第二章 十二節
私が革命軍の基地で見たのは壮絶な光景だった。
革命軍の兵士たちは斬り殺されており、その中心にいたのは放心状態のアスカだった。
アスカは私やサツキの声すら聞こえない様子で、まるで全てに絶望したような、そんな感じだった。
その後、反乱軍の面々はここを離れランスタッドに戻り再び同志を集めるという。レイはサツキを引き連れてすぐに出立してしまった。アスカを置いて。
アスカは何を言っても反応せず踞っていた。
「アスカ、再び騎士がここに現れる可能性がある。私達もここを出発しよう」
反応しないアスカを引っ張り無理矢理に連れ出す。
私がアスカを連れ出すのはサツキと約束した以外にも理由があった。放っておけなかったのだ。
まるで、昔の自分を見ているようで。
私とアスカもこの国を離れランスタッド国を目指す。この国の二つの騎士団、王国騎士と聖教騎士から逃れるために。また神の力を奪いに騎士が現れるかもしれない。その時、私一人の力で守りきれるかわからない。ならばせめて敵国であるランスタッドにいた方が安全と言うものである。
革命軍基地を出発して5日、夜営をしていた時にアスカが口を開いた。
「ねぇ、どうして僕を助けてくれるの?」
「前にも言っただろう。私は守護者。お前を監視する責務がある」
「そっか。じゃあお願いがあるんだけど」
「願いとはなんだ?」
「僕を、殺してほしい」
一言で言うのなら、私はカッとなった。次の瞬間には私はアスカの胸ぐらを掴んでいた。アスカは抵抗する様子もない。それをみてさらに苛立ちを覚えたが、自身に落ち着けと言い聞かせアスカから手を放す。
「あなたに伝えることがある」
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そして、一週間かけて進みミズーリ村へたどり着いた。
ミズーリ村は僕に神の力を定着させるため儀式を行った村だ。ツムギを犠牲にして。
村長のカリンはあやめを見つけると出迎えるようにお辞儀をした。年長者が若い人にお辞儀をするのは少し違和感があった。
「あやめ様、よくおいでくださいました」
「ご苦労。カリン。少し社を借りる」
カリンは慌ててあやめをとめる
「あやめ様、お待ち下さい」
カリンの様子にあやめはただ事ではないことに気付く。
「なにかあったのか?」
「はい。先日、この村の社に刀を納刀するために両国を旅していると言う刀鍛冶がこの村を訪れまして。その刀が社に奉ってあります」
「それが何か問題なのか?」
「えぇ。キュリオス国でどうやら小さい村で殺人事件が頻発しているようで、一つの村で何十人と死者が出ることもあるらしく。刀鍛冶はその村々を訪れ、火葬の炎を使い刀を打ったと。鎮魂のためとは言ってましたが、刀は禍々しい気を放っており私達は到底近づけません」
「かまわない。アスカを再び社へ隠す、キュリオス国の聖教騎士が力を狙っているのだ」
「なんと。他に手はありませんね。仕方がありません。ご案内いたします」
カリンは社まで僕たちを案内した。
社の中はきれいに片付けられており儀式の面影は無くなっていた。しかし、ここに来ると思い出す。あの儀式の光景を。あの血の味を。吐き気が込み上げるのを我慢する。
カリンの言っていた通り祭壇には刀が奉られており、真っ白な美しい鞘からは禍々しき気配が感じられた。
と、不意にあやめが話しかける。
「アスカ。食事を必要としなくなったのはいつからだ?」
突然のあやめの質問にびっくりした。誰にも言っていないのになぜ知っている。黙っている僕にあやめは質問を被せるように改めて問いかける。
「なら質問を変えよう。痛みを感じなくなったのはいつからだ?」
「…テテフの村を破壊したときから」
あやめは考える仕草をすると僕に忠告するように話す。
「アスカ、もうすぐお前の耳も聞こえなくなる」
「え?」
意味がわからなかった。なぜ、耳が聞こえなくなるのか。
「それはどういうこと?」
「言葉通りの意味よ。薄々気付いていると思うけど神の力は日々増していく。それにつれてあなたは人としての機能を失っていくの。始めに味覚や触感などの感覚を失う。次に痛覚がなくなり、痛みを感じなくなる。そして、耳が聞こえなくなる。その前にあなたに伝えておかなければいけない」
「僕に伝えたいことって、それのこと?」
「あなたはどんどん人じゃなくなっていくのよ」
「知ってたよ。この力を得たときから、僕はもう人とは違うってことを」
「アスカ、あなたは」
「だからさ、僕を殺せるのはあやめしかいないってこともわかる。僕を殺してほしい。せめて、僕がまだ人の心を持っているうちに」
あやめの腰に下げられた刀に手を触れる。その時、刀の記憶が僕の中へ流れ込んできた。
ジュードによく似た若い男が黒いフードを被った男と話をしている。男は筋肉質な体型で戦士だと分かった。ただ、服装は布を肩から掛けて腰ひもで止めてズボンをはいている。かなり昔の人のような服装をしている。二人の会話が聞こえたが、かなり古い記憶の為かノイズ混じりに聞こえた。
「この刀を使えば神の力を封印できるのか?」
「左様。ただし、この刀には一つの力しか封印する力はない。それぞれの刀で神を斬り、封印をなさい」
「人々の命を弄ぶ神など我々には必要ない。私が神を封印する」
「ならばあなたの願いが叶うように私から細やかな贈り物を渡しましょう」
フードの男は袖から肉片を取り出す。血肉は削ぎとられた今もなおどくどくと動きを続け、赤黒い身を踊らせている。
「これは神の血肉。一口食べたならその身は強靭な力を得ると共に不老となる。このサイズならお二人分はありましょう」
男は血肉を受けとるとフードの男へ質問する。
「わかった。しかし、なぜ俺にそこまでしてくれるのだ」
「私も神が憎いのでございます」
フードの男の顔は見れないが笑っている、そう感じた。
「ならばその思い、私が必ずや遂げて見せよう」
「期待しております。ジェイク様」
目が覚めると刀から指が離れていた。
「アスカ、すごい汗だけど大丈夫?」
心配したあやめが僕の顔を覗き込んでくる。額の汗をぬぐうと袖がびしょびしょになるほど汗をかいていた。状況から先程から時が経っていないことに気付いた。
「僕はこの力を使って多くの人を殺してきた。罰を受ける必要がある」
「自分の命を絶てば全ての罪が許されると思っているのか?そんなことあるわけない。あなたが命を捨てても大切な人を失った人の心は何一つ報われることはない」
「じゃあ、僕はどうしたらいい。どうすればこの罪を償える」
「生きて。あなたの罪を償うために何をすべきか考えるの。きっとあなたが神の力に選ばれたのはなにか理由があるはず。命を奪う為じゃない。あなたが本当に成すべき事を見つけるの。それが彼らへの手向けとなる」
「罪を償うために出来ること」
「えぇ、この社の中は結界が張られている。外部から探知することは不可能。ここであなたの答えを導きだすのよ」
僕の答えなんてでるのだろうか。不安を抱えながら腰を下ろした。
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革命軍の討伐から12日、シャルと騎士達は王都へと戻ると状況は一変していた。
テテフ村の消滅は騎士団と革命軍の戦闘に巻き込まれたためという噂が王都中に広まっており騎士団の信頼は驚くほど低下。対策として教会側から提案されたことは騎士団を解散し、教会騎士団との統合を図るという驚くべきものだった。元々騎士団は民のためにあるべきもの、民の信頼を得られないのなら解散しても仕方がないという王の見解から教会と統合が決まった。
そこまでがどうやら昨日の出来事らしい。
騎士の訓練所に戻った我々にシャロンから渡されたのは教会の装備だった。シャロンは苦虫を噛んだような顔をして言う。
「お前達は少ない人数でよくやってくれた。しかし、王の指示には従わなければならない。本望ではないが我らは聖教騎士と統合することとなった」
着なれ始めた騎士の服を脱ぎ、シャロンより渡された新しい騎士の制服へ着替える。白を基調とした服。聖職者らしいといえばそういったイメージになる。
部屋に戻るとマキナが出迎えてくれた。マキナは多くの料理を作り出迎えてくれたが、俺の疲労した顔を見ると察したようにすぐに部屋を出て俺を一人にしてくれた。マキナの顔を見ると俺の顔は相当ひどい顔をしていたことがわかった。
部屋のベッドに腰掛ける。
後悔。この一言に尽きる。アスカの行ったことは許されることじゃない。けれど、アスカを追い詰めたのは俺だ。俺が傷付けたからアスカはあんなことを…。
「シャルには辛い思いをさせたね」
と、不意にリュカが現れた。
「リュカは知っていたのか?」
リュカは黙って頷く。
「シャルにしか彼は止められないと知っていたから」
リュカは俺を慰めるように言葉を続ける。
「アスカなら大丈夫。彼ならきっと自分の進むべき道を見つけられるから」
例えリュカの言っている通りだとしても、俺がアスカを傷つけたことに変わりはない。
「君が自分を責める必要はないんだ。時にはどうにもならないことだってあるんだから」
「だとしても!俺は、アスカにどんな顔をしたら良い。もう、俺はあいつの顔を見て話すことはできない」
「シャルはやさしいね」
「そんなことはない。俺はいつも誰かを傷付ける」
「やさしいよ。だってそんなにも他人の事を思いやっているんだか」
リュカの言葉に小さく頷く。アスカのためにも、俺は俺に出来ることをやるだけ。そう、自分に言い聞かせる。
それから聖教騎士として日課をこなす日々が続いた。朝起きてからお祈りを捧げたあとに剣の稽古、そして食事前に神へ感謝の祈りを捧げる。
そんな日々が数日続いたあと、突然王より聖教騎士団へランスタッド国進軍の連絡が届いた。以前より戦争状態にあった両国であったが、ジェイク王の死後王位が息子のジュードに移ってからも両国は戦争状態が続いていた。一つの島に存在する二つの国は昔より争い続け、今では戦争の起源は不明となっている。今でも続いているのは好戦的なランスタッド国の王族が原因でもある。
進軍の連絡が入ってからは慌ただしい日々が始まった。騎士達は戦争に備え準備を進めていた。
そんな中、俺とシャロンはロウレン共和国の使者を迎え入れる準備として馬車の状態を確認していた。
「もうすぐ使者が来るってのになんでこんなタイミングで攻めてくるのか」
シャロンは俺に向かってため息をつくと準備する手を止めずに話す。
「ランスタッドが攻めてくるのなんて当たり前でしょ。私達キュリオス国とロウレン共和国の協定が結ばれればランスタッドにとって脅威となる。協定を結ばれる前に対処しようってことなのよ。まったく、このタイミングじゃ私の活躍する見せ場がないじゃない」
シャロンの言葉で納得する。俺はまだまだ勉強が足りないな。
「悪いな。見せ場は俺が全部もらっていく。まぁ、今回は大人しくしてな」
フリードが不意に後ろから現れる。シャロンはすぐに敬礼をする。そんなシャロンに片手をあげてフリードは応じる。
「フリード将軍。御武運をお祈りしております」
「おう。こっちの心配はいらない。ロウレンの客人の相手は任せたぜ」
「はい!」
シャロンは再び敬礼をする。
そして数日のうちにフリードが率いる騎士達は進軍を開始した。戦場となる国境へ向けて。
いよいよロウレン共和国の使者が到着する日となった。
使者を迎えるためシャルとシャロンを含めた4名の騎士が港で船の到着を待っていた。もうすぐ春だと言うのに港は未だに極寒の寒さだった。皆聖教騎士の制服の下に重ね着をしているせいかすこし着ぶくれしている。
「遅い。既に到着予定時刻を2時間も過ぎている!」
シャロンが悪態をつきながら愚痴を溢す。
と、その時水平線に一隻の船が姿を現す。
「あれが、ロウレン共和国の船か」
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ロウレン共和国の船上では3人の使者が港で出迎えている四人の騎士を見下して話す。
黒髪をツインテールにした少女が言う。
「チョウアン様、潮風は寒いです。到着まで中でお待ち下さい」
太った男、豪華な装飾が施されている服を着たチョウアンと呼ばれた者は答える。
「我々ロウレンの者を迎えるのにたったこれだけの人数とは。我が国もなめられたものだ」
「仕方がありませんよ。ランスタッド国が進軍してきたのです。我々の出迎えに来る余裕などキュリオスのような小国にはありません」
細身の男が言う。
「わざわざこんな弱小国と協定を結ぶ必要なんてあるのか?我が軍でさっさと乗っ取ってしまえばいいものを」
「お言葉ではありますが、我々が欲しいのは資産だけではありません。あの国特有のミスリル鉱石の加工技術も含めて無傷で手に入れたいのです。今回の協定はそのための第一歩。チョウアン様がわざわざこうしてこられたのもキュリオスが協定を結ぶに相応しい国か確かめてこいと言う皇帝お言葉からです」
「わかっている。父上の言葉がなければこんなところには来なかったのだが、これも父上から直々の命だ。仕事はしっかりとこなすさ」
そして、ゆっくりと船は港へ着艇した。
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「やれやれ、やっと着艇したわ。いつまで待たせるのかと思ったわ」
シャロンが着艇そうそう。愚痴を溢す。心のなかで「おい、聞こえるぞ」と突っ込みを入れる。
と、船から3人の使者が降りてくる。
シャロンは迎えるように深々と頭を下げて満面の笑みで出迎えをする。先程までの悪態からの早変わりには関心を覚える。
「遠路はるばるお越しいただき感謝いたします。まずは現在我が国は戦争状態にあるために満足なお出迎えを出来ないことをお詫びいたします。私は今回案内役を勤めさせて頂きますシャロン・オーウェンと申します」
長身の男が一礼すると挨拶する。
「お出迎えをありがとうございます。私はロウレン共和国使者、フェイ・フォンと申します。貴国の状況はこちらにも届いておりますので気にしないでください。ご紹介いたします。こちらが我がロウレン共和国第三皇子、チョウアン・リュウ様でございます」
チョウアンと呼ばれた男は無愛想に片手をあげる。
シャロンが急いで深々とお辞儀をする。
「し、失礼いたしました!今回使者のみと伺っておりましたので大したお出迎えもできず申し訳ございません」
チョウアンがなにかを感じた様子でシャロンへ話しかける。
「そなた、シャロンと言ったか。顔を上げよ」
シャロンは従い顔をあげると、チョウアンはまじまじとシャロンを見つめる。
「あ、あの。何かついてますか?」
「美しい」
「は?」
「シャロン殿!いや、シャロンさん!私の妻になってくれませんか?」
シャロンは驚きのあまり声が出ていない様子だった。
黒髪をツインテールに結んだ少女が続いて一礼する。
少女の方は身の回りの世話係だろうか、などと考えていた。フェイが俺の方を見て話しかける。
「貴殿がシャルティエ殿ですね。化け物退治のお噂はこちらにも届いております。いつか手合わせを願いたいものですね」
フェイが笑顔を向ける。他意はない様子だ。
「馬車を用意しております。皆さんどうぞこちらへ」
シャロンの案内にしたがい使者の二人が移動していく。しかし、世話係のリンは荷物を船から馬車へ移動している。見かねて手伝いをする。
「手伝うよ」
リンは驚いた様子で俺を見ると小さく頷いた。恥ずかしがり屋なのだろうか。
荷物を移し終えた馬車は王都に向けて出発する。




