第一章 三節
アレン・ルシアンは困惑していた。
育ての親であるラクスへの裏切り、クレアとの約束、そして国王ジェイクとの契約。昨日今日で多くのことが起こりすぎて頭の中がまだすこし混乱している。
ラクスの小屋に戻ったのは正午を過ぎた頃だった。
小屋はすでに人の気配はなく、兵士達は物色を終えて、引き上げたあとのようだった。
「ラクス!シャル!アスカ!」
小屋の惨状から思わず声に出して探してしまう。やはり、兵士たちにつれていかれたのだろうか。
「ごめんなさい。私と関わったばかりに…」申し訳なさそうにクレアが言う。
「気にするな。あんたのせいじゃない」俺の言葉はあまり彼女には響いていなかった。彼女は自らの過ちにひどく胸を痛めているように見える。彼女が過ちに胸を痛めたところですべての問題が解決するわけないのに。
と、奥の部屋で物音がした。
王国兵士かもしれない。クレアを待機させ、刀を構えながら奥の部屋を確認する。
そこには剣が4本ささったまま倒れているラクスがいた。
「親父!」
駆け寄り声を掛けるが返事がない。争いのあとをみると最後までシャルとアスカを守り力尽きたのがわかる。
…親父。すまない。
父の墓穴を家の裏に掘り埋葬をする。とても簡易な墓。
墓石の代わりに父さんからもらった刀を刺す。そこへクレアが花を一輪もって来て、墓へ添える。
「こんな花しかなかった。ごめんなさい」
「すまない」
もう後へは戻れない。墓をみつめて、覚悟を決める。先へと進む決意を。
「これからどうする?」
2つの意味を込めて質問する。ひとつは言葉通り次の目的地を指す。そしてもうひとつは反乱軍の本拠地を表す。
「そうね…まずはできる限り城から離れましょう。目指すは隣国キュリオスよ」
「そんなに遠くまでか」
キュリオス国まではどんなに急いでも徒歩では2週間はかかる。今回の旅の過酷さを覚悟する。
「えぇ、すぐにこの国全土へ私たちのことが伝わるわ。できる限り今のうちに距離を稼いでおきましょう。移動するために準備をしておきたいのだけど…あなた、道中頼れる人に心当たりは?」
「そうだな…いるにはいるが…。そっちの反乱軍関係者はいないのか?」
「えぇ、今回の作戦のために全員一時本部へ戻っているの。道中に頼れる人は、残念ながらいないわ」
「わかった。頼れるかわからないが一度向かってみよう。」
そう、頼れるかはわからないが…何せ5年もあっていないのだから。旅は始まったのだ、考えても仕方ない。
俺が先導してラクスの家を出発する。
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ラクスの家を出発してからしばらく歩き続け、隣町のテトラまで歩いてきた。
公道は兵士たちの監視の危険があり、山道を通ってきたせいで通常よりも時間がかかってしまった。時刻はすでに夕方に差し掛かりテトラの街に西日が差していた。
テトラの町のはずれ、山の麓に彼の家がある。彼の家は木造となっていてロッジといったイメージだろうか。丸太を重ねたような外観だ。恐らく彼の手作りだろう。前々からこの家の持ち主、ルークは手先が器用で色々なものを自分で作ってしまう人物だったが、まさか家まで自分で作ってしまうとは。
家の前に立ち、ドアをノックする。
「また、ずいぶんと町外れにあるのね。ま、かえって都合がよくて助かるわね」
当人の家の前でなかなかに失礼な発言をすると心の中で関心する。
「そうだな、俺も実際に彼の家を訪ねるのははじめてだから驚いているよ」
人付き合いのよかった彼が町から離れているここに家を建てたことには驚いている。
ギイと大きなおとをたてて木製のドアが開く。
出迎えてくれたのは少年だった。ちょうどアスカと同い年ぐらいの。
「あの、どちらさまですか?」
「急に来てすまない。俺はアレン。ルークがこの家にいるときいて訪ねてきたんだが」
奥の方から男が顔を出すと驚いて声を出す。
「まさか、アレンか?」
「あぁ、久しぶりだな」
「本当に久しぶりだ!とにかく家に入ってくれたいしたもてなしはできないけど」
家の主、ルークは笑顔で迎えてくれた。昔から、変わらないやさしさ。俺は昔から彼のやさしさに助けられてきた。ルークは5年前とかわらずボサボサの頭で、よれよれのシャツは彼のだらしなさを際立たせている。まさに身は体を表すというやつか。ただ、意外なことに家の中はとてもきれいに片付いている。
家のなかにはいると10人くらい子供達がテーブルに座っている。
「悪いな。ちょうど飯時だったから。ご飯まだだろう?適当に座ってくれ」そう言いながらルークは台所に向かう。
「悪いな。急に来たのに…ご飯まで。なぁ、この子達はまさか」
「きにするな。俺は念願の孤児院をひらいたんだ。ここの子達はこの国の戦争で親をなくした子達ばかり。まぁ今じゃみんなでたのしくやってるよ」
「そうか、夢が実現できたんだな」
ルークの夢は孤児院を建てることだった。少年時代から彼は夢をそう語っていた。俺としても彼の夢が叶ったことはとても嬉しく思う。
「そうさ、この家を買うのにずいぶん苦労したんだ。少年兵ってのは給料がやすくてな」
ハハハと軽く笑いながらルークは鍋からスープをよそっていく。すると女の子が一人ルークのよそったスープをテーブルへ運んでくれた。
「ありがとう、テア」
テアと呼ばれた少女はまだ12才くらいだろうか。子供達のなかでは年長者らしく一番しっかりしているようにも見える。テアは身なりをきちんとしており、ルークの手伝いをする前にしっかりと手洗いをしていた。この家がきれいに保たれているのはテアのお陰なのだろう。
そのときなにやらクレアが肘でこづいてきた。
「ちょっと、少年兵ってどういうこと?まさか王国の兵士なの?」
「あぁ、彼とは王国少年兵の同期なんだ。俺は一年くらいでやめたけど、ルークはしばらく続けていたみたいだな」
「…ほんとに大丈夫なの?」クレアは警戒するようにルークを見つめる。
「心配するな。ルークは信頼できるやつだよ」
クレアを安心させるように発言したが警戒は解けなかったようだ。
テーブルの橋でテアがクレアとの会話を疑うような目をしていた。
と、そこへルークが台所からテーブルに着く。
「おまたせ。じゃあごはんにするか。じゃあみんなお行儀よくね。いただきます」
「いただきます」子供達と共に食事への感謝を伝える。
「それで今日はどうしたんだ突然」
ルークが口を開く。突然旧友が現れたのだ。その質問は当然とも言える。
「あぁ、国境付近まで急用でいかなくちゃいけなくてさ」
「ほぉ、それはまたずいぶんと遠くまで。それでそっちのクレアさんだったかな?アレンとはどんな関係?まさか恋人じゃないよね?」
「いや、それはちが…」
「ちがいます!」
クレアが大声で否定する。そこまではっきりとされるとあまり気分のいいものではないな。
「アレンさんには道中の護衛をおねがいしているんです。女一人での旅行は物騒ですから」
「なるほどね。まぁ無愛想なおまえに恋人ができるなんてあるわけないしな」
そう言うとルークはハハハと笑う。まったく、失礼なやつ。
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食事が終わるとアレンとクレアを奥の客室へ案内する。
子供達の就寝させるといよいよ自分の時間だ。明日テトラの街へ売りにいく薬品を準備する。売っているものは丸薬と呼ばれる薬草などをすりつぶし小さくまとめたもの。それを小分けの袋にいれて販売する。病薬としてだけでなく、健康促進としても最近すこし街でも話題になりつつある。商売は徐々に軌道にのってきたところだ。
そこへテアが慎重に、物音をたてないように現れる。
「どうした?テア。眠れないのかい?」
「ちがう!食事の時に聞いたの!あの人たち悪い事したみたい。このこと兵隊に言った方がいいよね?」
テアの報告にすこし驚いた。たしかに、その通りなら突然アレンが訪ねてくるのも納得がいく。でも。
振り返るとテアの肩をもってにっこりと笑う。
「わかった。報告してくれてありがとう。でも、例えそうだったとしても俺は彼らを信じたい。だって友達だから」
「でも!本当に悪い人だったら?」
「そうだね。じゃあ明日街に行った時に確認してくるよ」
「私も…一緒にいっていい?」
「あぁ、いいとも。じゃあ明日は早いからもう寝なさい」
うん、とテアは頷くと寝室へ向かっていった。
一人仕込みをしながら考える。
あんなに悲しいことがあったんだから、悪いことをするわけない。テアの言うとおりなにかを隠していることは確かだ。でも、俺はアレンを信じたいんだよ。
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「それでは、行って参ります」
そう父と母に告げると、家を出て王都を目指す。荷物はすこしの着替えと父の打った自慢の刀。
王都を目指すのは立派な騎士になるため。騎士となって父の剣が素晴らしいということを王国中に知らしめる。父と母の期待を一身に背負い旅立つ。
と、目を覚ます。ルークと会ったからか昔の夢を見るなんて。
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ルークが大荷物を背負ってアレンとクレアに言う。
「悪いね。留守番頼んじゃって」
「かまわないよ。泊めてくれた礼だ」
留守番をするのはルークが町へ薬を売りに行くというのでその間子供達をみている約束をしたからだ。お世話になってばかりでは申し訳ないから。
「じゃあ行ってくる」
ルークはテアを連れて歩いていった。
そこへ子供たちが駆け寄ってくる。
「ねーねー、なにして遊ぶ?」
無言で子供たちを見ると皆何故だか涙目になってきている。
「じゃあ、おねーさんと一緒に向こうで遊びましょ!」
そう言いながらクレアは子供たちを引き連れていってしまった。
子供たちと遊ぶということがいまいちわならない。なにをすればいいか、そのまえに子供が泣いてしまうのだから遊び方以前の問題なのだが。
俺が座って休んでいると隣でクレアが子供たちと遊んでいる。
「ねぇ、どうして子供たちがあなたを苦手なのかわかる?」
唐突な質問。その答えはわからなかったので素直に答える。
「いや、わからない」
クレアはわざとらしく大きなため息をつくと近づいてきた。
その後ろを子供たちが恐る恐る近づいてきているのがわかる。
と、いきなりクレアが両頬をつねってきた。
「!!」
「その仏頂面がいけないのよ」
「いきなり何をする」クレアの両手を振り払い不機嫌な声で注意するが、ほほがいたくてちゃんと発言できなかった。
「あなたが笑えば子供たちとも仲良くなれるよ」
「そんなことをいわれても、笑うのは得意じゃない」
「あきれた」
ほら、と言いながら手をさしのべる。
「一緒に遊びましょ?」
とても恥ずかしくもあり、同時に嬉しくもあった。すこしためらいがちにとクレアの手をとる。
クレアにつれられて子供達の近くに行くがなにをしていいかわからない。
そこへじーっと見つめてくる男の子と目があった。
「どうした?坊主」
「ぼーずじゃないよ。僕の名前はデッド。ねぇ、その木の棒はなんなの?」
デッドという少年はアスカより年下に見える、好奇心のかたまりみたいにいろいろなものに興味いっぱいの様子。テッドが指しているのは四神のことのようだ。
「これか、これは武術の武器なんだ」
「ぶじゅつ?」
「わからないか…まぁ、見せてやる」
すこし武術をやってみせる。といっても型など牙蓮流にはないので素振りのようになってしまったが。
「すごい!」
男の子の目が輝いていた。興味をもってもらえたようで近くに落ちていた木の枝を持ってくると動きを真似て振り回し始めた。
「よくみてろ、こうやるんだ」
四神をかるく回して見せる。
すると他の子達も興味をもったようで、皆木の枝をもってきて素振りを始めた。
あぁ、そうか。俺は遊ぶことが苦手だった訳じゃない。遊んだことがなかったから、わからなかっただけか。俺は小さい頃から家が貧しくて山で山菜採りや狩猟ばかりしてから友達と遊ぶなんてしなかった。
羨ましいなんて思ったことはなかった。けど…みんなと一緒にいることも悪くない。
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アレンと別れて一時間ほど歩き、テトラの町についたルークとテア。
荷ほどきを行い、露店を展開する。テトラの街は商売に寛容なところがあり、露店を開く旅商人なども多い。大きな街道からすこしそれた小さな町ということもあり、町の長も人集めに必死なのだろう。そのおかけで商売ができてるのでありがたいんだが。
「さぁ、いらっしゃい!」
テアと二人で商品を販売していく。
約二時間ほどで商品はほぼ完売した。
話題の店ということもあり、売上は右肩上がりだ。
「さぁ、片付けたら家に帰ろう」
テアがなにやらそわそわしている。
「どうしたんだい?テア」
「あのね、ちょっとトイレに行ってきてもいい?」
「なんだ、早くいっておいで。ここで待ってるから」
テアはすぐに走って人混みに消えてしまった。
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ルークにウソをついてしまった。彼女の心は小さな嘘の重圧で潰されそうだった。自分の胸を力強く握り、人混みを分けて走っていく。ウソをついたのは悪いやつから皆を守るため、ルークは優しいからああ言ったけど私はもう家族を失うなんていやだから。
テアの行き着く先は、王国兵の駐屯所だった。
「テア、遅かったじゃないか。心配したよ」
「ごめんなさい。さぁ、帰りましょう」
ルークの荷物を半分持ち、帰路につく。少女の足取りは心なしか重くなっていた。
「あのね、ルーク」
いつも元気なテアが落ち込んでいるように見えた。テアの態度にルークはただ事じゃないことに気づく。
「どうした?テア」
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日は高く登り、正午を知らせている。
子供達の口々からは空腹を知らせる声が漏れ始める。
「よし!私がつくってあげよう」
しびれを切らしたクレアが立ち上がる。
「おまえ、料理できるのか?」
「当たり前よ!任せて!」
家の中の台所へ向かうクレア。
しばらく、外で待っている。子供たちは空腹のため先程までの元気はなくなっている。そこへ家の中から子供がひとり走ってくる。
「たいへん!台所が!」
子供達を残し、ひとり台所へ向かうと
焦げた鍋やら食器が台所に散らかっている。
なにかを作ろうとしたのだろうが、皆目検討もつかない。
俺のあきれた顔を見たのかクレアは笑ってごまかそうとしている
「アハハ、失敗失敗」
台所の食器棚を調べるが、調味料などしか見当たらない。恐らくクレアがここにあった食料をすべて炭に変えてしまったのだろう。ルークになんと謝ったらいいものか。
「あなた料理できるの?」
「すこし。でもここにはもう使える食材は見当たらない。ルークの帰りを待つしかないな」
「そうよね、私もそう思ってた!私は片付けてから戻るね」
そうした方がいい。いや、そうすべきだ。しっかりと頷く。
片付けはクレアに任せて子供達のもとへ戻ろうと玄関の扉へ手をかける。
と、嫌な予感を感じた。外から敵意を感じる。
クレアを連れてここから逃げるか考えるが、外には子供たちがいることを思い出す。ドアをすこしだけ開けて外の様子を見る。
いやな予感は的中した。
王国兵士たちが子供たちを囲み剣を突きつけている。
この状況は…とてもまずい。
一番年下のデッドに隊長格の男が不適な笑みを浮かべて質問している。
「なぁ、ここに男と女の二人組が来ただろ?おじさんに教えてくれないかなぁ?」
「…しらないよ」デッドの声は弱々しく、小さい。彼なりになにかを感じとり咄嗟にウソをついているのだろう。だが、それは幼いデッドには難しいことだ。
「ウソをつくんじゃない!」
隊長の大声にデッドは大声で泣いてしまった。
「あぁ、だからガキは嫌いなんだよ」
隊長格の男の声は苛立ちを伴っていた。
ここから子供たちまでの距離は10m程度。白虎で切り込めば先手はとれるか。
子供達の手前、人を斬るわけにはいかない。四神は鞘に納めたまま姿勢を低く構え、静に玄関のとびらを開く。気づかれないように。
ドアが開ききったとき、全速で相手に突進する剣技・白虎を放つ。
一番手前の兵士を沈める。子供達に兵士の剣が届く前に連撃を放ち子供たちを囲っていた兵士2名を倒す。残るは隊長のみ。
振り返ると隊長と目があった。
俺と目が合うと隊長の男はニヤリと笑った。
「アレン・ルシアン…ハハハ!ついに見つけたぞ」
「まさか、ディーン」
ディーンは俺が少年兵時代に因縁がある男だ。剣術稽古のときに俺がディーンを叩き伏せたことをきっかけに兵士時代はなにかと嫌がらせを受けていた。
「久しぶりだなぁ。俺はずっと探していたぞ。おまえのことを!5年前の礼をするために」
ディーンは両手で剣を構えると、ゴウという音と共に降り下ろす。まさに剛剣。バックステップして斬撃をかわす。
「クレアを追ってきたが、そんなことはもうどうでもいい。おまえさえ殺せればな!」
連撃。周囲には子供たちがいる。子供達へ注意を向けないように、斬撃を交わすことはせずに剣で攻撃を受ける。さすがに体格の違いか、ディーンの力に押され、じりじりと後ずさりする。
「どうした?昔のおまえは…もっと強かったぞ」
言いながらディーンはぐいと力強く剣を押し付ける。
「…つよい一撃がほしいならくれてやる」
剛には剛を。剣を弾くと距離を取り四神を勢いよく回転させる。その勢いのまま相手に叩きつける、剛の剣技・玄武。ガンという音と共にまともに玄武を受けたディーンを吹き飛ばす。地面に倒れたディーンはすぐに起き上がる。
「この野郎!ぶっ殺してやる!」
「やれるものなら、やってみろ」四神を構える。
ディーンのイライラはかなり高まっているようだ。
「前から嫌いだったんだよ。お前のその気取った態度が!」
ディーンは再び両手で剣を構えると斬り込んでくる。
子供達にこれ以上接近されるのはまずい。姿勢を低くし構える。
「白虎!」
ディーンに瞬時に近づき叩き抜ける。
ぐっ、と声を漏らし膝をつくディーン。
「お前の敗けだ。引け」
ディーンはぎりぎりと強く歯を噛み締めている。
「それ以上、子供達の前で争うのはやめてくれ」
声の方を向くと、家の中からクレアを連れてルークが出てくる。手には通常の1.5倍ほどの長さがある長刀を持っている。
「ルーク…おまえが兵士に通報したのか」
「…子供達がいるんだ。おとなしくしてくれ」
「そいつを、はなせ」
姿勢を低く構える。ルークとお互いににらみあったまま視線は外さない。
ルークがクレアを突き飛ばすと一斉に走りだし剣撃が交わる。
「見逃してはくれないのか?」
「俺には、子供達を幸せにする責任がある。悪いがやっかいごとに巻き込まれるのはごめんだね」
お互いに譲れない思いがぶつかる。
「おい!おとなしくしろ!こいつがどうなってもいいのか!」
振り向くとディーンがテッドをつかみ剣を突きつけている。
「テッド!」とっさにルークが叫ぶ。ルークは長刀から手を離し武器を捨てる。
ディーンの方を向き、四神を鞘から抜く。白銀の刃が現れる。さっきよりも低く構え、刀の切っ先をディーンへ向ける。
「おい!聞こえないのか!武器を捨てろ!」ディーンの声が先程よりも大きくなる
全身の筋肉に力を込める。
「おい!…やめ」ディーンがただならぬ気を察したのか声に詰まる。
瞬速の剣技・白虎を放つ。
狙うはテッドを押さえている左手の肩。
一閃
「うがぁぁ!!」
ディーンが左肩を押さえて転げ回る。そのあとにドサッという音と共にディーンの左腕が落ちる。
ルークは状況が理解できていなかった。瞬時にアレンが移動し切り込んだのか、まったく目でとらえることができなかった。
アレンはゆっくりとディーンのもとへ向かうと剣の切っ先を向ける。
「や、やめてくれ」ディーンは命乞いをしている。
少し振りかぶるとディーンの心臓をめがけ剣を振り下ろす。
「やめてー」
テッドの声が聞こえたが、アレンの刀は振り下ろされる。その時、ルークが刃を手で受け止める。
「子供達が見てる。やめてくれ」
刃を握りしめるルークの手からはポタポタと血が滴り落ちる。
アレンは刀を引くとその場を離れる。クレアもだまってアレンのあとに続く。
ルークはその様子を見届けると、ディーンへの手当てを開始する。
「テア、家から包帯を!」テアは頷き、家の中から救急箱を持ってくる。
「…なぜ、やつを取り逃がした」ディーンが尋ねる。
「お前もあいつと同罪だ。犯罪者に荷担したんだからな」
ルークはだまって手当てを続ける。