表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/57

新たな生活

 それからのオルガン公爵家は一変した。レアンドロは朝はマイアとミレイアと食事をとりゆっくり出掛け、夜もミレイアは既に眠っているが早い時間に帰ってくるようになった。


 マイアは自室に籠っていた生活から屋敷内を動けるようになった。ミレイアと刺繍や話をする以外の時間で侍女長やシュゼットと相談しながら部屋の模様替えをしたり庭師も交えて相談しながら庭の手入れの指示をしたり大人になってから新しく仕立てることのなかった普段着を新調したりミレイアに合う服を選んだりと色々なことに取り組むようになった。


 ミレイアはレアンドロとマイアと食事をしたりと過ごす時間が増えたが見た目にはそれほど変わらない。ナタリーやロゼットたちによってヘアスタイルが変わるくらいだ。


 シュゼットとロゼットはすぐに使用人たちに馴染み久しぶりの使用人業だったシュゼットだけでなくロゼットもすぐに仕事を覚えて賑やかに働いていた。




 そして月日は流れ来月に控えたテオドール8才の誕生日の1週間後にミレイアとの婚約が極秘に行われることになった。慣例的にお互いの両親も同席することになっているためマイアは約7年ぶりに外に出ることになる。最近は庭には出るものの屋敷の敷地内からはまだ出たことがなかった。


 国王と王妃に会うのも久しぶりのことで魔法を暴走させないかと不安になっていたがレアンドロがマイアの肩を抱いて僕がついてるよと言うと安心した。ミレイアは最近2人の様子を見てこれが小説に書いてあったイチャイチャというものなのかと思った。




 そんなある日、最近はロゼットたちに構われることの多いミレイアは読書をすると言って自室でカミニャンと作戦会議をすることにした。


「カミニャン、まずは整理をしようと思うの」

「はい」

「まずお母様とお父様は仲良しになったわ。お父様なんてお母様が陛下のことを思ってると思うと悲しくなってた時点でお母様のことが好きだったみたいだって言ってたわ。お馬鹿さんなのかしら」

「まあそういうこともあるのでしょう。無自覚の恋心というものです。それからあなたのお父上は愛妻家で親馬鹿ですね」

「外ではしっかりしてるらしいけど。まあ、それはそれとして。1つ不思議なのはシュゼットとロゼットのことよね。乙女ゲームの中では私がなにもしなくてもあの2人はいたはずなのにどうしてお母様は落ち着かなかったのかしら」

「わかりません。もしかしたらいなかったのかもしれません」

「あの2人のことに関して私はなにもしてないのに?私がお父様と話す前から2人が来ることは決まっていたわ」

「この世界はもうずいぶん昔に乙女ゲームとは別のものになっていたのです。以前話しましたよね。この世界は元は同じものでしたが全てが同じなわけではありません。ケンタがこの世界で生きたことによってゲームと同じ人間が同じような生活をしていても別物になっているんです。改めてこの世界とケンタやヒロインサラのいた世界の話からしましょう」

「ええ」

「ケンタがこの世界に来たのは数百年前ですがケンタの住んでいた世界では1年ほどしか経っておらず、時間軸がそもそも違います。ケンタがこちらに来る前に既に件の乙女ゲームは世に出ていましたがそのストーリーに出てくるのはあくまでも架空の世界の一時代です。ですがその世界は別の世界に実在しています。当然ですが今この世界があるのは過去の時代に生きた人たちの歴史の積み重ねです。私や神からしたら別の世界でゲームになっていようとこの世界はこの世界ですからこの世界に生きる人たちの生きざまを静かに見守るのが何百年何千年も前からの役目なのですよね。私は神と通じて別の世界のことも知っていますが私はこの世界を見続けるために猫として存在してるのでこの世界が自然の摂理で滅びるのも繁栄するのも見ている役目があります。つまり歴史が積み重ねていった先に別の世界のゲーム通りにならなくても構わなかったわけです。ですが今回のように数百年前にもイレギュラーが起きたのです。その頃神同士の争いが起きていまして、その抗争の中でこの世界に神の力が及んでしまいました。それが魔物の巨大化です。闇を司る神の力が魔物をより巨大で強大なものにしてしまいました。このままでは人間が絶滅してしまうと神は勇者を転移させることにしたのです。それがケンタです。ケンタは魔法なんてファンタジーな世界だと興奮しながら次々と不思議な魔法を生み出して普通の人間ではできない方法で魔物を倒していきました。そして別の国から亡命してきたとある領主の息子だった初代国王とその家臣たちと出会い時には喧嘩しながらも協力しあいこの世界の魔物を浄化していきました。その性質上魔物が完全にいなくなることはありませんでしたが闇を司る神の影響を受けた魔物たちは全て消し去ったのです。魔物たちのせいで荒野と化していたこの土地に初代国王たちは新たな国を創りました。そして巨大化した魔物の脅威が過ぎ去ると私もまた世界を見続ける生活に戻りますしケンタも元の世界に戻ることになりました。ケンタは共に戦ってきた初代国王たちに何も告げませんでした。どうせ自分の記憶は消えるんだからと。けど最後に彼らが創った国のためにできることをすると決めた時に初代国王から聞いたことを思い出したのです。初代国王の家系は代々魔力が普通の人の7、8倍はあり魔力を制御できず放出し続け周りを攻撃し膨大な魔力を使って殺し合いをしてきました。初代国王は魔力を抑えるものがあり殺し合いなんてない平和な世の中になれば良いのにと思っていたそうです。それを思い出したケンタは魔力を放出しても吸収して無効化する腕輪とチョーカーを作りました。もちろん乙女ゲームにそんなものは存在しませんがケンタが平和になった世界で初代国王とその子供たちがいつまでも幸せに暮らせるようにという思いを込めたものです。そうでなくても先ほど話したように私が止めることはなかったですが。神の御業でこの世界に来たケンタの存在は本来あってはいけないものだったのでこの世界の人間の記憶からケンタの記憶を消す必要がありましたがケンタは確かにこの世界を生きて世界を救ってくれました。ケンタの思いに反して初代国王の子孫たちはあえて腕輪を外して魔力を暴走させ王位継承権を持つ王子たちを殺したりと争いは絶えず、乙女ゲームで語られる歴史とそれほど変わらない歴史を辿ることになりました。ですが全く同じではありません。それが巡りめぐってあのシュゼットやロゼットの存在に関係しててもおかしくありません。ゲームではそもそもいなかったのかもしれないですし性格が異なっていたのかもしれないです」

「なるほど。それなら乙女ゲームのお母様が魔法を暴走させ続けてきたのも理解できるわね。けど……」

「どうかしました?」

「いえ、フジモトケンタが乙女ゲームのことを知っていて今の私たちを変えようと何かをしたことは考えられないかと思ったのだけどしようとしても何もできるわけないわよね」

「そうですね。そもそもケンタは初代国王たちとボードゲームをやらないのかという話をした時格闘ゲームしかしたことないと言っていました。もちろんケンタが異世界から来たなど知らない初代国王たちには何の話か理解できていませんでしたけど。それに乙女ゲームに初代国王の名前も出てきませんし国名すら変わっています。ケンタが乙女ゲームの数百年前の時代だと考えるのは不可能でしょうね」

「そうなの。それで、今の話ではこの世界とサラがいた世界のゲームとは既に別物になっているのよね。シュゼットとロゼットはゲームにいたかどうかもわからないけれど殿下たちの性格やその婚約者たちもゲームとは違うかもしれないということよね?」

「貴方のお母上がゲーム通りだったことから違うとは言い切れませんが」

「でもこの前言ってたようにゲームと同じようにしてないとサラが怪しむのよね」

「そうでしょうね」

「では私がテオドール殿下に執着して悪役令嬢になったふりをしている方が良くないかしら」

「貴方にそんな演技ができるのですか?」

「できそうにないわね。かといって本当に執着したらすべて台無しだし。でも執着する可能性も捨てきれないわ。それが心配事ではあるのよね。そうだわ、何か私の中に変化があってもすぐアニマルセラピーで落ち着けるようになるようにカミニャンを頭に乗せておこうかしら」

「そうですね」




 そうしてさらに時は流れ、ついにミレイアとテオドールの婚約の日となった。レアンドロは1日魔法局へ行っていることになっておりオルガン公爵家の家紋や装飾のある馬車ではなく特別に作られた馬車にレアンドロ、マイア、ミレイアが乗って極秘に王宮に出発した。


「マイア、緊張してる?」

「ええ、少し……シュゼットのおかげでだいぶ落ち着いていますけど」

「大丈夫だよ。僕がいるからね」

「レアン様……」


 出掛ける前にマイアの緊張を解そうとシュゼットがほっかむりを被ってダンスをしてマイアを笑わせていたのだ。正面に座るレアンドロとマイアをカミニャンを膝に乗せたミレイアは無表情で見ている。もはやこの2人のイチャイチャは日常だった。レアンドロがマイアの手を取りそっとキスをする。


『カミニャン、私思ったのだけど』

『なんですか?この2人はだいぶ遅れてきた新婚気分のようですから気にしても仕方ありませんよ』

『ええ、これはもうそういうものだと思っているのだけど。お父様の手って改めて見るとすごく大きいのねって思ったの。そういえば頭を撫でてもらった時も大きな手だったわ。お母様の手も包めるくらい大きいのね』

『そうですね。お父上は大人の男性で貴方は子供ですから』

『そうよね。当たり前ね』


 だからどうしたのかと聞くカミニャンにミレイアは何でもないと答える。本当に何でもなく単にふと思っただけだった。だがなぜふと思ったのかと考えた時そういえばレアンドロに手を握ってもらったことはあっただろうかと疑問に思いながらレアンドロとマイアを眺める。いろいろあったが愛し合ってるマイアとレアンドロ、愛……愛を欲する……。


「あらミレイア?どうしたの?」

「何でもありません」


 乙女ゲームのミレイアが愛されたい欲求を持っていたことを思い出して鼓動が早まったミレイアは咄嗟にカミニャンを抱きしめたのだ。


「ミレイアも緊張してるのかな。大丈夫だよ、殿下なんてただの軟弱男だから」

「そういうわけではないのですが。問題ありません」


 無表情のまま答えるが内心では心臓がばくばくと鼓動を打っている。


 大丈夫、私はお父様にもお母様にも愛されてるってわかってるもの、ゲームのミレイアは誰にも愛されてないと思ってたから豹変した、私は彼女とは違う、そう思うことでミレイアは落ち着きを取り戻す。


『大丈夫ですか?』

『ええ、大丈夫。でもカミニャン』

『はい』

『フジモトケンタの存在でこの世界が乙女ゲームと別物になっても乙女ゲームと同じようにはなり得るかもしれないわ。今私は愛されたいという欲求を確かに感じた。カミニャンに話を聞いた時はそんなもの持ってないし持つはずないと思っていた。だけど今私は愛されたいと思って自分が自分じゃなくなるような、自分が作り替えられるような気がしたの。乙女ゲームのミレイアにさせられるような感じ。私は悪役令嬢になってしまうのかしら』

『わかりません。でも貴方はもう自分で愛されてると実感しています。自分を失わなければ大丈夫かと』

『そうね。とにかく殿下に会ってみないと』


 王宮に着くとミレイアは頭にカミニャンを乗せて事情を知るごく一部の者たちに護衛されながら王宮内の庭園に行く。


 カミニャンを頭に乗せたミレイアを見て驚愕している護衛たち。そういえば猫を頭に乗せて陛下たちに会うのはマナー違反だったかとミレイアはふと思う。そして聞いてみて駄目だったら肩にでも乗せようと考え直した。


 庭園には既に国王と王妃、テオドールが揃って白い丸テーブルを囲んで座っていた。


「あれ?陛下、なぜ既にいるんです」


 レアンドロが歩きながら決して大きくないがよく通る声で聞く。


「来たか。中にいると急な仕事が舞い込んでくるんでな。いつも間に立ててるお前がいないとどうでも良い話を次々と持ち込んでくるから敵わん」


 国王はレアンドロたちを正面から見て言う。


「そのどうでも良い話をいつも私が取捨選択してるんです。私のありがたみがわかりますか」

「わかるわかる。もっと働け」

「駄目です。これまで働き詰めだったので徐々に減らしていく方向で」

「では短くなった時間でこれまでより働けば良い」


 レアンドロは彼らの近くまで来ると立ち止まってため息をつく。


「無茶苦茶だなあ兄上は。これまでの仕事量がおかしかったんだって」

「そうか。ではそのこれまでを改めるに至ったきっかけを聞こうか」

「うん、愛しい奥さんと可愛い娘だよ」


 レアンドロが言うと国王と王妃とテオドールは立ち上がってそれぞれレアンドロ、マイア、ミレイアの正面に立つ。


「よく来たオルガン公爵夫人、オルガン公爵令嬢。ああ、それが例の猫か」

「ご無沙汰しております陛下」

「お初にお目にかかります。オルガン公爵が娘ミレイアと申します。猫を乗せるのはマナー違反ですか?」


 ミレイアはカミニャンを頭に乗せた状態で綺麗なカーテシーを披露する。


「マナー違反ではないな。むしろ猫を被った女ばかりだ」

「そうですか」

「それにこれは婚約の儀礼だが今回は親戚同士の集まりだ。何も気にせずともよい」

「ありがとうございます」

「マイアさーん、お久しぶりねー。また会えて嬉しいわー」


 王妃が笑顔でぽややんとした口調で言う。


「妃殿下におかれましてはご機嫌麗しゅう存じ上げます」


 対してマイアはお辞儀をして堅い口調で言う。王妃はそれを聞いて笑顔で数秒固まる。


「あらあらあらあら……マイアさん、とっても堅いわー。陛下の言う通りー親戚の集まりなんだからーリラックスリラックスー」

「え、ええ、リラックス……」

「ミレイアちゃんはとっても可愛いわねー。その猫ちゃんも。お名前はなんと言うのー?」


 王妃がのんびりミレイアに尋ねる。


「カミニャンです」

「まあまあまあ……カミニャンちゃんというのねー。可愛い名前ねー」

「みんなには変な名前だと言われます」

「……まあまあまあ、そうなのー?私は好きよカミニャンちゃん。ね、ドールちゃん」


 ミレイアはドールちゃんとは何だと思いながら無表情のまま王妃が顔を向ける先、テオドールを見る。


「母上、そんな可愛い愛称で呼ばないでくださいと言っているのに」

「……あらあらあら、そうだったかしら」

「俺も言ってるだろ。王太子にそんな愛称をつけるな」

「……ええーそんなー可愛いじゃないドールちゃん。ね、ミーアちゃん」

「ミーア……」


 王妃は可愛い動物や子供に愛称をつけるのが趣味であった。呼ばれたことのない愛称で呼ばれたことに呆然とするミレイアだったが肝心のテオドールを無表情のままじっと見つめる。


 テオドールは可愛らしい顔立ちをしていた。国王もレアンドロも同じような金髪碧眼なのだが特徴がそれぞれ違う。国王は凛々しくレアンドルは爽やか。テオドールは8才の子供だからとはいえたれ目で頼りなさげにミレイアの目には映った。ミレイアは息を吐く。


「好きになりそうにないわね」


 先ほど若干不安になったが実際は自分に何の変化もなくミレイアはとんだ取り越し苦労だったと安心した。無表情で婚約者になる男に好きにならないと言ったミレイアに周りが困惑しているとは露知らず。


 テオドール本人は驚いて父親やレアンドロを見て国王はにやりと面白そうに笑いレアンドロとマイアは2人顔を見合わせて呆然としてる。そして王妃は笑顔で固まっている。


「ミ、ミレイア、好きになりそうにないってどういうことなの?」

「どういうことも何もそのままの意味ですが」

「あらあらあらあら……ミーアちゃんはドールちゃんのことが気に入らなかったのかしらー?」

「気に入る気に入らないでなく何とも思わないのです」

「じゃあ婚約止めちゃおう。護衛だけ貸してくれない兄上」

「馬鹿が。この婚約が止められるはずないだろう。テオドールと結婚し子供が生めるのはお前の娘だけだ」

「まあそうなんだけどそれを言われると僕の愛娘を子供を生むためだけに考えてるみたいで嫌だよ。それにあの事があるからミレイアじゃなくても平気だよ」

「お前娘可愛さに初めからそう言うつもりだったな?」

「えへ」


 レアンドロはこのままミレイアを一生結婚させずにそばに置く夢が現実になりそうだと喜んだ。一方でマイアが慌てる。


「ミレイア、テオドール殿下と婚約したくないの?」

「いえ、婚約はしておかなければ困ります。話が変わ……魔法局に入るために必要なのでしょう」

「そうだな、惚れた腫れたでなく結婚しなくてはならない。婚約はこのままだ」

「けど兄上、ミレイアに愛のない結婚をさせるのは困るよー」

「何を今さら。それが王家の結婚だ」

「それはそうなんだけどほら、ミレイアは結婚しないで僕のそばにいれば良いと思うんだよね」

「駄目だ」

「まあまあまあ、私わかったわー。ドールちゃんが頑張ってミーアちゃんに好きになってもらえば良いわよ」

「そうね、そうよ、ミレイア、テオドール殿下ってとってもかっこいいと思うわよ?これから好きになるんじゃないかしら?」


 レアンドロからあのあともテオドールの話を聞いて実際見て女の子みたいに可愛らしい顔をしていると思ったマイアだったがかっこいいと言う。テオドールがミレイアを大切に思ってくれてるならとミレイアを説得にかかる。


「別に陛下の言う通り好きにならなくても結婚はします。未来があればですが」

「未来ってどういうことなのミレイア」

「結婚する前に世界が崩壊するとか」

「崩壊?」

「……あらあらあら?」

「ほう……確かにそうなれば結婚することはないな。ならばこうしよう。ミレイアとテオドールは婚約する。その間ミレイアは責務を果たす。テオドールはミレイアに惚れられるようにどうにかする。そしてお前たちが学園を卒業するまでに世界が崩壊しなければミレイアがテオドールのことをどう思っていようとそのまま卒業後に結婚する」

「はい」


 夢のお告げの話を聞いていた国王の言葉を聞いて、レアンドロは責務というのを世界を崩壊させないための研究を魔法局ですることだと認識し、他の者は婚約者としての役目のことだと思った。


 さて、この間一言も発していないテオドールはただただ傷付いていた。会うことを楽しみにしていた婚約者になる従妹にいきなり好きになりそうにないと言われてショックを受けたのだ。テオドールは恋愛というのはわからないがなんだかんだ大切に思い合ってる両親のように、そして最近のレアンドロのように婚約者と良い関係を築けていければと思っていたのだ。それを即刻壁を作られた感じだ。


 だがそんなテオドールの悲しい気持ちを知らず周りは話がまとまったと安心した。


 そしてもうさっさと解散しようということになった。


「護衛を紹介しようと思ったけどまた今度で良いね。来てもらって悪いけど解散で」


 今日からミレイアの護衛をすることになるはずだった護衛たちは慌てながらも了承する。


「さ、帰ろう帰ろう。マイア、疲れてない?」

「大丈夫ですわ、ちょっとびっくりしちゃいましたけど。でもミレイアがテオドール殿下を好きにならなかったらどうしましょう」

「僕の予定通り他所の国からテオの魔力に合う女の子をつれてくれば良いよ。そしたらミレイアは王家に嫁がないで良いね」

「良いのかしら……」

「ミレイア自身があんな軟弱男好きにならないってはっきり言ったんだから良いんだよ」

「んー……。けどこれから好きになるかもしれないですものね」

「ならなくて良いけどね」

「レアン様ったら……。ミレイア」

「なんでしょう」

「手を繋ぎましょうか」

「手を繋ぐ?」


 マイアはミレイアが道中自分とレアンドロの手を注視していたことに気付いていた。そして貴族ではあまりすることはないが手を繋いで歩くことを提案しミレイアの左手を握る。


「レアン様もミレイアの手を」

「ん?そうだね、はいミレイア」


 レアンドロもミレイアの右手を握る。


 ミレイアは左手を見て右手を見て、心が温かくなった。大きい愛情に包まれたような気持ちがしたミレイアは嬉しそうにはにかんだ。


「ミレイア、なんて可愛いのかしら」

「本当だね、なんて可愛いんだろう」


 マイアがミレイアの頬をツンと優しくつつくとミレイアはマイアを見上げる。


「私、お母様もお父様も大好きです」

「私もよ、ミレイア。私の愛しい子」

「僕もだよ。テオなんて一生好きにならないでどこにも嫁がないでずっとうちにいたら良いよ」


 そんな幸せな家族の後ろ姿を見ていた王妃は目に涙を浮かべて喜んでいた。王妃もレアンドロと同様マイアは国王のことが好きだと思っていたのだ。結婚のことは自分にはどうすることもできないとのほほん、ぽややんしながらも心苦しく思っていた。


 国王は当事者でありながらマイアが好きなのが自分だろうがレアンドロだろうが婚約がそんなことで変更になることはないと働きかける気はさらさらなかった。マイアがレアンドロのことが好きなのではないかと思っていたのは先代たちだけだったが次代を担う彼らに直接助言をし、働きかけることはなかった。


 テオドールはずっと無表情だったミレイアのはにかむ笑顔を見て鼓動が早まった。


「可愛い……」

「ほう」

「……あらあらあら、ドールちゃんったらミーアちゃんのことを好きになったのねー。じゃあ頑張ってミーアちゃんに好きになってもらわなくちゃねー」


 どうやら乙女ゲームのようにミレイアがテオドールに惚れたのではなくテオドールの方がミレイアに惚れたようだ。


 ミレイアたちは来た時と同様の馬車に乗って屋敷に帰る。


「あら?」


 少し進んでからマイアがあることに気付く。


「お母様?」

「どうかしたの?」

「レアン様、明日お医者様を呼んでいただけませんか?」

「え!?どこか具合が悪いの!?すぐに呼ぼう!!」

「いえ、魔法局に行っているはずのレアン様がお医者様に会っては辻褄が合いませんもの」

「大丈夫、もう夕方だし直帰したことにするから!!どこが痛いの!?頭!?お腹!?」

「お母様病気ですか?」

「病気じゃないわよ」


 馬車の中で慌てるレアンドロと無表情だが心配で動揺しているミレイア。マイアは笑ってお腹に手を当てる。


「ここにもう1人の魔力を感じるの」

「お母様、それって」

「赤ちゃん!?赤ちゃんなの!?」


 マイアは嬉しそうに頷く。レアンドロは動揺しながらマイアのお腹に手を当てる。


「レアン様は感知魔法を持っていないのですからわかりませんわよ」

「そ、そうなんだけど。とにかく家に着いたらすぐに医者を呼ぼう」

「ふふ、お願いします」

「赤ちゃん……お母様のお腹に」

「ミレイアはお姉様になるわね」

「弟ですか?妹ですか?」

「魔力の流れでそれがわかるのはもう少し時間が経ってからね」

「そうですか。楽しみです」

「ええ、私もよ」

「家につく前に呼んだ方が早いかな。あ、マイア、馬車の揺れは大丈夫?もっと楽な体勢の方が……」

「レアン様、落ち着いてください。来る時と逆ですわね」


 ミレイアも感知魔法を持ってないがマイアのお腹を触ったり頬を寄せてみたりしてみたりしてどうにか赤ちゃんを感じられないかと試すのに夢中になっていた。その様子を見てからマイアとレアンドロは顔を見合わせる。


「レアン様、私この子を生みますわね」

「うん、僕が絶対守るから」


 屋敷についてすぐに医者を呼んでその日の夜オルガン公爵夫人の第二子妊娠の朗報に屋敷が沸き立った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ