0049
<ノータイトル>
水面に映る顔には思想があった。
豊かな黄金の慈悲に縋り、
亜麻色の髪に委ねた奇跡。
温情は何よりも甘く、
犯しがたい誘惑。
綺麗に折りたたんで、宝箱に仕舞っていた過去。
黄昏の彼方に見た笑顔は遠すぎて、
伸ばした手が消えかかる。
風の尻尾はゆらゆらと揺れて、
静かに流れる音楽に耳を澄ました。
濁りのない、
透明な光が欲しかった。
呪われるとしても、
先に痛みがなければ耐えられると思った。
溶けるような熱はどこにもないのだと知ったのは、
夕暮れを過ぎた喫茶店の悲しみに包まれた時。
口の中が渇き、
嗚咽が零れる。
目は血を流す歯車。
君はいない。
彼は死んだ。
棺桶は全て燃やされてしまった。
篝火に飛び込む勇気は無いので、
車輪に引かれるのを夢見ている。
オルゴールの響きに取り込まれ、
迷い込んだ路に誰もいない。
すでに知っていたことだ。
あの場所に誰もいないのは。
真夜中で叫び声をあげるのは全て怪物だと教えられた。
銀の雨を浴びたのは偶然だけれど、
霧に紛れたのは必然だ。
確率の話はしたくない。
不機嫌な木々は歌を嫌う。
音色が狂わせるからだ、と。
正直に言えば、
どうしてそうなったか何て分かりはしないんだ、
ただ、果ての無い疑問だけが渦巻いていて、
遠くに映る永遠に手を伸ばしただけなんだ。
化け物は知っているよ。
暗闇の中に虹があることを。
こっそり教えてもらったんだ。
社の中で踊りを踊り、
時の彼方で日が暮れる。
茜の狂気、
醜悪な苦しみ、
呼吸は知らない、
あの中にいない。
無人駅に包丁を持ち出して、
道具を全部だめにして、
無知に救いを求めた。
何もしらない哀れな道化に安らぎを下さい。
揺り籠が静かに軋む。
穏やかさだけが欲しかった。
望むと望まないとに関わらず、
神経は欲望に苛まれる。
無理を言って済まなかった。
ごめんなさい、
その一言が言えなかった。
私は恥知らずだった。
極まって、陥れて、陥って、転げまわって、
泥の中に沈むのがお似合いだと、
棺桶の主が言う。
球体は欠けを孕み、
無様に砕け散るはずだ。
たとえ、誰にも縛れなかったとしても、
きっと自壊するだろう。
虫のいい生意気さを、みんな嫌っている。
終始笑顔につとめたとして、
そこに楽しみは転がっていない。
啄木鳥が啄んだのは、
お揃いの革紐で、
あの優しい眼差しはもう、
二度と見れないのだ。
夕暮れが泣いている。
傍には誰もいない。
誰も見えないまま。
強張った右手が彷徨う。
血が滴る。
砂場に埋もれたスコップは銀色で。
どこにも死んでいなかったんだ。
鐘の音が聞こえる。
死者を弔う鐘の音。
あの赤は何色だったんだろう。
もはや、知る由もない。
知る資格もない。
私にはその資格がない。
与えられるはずもない。
もう、いいんだ。
静かに眠りたいだけなんだ。
『Lilium』を聴きながら。




