第二子の性別と魔力
翌日ミレイアがヴィクトルの授業が終わり、帰るヴィクトルを送ろうという時玄関が騒がしいことに気付いた。
「どうしたの?」
ドアのそばにいた護衛にミレイアが聞く。
「ついさきほど旦那様が魔法局の方を連れて帰ってくると先触れがあり急いで支度を」
「そうなの?なぜ?」
「奥様に会いにだそうで」
ミレイアは昨日のことかと思い付く。
「奥様がどうなさったのです?」
「ああ、先生……これは……」
屋敷の使用人たちはマイアの妊娠を外に漏らさないようにしていた。ヴィクトルとはいえ知らなかった。
「おっと、聞かない方が良さそうです。レアンドロ様の奥様好きのことを考えると推察できますが止めておきます」
ヴィクトルはすぐに懐妊を思い付いたが王族が抱えるさまざまな問題を考えて口にしなかった。
だがそうこうしているうちに玄関が開きレアンドロが帰ってきた。2階にいたミレイアにすぐ気付いたレアンドロは笑顔で手を振る。
「ミレイア、お出迎えかい?」
「いえ、ちょうど授業が終わったので先生をお見送りです」
階段を降りながらミレイアが言うとレアンドロは一瞬寂しそうな表情を見せたものの笑顔に戻る。
「今日もたくさん勉強したかな」
「普通だと思いますが」
「私たちの前で父親アピールしなくて結構ですよレアンドロ様」
「カルリト様、それにシルヴィオ様、ごきげんよう」
「こんにちはミレイアさん。突然申し訳ないですね」
「局長が昨日の話をレアンドロ様に詰め寄って夫人に面会させてもらうことになったっす。やあ、ヴィクトルじゃないっすか」
「こうして仕事中に会うのは初めてだね」
「君の愛しの奥さんはどこにいるんすか?」
「な、ま、まだ奥さんじゃないよ」
「ナタリーならそこに……」
ミレイアは授業の終わりを見計らって部屋のそばに来てミレイアのあとをついてきていたナタリーを見る。
「おお!!へー!!美人じゃないっすか」
「もう良いでしょ。仕事しなよ」
「はいはいっすー」
ナタリーは顔を赤くしていたがヴィクトルにすみませんと謝られ慌てて首を横に振っていた。
そうしてヴィクトルが帰るとレアンドロたちはマイアの部屋に向かう。ミレイアもついていくことにした。
マイアの部屋に行くとシュゼットが部屋の前にいた。
「急に悪かったね。マイアの様子はどう?」
「お帰りなさいませ。マイア様はお変わりございません。午前中は庭も散歩しており、旦那様からの先触れでベッドで安静にしているようにと伝えられなければ屋敷内を散歩するところでした」
「そっか。運動の邪魔をしてしまったね」
マイアはシュゼットの妊娠期間中の話を参考にしながらよく体を動かしていたのだ。シュゼットはロゼットに使用人とはこういうものだと教えようとレアンドロと話す時は多少使用人らしく振る舞っていた。
シュゼットが扉を開けるとマイアがベッドで上体を起こしていた。ちなみに模様替えをした時にレアンドロとマイアは同じ寝室を使うようになっていたが昼間に過ごしたり悪阻がある時はこれまで使っていたマイアの自室で休んでいて今もそこのベッドにいた。
「レアン様お帰りなさいませ。お客様がいらっしゃるのにお出迎えもせずこのような姿で……」
「良いんだよ、僕がそうするように言ったんだから」
「マイアさん、お久しぶりですね」
「まあ!!カルリト先生!?お客様とは先生のことだったのですね!!」
「急に申し訳ないですね。ご懐妊という話を聞いて様子を見させてもらいにきました」
「そうだったのですね。わざわざすみません」
「いえいえ、聞いていると思いますがシールド魔法を貴方にかける権威も連れてきました。魔法局局長補佐をしていてお嬢様の研究にも携わっているのですよ」
「まあ、このような格好で失礼を。娘がお世話になっております」
「お気になさらず。シルヴィオ・ハリソンと申します」
「あら、ハリソン侯爵の……?」
「ええ。爵位は弟に継がせますけどね」
シルヴィオはハリソン侯爵という有力貴族の嫡男だったが爵位は弟に継がせることにして魔法局に引きこもっていた。
「マイアさん、意識的に魔法を使ってはいませんね?」
「はい大丈夫です。感知はしてしまいますけど魔力を込めて使ってはいません」
感知魔法持ちは特殊で感知魔法を使おうと意識しなくても少しであれば魔力を感じとれるようになっている。この前も緊張から解き放たれてお腹の魔力を感知したのだ。
「妊娠中は魔力が不安定になりますからね。意識して感知をしすぎると制御できなくなる恐れがあります」
ミレイアはこの話を知った時自分がお腹にいた時よく大丈夫だったなと思った。
「前回の妊娠時のように奇跡的に乗り越えられると思ってはいけませんよ。きちんと安静にしていてくださいね」
「はい、気を付けます」
「ではお腹の子の様子を見てみますから横になってください」
「はい、先生」
マイアが横になるとカルリトがその横に座って目を閉じる。
「おや……これは」
「先生?」
「マイアさんがこの子の存在を感知したのはいつでしたかね」
「一月ほど前です」
「その時魔法はどのように?」
「ものすごいスピードで1つなのか2つなのかさえわからない状態で」
「それは今と同じような感じですね。今は妊娠4ヶ月ほどです。魔力量ははっきりしませんが性別も魔法の種類もわかりますよ」
「本当ですか先生」
「はい」
カルリトは並みの感知魔法持ちより早い時期に性別も魔法の判断もすることができた。
レアンドロがマイアのそばに行きマイアの手を握る。
「どっちだ?」
「男のお子様です」
「男の子……レアン様」
「マイア」
マイアとレアンドロが顔を見合わせる。
「お子様の魔力は光魔法です。はっきりとはしませんがレアンドロ様より魔力量は多くはなさそうです。レアンドロ様、妃殿下のことがあって回復魔法を持つ王太后がなぜお二人のお子様を生むことができたのか光魔法を持つ妃殿下との違いについてと、ある一族の身体について調べましたね」
「ああ」
「通常赤ん坊はクッションのようなものに包まれていてこれまでは赤ん坊の魔力が母親を攻撃するようなことはないと思われていましたが大小ありますが影響があることがわかりました。陛下とテオドール殿下は魔力が人より多すぎることで大きな影響を与えているのだと。そして妊娠中の女性は魔力が不安定なので使おうと思って使うことはできませんから魔法の種類は関係ないと考えられました。光魔法は治癒、回復、それ以外の力もあり似ているようでそれぞれ効果が違い意識しなければ使いこなせません。一方の回復魔法は回復のみが特性です。不安定ながらに回復魔法がそのまま影響を与えたのと王太后は魔法と関係なく傷の治りが人より早い体質の少数一族出身でした。そうしたことが関係していると考えられました」
それを聞いてミレイアの頭に乗っていたカミニャンが反応を見せる。
『カミニャン?』
『なんでもありません』
『どうかしたの?』
『いえ、なぜ知っているのかと思いまして』
『何を?』
『傷の治りが早い者がいることです。初代国王の性格上伏せていると思っていたのですが』
『そうなの?』
『ええ。彼らは傷の治りが早く戦争に利用されかねないので』
『確かにそんな人間がいたら利用されそうね。現代にもいるのね』
『そのようですね。私は初代国王が国を創ってすぐに去りました。御三家を名乗る3人は自分たちで家名を作りましたが彼はそうではありませんでした。特殊な役目をすることになって。なので現在彼らの子孫が残っているのかも家名もわかりません。わからないということは初代国王が後世に彼らの存在を秘匿してるか血筋が途絶えたのかと思っていました』
『神に聞いてもわからないの?』
『神も人間の動きを全て見てはいませんから。この世界全てもケンタがいる世界も他の世界も見れますが細かいことまで見ているわけではありません』
『そうなの』
「カルリト、マイアの身体に何かあるのか?」
「悪いことではありませんから安心してください。お子様はレアンドロ様よりも魔力は少ないですがそのクッションにどうやら光魔法がかかっているような感覚がするのです。母体と同様どれを使うかを制御することはできないだろうと思いますがなんにせよ光魔法なので母体に回復や治癒がかかることはあっても傷付けるには至ってないようです。母体か赤ん坊かで違いがあったようですね。光魔法持ちは現在3人で妃殿下のことがあってから調べても全てわかったわけではありませんでした。ラスカル伯爵の娘さんが光魔法持ちですが彼女の場合もそうだったのかレアンドロ様のお子様のように魔力が多いとこうなるのかは不明です。ですがこうなると決めていたようにシールドをかけたり外から魔法をかけると逆効果な気がします」
「しない方が良いと?」
「恐らく。定期的に確認した方が良いでしょうけど」
「わかった」
「あれ?じゃあ俺って必要なかったっすか?」
「いえ、来てくださってありがとうございました」
「貴方は魔法局代表です。立ち会いでもありますね。さてレアンドロ様」
カルリトが立ち上がるとレアンドロも立ち上がりマイアも上体を起こす。
「先程も申し上げましたがこういうことは早くおっしゃってくださいね」
「だから安定期に入ってから報告しようとしたんだって。たくさんの人に会ってマイアが緊張して不安定になったら大変だと思って」
「王妃の妊娠が魔法局に伝わるのはいつだかわかっていますよね。医者が診断して国王に報告した次です。王族が強い魔法を持つのは当然なのですから魔法局がご様子を伺うものです。それを医者と国王でストップさせるとはどういうことなのです。それに案の定男のお子様です。テオドール殿下以外王子がいない今レアンドロ様が王位継承権を放棄しているためこの子が王位継承権二位となります」
「この子はオルガン公爵家を継ぐんだよ。もうしばらくしたらオースティン伯爵たちにも養子は必要なくなったと伝えなくちゃね」
「何を呑気なことを。警護を増やしますよ。すぐに人員を選別しなくてはいけません」
「先生、考えが及ばず申し訳ございません」
「貴方もこれからはもっとしっかりなさってくださいね。ほら、レアンドロ様、王宮に帰りますよ」
「マイア、身体に気を付けてね」
「いってらっしゃいませ」
「ミレイア、弟だって。楽しみだね」
「お父様、それより怒られていますよ」
「うーん、困ったね、僕の方が上司のはずなんだけど。とにかくまた明日ねミレイア」
「はい」
レアンドロが王宮に帰るとミレイアが魔法局に行く時の護衛が3人ともやって来た。マイアの部屋で話していたミレイアがどうして来たのかと聞く。
「オルガン公爵夫人がご懐妊と聞き及びまして、そのまま護衛に任命されました。ご懐妊おめでとうございます」
「ありがとう。でも、ミレイアが魔法局に行く時はどうするの?」
「2人お嬢様について魔法局へ行き1人が奥様につきます。魔法局からも感知魔法持ちが派遣されるそうです。お嬢様が魔法局に通っていることは極秘なのでできるだけ少数で警護にあたることになりました」
「そうなの。よろしくお願いね」
それにしても、とミレイアは自室に戻って1人になってからカミニャンに聞く。
「ゲームに私の弟というのはいたのかしら。ゲームと変わってる?サラにおかしいと思われるかしら」
「ゲームのあの頃には既に貴方には弟はいました。ですがおそらく分家から養子にされた者でしょう。弟に関しては特に描写はありませんから怪しまれはしないと思います」
「そう、なら良いわ。弟……泣かれないと良いけど」
「貴方の無表情はもはやデフォルトですからね」
「弟って聞いた時も嬉しかったし最近わりといろいろなことに楽しいと思っているのだけど」
「まあ良いと思いますよ、そのままで」
「そうなの」
ミレイアは知らないが周りはミレイアが無表情でも喜んでることや楽しんでることがわかるようになっていた。
ともかくこうしてマイアの妊娠は知れ渡り同時に長年のマイアの暴走が止まっていたことも知られたのだった。