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アーシェとネトゲ②(ネットカフェに行ったら、ラブホテルみたいな個室の使用権を手に入れました)

 家からバイクで数分の場所の国道沿いにネットカフェがある。二十四時間営業で学生にもうれしいリーズナブルな価格で提供する、全国チェーンのネットカフェだ。完全防音の個室にシャワー室の無料開放、タオルの無料貸し出し、充実したサービス。おまけに二〇〇円追加で払えば三時間ジュース飲み放題だし、五〇〇円追加で一時間カラオケもできるのだ。

 質素な店内に入ると熱した空気から、ひんやりとした空気が流れ込んできた。やっぱり、店内は冷房が効いている。


「ふぅ……やっぱり、クーラーが聞いている場所は快適~~」


 汗だくの俺は、ぱふぱふとシャツの中に冷たい空気を入れ込む。うん、これだけでも結構涼しくなったな。


「ひゃぁぁぁっ~~涼しいぃぃっ! 生き返るぅぅぅっ!」


 子供のように燥ぎ回るアーシェ……、俺は頭にチョップをお見舞いして行動を止めさせた。


「もう少し大人しい行動しろ、アーシェ」


「むむぅ……」


 子犬のような呻き声を上げて拗ねた。……あ、可愛い。この光景を見るだけで(自主規制)一〇回はイケるわ……多分。


「同伴者も一緒に受付しなければ使えません……か、アーシェ一緒に受付するよ」


 アーシェはめんどうくさそうな表情でこくりと頷き、トボトボと無言のまま後を付いて行く。


「いらっしゃいませ!」


 可愛い学生アルバイト店員が笑顔でお出迎えの挨拶をする。うん、いい笑顔だな。


「えっと……完全防音個室の六時間コースで二人分お願いします」


「わかり――」


 ましたと言おうとした瞬間、店員は言葉を詰まらせた。そしてまじまじと俺とアーシェを眺めた後、下にある紙を見ていた。


(え、な、なに? 俺たちの顔に何かあるのか?)


「ちょっとすいません、ここでお待ちください!」


 そう言ってアルバイト店員は、スタッフオンリーの方へ消えてしまった。


「な、なにが起こっているん?」


 アーシェが首を傾げながら言う。確かに、何が起こっているんだ?


(嫌な予感がする……、何か自分の身が削られていくような……気持ち悪い悪寒……)


 ぶるっ……と身震いしていると、アルバイト店員数名と店長っぽいおじさんが出てきた。

 そして、パカン、とクラッカーを鳴らした。


「お客様、おめでとうございます! 開店一周年企画、ご来場カップル一〇〇組達成しました!」


 え……カップル? な、なに誤解を……?


「いやーおめでとうございます! お客様、本当にラッキーですよ!」


「え、えぇ……まあ、ありがとうございます」


 店長に手を握られて、場の空気に飲めず流される俺である。


「――カップル……びくんッ!」


 アーシェはカップル、と聞いた瞬間、ボンと顔を紅潮させていた。


「達成したお客様に、特別ルームにご招待しまーす!」


 店長がそう言うと、アルバイト店員らに背中を押される。ご、強引な案内だな……これ。

 一般の個室ルームを通り過ぎ、一番奥にある物々しい部屋にたどり着いた。『特別個室 関係者以外立ち入り禁止』と書かれた部屋――なんとも不気味な空気を漂わせている。一体……何の部屋なんだ?


「ささ、どうぞ! 一〇〇組目のお客様には、特別なお客様しか使われない特別ビップルーム――ラブラブ防音個室を特別貸し切りいたしまーす!」


 店長がどうぞ、と言ったと同時に特別個室のドアを開いた。

 なんというのか……ベッドは無いがラブホみたいな個室だった。四畳半の普通の防音個室より倍ほどの大きさで、壁掛けの中型テレビに机、そして忘れてはならないデスクトップパソコンが二台置いてあった。

 ……嫌な個室を引き当てちゃったなぁ……これは。


「では、お客様。ごゆっくり……」


 店長はそう言って、ドアを閉める。俺は咄嗟に「やっぱり普通でいいです」と言おうと声をかけるが、防音扉によって遮られてしまった。


「……すまん、アーシェ。そのまま流すように部屋に入っちゃって……」


 アーシェの方へ振りむいて謝る――そしてアーシェの異変に気付いた。アーシェが挙動不審に部屋をうろうろしていたのだ。


「ア、アーシェ?」


 アーシェに近寄ると、はぁはぁと興奮するように息を荒らげ、白い頬を紅潮させて何かブツブツと呪文のような呟きを発していた。


「ラブラブ……個室、アハハハハハハハッ! な――」


 支離滅裂な事を言っている。頭のネジでもぶっ飛んだのか……? 

 いや、これは完全にエロゲ(もしくはティーンズラブ)に毒された人の妄想発言だな……。

 

 例えば、『アーッ! 最高だわぁぁッ! もっと、もーっと抱きしめてよッ! こうこう……あぁ、(ばきゅんッ)をぶち込むシーン、最高ゥゥゥッ!!』←と言う具合に、某漫画のセリフの一例をイメージしてしまう。


「アーシェ、落ち着けよっ」


 妄想癖で暴走するアーシェに対して、ぱこんと、チョップをお見舞いする。


「痛っ……。な、なにが起こったの?」


 四方八方にキョロキョロと視線を回しながら、アーシェは我に返った。


「お前、エロゲにハマってから妄想癖が出てきているんじゃないか?」


「……妄想癖? なにそれ? 女神様たる私に、野蛮な妄想癖あるとでも言うの?」


 いや、もう先ほどの情緒不安定な行動を取っていれば女神と呼ばれた人でも妄想癖があるって思われるわ……、と内心で突っ込んだ。と言うか、二週間も自堕落していたくせによく凛々しい言葉で言えるな、この駄女神は。


「まあ、それは置いといて……早くゲームの続きをやりたい」


「ハイハイ、分かった。セットアップ終わったらな」


 机の上に置いてある一台のパソコンの電源ボタンを押す。起動したパソコンにハードディスクを差し込み、ゲームファイルを展開させる。


(よーし、アイコン表示した。ファンタスティック冒険譚の動作確認……)


 デスクトップ画面に表示されたアイコンをクリックして、安定的に動作しているか確認する。そしてフリーズする事無く動作確認が出来た。


「これで出来るぞ」


「ん、ありがとう」


 椅子をアーシェに譲り、俺は隣にあるもう一台のパソコンの電源を入れた。


(さて、昨日出たレポート課題を片付けるか。最近、アーシェにパソコン占領されて全く手を付けられなかったからなぁ……)


 USBメモリを差し込んで、その中に保存しているワードを開いてレポート課題を書き始めた。


(――ゲッ! れ、レポート課題のネタが……思い付かねぇぇぇぇぇぇぇぇッ!)


 ――が、数秒でレポート課題のネタを思いつかない事に絶望し、頭を抱える俺であった。


(チッ……ちくしょーーーーーッ!!!!!!!!!!!!)

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