葉月・・ムカッ。樹・・ドキン。
「弟久住さん…この人って…」
「…ウッドフォードの国の…王家の人間?!…じゃないのか?」
「やっぱり、そ、そうだと思います?弟久住さん?」
「あぁ…」
「なにをこそこそと…言っている?!」
「…あの…すごく聞きにくいのですが…いったいどちら様でしょうか?」
「Wendy、君は僕を知らぬのか?」
「はぁ…まぁ今、いろいろと事情を知ったわけで…それも少しだけ…」
その赤毛の外国の少年は、芝居がかったように、大げさに溜め息を付き、頭を振りながら
「僕は、ワイアットだ。ウッドフォード国の次期王となる、ワイアットだ。」
「…ワイアット王子って…、現国王の甥の?」
「そうなんですか、弟久住さん?!」
ドン!
突然、自称王子だと言う少年は、近くにあったダンボールを蹴り
「その男は、久住というのか?ならお前はこの島国の企業、久住の者か?ふん!久住ごときに、僕の名を口にされたくはないな。黙れよ!!」
…ムカッとした。…私の中のなにかが、ムカッとした。
「…ワイアット…」
「…高宮…?」
「Wendy…?」
「ワイアット!ワイアット!ワイアット!…はぁはぁ…」
「高宮、おまえ…」
「弟久住さんは今見たいに、あなたを呼び捨てにしたわけじゃないわ。なのに…そんな言い方はないわ!王家の人であろうが、まだ、子供のくせして…なんて言い方をするの!おまけに、うちの丸山君がキチンと片付けていたダンボールを蹴るなんて!最低!
そんな人が治めようとする国も、たいしたことないわね!
知ってる?【王家は民のためにある者、民なくして王家は在りえない。】…という言葉を。私の尊敬するジョフィーヌさんが言っていたわ。上に立つ人は、驕る事なかれってことよ。もっと謙虚になるべきだわ!」
「…ほぉ~。島国で貧乏生活をしていた割には…偉そうに…僕に説教か?!」
ぁ…ちょっと…言い過ぎたか…な。思わず、体は逃げの体勢を作ろうと、そっと右足を後ろへと引いたその時、マニキュアの細い指先が、引き止めるように、私の左手を掴んできた。
「葉月、王子様のバカがうつるから、耳を貸すな。」
「理香さん?!」
「なんだと!きさま!」
いきり立った、自称王子様が真っ赤な顔で怒鳴る姿に、あっけにとられていたら、私の目の前に、大きな背中が、私を隠すように前に立った。
「久住さん?!」
振り返った久住さんは、にっこり笑うと
「葉月ちゃん、遅くなってごめん。」
「久住?お前も久住グループのものか?」
「殿下、周りをご覧ください。」
「はぁ…突然なんだ?」
「殿下の右、おおよそ15m後ろの給湯器の後ろにふたり。殿下の左、10mほど先には、積み上げられたビール瓶の横にひとり、ここいる久住の次期当主、久住 秋継の護衛がおります。こんな島国ですが、世界に名だたる久住グループの次期当主となれば、護衛もおります、そしてその護衛は上の者に、今日会った出来事を報告する事でしょう。そうなれば、今の状況は、ウッドフォード国が久住に…いや、わが国に友好的だとは思えない状況かと…。このままでは、痛くもない腹を探られるばかりです。
ましてや、久住はウッドフォード国に多大なお金を使い、お国のインフラに貢献しようとしているのに、ここで争うことは後々のためにも、お避けになられたほうが良いかと思いますが。」
全部、はったりだった。
秋継の護衛は確かにいるが、どうやら…やる気のない輩のようで、コンビニに缶コーヒーを買いに行くのが見えた。そしてこれは推測だったが、未成年の王子がひとり、護衛もつけずに日本にやってくる事は、まだ王家に迎えいられていないと証明しているように思えたから、強気に出てみたのだが…思った通りだったようだ。一部では、イーニアス殿下は復権されたと思われていたが、ここに偶然にもワイアット王子が現れたことで、少しウッドフォード国の内情がわかった。おそらく、現国王とイーニアス殿下との間には…まだ和解がなされていない。
後ろにウッドフォード国がいないのならば…はったりをかますだけだ。
俺はゆっくりと、余裕を持ったように、ワイアット王子に視線を向けると、王子は慌てたように
「そ、そうだなぁ。久住にはわが国のために、頑張ってもらわなければならないしな。」
「はい。」
久住家がウッドフォード国に貢献したくても、現国王が婆様を嫌っている時点で、入札さえ厳しいと俺は思っている。だから、これも今はない。可笑しかったが、口元を引き締め
「こんな場所で、ウッドフォード国のワイアット王子が、久住の次期当主と睨みあっているのは、決して為にはなりません、早々にここから引き上げられたほうが、良いかと思います。」
「だ、だな。」
王子の言葉に、俺は微笑み
「おまかせください。この場から…」と言いかけた俺の言葉に、理香さんが
「あっ!それはあたしがやる。このバカ王子と、ぼんぼんをコンビニの裏口から、外へと出す役目をしてやるから、樹は葉月を頼む。」
今まで、成り行きを見ていた理香さんが突然言い出した言葉に、俺はさっきまで、はったりをかますために作っていた冷静な顔が、きっと驚いた顔になってしまったのだろう。
理香さんは眼を細め、ニヤリと笑うと、口パクで(ご・ほ・う・び)と言って、そっと親指を立てた。
ドキン…ドキン…ドキン
今まで心臓の鼓動など、気にもならなかったのに、今、理香さんの言葉で大きく心臓がなった。




