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女神様、美少女ゲームをやり始めました!(前半ゲーム実況、後半食レポ)後編

「えーっと、これをくりっくすれば、話を進められる――」


 カチカチと夏奈実から教わった通りにマウスを動かし、美少女ゲームのシナリオを読み進めていく。


『はぁぁぁぁああああん! (自主規制)!』


 お仕置きを終え、主人公と妹は服を着直している。どうやら、先ほどの行為のお陰で妹の好感度が上がったらしい。


「へぇー、これだけで好感度が上がるんだ。それで妹たちとギスギス関係……。この世界のゲームって面白い!」


 カチカチ……カチカチ……、じっくり話を読む。いつも紙の本を読む私にとって、パソコン画面で文章を読むのって斬新なアイデアだなって思う。

 紙の本とは違い、効果音や一部の行動を画面に映るキャラクターと音声だけで済ませている。紙で読むより、その場にいるような臨場感がある。妄想に飛び込むというより、そのままゲームの世界に飛び込む――そんな感じ。


「ふへぇぇ……。なんなの、この姉妹のギスギスした空気……」


 読み進めると、妹たちが主人公の事で揉め合っていた。ヤンデレの妹が包丁を持って、ブラコンの妹の喉に添えている画が映し出している。この二人……一体どうなっちゃうの?


『ふざけないで! お兄ちゃんは私の恋人なの! あんたみたいな狂暴女に恋人なんて務まらない!』


 汐がヤンデレの妹――未海に対して、怒鳴っている。未海は、汐の首元に添えた包丁を引いて喉を切り裂いた。壊れた噴水のように噴き出る紅く粘々した液体が、汐の部屋を彩る。

 未海は、『はははははッ!』と嘲笑した。


『あんたが悪いんだよ! お兄ちゃんに恋をしたんだから! でもね、汐。私もお兄ちゃんが好きなの、アンタみたいな害虫は始末しないとねえええぇぇぇッ!!』


 まるでホラーサスペンスのような文章が進み、後にブラックアウトして『BADEND』と右端に書かれていた。

 私は思わず、ヒッ……と小さい悲鳴を上げた。なにこれ……少し前にあった選択肢で物語が変わるの?


(……嫌だ。二人とも、幸せなハッピーエンドを見てみたい)


 タイトル画面に戻り、『最初から』のボタンをクリックした。夏奈実は少し先の方まで読み進めていたらしいけど、私はこの物語を知らない。最初から読んでみよう。

 最初は真面目な主人公が、積極的に主人公にアタックするブラコンの妹・汐ちゃんと主人公のケータイを逐一確認するヤンデレの妹・未海ちゃんとの何気ない日常から始まる。だが、話を進むにつれて妹たちの関係が悪化して、どうにか関係を修復しようと奮闘している内、妹達と行為を始めてしまう―――序盤を読んで率直な感想は、関係修復のために奮闘する主人公が何故妹達と行為をするのか、そこがイマイチ分からなかった。

 そして話を進めると、どちらを選ぶのか……選択肢が出てきた。まず汐ちゃんのルートを攻略してみよう。


『お、おにいちゃん……ん……』


 汐ちゃんに激しくキスをしている主人公。やだ、なにこれ……汐ちゃんが気持ちよさそうな顔をしている……。

 気持ちいい顔して――あぁ、私も……あんな風になってみたいなぁ……。


「はぁ……ん。ん――――」


 甘く蕩けた淫乱な声を上げ、思わず私は手を伸ばして―――――(完全な規制シーン突入しまーす!)



「ふぅ……、はっ! つい勢いでやっちゃった!」


 ゲーム内の行為を見ていたら勝手に――――。とりあえず、ハンカチで拭いておこう。この状態のまま夏奈実くんに見られたら、痴女に思われてしまう……それだけは嫌だ!

 急いでパソコンの周りを片づける。幸い、夏奈実くんはぐっすりと眠ったままだった。


(大丈夫、気づかれていない……)


 もう一度、汚れていないか確認する。――よし、汚れていない。さて続きを読もう。


(……汐ちゃんとデートか。主人公、いいセンスしているじゃん)


 カチカチ……クリック連打して、話をどんどん進める。汐ちゃんとのデート、今まで読んでいる本の中でも結構読みごたえのある話だ。服選びとか、カフェで一緒に食事するとか……恋愛小説でありそうなシチュエーションデート。そんな事を一度もしたこと無い私でも心にグッとくるね。

 カチカチ……ずっと読んでいると、お腹がぎゅるるっと鳴った。ちゃんと朝ご飯を食べたのにこんなに腹が鳴るのか……と疑問に思っていたが、ふと時計の方を見たら一二時を過ぎていた。


「もう昼……お腹すいた……」


 私はデスクチェアから立ち上がって、ベッドの上で寝ている夏奈実くんの体を揺さぶって起こした。


「うっ……うう……、あ、アーシェ? どうした?」


「お腹すいた。何か作ってよ!」


「――――うぇ? ……あ、もうこんな時間か。昼飯作るから少し待っていな」


 大きなあくびをして起き上がった夏奈実くんは、自室を出て一階に降りる。私も彼の後を追っていくと、食卓の方へ向かっていた。


「アーシェ、冷凍チャーハンでいいか?」


「冷凍チャーハン?」


 なんだろう、その料理。冷凍チャーハンって美味しいのかな?

 ゴクリ……と、口からあふれ出そうになった唾液を飲み込む。イケナイ……涎が出そうになった。食べてみるか……、冷凍チャーハンを!


「うん、それでもいいよ」


「すぐにできるから、座って」


「うん」


 私は椅子に座り込む。待っている間――いつもなら読書したいけど、早くあのゲームの話を読みたい……。二階に戻ってやりたい……でも、もうすぐ出来るから待っていないと……出来立ての冷凍チャーハンが食べられなくなる。一体どうすればいい――


「おい、出来たぞ!」


「うえっ……? もう出来たの?」


「まあ、な。簡単に作れるやつだから」


 そういって、とこんと食卓の上に皿を置いた。しかし、イメージしていた冷凍チャーハンとは大きくかけ離れていた。冷凍――凍らせたものかと思っていたが、ホカホカの彩のある具材を入れたご飯だった。


「え、これが冷凍チャーハン?」


「そうだよ。チャーハンはチャーハンだろ?」


「ひんやりしていない……なんでホカホカしているの?」


「え? 冷凍チャーハン知らないの?」


 夏奈実くんは少し驚いた表情で、私の事を見つめていた。しかも、何処か寂しそうな目で見ている。


(え、何? 私、まずいこと言った? それに何悲しそうな瞳で見つめているの? 怖いんですけど……)


 そして何かに悟ったのか、夏奈実くんは私の肩にぽんと手を置いた。


「まあ、食べてみな。美味しいから……。ぐすっ……可哀想に冷凍チャーハンも知らないなんて、本当に女神様なのかしら……」


 悲しげな表情で見つめた後、夏奈実くんの分のチャーハンを作り始めた。一体何に悲しんでいるのか謎だけど、気にせずにチャーハンを食べよう。

 パクリ……と一口食べ、もっきゅ……もっきゅ……と力強く噛み続ける。

 ――途端、びしゃん、と体に雷が撃ち込まれたような衝撃が走った。


(え、何……? 一体何が起こったの?)


 この衝撃を知るために、私はもう一口食べた。もっきゅ……もっきゅ……。


「―――ッ!!!!」


 また衝撃が走った。これは……これは―――


「アーシェ、どうした?」


 心配そうに声をかける夏奈実くん。私はその事に気づかず、がたたと椅子から立ち上がって――


「うまああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああいッ!」


 脳内に『ツァラトゥストラはかく語りき』の音楽を流しながら、思わず叫んだ。

 な、なんだこれは……凍らせたはずなのに野菜がシャキシャキしているし、味付けも甘辛いくておいしい! これが……、夏奈実くんが住んでいる世界の料理なのか……!?


「――――あわぁぁ……」


 一口、一口――口の中に運んで、チャーハンを食らいつく。

 カランとスプーンを皿に置く。別にお腹一杯とか美味しくなかったとかでは無い。

 ――ヤバい……、この味は病みつきになってしまう。まだ半分しか食べていないけど、もう一皿、食べたい……。くそ、どうする? 食べたい……、食べたい……。食べたいんですけど……、このチャーハンをもう一皿ッ!


「ふぅ……でーきた。さーって食べよ」


 とこ、と食卓の上に皿を置く。あ、そうだ。夏奈実くんからチャーハンを貰おうかな!


「あ、あの! チャーハンをくだ――さ――」


 くださいと言おうとした瞬間、チャーハンが真っ黒になっている事に気づいた。え、と思わず声を上げた。なんで私の時は普通だったのに、自分のはダークマターに変化しているの? ナニコレ、バケモンですか?


「ん? どうした? ブラックペッパーチャーハンを食いたいのか?」


「ぶ、ブラックペッパーチャーハン?」


「あぁ、粗びきこしょうをぶっかけたチャーハンだよ。毎度毎度シンプルなチャーハンばっかり飽きるんだよ。試しにピリ辛にしようと胡椒をかけたんだ。そしたら、めっちゃ美味くてねぇー。まあ、こういう刺激系弱いなら止めた方がいいけどね」


(……な、なんだと! チャーハンに胡椒をぶっかけるだと……!? な、尚更食べてみたい! 私は辛いのは苦手だけど、た、食べてぇ……)


 ゴクリ、と大量にあふれ出た唾液を飲み込む。食べたい……、食べたい……。


「……あぁ」


「……ん? な、なんだ? そんなにまじまじと俺のチャーハンを見ているんだ? もしかして食べたいのか?」


「――はっ!? あ、いえいえ! 大丈夫です!」


「そうか? 涎がダラダラ垂らしまくっているんだけど」


「はっ!? あぁー、その……食べたいです! 一口食べたいです!」


 恥ずかしながら、大声で言う。というか、恥ずかしながら大声で言わなきゃならないんだろう……。


「ほら、食べろ」


 夏奈実くんはスプーンを私の前まで持ってきた。そして私はあーんと一口食べた。


「モグモグ……ん!?」


 な、何だこれは――口の中が灼熱の炎に飲み込まれような感覚が襲った。


「か、からあああいッ!?」


 な、なにこれ……辛い、とてつもなく辛い! 口が火傷したような痛みが襲ってくるぅぅ……!?


「あぁ……、だから言ったのに……!」


 急いで立ち上がった夏奈実くんは冷蔵庫から、キンキンに冷えた水を持ってきた。


「ほれ、冷たい水。これで少しは辛さの痛みが引くから」


 私はすぐさま手に取り、それを一気にがぶ飲みした。腹がタプタプになる? 知るか、早く痛みからおさらばしたい!


「ぶはっ……! はぁ……はぁ……」


「お、おい。大丈夫か? いくら何でも一気飲みは腹下すぞ」


「大丈夫です! これでも私は――うごっ!?」


 私は下痢なんてしません、と言おうとした途端、急激な降下が腹を襲った!


「おごごっ……」


「強がっていないではよ、トイレいけ」


「は、はぃ……」


 ぎゅるるるるるるるるるッ、と腹を唸らせながら、トイレへ向かった。


「あぁ……でるうう……!?」


 トイレに飛び込んで、吐血と同じ感じで便器にぶちまけた。やっぱり、キンキンに冷えた水をがぶ飲みするんじゃなかった……。


「だから言っただろ、腹下すから」


 はあ、とため息交じりに呆れながらつぶやいていた。


「ううっ……オオオオオオオオオッ……」


 ――三十分間、トイレに閉じこもり地獄を味わった。もう冷たい水を一気に飲むのはやめよう、とそう誓った私であった――


「おい、胃薬いるか?」



「――ください。なんでもください。私のお腹の痛みが消えるなら何でもくださいッ!」

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