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番外編1 テオドール

テオドール6才の誕生日の話です

「殿下、準備が整いました」

「わかった」


 テオドールの誕生日は軽く朝食を取ってから国宝を外す。それが終わってから初めて祝いの言葉をかけられ、国王と王妃に報告をする。6才の誕生日を迎えた今日も自室から国宝の腕輪を外す特別な部屋に移動する。


 その部屋は王宮内で最も強力な部屋だ。地下にあるその部屋には鉄が張られそれには無効化魔法が込められていた。王族の魔力は強く膨大で体内で抑えられず魔法が放出されてしまう。それを無効化魔法で消し去るため出産時や腕輪を外し吸収するものがなくなって魔法が放出させてしまった場合に備えるため誕生日の儀式で主に使われる。


 といっても現国王リュシアンとその息子テオドールが規格外すぎてこの部屋を破壊して天災を引き起こしたのは記憶に新しい。


 そんなテオドールも6才。6つめの腕輪を外す日になった。生まれた日の衝撃でどんな王子になるのかと戦々恐々した周りの心配に反してテオドールは大人しく穏やかで心優しい王子に成長していた。


 王子として相応しい振る舞いを見せる時もあるものの可愛らしい見た目と優しい物言いで軟弱すぎるのではという声も上がるくらいだ。魔力は軟弱ではないのだが性格が、というのが最近王宮に出入りする者たちの間で囁かれている。だがそれを黙らせるのがテオドールの叔父にあたるレアンドロだ。


 レアンドロは国王の弟でこの国の長い歴史の中で初めて臣下に下った前例のない存在。世が世ならレアンドロも王の資質があったのだが幼い頃から兄と仲が良く当然のようにあっさり王位継承権を放棄した。王位継承権は持ったままでも良いのではという周りの意見を自分が王位を継ぐことはないと一蹴した。実際のところはテオドールにもしものことがあればレアンドロが王位継承権を復権させることになっているというのは国王と王妃のみが知っている。


 魔力の差が大きい王族の子を妊娠すると体が耐えきれないというのは現在一部の貴族のみが知ることだ。だがそれを知らない者たちも規格外の国王の魔力に王妃は耐えきれなかったのではないか、多すぎる魔力が身体を蝕んだのではないかと噂していた。


 国王は否定も肯定もしなかったが国王に側室をと自分の娘を勧めてきた男に娘は身体を壊すだけで済まなくなるが良いのかとだけ問いかけた。それが国中に広まったものの娘に王子を生ませて娘が死んだとしても王族の親族になれると思う愚かな者が後を絶たなかった。


 そんな者たちの娘は娘たちで国王の子供は自分を体の中から殺すと思い恐ろしく感じた。彼女たちを救ったのはレアンドロだ。レアンドロ的に誠実だと思う臣下たちに彼女たちを口説かせて王家が結婚を承諾した。レアンドロはそれなりに相性を考えたためそこそこ良い夫婦になった。


 それでも納得がいかない愚か者たちは多くいたが嫁がせる娘がいなくなりどうすることもできなくなった。こうして側室にしたい親と側室になりたくない令嬢という構図を作り出した兄弟だったがそれでもどうにかして側室を持たせようとする者たちは王妃を責めた。


 王子が1人ではもしものことがあったら王族は終わってしまう、それもこれも王妃の体が弱いからだ、国王に側室を持つように進言するくらいしてはどうだと。それに対して国王は改めて側室は持たないと宣言した。側室を持てば歴史が繰り返されるだけだと。



 その後研究によって対処法を見つけても国王は再び王子たちの争いが始まると言って側室を持たなかった。国王にとって、父親が望んだ平和、幼い日に弟と見つけた日誌に書かれた初代国王の望んだ平和な世を目指すことが第一だった。それが一番ではあったが国王は身内を大切に思っていることもレアンドロと王妃はわかっていた。それに日誌を読んだ2人は最悪王政を無くしても良いとも思っていた。


 そういうわけでレアンドロはテオドールに万が一のことがあれば動くがもちろんレアンドロ自身が万が一など起こす気はない。テオドールの周囲は徹底的に警護しているし病気にもならないように定期的な検査と体力作りにも力を入れている。何よりレアンドロ自身軟弱そうな雰囲気を醸し出しながらも人の上に立つ資質は誰もが認めていた。本人が兄の下につくことに従事しているし普段はただの穏やかな男だがそれとこれとは話が違うというのは自分で周りに証明していた。


 テオドールも確かに王になるべくして生まれた男だと誰でもないレアンドロが言うことでテオドールに難を示すものはいなくなった。どの時代にも不穏分子はいるものだから少なくとも表立っては。



 そんなテオドールが地下室の部屋にたどり着くと近衛騎士と魔法局局長、そしてレアンドロが頭を垂れていた。


「面を上げよ」


 テオドールが声をかけるとそれぞれが顔をあげレアンドロが仕事の顔で言う。


「殿下、さっそく儀式に入ります」

「ああ」


 テオドールはなんの変哲もない椅子に座り左手を台に乗せる。仰々しく儀式とされているがただ腕輪を外すだけだ。皆固唾を呑んで万が一に備えているが特別なことはなにもしない。むしろ変に魔法を使って予想外なことが起きても困る。部屋以外はなんの変哲もなかった。


「それでは外します」


 黒いフード姿という出で立ちをした魔法局局長がただの手袋をしてテオドールの左腕に填められた腕輪の金具を外し腕から取ろうとした時、局長が突然膝をついたかと思えばそのまま横に倒れた。何が起きたのかと皆が硬直する中一番に動いたのはレアンドロだ。レアンドロはすぐに局長に回復魔法をかける。


「レアン!!コンラドは!?ねえ!!レアン!!」


 顔を真っ青にしたテオドールは取り乱しレアンドロは冷静に答える。


「魔力切れです。落ち着いてください。問題ありません」

「なんで魔力切れ!?」

「誰か変わってくれ。もうある程度回復させた」

「はっ」


 近衛騎士が急いでレアンドロから意識が朦朧としている局長、コンラドを預り回復魔法をかけながら後ろに下がる。


「殿下、腕輪を外しますよ」

「待ってレアンっ」


 テオドールの制止を無視してレアンドロが腕輪に触れると魔力を吸いとられる感覚がした。


「これは……」

「レアン!!レアン!!大丈夫!?」

「箱をここに」

「は、はい!!」


 近衛騎士が腕輪を保管するための箱をレアンドロのそばまで持っていく。


「触れなければ問題ないと思うが気を付けろ」

「はい?」


 レアンドロはそう言うと箱の中に腕輪を置く。


「何か感じるか?」

「い、いえ、何が起きているのです?」

「私が使っていた時より腕輪の吸収魔力が強まり、さらに放出したものを吸収するのではなく強制的に魔力を吸いとられる」

「そ、それで局長が!?」

「とにかく殿下を自室に」

「待って、どういうこと!?僕何かしちゃったの!?コンラドは!?レアンは平気なの!?」

「殿下、こちらは気にせずお休みください」


 これ以上のことをはっきりしないままテオドールに告げるわけにはいかないと近衛騎士にテオドールを自室に連れていかせたレアンドロは局長に声をかける。


「コンラド、どうだ?」

「は、はい、申し訳ございません」

「いや、いくらお前でもあれは防ぎようがない」


 魔法局局長は30才と若かった。研究好きの年寄りたちに押し付けられたのではあるもののもちろんそれだけで務まるものではない。通常通り17で学園を卒業してすぐ魔法局に入局したコンラドはその年卒業した者たちの中で一番の魔力量と精度の水魔法と氷魔法を持ち学力も主席で卒業した秀才だったが残念ながら苦労体質であった。


 入局してすぐにその才能を見せた若者におじさんたちは面倒な仕事を彼に押し付け経験を積ませ29才で満場一致で局長まで押し上げた。研究大好きな者たちは目的のためなら手段を選ばず彼が休む間もなく働いて彼女もできないとぼやけば彼のタイプの女性を見つけ見事相思相愛にさせ結婚させ公私ともに充実させ局長就任要請にも有無を言わせなかった。


 彼としてもやるからには功績をあげたいとは思ってはいたが局長なんて、まだ早い気もするしと固辞しようとしたところにレアンドロの期待しているよの一言で承諾せざるをえなくなった。レアンドロは彼からしたら年下だがそんなものは関係なかった。レアンドロとはそういう存在だった。


「お前の感覚でどれほど魔力を持っていかれた?」

「5分の2といったところでしょうか」

「すぐに手を離したお前でそれなら他のやつらじゃ一気にゼロまでいきかねなかったな……。とにかく緊急会議だ。コンラドは今わかってる状況だけ陛下に伝えにいってくれ」

「御意」


 局長が部屋を出ていくと残った近衛騎士に魔法局から光魔法、闇魔法、感知魔法、無効化魔法の権威たちをレアンドロの直命令だと言って連れてくるように指示し腕輪を入れた箱を自身で持ち会議室へ向かった。





────────

それから12時間後



 テオドールの部屋のドアがノックされる。


「誰」


 テオドールはベッドに横になって沈んだ声で答える。


「レアンドロです」

「レアン!!」


 テオドールは待ち人来るという様子でベッドから飛び起きると同時にドアを開けてレアンドロが部屋に入る。


「食事を召し上がっていないそうですね。食欲はありませんか?」

「当たり前でしょ!!コンラドは大丈夫だったの!?」


 会議が長引き腕輪の調査もしていたらこんな時間になったのだがテオドールは皆が心配でずっと待っていたのだ。


「大丈夫ですよ。あのあとすぐ働かせて何も問題なかったですから」

「もう!!それならそれを先に伝えに来てよ!!」

「お休みになってると思っておりましたもので。殿下、どっしり構えてもらわねば臣下は不安になりますよ。落ち着いてくださいと申し上げましたでしょう」

「う……わかってる、けど」

「けど?」

「わかってる。気を付けるから。ね、いつものに戻って」

「6才になったというのに子供だなーテオは。そんなんじゃ兄上のように立派な国王になれないよ?」

「そんなこと言ったって僕と父上は違うよ。みんなだって僕になにも期待してないよ。レアンが言うからみんなはいはいって言うこと聞いてるだけだ」

「そんないじけたことを言うのはこの口かな」

「痛い痛い!!レアン止めてよー!!」


 テオドールの両頬を手で捻っていたレアンドロは笑いながら手を離す。


「ご飯ちゃんと食べて元気だして明日兄上と妃殿下に会いに行きなよ。心配してたから」

「でもこれからどうなるの?」

「んー……聞いたら言う通りにする?」

「うん」

「わかった」


 レアンドロは椅子に座って正面にテオドールを座らせる。


「今日外した腕輪には少なくとも通常の腕輪2本分に強化されていた。まず間違いなくテオの強化魔法の力だ。でもテオには魔法のコントロールはなにも教えてない。ヴィクトルからも教わってないよね。そもそもこの国宝をつけた状態の時は魔法についてはほとんど教えないことになってる」

「うん、教わってないし、でも僕魔法なんて使ってないよ」

「ほとんど教えてない状態のテオが理解するのは難しいと思うんだけど。えっと、そもそも特殊魔法を2つ物に込めるのは不可能なことでこの腕輪とチョーカーは特別なんだ。強化魔法は他のものを強化する魔法だけどこの腕輪とチョーカーに魔力を込めるのは不可能なんだよね。だから腕輪に強化魔法を纏わせたんだろうってことになるんだけど。それでも元々込められてる魔法を強化するのも繊細な魔力のコントロールが必要なんだよね。熟練の強化魔法持ちができるくらい。それを2つの魔法が込められた国宝にってなると不可能としかいいようがない」

「じゃあ強化魔法ってなにができるの?」

「基本は魔法関係ない剣や防具を強化するか魔法を纏わせたり込められたりしたそれらをその魔力と緻密に融合させて力を強化させるか、放たれた魔法に対して同じように強化させるかだね。魔力に対してはどちらにしても簡単にできるものじゃない。特に放たれた魔力に瞬時に強化をかけるなんて長年かけて2人で訓練しないといけない。6才になったら騎士団長たちの子息たちと勉強することになるって言ったでしょ。そこで信頼関係を築いて魔法を使うようになったら訓練していくって」

「それ中止にならないかな」

「ならないよ。だってテオには強化魔法の才能があるんだってこれで証明されたわけだし。その子の力だけでも最強の騎士になってもらわないといけないけどテオとならもっと強くなるってことだからね」

「証明されたのは僕が勝手に魔法を使っちゃう悪い子ってことじゃない?ヴィクトル先生は怒られたりしないかな。僕本当に先生には魔法のこと教わってないよ」

「ネガティブだなー。そんなことないしヴィクトルが怒られることなんてないよ。話は聞くために呼び出したけどね。ヴィクトルもテオが落ち込んでるだろうなって心配してたよ。元気な姿を見せなくちゃ」

「うん……」

「とにかくどうやって腕輪が強化されたのか今テオがつけたままな残りの腕輪とチョーカーも強化されてるのかもこれから調べなくちゃいけないんだ。テオも忙しくなるんだからね。そんな顔はみんなに見せちゃ駄目だよ。テオはこの国の王になるんだから。せっかくみんなテオの才能は国王以上だってテオのことをすごいって褒めてるんだからね。期待されてるよ。応えないとね」

「う、うん。あ、あとレアン」

「ん?」

「婚約のことはどうなるのかな。僕がどうやって腕輪を強化したのかはっきりしないと婚約できないかな。もしかして9才になっても会えない?」

「9才になっても国宝が外せなければ延期になるかも知れないけど逆に早まるかもしれない。テオがどうやったかはわからないけどすでに強化魔法を無意識にでも使いこなせてるのなら訓練することでさらに洗練されるだろうけどチョーカーも強化されてるならそれを外すとまだ十分に制御できてる状態にないってことも考えられるからね。まだなんとも言えないよ。けどコンラドの息子、シャルルがいれば他の子供たちに会えるんだよ?やっぱりミレイアにも会う?」

「ううん、危ないから駄目だよ」

「そっか。ミレイアを大切にしてくれて嬉しいよ」

「うん……。早く会ってみたいけどね。僕が守ってあげられるくらい強い男になったら会わないとかっこつかないでしょ」

「一丁前なこと言って」

「でも弱虫でネガティブな僕なんて嫌いかもしれないね」

「あーはいはい、だからそれを直してよって言ってるんでしょ」

「うう……そうなんだけどね」


 テオドールはレアンドロから聞く、赤くてさらさらの髪とルビーのような目を持つ世界一の美少女という自分の婚約者に思いを馳せていた。


 今後テオドールがシャルルという名の小悪魔に振り回され、婚約者に自ら振り回されにいく一生を送ることはまだ誰も知らない。


 そしてレアンドロがテオドールにミレイアを渡したくないと大人げないことをし始めることになることもまだ誰も知らない。


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