誕生
外商のガエルに聞いたところ、あの鉱石はアンダシア帝国内で採れた魔力を込めると色が変わるものだとわかった上でただ色が変わるだけでなんでもない鉱石だと思ってミレイアに渡したそうだ。
だがこれは魅了魔法を使われた証明にすることができそうなものだ。本人に接触しなければ意味がない上に対抗手段ではないのは残念だが一歩前進だ。魔法局で正式にこの鉱石を買っておくことになった。
そしてミレイアは8才の誕生日を迎えた。今までとは違い両親揃ってディナーをしたりシュゼットとロゼットを中心に賑やかな1日になった。
さらにテオドールからは大きな花束とエメラルドのピアスが贈られた。ミレイアはこれも魔力を込めると色が変わったりするのかと思いレアンドロにやってほしいと頼んだがレアンドロもプレゼント選びに携わっていてただの宝石だと言うと興味をなくしてしまった。
マイアが慌てて「羨ましいわ」と言うと「ではお母様にあげますこの花束も一緒に」と答えた時には使用人も含めて大慌てしてしまった。結局ナタリーが花束を「可愛くて飾りがいがありますね」とミレイアの部屋に飾りたいアピールをしたりロゼットが「このピアスをつけておめかしさせてもらえるのが楽しみだ」と言い、使用人たちが楽しそうだからまあ良いだろうという気持ちにさせた。
そして「お礼の手紙を書いたらどう?」とマイアに言われ「代わりに書いてください」と答えたミレイアに「お部屋が華やかになりましたとかおめかしするのが楽しみですと書いたら良いのよ」と言うマイアの言葉をそのままそれだけ手紙に書いた。
この一連の出来事を見て普通にミレイアに変なものを渡さないようにアドバイスしたレアンドロはミレイアのお願いに応えられなかったのは心苦しかったがテオドールにはまったく興味がないことがわかって喜んだ。
ちなみに殿下だからとテオドールからのプレゼントを先に渡していてレアンドロがガーネットの付いたネックレスをこれも色は変わらないけどマイアとお揃いで買ったと言って渡すとすぐに付けてほしいと言うほど喜んでいた。
まだ婚約を公にできないためテオドールと直接会うことはできない中テオドールとミレイアの距離を縮めようと周りは気にかけているがミレイア本人は研究のことと大好きな父母、それからまだ生まれてない弟のことで頭がいっぱいだった。
それからさらに数ヶ月後、ついにミレイアが魔力を物に込められるようになった。同じ頃各領主たちへの調査も完了したが変わったことはなにも見られなかった。
そんな今日のミレイアは王宮に来ていた。テオドールに会う目的ではなく数日前から王宮にある特別な部屋で出産するために王宮に泊まっているマイアに会いに来たのだ。マイアが出産のために王宮にいるのは王宮に出入りする者には周知のことだったためいつもの護衛と公爵家の馬車で移動する。狙われやすいが大々的に警護を固められるためこっそり移動するより安全だと判断された。
王宮につくとマイアがもう出産しそうだと聞いて無表情のまま頭に乗せていたカミニャンを抱き寄せる。
『大丈夫ですよ』
『そうよね』
急いで向かい地下にあるその部屋にミレイアが到着すると同時に部屋の扉が開いて赤ん坊の鳴き声が聞こえた。
「ミレイア、生まれたよ。元気な弟だ」
部屋の中にいたレアンドロが左腕に腕輪を3本だけつけた赤ん坊を抱いていた。
「ちっちゃい……」
「そうだね。小さくて可愛いね。抱いてごらん」
カミニャンが肩に上りレアンドロがミレイアの腕にそっと赤ん坊を抱かせる。
「この子は魔力が強かったのですか?」
「うん、僕たちみたいに7才とか9才とかまで会う人を制限するほどではないだろうって生まれてから腕輪の本数を調整しながらつけて3本で落ち着いたよ。光だから兄上とかテオみたいなことにはならなかったけど。マイアもお疲れ様」
「ミレイア」
「お母様」
「赤ちゃんと一緒に顔を見せてちょうだい」
ミレイアは疲れて掠れた声のマイアを心配しながらがマイアのそばに駆け寄る。
「私の子供たちは可愛いわね」
「僕もだよ」
「そうね、私とレアン様の子供たちはなんて可愛らしいのかしら」
「そうだね」
「レアン様、この子の名前は?」
「レオナルドだよ。レオナルド・オルガンだ」
「レオナルド……素敵ね」
この日金髪赤眼の美しい赤ん坊の誕生に国中が沸いた。国で初の臣下に下った王弟の子だということで、光魔法持ちの中で国一番の魔力量を持ち王位継承権第二位を持つ王子であったがレアンドロはオルガン公爵家の跡取りだと強調した。
ちなみにマイアの男児妊娠に一番喜んだのはオルガン公爵家の分家の者たちだった。毎日畑仕事に勤しんでいる彼らはオルガン公爵家に養子に入ることを仕方がないとは思いつつ回避する方法はないかと画策していたのだ。レオナルド誕生を祝して大量の野菜が公爵家に送られてきた。
腕輪は付けたものの光魔法であるし腕輪3つほどの魔力量であれば子供と接触しないようにしなくても良いだろうという話になった。王族には乳母もいるし乳兄弟もいるが魔力のことがあり共に育つこともなかった。マイアの妊娠がわかってから乳母も決めておりレオナルドは乳兄弟と育てることになった。
レオナルドが生まれてからオルガン公爵家はさらに賑やかになった。レアンドロはこの頃仕事改革を始めて帰りもミレイアが起きている時間に帰ってくるようにしてミレイアとレオナルドにおやすみを言うのが一日の疲れを癒す瞬間になっていた。
レオナルドの乳母にはミレイアの護衛についていた3人のうちの1人の妻がなり、第一子の男の子はレオナルドの乳兄弟として共に育てゆくゆくはレオナルドの側に仕えることになる。ミレイアの乳母はミレイアが育つとすぐに辞めていったためミレイアには乳母の記憶はない。マイアは乳母と仲良く共に子育てをしていて赤ん坊2人を中心に賑やかな毎日を過ごしているのだった。
研究の方は鉱石以外ほとんど進展はなかったが過去の奴隷魔法や石化魔法などの資料からわかったことがある。突然変異魔法を発現させるのは平民の子供だけということだ。元々少ない魔力量を持つ平民が突然魔力量を増やし分離させ突然変異魔法を発現させるらしい。治癒魔法も発現させるサラとの違いはあるがほぼサラの魅了魔法発現の原理に繋がる。
そして産後落ち着いてからマイアに再度感知魔法を試してもらった。詳しい事情は説明せず自信はないけどと言いながら以前と同じ方向にのみ集中させてみると今度は青や紫に変化していく魔法が感知できると答えたのだ。前と同じものかもわからなかったがとりあえず魔法局で権威たちと考えた結果、突然変異が次々と現れるはずがないからまず同一人物の魔法だとして考えることになった。
黄色、オレンジ、青、紫に変化していく魔法。カルリトによると石化魔法は元々地の魔法が分離して普通は茶色に見えるがカルリトが見ると茶色とベージュに変化していくように見えたらしい。青の水魔法と水色の氷魔法を両方持つ人と違うのかとミレイアが聞くとそれだと完全に別物の魔法があるように見えるが突然変異魔法は1つの魔法の色が徐々に変化していくように見えるのだそうだ。
カルリトは突然変異魔法は同系色に変化するものだと思っていたため黄色とオレンジだけでなく青と紫にも変化すると聞き顔をしかめた。皆が頭を捻っているとすっかり居着いてるシャルルがあっと叫んだ。
「なんだか虹さんみたいだねー」
「虹……確かにそうかも」
ヘラルドがそう呟きシルヴィオが色鉛筆を持ってきて虹を書いていく。
「虹ならあと赤と緑があるっすね」
「ねーミレイアー虹さんって見ると嬉しくなるよねー」
「私は虹を見たことはないわ」
「えー!!そうなのー?なんでー?」
「私はここに来る以外滅多に外に出ないし空を眺めることもないもの」
「えー虹って見ると嬉しくなるのにー」
「そうなの。確かに絵本で読んだ時、虹を見ると幸せな気持ちになると書かれていたわね」
「そうそう!!」
ミレイアとシャルルの話を聞いていた大人たちは考える。
「虹色の魔法で幸せということはこの魔法の効果が人に幸せを与えるとかですかね」
「でも局長、幸せって人それぞれっすよね。闇魔法みたいにかけられた本人に幸せな幻覚を見せるとかっすかね」
「幸せな幻覚かー。俺なら会議とか呼び出しとかされない生活かなー」
「はいはーい!!僕はヴィクトル先生にいたずらし放題とかテオが困ってるの見ると楽しいから遊び放題な幻覚が良いなー」
「シャルル、テオドール殿下やヴィクトル先生に迷惑をかけてはいけないと言ってるよね」
「俺なら良い女抱き「ヤンさん、子供の前ですよ」ごほんごほん、わーってるって」
「ごほんごほん、幻覚とは限らないっすけどね」
カルリトに窘められたヤンがヘラルドに頭を叩かれているのを横目にシルヴィオが取りなす。
「確かに。でも幻覚でなければなんでしょう。とりあえず幸せな気持ちにさせる魔法なら害はなさそうな気はしますけど」
「でもみなさんがそのような幻覚などを見せられ続けて日常生活が送れるでしょうか」
「カルリトさんの言う通りっすね。混乱しそー」
「一見幸せな魔法に見えてたちの悪い魔法ですね。憶測の域を出ませんけど」
局長の言葉に頷くシルヴィオとカルリト。
「お、じゃあこういうのはどうだ?惚れ薬てきな!!良い女がみんな惚れてくれれば幸せじゃねえか」
「ヤン様は女性好きなのですか?研究より?」
「それとこれとは話がちげえんだよな」
「そうなのですか」
「ミレイアさん、こんな男の話をまともに聞いてはいけませんよ」
「わかりました」
子供に聞かせる話ではないとカルリトがミレイアに言い聞かせる。
ヤンの趣向はともかくヤンの思い付いた、相手に惚れてもらえるというのは魅了魔法に近いと思えたミレイア。
局長はヤンに呆れながら言う。
「ヤンさんの女性好きは置いておいて、惚れられる魔法ですか……。確かにありそうでないですね」
「それヤンさんみたいにモテたい人じゃなきゃあんま意味ない魔法っすね。俺なら魔法で好きになってもらっても嬉しくないっす」
「けどそういう魔法なら奴隷魔法に近い魔法ではありますね。奴隷魔法は無理やり従わせる魔法でしたが惚れさせる魔法であればかけられた者はかけた者に惚れて進んで奴隷にでもなってしまうかもしれません」
カルリトの冷静な分析を若者組は真剣な顔で聞く。おじさん2人はヤンのタイプの女性について話して若い時だれそれに振られていたなどの話で盛り上がっていた。
「なるほど。それは危険ですね。その魔法を使う者が悪い者なら殺人すらさせてしまうかもしれません」
「それ全然幸せな魔法じゃないっすねー。魔法かけられて好きでもない女に惚れた気になって言いなりになるなんて」
「そういう魔法ならですけどね。他の可能性も考えますよ。ヘラルドさんもヤンさんも戻ってきてください」
ゲラゲラと笑っている2人をカルリトが再び窘めとりあえずとその日は虹色の魔法として考察を進めていくのだった。