秋葉原ヲタク白書21 私が還暦になっても
主人公は、SF作家を夢見るサラリーマン。
相棒は、老舗メイドバーの美しきメイド長。
このコンビが、秋葉原で起こる事件を次々と解決するという、オヤジの妄想満載な「オヤジのオヤジによるオヤジのためのラノベ」シリーズ第21作です。
今回は、アキバのスタートアップCEOの浮気調査を頼まれます。しかも、依頼人は小学校時代の女友達でワケありの様子。
不倫系の仕事は受けないと1度は断るコンビでしたが…
お楽しみいただければ幸せです。
第1章 ブロ友は同級生
「貴方が…テリィさん?」
「ええ。そして貴女が…タマ氏?」
「会いたかったわ、貴方に」
今宵も僕の推し(てるメイド長)ミユリさんの御屋敷には新たな出逢いが待っている。
前のブログからの友達であるタマ氏がトレンチコートにピンクのパンツで初御帰宅。
春っぽい優しげカラーでまとめたコーデで描いていた通りのフェミニン系美人のようだ。
こりゃ彼女から初コメ(ント)がついた時に、実は男か?と疑ったコトは内緒にしとこう←
「ココの場所、直ぐにわかりましたか?」
「…」
「もしかして、御屋敷が発する謎電波に操られて来ちゃったクチかな?」
ミユリさんの御屋敷は、アキバのストリートでは「中性子星バー」とか呼ばれてルンだ。
高速回転しながら電波を発し、その電波に操られたヲタクが続々と集まるからね。
…にしてもリアクションが薄い。
もしかしてムッツリ系の腐女子?
「…覚えてないの?全然ダメ?」
「あれっ?何処かで会ってますか?」
「あーあ。ショックだな。スクール水着にならなきゃダメなの?」
ええっ?じゃとりあえずスク水になって頂いてから何を思い出すか2人で考えましょう…
ぎゃ!カウンターの中のミユリさんがデス光線を両目から発射!僕の心臓を貫通スル←
ミユリさんは僕の考えているコトがわかるから厄介だょ何しろ僕達は以心伝心なので←
…ってか、このタマ氏って誰ょ?何者なんだろ?ただのブロ友だと油断したのが失敗w
改めて目の前の女子に目を凝らすと、実は僕と大して年が変わらないコトに気がつく。
スキニーな感じが若く見せるのか、通販番組を席捲中の「美し過ぎる何チャラ」系だ。
あ、思い出した…
「タマキ!タマキだなっ!」
「当ったりー!やっとわかった?うふふ」
「こいつぅ!」
と、恋人みたいにデコピンしようと思った…だけでしてません絶対に←
カウンターの中でミユリさん+ヘルプのつぼみんまでがスゴい顔だょw
ミユリさんは僕の考えてるコトが…(以下省略)
「タマキだ!小学校時代の同級生のタマキだょね!小学校の同級生だっ!懐かしいぜ、わっはっは!」
「え?どぉしたの急に?大声出しちゃって」
「小学校の同窓生だったんだ、わっはっは!」
横目でチラ見すると、ミユリさんは異様に長い溜め息をつき、わかったからもういいわ、という顔をする。何とかセーフのようだ←
タマ氏が僕の過疎ブログを訪れるようになり、実は数年が経つ。
思わず心が和むフレンドリーなコメントをくれる貴重なブロ友。
ソレがまさか自分の幼馴染(と逝うべきだろうか)だったとは不意打ちだ。
フェイスブックなどと違って、匿名性の高いブログならではの出来事だ。
僕は、今までのコメ(ントへの)返(事)にウッカリがなかったかを光速で脳内チェック。
「卒業文集に、将来は作家になると描いてたけど…ホントになったのね!」
「まだ駆け出しだけど『地下鉄戦隊メトロキャプテン』が当たって、まぁ何とかって感じだょ(やや余裕)」
「毎週、必ず見てたわ…息子が」←
え?息子?何才ぐらいかな?結婚してルンだな。当たり前だょな。
ごく自然な流れ?で、人並みに彼女の薬指チェックとかしてみる。
くっきりと指輪の「痕」が白い。
「あ、今宵は貴方と逢うから指輪は外してるけど、結婚はしてるから…というか未だしてる、って言うか…」
「未だ…してる?どういう意味?」
「…夫が不倫してるカモ。お相手は美しき女弁護士さんらしいんだけど」
そしてタマ氏は笑ったが、流石に痛い笑顔だ。
話は、僕の苦手な方へ転がりつつあるみたい。
「テリィは、秋葉原の便利屋さんなんでしょ?実は夫を調べて欲しいの。旦那の勤め先が秋葉原なので」
「浮気調査キター。女弁護士って興味津々で萌え萌えだけど、悪いが浮気調査って受けてナイんだ。専攻が違うんで」
「ええっ?断るつもり?それじゃ仕方ないわ…えーっと、今宵、バーにお集まりのみなさん!このテリィという男は、小学校時代に臨海学校で私の水着に…」
あわわっ!何を逝い出すんだっ!
ソレは!ソレだけはっ!
僕は、タマ氏にソレ以上を語らせズ、腕を掴み御屋敷の外へと連れ出す。
逃げ出す?僕の肩を常連がバシバシと叩き、一斉に冷やかし&口笛で大騒ぎw
バーは雑居ビルの2Fにあり、昭和通りからは外階段で上がルンだけど、とりあえず、途中の踊り場でタマ氏と向き合う。
「わ、わかった。今回に限って特別サービスで受ける。ただし、予め逝っとくけど、今回はミユリさんの協力が薄そうで解決まで持ってけるか自信がナイ。それから、アフターサービスはナシ」
「秋葉原の有名コンビに全力で頼みたかったんだけど…ありがと。ハイ、じゃコレが旦那の顔写真。あと勤務先の住所」
「ちょっち待ったー!!!何してんのか知らないけど、とにかくヤメて!ソコは、私とテリィたんの想い出の場所なのっ!」
あぁまた厄介なのが来たょw
その「たん」もヤメてくれ…
サイバー屋のスピアが、大きく肩で息をしながら、通りから僕達を見上げてる。
(恐らく並びにあるマックから)全力疾走で来たのか汗だくが似合うジャージ姿。
そして、そのジャージの下は多分トレードマークの白スク水なんだけど、今回はホントにスク水が多いけど何で?作者の好み?笑
「アンタ、誰?テリィたんの元カノ?何番目?ちゃんと私の後ろに並んでょ」
「あ、貴方がスピアさんね?私は元カノじゃないの。小学校時代には別のカレがいたもの」
「ええっ?!」
最後の悲鳴?は、僕とスピアが異口同音w
とりあえず、ココは年長の特権で僕から←
「だ、誰だょ?小学校時代の別のカレって?」
「え?ミチル君に決まってるじゃない。ちゃんとキスまでしたんだから…テリィったら声が震えてる。カワイイ」
「ホ、ホントかょ?人が中学受験で地獄を見てる間に油断もキス、じゃなかったスキもないな」←
女みたいな名前のミチルは、学年(都心校では珍しく6クラスもある)1の秀才。
僕が四苦八苦した中学受験もアッサリ突破して確か今は弁護士をやってるハズ。
同じ「士」でも、会社に入ってから電気工事士を取った僕とはエラい差がついてる←
後に続くハズのスピアも、タマキが小学校の御学友と知って珍しく恐縮してる様子w
「あ、あぁ幼馴染さんでしたか。ソレはちょっち…でも筆頭元カノである私の顔を立てて下さいね。礼儀でしょ?」
「な、何だょその筆頭ナンチャラって。そもそも何でココにイルのがわかったんだょ?」
「だって、つぼみんから『貴女の神聖な踊り場が大変ょ!』って逝われて…」
Shit!どうせ裏にはミユリさんがいるんだろうがアッサリ操られるスピアもスピアだw
そんなんだからスク水で公開処刑されちゃうんだょと嘆息してたら彼女から重大発言←
「あ、この人、私知ってる!」
僕が手にしてるタマキの旦那の写真を指差す。
第2章 余命いくばく
「君の会社を買おう。ただし、価格の提示は1度きり、回答は24時間以内だ」
「断る。今はリリース出来ない。エンジェル(投資家)への責任もある」
「わかった。では、お前を潰す」
スゴい内容の話だが、こんな話が御屋敷で為されているトコロが何とも秋葉原だ。
ココはメイドカフェ「メイドラマチック」7号店で僕はスマホ型の集音マイクで会話を盗聴中。
「国が救ってくれるとタカをくくってるな?意思決定の遅い『日の丸連合』方式で生き残った業界はないぞ」
「この技術は…『光のスイングバイ』だけは、お前達の国には売れない」
「JDI(官製再建中だった液晶メーカー)の時もお前の国は同じコトを言ってたょ」
スピアの話では、タマキの旦那は、AMCのスタートアップCEOで買収攻勢を受けている。
スタートアップが開発した「光のスイングバイ」と呼ばれる技術を大陸の国が狙っているのだ。
「光のスイングバイ」は超銀河団の万有引力を利用して光の速度や方向を変える技術だ。
ハイ!何を逝ってるか全然わかんないょね?ソレで結構。アナタが正常。先へ進みマス←
「交渉は決裂だ。帰らせてもらう」
「おいおい。秋葉原じゃそんな言い方はNGだ。こう言うんだょ、いってらっしゃいませ、御主人様」
「何を!この幼稚なジャパニーズヲタク!」
すかさず、メイド長のリンカさんが「いってらっしゃいませ、御主人様」をコールする。
買収を仕掛けた弁護士?はフロアに仁王立ちになったが、こうなると帰らざるを得ない。
お出掛けする弁護士を振り返りもせず、タマキの旦那は、悠然とアッサムティーを一口飲んで…ありゃりゃ!僕の方へやって来る!
「こんにちわ。貴方がタマキが雇った探偵さんかな?僕の不倫を調査をしてるんだろ?」
「はあぁ?何のコトやら…」
「いいんだょ。僕は、何もかも知っているんだ」
穏やかな口調に柔らかな物腰。
こりゃサッサと切り札切ろう。
「君は…ゲイか?」
「えっ?ええっ?何でそうなるの?」
「さっきの弁護士と出来てるな。僕は、目を見ればわかるンだ」
実は2人の目なんか全然見てないんだけど、スピアからの事前情報に賭けてみる。
ところが、僕の切り札を耳にしてタマキの旦那は異様に長い溜め息をつくばかり。
「やれやれ。裏で何を言われてるかわかったモンじゃないな、この街は。僕は正真正銘のストレートだょ」
「えっ?じゃさっきの弁護士は男装の麗人と逝うコトか!さすがはアキバのスタートアップCEOだな!」
「だ・か・ら…あぁ何だかもう面倒臭くなってきちゃったな」
いつもなら、僕の方が口にしそうな台詞だ。
どうやらタマキの旦那とは気が合いそうだ←
スピアからは、買収交渉はメイドカフェで行われるが、激論を交わす内に相手側の美貌の弁護士と恋仲になった、と聞かされてる。
「探偵さんが誰かは知らないが、時間トンネルの連中やスピアさんから噂は聞いている。凄腕だそうだね」
「いやぁソレほどでも…ってかそもそも探偵じゃナイし」
「その腕を見込んで、実は頼みがあるんだ」
彼は、気を取り直したのか、妙にかしこまった態度で話し出す。
空気を読んだリンカさんが、彼の為にイスと紅茶を持って来る。
おーい!そのダージリン、僕が払うから笑
「探偵さんには、このまま不倫調査を進め、タマキにキチンと報告して欲しいんだ」
「え?ゲイでした…って?」
「勘弁してくれ。ソコでコレもムシのいい相談なんだが、そっちで誰か適当な不倫相手を見繕ってくれないか?ソレも大急ぎで」
何を逝ってんだ、この人?
御注文は不倫一式ですか?
「美貌の女弁護士との不倫話は、実は僕のデッチ上げでタマキとの喧嘩中に言い出したら後に引けなくなった。今回、彼女の前でキッパリと謝罪し、やはりタマキを愛してると告白して全てやり直したい」
「何だょソレ。だったら今すぐ謝れば済む話じゃないか。きっと許してくれるょタマキのコトだから」
「いや。余りに話がこじれ過ぎてしまった。どうしても、彼女のベッドサイドで愁嘆場を演じる必要がある。わかってくれ、男なら」
確かに男だけどイマイチよくワカラン。
ソレにそのベッドサイドって何なんだ?
「おいおい。まさか不倫の芝居を君達の夫婦の寝室でやれとか逝うんじゃナイだろうな。いくらなんでもソリャ勘弁だぜ」
「そんなコトは言ってない。コレが…恐らく僕達夫婦の最後の夫婦喧嘩だ。病床の彼女に謝罪し、タマキへの愛を改めて誓うつもりだ」
「え?」
最後の夫婦喧嘩?病床の彼女?
いったい、何を逝ってルンだ?
「タマキは癌だ。あと、持って1ヶ月」
第3章 ベッドサイドの劇場
運命の48時間が始まる。
こうした場合のお約束らしいが病院に出来る事はもうないそうで退院日が設定されてる。
ソレが2日後と逝うショートノーティスで、みんなからは悲鳴が上がるがやるしかない。
何とかタマキの退院に間に合わせたい。
修羅場を夫婦の寝室には持ち込めない。
先ずメイド仲間のリンカさんから話を聞いたミユリさんがコネ総動員で不倫相手を探す。
(僕は、このまま?ゲイ路線で逝き小学校同窓のミチルに声かけすると提案するも却下w)
芝居が必要で劇団系も考えたが、法律話が出るかも知れズとりあえず行政書士を当たる。
萌え産業は基本的に風営法適用の対象なのでアキバは行政書士の巨大マーケットなのだ。
そして、巨大マーケットには…
なーんと巨乳行政書士がいる。いや、もはやコレは爆乳カモ←
「ミユリ!アンタ、何でこんなお金になんないコトやってんの?バッカじゃない?」
「久しぶりだわ、エリカ。貴女が駆け出しの頃、よくこんなコトやって名前を売ってあげたっけ。楽しかったわね、あの頃」
「あちゃー。そー来たか。わかったわかった私が悪かった。宣伝だと割り切って手伝うわ。不倫なら経験豊富だし」←
ゼヒお手合わせ願いたくなるエリカさんはハイウェストでクビレ強調のミニの黒スーツ。
お約束の胸元はブラウスのボタンを既に3つまで惜しみなくオープン、戦闘準備は完了。
「じゃ、いいかな。先ず、僕とミユリさんの探偵コンビがタマキのベッドサイドで旦那の不倫を事細かに報告する。さっき撮った偽の証拠写真を見せながらね。ソコヘエリカさんが半狂乱で病室に入って来て…」
「ちょっち待ったー!何ょその半狂乱って?」
「お願い、エリカ。貴女はタマキさんの旦那に未練タラタラで、病床の彼女に旦那を譲れと迫る迫真の演技が求められているの」
開店前のミユリさんの御屋敷。
僕達は最終手順を確認中。
「そして、タマキの旦那にバッサリ捨てられ、その場に泣き崩れるんだ。正にエリカさんの芝居に、この修羅場のクオリティ全てがかかっている。女の意地を見せてくれ」
「何なの、その修羅場のクオリティってwミユリ、コレ貸しだから。後で風営法申請10件くらいまとめて寄越して!絶対ょ!」
「うーん10件かぁ。深夜営業許可申請も併せてでOK?」
その時、ミユリさんのスマホが鳴る。
病室に張り込んでるつぼみんからだ。
「え?タマキさんが危篤?数日前まで、外出許可でアキバまで遊びに来てたのに。え?テリィ様?いらっしゃるけど…」
「テリィです。あ、タマキの旦那さん?どうしますか?延期しますか?」
「やってください」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
素晴らしい出来だ。
オレオレ詐欺には数人がかりで老人を騙す「劇場型」と逝うのがあるそうだ。
息子役、上司役、警官役などが交替で迫真の演技でストーリーを紡ぎ上げる。
今回の僕達が正しくソレだ。
エリカさんが「全」狂乱状態で病室のドアを蹴破って入って来る演技には全員が肝を潰す。
泣き腫らし褪せ落ちたアイメイク、チーク、リップ、目の隈に割れた唇はどう作ったのかw
続く大音声での修羅場に、すわ何事とステーションからはナースが飛んで来る←
挙句、タマキの旦那に捨てられ大地も避けよと泣き崩れて彼女は義務を果たす。
舞台はラストシーケンスに入り「やはり僕には君が必要だ」と夫婦は手を取り合い、他の役者は舞台からハケる…ハズだったが。
「タマキさん!」
エリカさんが文字通り蹴破った病室のドアに明らかにギョッとしながら、何処かで見覚えのある身なりのいい男が入って来る。
高級スーツに身を包むエグゼクティブ…あ、見覚えあると思ったらNHKニュースだ!有名事件で連戦連勝のヤメ検敏腕弁護士だょ。
私達コレからいいトコロ…なのに何の用?
「ミ…ルくん」
既に意識が混沌として来たのか、ベッドに横たわったままタマキが呻くように逝う。
え?ミチル?この男がミチルなのか?そう逝えば、何となく顎のラインに見覚えが…
「私はタマキさんの小学校時代の同級生で橘ミ『ツ』ルと申します。タマキさんから、突然連絡を頂戴しまして。みなさんは御親戚ですか?」
いいえ。オレオレ詐欺の一味です。
さらにミ「ツ」ルが余計なコトを。
「あ、先生。コレは失礼しました。ん?その弁護士記章は…」
エリカさんの(巨大な)胸に燦然と輝くニセモノの弁護士バッジを指差す。
次の瞬間、ミ「ツ」ルは全てを悟ったような顔になり意地悪く質問する。
「先生は随分と変わったバッジをお持ちですなぁ。私のは天秤にヒマワリですが、先生のは菊の御紋ですね?皇族の方?」
「失礼ね!アンタ、私の胸に触ったね?セクハラよ!誰かこの人を摘み出して!」
「君、出て行ってくれないか!病院のセキュリティを呼ぶぞ!」
エリカさんとタマキの旦那が排除に挑むが、ドッシリ構えた弁護士はピクとも動かない。
一般に、司法書士は弁護士に対しコンプレックスがあり、両者はマァ余り仲がよくない。
「何ょ!行政書士をナメてんじゃないわょ!」
「何?アンタ、書士か?こんなトコで何やってんだ?」
「頼まれて修羅場やってんのょ!」
あちゃーw
僕は、もはやコレまでと覚悟を決め、胸の前で腕を十字に組んでミ「ツ」ルとエリカさんとタマキの旦那とメイドふたり(ミユリさんとつぼみん)がもつれ合うカオスの只中へと身を投げる!
罵り合い、もつれ合い、怒号が飛び、眼鏡が飛び、疑心暗鬼と憎悪が連鎖する。
ただ、僕はひたすら無抵抗に徹して十字に組んだ腕をミ「ツ」ルに示し続ける…
終わりは、突然やって来る。
「先生!先生じゃないですか!私です。ハーバードのロースクールで御一緒した橘です。いやぁ奇遇ですなぁ」
今の今まで争っていたハズのミ「ツ」ルが態度を豹変して、エリカさんに握手を求める。
エリカさんは、何が起きてるのかわからズ、呆然としたままミ「ツ」ルの手を握り返す。
「その後、帰国されたと伺いましたが…HLS(Harvard Law School)ではスッカリお世話になりました!いやぁ奇遇だ。いや、コレは失礼」
何が何だか良くわからないが事態は劇的に好転したようだ。
空気を察したミユリさんが素早く「一座」を病室から出す。
みんな大人しく(エリカさんとミ「ツ」ルなんか握手したままだw)廊下に出る。
病室の中では、タマキが旦那の手を握り、ラストシーン最終テイク、スタート!
千秋楽はクライマックスを迎える。
第4章 木漏れ日の春の日に
翌日は、春風万里の穏やかな日。
その朝、タマキは逝く。
数日後に執り行われた御葬式は、タマキらしく、賑やかで人波の絶えないものだ。
最後の最後まで、タマキは旦那の手を握っていたと聞かされ僕達は大泣きに泣く。
ヲタクだって、悲しい時は泣くんだ。
その夜、僕達はいつものように、それ以外の人達は自然とミユリさんの御屋敷に集まる。
ミユリさんとつぼみんは、喪服からメイド服に着替え、喪章をつけてカウンターに立つ。
「タチマン。エリカさんに色々突っ込んでくれてありがとな。危うく芝居を台無しにしかけてくれちゃってさ」
「あのなぁ。法の番人の目の前でコンゲーム(オレオレ詐欺的な信用詐欺)はナイだろう。今時のヲタクは取り込み詐欺師の集まりか?」
「それからタチマン、お前、臨海学校でタマキにキスしたんだってな。ソレ黙ってたょな、クラスの僕達にさ」
僕は、やいのやいのと旧友を責める。
因みに、タチマンは橘満を小学生なりに短縮した1種の渾名だ。
この短縮形のせいで、彼の本名はミチルだと思ってたワケだ。
「あぁ中学受験の最中だったしな。あんまり騒がれたくなかった。でも、お前だけには話したょな?」
「しかし、払った代償は大きかった。その後、僕は変態のレッテルを張られて、不遇の人生を送ったんだ」
「ソレはないでショー。お坊っちゃん中学に建学以来の初合格キメて女子が浮足立ってたじゃないか。そもそも、ソレなら何で応じたんだ、ヲレの人生初の司法取引に」
え?アレは司法取引だったのか笑
臨海学校2日目、僕は遠泳を終えたタマキが干した水着に頬擦りをするタチマンを目撃。
ドン引きし棒立ちになったトコロを他の女子に見られナゼか頬擦りは僕がしてたコトにw
(気の弱いw)僕は上手に反論も出来ないままアッサリ変態のレッテルを張られてしまう。
その後「変態」として暗い受験生活を送るが、第1志望に合格するや女子達が豹変。
将来有望との打算からか一転して連日のラブレター&プレゼント攻勢が卒業まで続く。
そんな小学校卒業を間近に控えたある日、僕は当のタチマンからの呼び出しを受ける。
お前の将来の夢は作家だそうだが、俺は弁護士になる、中学も別々だから、もしかしたらもう会うコトもないかもしれない。
しかし、俺はお前には借りがある、この借りは、将来どこかで必ず返す、それまでに、俺は日本一の法曹家になっておくつもりだ。
だから、もし、俺が必要になった時は…その時は胸の前で腕を組み、黙って俺の前に現れろ、その時、俺は必ずこの借りを返す…
「いいな、テリィ。借りは返した」
「ああ。でも、結局タマキにとって僕は、自分の水着に頬擦りした変態のままナンだwタチマン、いつか、あの世で3人揃ったら、その時は僕を弁護してくれょな」
「黙れょ。俺はもう司法取引はしない。そう決めたんだ」
僕が、お坊ちゃん中学に上がっても暫く、元クラスメートからのラブレター攻勢は続く。
実は、その中にはタマキからのもあったんだが、今はどんな文面だったか思い出せない。
だから、タチマンょ。お前も、今からよーく覚悟しておくんだな。
天国でお前が弁護するのは僕じゃなくタマキかもしれないからさ。
おしまい
この作品を急逝した小学校時代の友人との想い出に捧げます。君がいなければ僕はネットの海で生きていけなかった。君よ、永遠に。
in loving memory of TAMA chan
今回は、小学校時代の女友達とその夫、同じ学友で今はヤメ検の実力派弁護士、風営法専門のやり手の女行政書士などが登場しました。
私事ながら、実生活で突然の訃報に接するところとなり、様々な思いがこみ上げる中での執筆となりました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。