジョセフも笑いを堪える。


「ふーん、ねえミレイア、それも魔力を込めると色が変わったりするの?」

「私もそうかとお父様に聞いたら違うと言われたわ。なんのために贈ってきたのかしらね」

「似合うと思ったからだよ!!……あ、えっと、ごめん大きな声を出して」


 大声を出したテオドールはじっと見つめるミレイアに謝罪する。


「いえ、別に気にしません」

「だ、だよね」

「それではオルガン譲が欲しいものは何ですか?」

「欲しいもの……ないわね」

「花束は嬉しかったですか?」

「手紙には嬉しいと書いてるけどあれは毎回お母様や使用人たちが言うことを書いてるわ。私はなんとも思ってないもの」

「「だと思った」」


 腕立てをする腕を震わせていたジョセフもついに堪えられなくなりダミアンと一緒に笑い出す。


「オルガン嬢からの手紙の内容は公爵夫人か使用人が決めてると思いましたよ」

「で、でもミレイアが書いてくれてるんでしょ?」

「そうですね」

「だよね、ほら、良かった」

「オルガン嬢、手紙に最近あった出来事を書いてみてはどうですか?」

「最近あった出来事?」

「そうです。何があってどんなことをしたのかテオに教えてくれませんかね」

「なぜ?」

「テオはオルガン嬢のことをもっと知りたいと思ってますし」

「別に知らなくても良いと思うわ」


 だって政略結婚だしサラが現れたらテオドールはサラに惚れて世界が崩壊するかもしれないんだもの、そうミレイアは頭の中で思った。


「オルガン嬢はそうでもテオは違いますから。毎回オルガン嬢のおおよそ本人が思ってなさそうな、この花が散る前に貴方にお会いできないかと思ってしまいますとかって読んでは幸せに浸ってるんですから」

「そんなこと書いたかしら。エマとロゼットね」


 結婚しないと宣言しているエマだが恋文は面白いと言ってロゼットと一緒になってロマンチックな手紙の内容を考えていた。ミレイアはそれを何も考えずただ書いているのだ。


「ミレイアは使用人と仲が良いんだってね。レアンが言ってたよ」

「そうですか。普通だと思いますが」

「そんなことないよ。使用人を人とも思わない貴族だってたくさんいるだろうし」

「確かに祖母はそうだと聞きますね」

「だからミレイアは優しいね」

「そうなのですか」


 黙って話を聞いていたシャルルだったがどんどん飽きてきていた。


「ねえねえ!!ミレイア!!遊ぼうよ!!」

「でもシャルル、今日はご歓談だそうよ。遊んではいけないってヴィクトル先生も」

「でも飽きちゃった!!そうだ!!木登りが駄目なら魔法で遊ぼうよ!!」

「魔法で遊ぶ……とは?」

「テオのゴーレムすごいんだよ!!それにダミアンもお父様みたいに氷をシャキンシャキンってさせるしジョセフは雷を剣に纏わせてシュパッてかっこいいんだ!!」

「殿下は地の魔法持ちですし、アビンソン様は氷魔法、カルセル様は雷魔法を持ってるのね」

「俺の雷は陛下の足元にも及ばないが」


 王族だからと特別な魔法はない。雷は珍しい魔法の1つではあるがその魔力の大きさは人によって様々だった。


「ねぇ見せて見せて!!テオ良いでしょー!!」

「え、だ、駄目だよ。危ないよ」

「テオの力の半分の半分の半分の半分の半分の半分の半分くらいにしたら良いよー!!」

「無理だよ。ミレイアを傷つけちゃったら大変だよ」

「えーでもミレイア魔法好きだよ。見たらミレイアもテオに興味持ってくれるよ!!もうフラれないよ!!」

「僕やるよ」


 まんまとシャルルに唆されたテオドール。それにまたもや護衛や侍女たちは慌ててヴィクトルが駆け寄る。


「駄目です駄目ですよ!!今日はミレイア様も侍女たちだっているんですからね!!」


 チョーカーが外れてから専任の魔法教師の元で教わってるテオドールだが上達が早く魔力量のみならずコントロール力も素晴らしいものだった。それをシャルルが見たいと言って聞かずヴィクトルがシールド魔法の使い手の都合がつく時だけに限り魔法を使うことを許していた。


「お願い!!僕の闇魔法は使わないよ。使っても悪いことはしないけど」


 ルールに縛り付けることはしないシャルルだが約束を守らせていることがある。それは闇魔法を使って悪さをしないことだ。魔法局入局の試験に最年少で受かるほどシャルルは頭が良く、無邪気で無鉄砲ではあるものの闇魔法による過去の悪行を文献で読み、自分の魔法の危険さは理解していた。


「先生、私のシールド魔法で侍女たちの前に壁を作ります」

「え、ミレイア様まで……」


 ミレイアはシャルルが自分に見せたいと思っているからと協力することにした。それに少し同世代の魔法の力に興味があったのも事実だった。


「先生、俺たちも本気の半分の半分も力を出さないようにしますから」

「俺もです」

「し、仕方ありませんね。特に殿下は本当に小さいゴーレムにしてくださいね」


 そうしてミレイアと、護衛の中にいたシールド魔法持ちのシールドとで二重に壁を作った。


 まずテオドールが10センチ程のゴーレムを4体作った。そのゴーレムはミレイアに向かって礼をしたあとペアでダンスを始めた。


「すごい……」


 ミレイアは無表情ではあったが驚いていた。魔力が多い人はその魔力をコントロールするのが難しい。大きな魔力のまま無遠慮に放つ方が簡単なのだ。それをこんな小さなゴーレムをそれぞれ動かすほど繊細なコントロールを9才という年でできるテオドールはまさに天才だった。


 続いてダミアンがゴーレムたちを囲うようにいくつもの氷柱を作った。それはゴーレムに合わせた小さなものだったが中にはゴーレムの形をしたものや花の形をした氷柱もあった。最後に一瞬で氷柱だけを狙って雷が落ちた。単純だが正確に狙うことができるほどコントロールが必要な技だった。それと同時にゴーレムも土に還った。


「ね、ね!!ミレイア!!すごいでしょ!!」

「ええ、驚いたわ」


 見ていた侍女や護衛たちも驚いて呆然としていた。殿下に至っては本格的に魔法の訓練をし始めて1年しか経ってない。にも関わらず3人ともすでに精鋭の近衛騎士と同等の力を持っていた。


「でしょでしょ!!3人ともすごいんだよ!!」

「……良かった、ミレイアに怪我させなくて」


 興奮するシャルルとは対称的にテオドールは一安心していた。


「テオ、ダンスなんてさせられたんだ」

「う、うん」

「さすがだなテオ」

「すごいすごい!!さすがテオだね!!」


 3人でテオドールを取り囲みシャルルがテオドールの髪の毛をくしゃくしゃにしダミアンとジョセフが肩を小突く。とても王子に対する態度とは思えないがこれが4人の姿だった。


『カミニャン、この4人がゲームの中では婚約者を断罪するのよね』


 椅子の上で丸まっていたカミニャンに頭の中で話しかけるミレイア。


『そうですね』

『この4人の性格がゲームとは変わっているのかしら』

『さあどうでしょう。ゲームの中でも4人はとても親しかったですから婚約者への接し方は変わらないのかもしれません』

『婚約者のことが嫌いなのかしら。婚約者の女の子たちはどう思っているのかも気になるわ。前は私自身のことしか考えてなかったけどその子たちは彼らに断罪されるようなことをするけどそれだけ好きってことよね。彼らだって悪い人ではないのにそれではなんだかやるせない気がするわ。特にシャルルなんて人を嫌いそうにないのに』


 ミレイアは自分がこんなにも誰かの気持ちを考えることがこれまであっただろうかと思いながらカミニャンに話す。


『サラの魅了魔法のせいで彼らの人生が狂ってしまうのは止めたいわ。魅了で世界を崩壊させることを防げたとしても彼らが婚約者と上手くやっていけないなら意味がないもの』

『ゲームの中ではサラに出会う前から4人とも婚約者との関係は上手くいっていなかったようですからね』

『そうなの。それにしてもいつまでああしているのかしら』


 ミレイアがカミニャンと話している間も変わらずテオドールたちはじゃれあっていた。その姿は楽しそうだったがミレイアは少しモヤモヤもした。


『このモヤモヤはどういう感情なのかしら』

『羨ましいのではないですか?』

『羨ましい?』

『男の子たちの友情というのは素晴らしいものだと言いますからね』

『そうなのね。羨ましい……。けど本来腕輪やチョーカーを外すまで他の子供に会えないはずの殿下にこんなに親しい友達がいるのに私にはいないとは思うわ』

『おや、友達が欲しかったのですか?』

『そういうわけじゃないけど。あの4人……他にもナタリーやエマとか、ヘラルド様とヤン様もそうね、彼らを見てると私にもそういう存在がいたらいいのにと羨ましいような気がするわ』

『せっかくですし彼らの婚約者と会って彼らとの関係を確認しつつ婚約者の女の子たちと友達になってはいかかですか?』

『友達になれるとは限らないわ』

『会ってみるだけ会ってみてはどうです?』

『そうね、わかったわ。そうする』


 そうしてこの日はそのまま解散することになった。テオドールとしてはもっとミレイアに魔法の感想を聞いたり話してみたかったと思っていたが帰り際にミレイアはテオドールに魔法がすごかったことと手紙にその日あったことを書いてみると言った。どういう心境の変化だとダミアンたち含め思ったがミレイア自身もわからなかった。ただミレイアの中で優れた力を持つテオドールに少しだけ興味が湧いたのは確かだった。


 その日の夜、食事の席で今日の歓談はどうだったのかとレアンドロに聞かれたミレイア。


「それよりお父様、お願いがあります」

「それより……上手くいかなかったんだ、やった。うん、どうしたの?」

「シャルルとアビンソン様とカルセル様の婚約者に会わせてもらえませんか」

「え?どうして?」

「彼らの婚約者との関係を確認するためです」

「え?なんで?」

「それに」

「それに?」

「殿下は彼らととても親しげでした。羨ましいような気がしました」


 レアンドロはもちろん聞いていたマイアや使用人たちが一斉に噎せたりと驚く。


「ミレイアはお友達が欲しくなったの?」


 マイアが嬉しそうに聞く。


「ミレイアも友達が欲しいお年頃になったんだね」

「ええレアン様、ミレイアがついに魔法以外に興味を持ってくれたわ」

「そうだねマイア。嬉しいね。魔法、研究にしか興味がなかったミレイアがお友達が欲しいなんて言い出すなんて」


 感動する両親とそわそわと喜んでいる使用人たちを見てミレイアは焦る。


「べ、別に友達がほしいと言ったのではないです」

「ん?いやいや、絶対友達になれるよ。だってミレイアはこんなに可愛いんだから」

「そうよ。ミレイアなら絶対お友達ができるわ。頑張ってね」

「わ、わかりました。でもそういえばシャルルだって友達な気がします」

「女の子の友達は特別だよ。女の子同士できゃっきゃしてるミレイアは可愛いだろうね」

「そうですわね、ミレイアはとっても可愛いわ」


 テンションが高い両親に戸惑いつつもミレイアは食事を続けた。

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