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エピローグ

 男は人知れず豪奢な意匠をした日記に記録をつけていく。自分の心のうちをさらけ出すようにインクを滲ませる。数ページほどの空白を埋めると一息つくように傍らに置いてあったカップを手に取り、口に運ぶ。


(こんなものかな。書きたいことも書けたことだしそろそろこれを見つからないように隠しておかないと……)


 隠し場所について思考を巡らせていると突然の息苦しさに思わずせき込む。とっさに口を押え飲み物で日記が汚れないようにする。日記の方に目をやると染み一つない様子が月明かりに照らされていた。男はその様子にほっとした。だが、抑えていた手の方を見ると赤黒い液体が飲み物に交じって手のひらを汚していた。


「私ももう長くないか……。色々と仕込みはしたが果たしてうまくいくものか不安だが王子を信用するしかないだろう」


 男は汚れた手を拭い日記を持って屋敷の一階のある部屋に向かう。男は特に他の部屋とは違いのない空間を進み、床の一点を強く押す。すると一部の床がスライドし階段が現れる。男は慣れたようにその階段を下っていく。数分ほど階段を下ると何もない広間のような場所があった。男は上がった息を整えながらその広間に持ってきた日記を置く。


「ここならばあの人以外には見つからないだろう」


 そう言いながら男は仮面の冒険者を思い浮かべる。男の計画通り彼がこの日記を見つければシンシアのことはまず安心だと言えるだろう。なぜならこの日記にはシンシア自身も知らない秘密が描かれておりそれは彼にとっても無視できない事柄であるからだ。まあ、この希望的観測は昔からの知り合いである彼女の受け売りであるが彼女は全知と言っても過言でない人物だ。それにこれは彼女の大敵である退屈な生に刺激を与えてくれるはずである。そうなればこれが嘘だとは考えにくい。だから、私は彼女に言葉を信じ、王子を通じて彼に依頼を出したのだ。


 だが、私はその結果を見届けることはできない。男はわずかな悔恨の念とシンシアの幸せを願って階段を昇って行った。


 

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