20話
ブラッドが去って間もなくするとシンシアたちがブラッドの部屋を訪れた。あくびをしているノインを尻目にシンシアは扉をコンコンと叩き、呼びかける声を響かせる。
「先生、入ってもよろしいでしょうか?」
すると扉は内側から開かれそこには一人の女性がいた。エミリーである。予想外の人物の姿にシンシアとノインは目を丸くする。その様子を見てエミリーは穏やかな笑みを浮かべながら事情を話そうと口を開く。
「ブラッド様は先ほど用事があるからと出ていかれました。それで私にシンシア様たち宛の手紙を託されましたのでお渡ししますね」
そう言って懐から手紙を出し、手渡す。シンシアは納得した様子で手紙を受け取る。
「それともう一つブラッド様からシンシア様方がこちらのギルドで活動できるように手続きをするように頼まれましたのでギルドに行く際は私に御一報ください」
「それなら今からでいいですか?ノインもいい?」
「ん、構わない」
「承知しました。では今から向かいましょうか。案内しますのでついてきてください」
エミリーは宿の出口に向かって歩いていく。二人もその後ろを追従していく。宿を出て歩いているとシンシアは思い出したように疑問を口にした。
「そういえば何で先生はまだ私たちを迷宮に行かせないのかな?」
それを聞きノインは呆れたような表情を浮かべる。
「行かせないのではなく私たちではまだ入れない。迷宮に入るには青玉以上の等級が必要だから」
「えーと、それってどのくらいの期間でなれるのかな?」
「およそ早くて一年、長くても三年のほどですよ、シンシア様」
二人の会話を聞いていたエミリーがシンシアの隣まで下がり答える。
「そうなんですね。でも何でそこまでの等級が必要なんですか?魔物なら地上でもいますし討伐の依頼もあるのに……」
シンシアは続けざまに疑問を訪ねた。それにエミリーは笑顔で答える。
「それはですね、迷宮の魔物は外の魔物とは違い生物的な本能を持っていないからです」
「それはどうゆう……」
エミリーがその疑問に答えようとするがそれよりも先にノインが話し出す。
「私が説明する。迷宮の生物は死を恐れないし異種族の魔物とも協調する。だから、死ぬ直前まで相手を殺そうと足掻くし、他の魔物と連携して戦術的な動きもする。よって普通の魔物よりも同じ個体でも強くなる。わかった?」
「うん、ありがとう。ノインは詳しいんだね」
ノインは誇らしげな顔して薄い胸を張る。
「でも、なんで迷宮の魔物はそんな特性があるのかな?」
「迷宮の魔物は魔法で作られた魔法生物だからってにいが言ってた」
「ブラッド様がそう言ってたのですか?」
エミリーは少し驚いた顔で尋ねた。
「そうだけど、何かあるの?」
「いえ、私は存じ上げなかったものですから。ブラッド様が言ったなら信憑性は高そうですね」
にっこりと笑顔を浮かべ、ノインに返答する。
そんな会話をしているうちに冒険者ギルドに着いた。帝都の冒険者ギルドは王都とは違いかなり巨大な作りをしていた。王国は迷宮都市と王都は別に存在しているが帝都は国の首都であり迷宮都市であるからだ。エミリーたちは身の丈を超える大きな扉を開け中に入る。そこには王国の迷宮都市にも負けないくらい多くの人がいた。
「私は手続きをしてまいりますのでお二人は依頼でも見て待っていてください」
「分かりました」
シンシアの返事を聞くとエミリーは受付の方へと歩いて行った。シンシアとノインは入口から見て右奥にある依頼が張り付けてあるボードに向かう。その板には数多くの依頼が所狭しと貼り付けられていた。
「ノイン、どうする?」
「とりあえず討伐がいいと思う。採取系統の依頼はここらへんの地形が分からない私たちには難しいだろうから」
「そうだね。でも討伐系の依頼は私たちの等級じゃほとんど受けられないね」
「ん、確かにこのままだと肩慣らしにもならない雑魚狩りする羽目になりそう」
二人が頭を悩ませていると後方から一人の男が話しかけてきた。
「嬢ちゃんたち討伐の依頼に行きたいのかい?」
二人が振り返るとそこには見るからにガラの悪そうな冒険者が立っていた。その男からは強い酒の匂いが漂っておりシンシアは思わず顔を顰める。
「そうだけどあなたには頼らないから」
ノインはそっけなく告げると虫でも追い払うかのように手をばたつかせる。
「おいおい、白磁のガキが鋼鉄の俺にその態度はねえだろ」
男は胸元の認識票を見せつけるように指さす。ノインはそれを見て鼻で笑う。
「鋼鉄?雑魚が何粋がってるの?私たちはほんの少し前に冒険者登録したから白磁なだけだから。何年も鋼鉄で燻ってるあなたたちと比べられること自体が心外」
ノインのその挑発めいた様子に男は怒り心頭といった様子であった。シンシアはその一触即発な状況にはたふたと慌てるだけだった。
「ガキが、調子に乗ってんじゃねーぞ!」
男がノインに殴りかかろうとした時凛とした声色がギルド中に響いた。
「やめなさい!」
その声に男は動きを止め、その声の方を向く。男の視線の先には鮮やかな青色の髪を携え、背中に身の丈ほどの槍を括りつけた白色の法衣を纏った女性がいた。その姿を確認した男は彼女の髪の色よりも青い顔をしている。
「また、あなたですかベント。次はないと言い含めたはずですが」
「あ、あの……これは……」
「これは何ですか」
じろりと凍えるような視線を浴びせられた男は必死に抗いその場から駆け出す。男は脇目を振らずにギルドを一目散に出ていった。




