0070
「ぼやけた土曜日」
急ぎすぎた右足が沈む
羞恥に負けた足跡の悲鳴
夕暮れにたたずむ誰かの後ろ姿
壊れていく卵の憂鬱
祈りと実りと最後の動揺
君はいない
無重力の猜疑心は衰えず
耳を突き抜ける羽虫のなき声
育ち切った果実は熟れていき
やがて腐敗して
水辺で出会うのはきりきり
目の見えないふりをして
同じことを繰り返す
最後にもう一回
触れずに消える
羽のない鳥を追いかけ
静かに手をかける
追い越したはずの影が超えていく
種を焼き払い
煤だけが身に落ちる
橙の瞳、赤に染まる空
関係のない憎悪
触れざるとにかかわらず
明日の火の蒙昧を叫ぶ
訳し方を知らずに
最新の世界を記す
小さな傷が痛む
真っ赤に染まってくるくる回って
皿に盛られた肉の目張り
毛布に包まった夜だけが幸福で
続きを始める朝が苦しい
電球はずっと前に切れていて
付け替えもせずにその日を待ってばかり
このまま
そのまま
ありえざる神秘を願い
途絶えた光景を幻視する
フィルムの在りかを尋ね
どこにもないことを否定し
終着駅を目指す
模倣者の後を追い
私の後ろには誰もいない
足跡ばかりが嫌に目につく
忘れて おもいだして
肯定するふりをして
知らぬ存ぜぬを飲み込んで 吐き出して
そのまま
このまま
誰も知らないままで
ヒグチアイさんの『悪魔の子』を聴きながら。




