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Be : Box  作者: 大仏の翁
2/2

#2 Be


<…………………大倉班より秋山班へ通達…………………>


「キタァァァァァァッッッッ!!!!」

「こらアカネちゃん、連絡が聞こえないから静かに………」

「了解っ、リーダー!!」


綺麗な黒い髪が左右に激しく揺れる程鬱陶しかった貧乏揺すりと鼻唄が止み、歓喜の叫びが車中に響く。


<対象の逃亡を確認。速やかに戦闘準備を整え、戦闘を開始してください>


「大倉班が失敗、僕らに討伐権が譲渡されたらしい。良かったね、アカネちゃん」


振り向きながら彼女の定位置に視線を移すが、そこに彼女の姿は無く、空の紙コップが横になっているだけだった。


「…………リーダー、アカネならもう行きました」

「エッ!?嘘ッ速ッ!!」


扉が開かれる音もしていなかったので油断してしまい、作戦が全て崩れてしまう。


「ああもうっ!皆準備は良い?秋山班行くよっ!」

「「了解っ!!」」








待機車から飛び出し、ナビゲーターの声に従い街を駆け抜ける。


「ユイちゃんは今日がBeとの初戦闘だよね。とりあえず僕と一緒に後方支援にまわるよ」

「はいっ、ご指導よろしくお願いします!」

「うん」


1ヶ月前にこの班に配属されたユイは実践経験が無く、Bexの規定に、『戦闘経験が1度も無いBexr(Bexの戦闘員)は班長が付き添いの元、戦闘に参加する』という少し面倒なルールがあるため、僕が戦闘指導をする必要がある。


<――――冬樹さん、対象と戦闘中のアカネを発見。アラタ、コウキ、戦闘を開始します>

「うん、了解」


封鎖された国道を走り、戦闘中の班員に合流する。


「アハハハハハハハハッ!!!!」

「アカネッ!!うるせぇ!!」


自分の身長とほとんど同じサイズの()を持ったアカネが男の斬りつけを避けながら正確に矢を胴体へと撃ち込んでいく。


「グフッ!!」

「あれあれ、おじさん!!このままだと死んじゃうよ~?」


煽り、敵を揺るがして隙をつく。それがアカネの戦い方である。

男の振り下ろした剣を弓のハンドルの部分でうけ、右手に持っていた矢を男の左手に刺す。あまりの痛さに剣を離した男は腰に隠しておいた小さなナイフを右手に持ち、強くアカネを睨み付ける。


「クソ餓鬼がァァ!!」

「………無駄だ」

「……………………」

「なっ!」


だが、男の相手はアカネだけではない。背後に回り込んでいたアラタとコウキの双剣コンビ(・・・・・)が男に休む暇を与えないように襲いかかる。

2人が同時に男の膝裏を蹴りつけ体制を崩し、脹ら脛や上腕二頭筋などの起き上がる動作に必要な部位を切断。

痛みにうめく暇もなく、男は更に双剣(×2)の餌食になっていく。

うなじ、背中、腕、尻、脚。男の全身を数秒で削ぎ落とし、首を切断する。そして刃についた血を振り落とし、2人が同時に剣を鞘に収めた時、男は絶命していた。


「えぇぇぇ!?私が弱らせたのに!!」


駆け寄ってきたアカネが男の死体を踏みつけながらアラタにキレた。


「お前がやると遊びだして時間がかかるからな………」

「……………………」

「でもっ!最後(トドメ)くらいは譲ってくれても良いじゃんか!」

「…………………………班長、対象の死亡を確認」

「もぉぉぉぉぉぉ!!」




処理班が到着し、現場の処理を始める。傷ついた建物の塗装や、血痕の処理など、本当にここで何もなかったかのように元の姿に戻っていく。


「えっと……対象のBe………『死亡』……あー、こいつの『Vomit』見た人いる?」


報告書を書いていると1つの項目でペンが止まる。

男の"Vomit(嘔吐物)"だ。

Beは基本的に"生まれつきの殺人衝動"と、正体不明の生物による"後天性の殺人衝動"の2つに分けられるが、基本的な違いは戦闘経験だけであり、特徴は皆同じだ。


「あー………凸型のような武器を一瞬持ってましたよ、コウキが切断してましたけど」

「……………はい、凸型でした」

「うん、ありがとう」


そしてBeが戦闘時に使う能力がVomitであり、大きく


・形成

・変成


の2つ、そしてそこから


形成 凸型・凹型

変成 甲型・乙型


の4種類に分類される。

今回の男のVomitは凸型、つまり『体外に武器を形成する』能力だった。

凸型は最も多くのBeが使っていて、使い手によっては甚大な被害を招くことがあるため十分な警戒が必要とされている。

過去の報告ではビルを横に切断した凸型Beもいたらしく、Bexの戦闘員が20人以上犠牲になったらしい。


報告書を書き上げ、処理班に提出する。これで今日の大きな仕事が終了した。






本部のエレベーターに乗り込んでもアカネちゃんとアラタの言い争いは止まらない。


「討伐成績1ーッ!!!!」

「だから謝ってるだろうが!」

「謝られてもどうしようもないです」

「じゃあどうしろって言うんだよ………」

「………………………討伐成績1ーッ!!」

「班長、1発殴る権利を主張します」

「いいよ」

「ギャァーー!班長ォォォ!!!」


もはや日常的なのでほとんど無視するしか無いのだが。


18階の戦闘員居住区で一旦止まり、アカネ、アラタ、コウキの3人が降りる。

そして僕とユイちゃんは更に上階、25階の本部長室に到着する。


「失礼します、戦闘班.2班班長秋山です」

「…………入りなさい」


綺麗に整えられた()を開け、正座のまま1礼。

8畳の広い和室にパチンという盆栽を伐るハサミの音が心地よく響く。


「何かな?」

「はい、今回の戦闘にてこちらの新人戦闘員のユイが私と共に行動しましたが、私の判断ではありますが問題無いと思われます。次の作戦から、この戦闘員の単独戦闘を許可していただけますか」


盆栽に向き合ったまま、坊主頭の本部長の手が止まる。


「ふむ……良いでしょう。許可します」


再度ハサミの音が響き始める。


「ありがとうございます」

「ありがとうございます……」


普通ならば本部に申請の書類を提出すれば良いのだが、この本部長に書類を渡せば1ヶ月は返ってこないうえに良い返事はあまり期待できない。

直談判の方がはるかに楽なのだ。


再度1礼し、部屋から退室する。


「すいません、ありがとうございました………」

「あ、いいのいいの。こうしないと君の仕事が始まらないからね」

「そうなんですか……」

「うん、とりあえず今日、君の仕事はこれで終わりだから部屋に戻っていいよ」

「はい、失礼します………」

「はい、お疲れ様」






書類を作り上げ、報告書を書き直して提出した後、時計の針は夜の10時を示そうとしていた。

2班のデスクルームから出てエレベーターのボタンを押す。1階を指していたエレベーターの針がゆっくりと自分の階を指し、扉が開く。


「………おや」

「ワフッ……」


そこには渋い外国人の男と1匹の柴犬が落ち着いた様子で立っていた。


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