梯子を外した
彼の話を始めよう。
小さな小さな頃。
気が付いたときから
勉強を義務付けられて
運動もそこそこに
教え込まれ、
完璧を目指すことになった。
「私達は家族を養うために
働いてるから
稔は一人で勉強しなさい」
彼は、海津稔は
一人で勉強をした。
教科の社会や歴史が得意で
他の教科はそこそこでき
学校基準で上位の点数を
常に取っていた。
「全教科80点以上を
取りなさい」
親の言葉通りに
予習復習や
テストの間違えた部分の
更なる勉強をしても
彼には、海津稔には、
どうしても
全教科80点を取ることが
出来なかった。
「親戚の子供が
全教科80点以上を出したのに、
あんたは何してるの?」
困り果てるように
両親は海津稔を見る。
「勉強をしてる。
先生にも分からない所を聞いて
分かるまで
予習も復習もしてる」
してる事をきちんと告げる。
告げても
親の困り果てる様子は変わらない。
「してるって言っても
何も出来てないわ」
彼には、
その言葉が衝撃的だった。
彼は、否定された。
捨てられた。
その感情は根深く残りつつも
親の期待を裏切りつつも
点数を維持して
親の期待とは違う
少し低めの大学に通いながら
親の援助を受けながらも
遂に卒業の目処が立った。
このまま、退学する騒ぎをしたら
親は苦しむだろうか?
余裕が出ると考えてしまったが
すぐに否定した。
親の期待よりも自身の将来。
そこに考えを変えられた。
なら、より良い将来を手にするために
資格に手を出しながら
自身の答え探しとしようと、
手を伸ばす事にした。
それが、より深い痛みに繋がる。