変化
レオナルドが生まれて国宝の調査は遠退いてしまった。というのも原因はわからないが国宝を強化魔法で加工できるようになったということは王族に不利に働くように加工できる可能性もないとは限らないという話になったのだ。そのため今保管しているものはさらに厳重に保管しレオナルドが3才になって国宝を使う者がいなくなってから調査をすることになった。
ミレイアは魔力を物に込められるようになったが結局のところ2つの魔力を込めるのは権威たちが試していた。だが色が変わるだけの鉱石があるのだからと珍しい石を見つけては魔力を込めてみていた。
「んーこれで最後っすね」
「結局駄目だったかー」
「ま、しゃあねえな。とりあえず対抗策は他に考えるか」
「ねえねえーところでさあ。その色が変わる鉱石ってさー魔力込めないといけないんでしょーその子って魔法使う時かけるだけで魔力込めようとはしないから意味ないんじゃないのー?」
いつものように権威たち全員が揃った研究室でシャルルの言葉に静まり返る。
「ああ!!確かにそうだね!!」
「本当だな!!色が変わる不思議鉱石ってのの発見に注目してて気付かなかった!!」
「え、今さらっすかヘラルドさんヤンさん」
「なに!?気付いてたのかおめえら!!」
局長とシルヴィオとカルリトは苦笑いして頷く。ミレイアも例えサラに接触しても直接宝石に魔力を込めるわけじゃないからそこをどうにかしないと証明にはできないと思っていた。
「なんだーそれならそうと言ってよー」
「ヘラルドさんもヤンさんも研究好きなくせに抜けてますよね」
「うっせえ!!てめえは局長のくせにボケボケじゃねえか、昨日もまた魔法局の予算削って騎士団に持ってかれやがって」
「じゃあ局長代わってくださいよ」
「やなこった、そんな面倒な役」
「まったくもう……。騎士団長の圧力怖いんですからね」
「ジョセフのお父様怖くないよー」
「シャルルにはね。いっそシャルルに予算会議行かせたら良いのかも」
「駄目っすよ。そんなことしたら会議が滅茶苦茶になりますって」
「はあ……。あれでどれだけ精神的疲労が酷いか」
「局長、カミニャンです」
「ああ、ありがとうございます」
膝に乗せていたカミニャンをミレイアが局長に渡す。近頃カミニャンがミレイアの頭に乗ってようが肩に乗ってようが膝に乗ってようが気にするものはいなくなった。新しく出会う者がいないからだがミレイアは猫と一緒にいるものだとみんなが認識していた。
「それで、魔力を込めるわけじゃねえならどうやって色を変えるんだ?」
「ええ、それで呼んでる人がいるんです。その人がもうすぐ来るのでとりあえずミレイアさんは隠れていましょうか」
カミニャンを撫でて元気になった局長がカミニャンをミレイアに返して研究室のラックの裏に隠れさせる。それと同時に扉がノックされる。
「局長ー何の用ですかー?」
「やあ、待ってたよ」
「げ、光に闇に感知の権威……?なんですかこの面倒な空間。帰って良いですか?」
入ってきたのは吸収魔法の権威。25才の若さで前の吸収魔法の権威から才能あるからチェンジだと任されてしまったが厄介なことが嫌いな青年だ。
「ちょっと試してみてほしいことがあるんだ。この鉱石に吸収魔法を込めてくれないかな」
「はい?吸収魔法を込めた石ならいくらでもあるでしょうに」
「ちょっとこの鉱石は特別でね。こうやってただ魔法を放出しただけだと何も変わらないけど込めると色が変わるんだ」
局長が水を放出させても何も変わらない鉱石に吸収魔法の権威は興味なさそうにさっと魔力を込めた。灰色に変わった鉱石を見て言う。
「これで良いですか?厄介なことに巻き込まれたくないんであとは他の吸収魔法持ちに頼んでくださいね」
そう言って早々に部屋から出ていった。
「色が変わってるのに何も反応しませんでしたね」
カミニャンを抱いた状態のミレイアが席に戻りながら言う。
「彼は研究に興味がない人ですからね」
「そういう人もいるんですね」
「魔法局は給料良いですから就職先として有力なんですよ」
「でもあいつ女にも興味ねえしどこに金使うんかね」
「人にはそれぞれ好きなものはありますから。みんなヤンさんと同じではありませんよ」
「でもああいうやつが惚れる魔法なんて使われたら豹変しそうっすね」
「確かにそうだね。局長、ぼーっとして機密情報盗まれないようにしないと」
「ではヘラルドさん局長代わってください」
「それは嫌だね。とりあえずカルリトつけときゃ虹色魔法感知できるしそれで良いじゃん」
「そうなると局長どこに行くにもカルリトさんと一緒っすよ。説教で疲れそっすね」
「私は局長にはお説教をしてないと思いますけど」
「とにかく魔法局内でそんなことが起きたら困りますからね……何か手を打たなくてはいけません。とりあえず今わかっていることだけでも陛下とレアンドロ様に報告して対策を考えましょうかね。で、この吸収魔法を込めた鉱石ですが」
局長がそう言うと全員鉱石に注目する。
「闇魔法で試してみましょうか。ヤンさん、シルヴィオに闇魔法をかけようとしてください。シルヴィオはこれを持っていて」
そうしてヤンが灰色に変わった鉱石を持つシルヴィオに闇魔法をかけてみるとシルヴィオの持つ鉱石が真っ黒に変わった。
「成功ですね。これをネックレスにでもして身に付けていれば魔法をかけられた時に色が変わります」
「けど誰も彼もにつけてられないっすよね」
「そうだね。突然変異魔法持ちを特定してその人が魔法で悪事をしていたらまだ見つかってない対抗策で対抗するということになりますね」
「けど過去の突然変異魔法持ちは悪いことに使ってたからなー」
「今までは自分からと周りから唆されたからと周りから強要されたからとって違いはあるがほぼ悪事に使ってたからな」
「突然変異魔法を発現するのは子供ですからね。その力を知ったら自分でも周りでも使おうとしてしまうものなのかもしれませんね」
この国では18才で成人とされるためこれまでの突然変異魔法持ちはその前に発現させ何らかの事件を引き起こしてきた。
「ねえねえミレイアーミレイアって明日テオに会うんでしょー」
「そうね」
大人たちが意見を交わしていてもシャルルには関係ない。シャルルの話はいつも唐突だった。
「僕も一緒なんでしょー?」
「そうだと聞いているけど?」
「じゃあ木登りして遊ばない?」
「木登り?」
「こらこら、遊びにいくんじゃないんだから。殿下とミレイア嬢のお茶会だよ」
「えーでもつまんないよー僕たちだけだから遊んでも平気」
「遊んでないで歓談してるんだよ。社交だよ社交、大人しくしててよね」
結局そのままシャルルの提案はうやむやに終わってミレイアは家に帰った。
先月テオドールが9才の誕生日を迎えた。それによって公にもミレイアとの婚約が発表され再び儀礼の歓談をした。レオナルドを連れて主にレアンドロが娘息子を自慢する会になった。
そこからミレイアの生活はがらりと変わった。まずヴィクトルの授業が終わった。だがヴィクトルは王宮勤めをして殿下たち未来の国を支える子供たちのお守りをしている上にレオナルドが3才か4才になればまたオルガン公爵家に通ってレオナルドの家庭教師になることが決まっているためこれからも会うだろうと最後の授業でもさっぱりしたものだった。
そして王妃教育を受けに王宮へ通うようになった。語学など座学以外にお辞儀や挨拶の仕方など既に習っていることもより洗練してできるようにしたりダンスや本を乗せて頭を動かさずに歩いたりする練習もしたがカミニャンを頭に乗せているからかミレイアはバランス感覚に優れていた。
それに王宮で学ぶ以外の日には教会へ慈善活動もする。先代国王の時代から少しずつ平和な国を実現させるため王太后や今の王妃がまだ婚約者であった頃から積極的に慈善活動をしていた。ミレイアも絵本を読み聞かせをしているが子供たちの大半は抑揚のない読み聞かせを聞くよりカミニャンと遊んで楽しんでいる。
本当ならそれ以外に魔法の勉強も追加されるはずだがミレイアは既に魔力を物に込められるようになっているため免除となった。ミレイアは公にも魔法局で研究員として認められることにはなったがやはり安全のため王宮に勤める一部と限られた権威たちにのみ知らされるようになった。
そして公の婚約儀礼後初のテオドールとミレイアのお茶会という名の交流会が明日行われる。一応テオドールからの贈り物や手紙のやり取りを重ねているがミレイアはマイアや使用人たちの言うことをそのまま書いているだけだった。
テオドールも友人たちにどうせそんな感じだろうと言われそんな気がしているがレアンドロが持っているマイア直筆の手紙と筆跡が違うし使用人が王族への手紙を代わりに書くはずがないと思って少なくともミレイアが自分で筆を手に取って書いてくれているであろうと思い幸せに浸っていた。
明日はテオドールだけでなくシャルルとダミアンとジョセフも一緒だ。テオドールとミレイアだけでは話ができないだろうと昔国王と王妃の間を取り持っていたレアンドロが提案した。護衛が控えているとはいえテオドールとミレイアを二人きりにしたくなかったからでもある。レアンドロはどう調整しても外せない会議が入っているため同席できないのだ。
家に帰ったミレイアは結婚して仕事を辞めるため最近出勤日を減らして引き継ぎをしているナタリーを見つける。
「お帰りなさいませお嬢様」
「ただいま。結婚準備は進んでるの?」
「あ、は、はい……」
ナタリーとヴィクトルはトントン拍子で結婚まで話が進んだ。それもこれもヴィクトルは結婚を前提に交際をしていて周囲にも結婚したい人がいると報告していた。
ヴィクトルとしては子爵家に入ればもう実家も継がなくて良いしスネイガン家に連なるものとしての責務も減るだろうという気持ちで報告したのだが周りはそうは受け取らなかった。
レアンドロと国王は、ヴィクトルが結婚して婿入りするならその家は侯爵へ爵位をあげるべきだと考え実現することになった。自分が婿入りすることで爵位が上がってしまうなど予想だにしないことでヴィクトルは心底驚いた。ナタリーもナタリーの家族も驚いた。
しかしナタリーの家族はそれだけ素晴らしい人が娘との結婚を決めてくれたんだと喜び結局未だに戸惑っているのはヴィクトルとナタリーだけだった。しかもナタリーは、侯爵夫人であれば公爵家とも出席するパーティーがほとんど一緒になるため、まだ社交ができてないマイアが遅い社交デビューをする時に心強いとマイアとレアンドロから頼りにされている。
「結婚式楽しみにしてるわ」
「は、はいー……まだ実感がないのですけれど」
「もう新居も建ってるじゃない」
「不思議です。私もヴィクトルさんもなにもしてないうちに屋敷ができてて」
「それがヴィクトル先生を囲いこみたい王家の力よ」
「それだけヴィクトルさんが頼りにされているんですものね。はあ……本当に私で良かったのか」
「ナタリーさーん!!マリッジブルーですか!?」
そこに駆け寄ってきたのがエマだ。
「エマ、あなたはおおざっぱなところがあるのだから気を付けるのよ。ロゼットが真似してしまうでしょう」
「はーい」
「淑女としての態度も見直すこと。間延びした返事もいけません」
「はい!!お嫁さん飛び越えて小姑みたいですねナタリーさん!!」
「そういうところを見直すのよ。お嬢様が淑女とはこんないい加減なもので良いのかと勘違いしてしまうでしょ」
「平気よ。エマはエマだもの。エマみたいな淑女もいればナタリーみたいな淑女もいるのでしょう。エマはちゃんと品もあるし淑女のお手本だわ」
「お嬢様わかってらっしゃいますねー」
「……大丈夫かしら」
「大丈夫ですよ!!今度また侍女長が学園に行って行儀見習いをスカウトしてくるそうですよ。だから私は私らしく!!」
「そう……なら良いけれどお嬢様に恥をかかせるようなことはしては駄目よ?」
「わかってますって侯爵夫人!!」
「ま、まだなってないわよ」
「大丈夫です!!お上品だけどおっちょこちょいでお茶目なナタリーさんはナタリーさんらしくで!!ヴィクトルさんもそんなナタリーさんだから結婚したいと思ったんですよ!!」
「エマ……!!ありがとう」
「いえいえ、奥様についていってパーティーでナタリーさんがそわそわしてるところ見るの楽しみにしてますね!!」
「ああー……止めて、今から緊張する、奥様の期待の籠った目を裏切れないけど私が緊張する。だって子爵令嬢なんて誰も注目しないもの。それがヴィクトルさんの隣で注目されないわけがないわ。どうしましょう」
「大丈夫ですって。おそらくそのパーティーで一番目立つのラブラブ夫婦の旦那様と奥様ですから」
「そ、それもそうね、さすがねエマ」
「仕事に生きる女エマですからね!!」
学生時代からの仲だという2人のやりとりを見つめながらミレイアは少し自分ではわからない感情を感じるのだった。