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「浮かぶクジラ、這いずる私」
大きなクジラが、空を飛んでいる。
幸せが欲しいのだろう。
潮を吹き吹き、
優雅に空を漂っている。
青さが視界を埋め尽くして、
思考にまで及ぼうとした時、
一瞬、雷が見えた。
ピリピリした肌が、少しだけ痛い。
雲ばかり見ていた、土の匂いのする丘で。
一人、上を見ていた。見上げていた。
きれいで、澄んだ空色を。
大きな動揺なんてありはせず、
ただ平穏だけがそこにあって。
でも、私は地上の底にいて。
足を投げ出し、地べたに座っているのだ。
そこまで悪い気分ではないけれど、
できれば空を飛びたかった。
蝋でできた翼でいいから、
自由に飛んでみたかった。
太陽の輝きは、
眩しいから手を伸ばすのだ。
暗がりは向こうからやってきて、
勝手に連れ去っていくのだ。
それを止める術を、
私は持ち得ていなかった。