樹・・・叫ぶ。葉月・・・下がる。
「…君が…好きだ。」
呟くようにしか言えない言葉に…
行き場のない言葉に…
俺はベランダから、一番煌く町の灯りに向かって叫んだ。
「俺は!君が好きだ!」
手すりにもたれ、町の煌く灯りから、天上の煌きに眼を移し、噛み締めるように言った。
「…好きなんだ。」
でも俺が側にいることで、葉月ちゃんを危険に晒すのなら…離れるしかない。
離れるしか…ないんだ。
秋継が何か感じたことで、足元が危うくなってしまったかもしれないのなら尚更だ。だが、離れるその前に、危険になるような芽は摘んでおきたい。
秋継は葉月ちゃんを見て、知っている人に似ていると言った…いったい誰に?
まさか、葉月ちゃんの両親に会ったことが…あるのか?
いや…葉月ちゃんの父親は、小国とはいえ王家の人間だ。いくら久住家でも、そう簡単に会えないだろう。でも昔からの知人なら、ありえるかも知れない。だが、もし会っていたとしても、葉月ちゃんの父親が、日本に留学していた頃は、まだ秋継が小学生ぐらいだ、知人と言える間柄になるとは到底思えない。
でも誰かに…連れられて…
そしてその誰かが、ウッドフォード国の王家と…旧知の間柄だったなら…
ひとりしかいない……婆様だ。
まだ、気づいていないようだったが、間違いなくあの婆様ならいずれ気づく。
くそっ!
焦るな、まず確かめよう。
俺は、もう一度花見中央駅辺りに眼をやり
「必ず守る。守ることが…」
だがそれから先の言葉は、もう…言えなかった。
溢れそうな思いを止める様に、俺は唇を噛むと、養父の部屋へと足を向けた。
養父なら、知っているはずだ。
ウッドフォード国の王家と…久住との関係を…
*****
唖然としていた私に、弟久住さんは呆れたように
「お前、俺が何を言っているのか、理解していないようだな。」
「…確かにウエンディと呼ぶ金髪で、青い眼の人がいたことは覚えていますけど、私を呼んでいたのか、違う人を呼んでいたのか…わからないから…だから…父とは限りません。」
「でもな、金髪の男が苦笑気味に【やっぱり、Wendyは言いづらい?でも、ウッドフォード国に行ったら、兄には葉月という発音は難しいから、Wendyで頼むよ。弥生。】と言ったんだぜ。」
「でも、わかりません!私の名前の葉月と、母の名前の弥生を言っていたその人が…その金髪の男性が弟久住さんの言っている通りだとしても…。そうだとしても…。でも!それがなぜ、ウッドフォード国の王妃になった久住家の人と、私が似ているんですか?!」
「それはお前の父親が…王家の人間だからだよ。」
えっ?おうけ?OK…?
「おまえ…下らない事を考えているだろう。顔が…変だ。」
「…もともと、こんな顔ですよ。」
「はぁぁ…お前って奴は…面倒な奴だなぁ。いいか、お前にとって高祖母(祖父母の祖母)久住 桂子は、お前の父親にとっては、曽祖母(祖父母の母)なんだ!と、俺は言ってるんだよ!」
「あの…系図が…よくわからないです。」
「ふぅ…要するに、ウッドフォード国王の王妃となった久住 桂子は、お前から見れば、4代前の婆ちゃんだと言ってるんだ。」
「えっ?じゃぁ…私の父親はもしかして王様?!……いやないです。それって人違いですよ。私の母親はごく普通の日本人。そのごく普通の日本人が、どこで王様になるような人と知り合うんですか?うち、めちゃめちゃ貧乏だったんですよ。まったく接点がないです。もう、冗談はやめてください。もし本当だったら、すっ~ごく薄いけど、弟久住さんと血の繋がりがあるってことじゃないですか!!ゲェ~ほんと!やめてください!」
「お前なぁ…。なんか論点がずれてきてるぞ。それって、俺と血の繋がりがあるって言うのが、嫌だと言っているだけじゃないか!…面白くねぇけど…いいよ……でもなぁ、ここは父親がウッドフォード国の王家の人間と言うところを気にするべきだろう?!大事なところだぜ。」
「はぁ…でも、ピンとこないんですよ。寧ろ、目の前の弟久住さんと、血縁だと言うほうがリアルなんで…。」
「なんだかお前と話していると、あんなに悩んで来たのがバカバカしく思えるぜ。」
・
・
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本当だ、本当にバカバカしい話。
例え、弟久住さんの言っている通りだとしても、でも18年近く会っていない人を、父だとは思えない。きっと…向こうも私を娘だとは思っていないはず、18年も音沙汰無しなんだもの。
関係ない、私には関係ない。父親がどんな人であろうが関係ない。
私には母だけだ。だから…そう、だから…
「だから…もし…そうであったとしても…」
「えっ?」
「もし、そうであったとしても、母を捨てた人を父だとは思いたくありません。」
「…高宮 」
「じゃぁ、帰ります。」
「ちょ、ちょ、待て!なに突然、スイッチが入ってんだよ。驚いたじゃないか。」
と言って慌てて、私の前を立ち塞がった弟久住さんは、大きく息を吐いて
「高宮。俺はお前なら、そう言うんじゃないかと思ったんだ。だから…来たんだ。」
「どういう意味ですか?」
「久住の婆様が…お前を調べるために動き出した。」
「はぁ?」
「なぜ、お前を調べようと思ったのかはわからないが、だが婆様がお前の出生を知れば、俺の婚約者を由梨奈から、お前に変えようとするだろう。」
「はっ?!はぁぁ~!!!」
「由梨奈の父親を特捜が内偵しているようだと、一部の財界人の間でそんな噂があがっているんだ。」
「由梨奈さんのお父さんに…ですか?」
「あぁ…名門の家系に拘る婆様が、例え逮捕されなくても、疑いをかけられたと言うことで、桐谷家を、いや由梨奈を切る可能性はある。ましてや、久住の血とウッドフォード国の王家の血をひくお前に気づけば…必ずだ。」
「…冗談ですよね?」
「…そう言ってやりたいが…」と言って、弟久住さんは私を見据えた。
「じょ、冗談じゃない!自分の結婚相手は自分の目で選んだ、す、好きな人とするんだもん!」
「兄貴か?」
「えっ?」
「久住 樹が好きなんだろう?」
弟久住さんはそう言って、一歩私に近づくと、また…
「久住 樹が好きなんだろう?だが、兄貴は、由梨奈にまだ惚れてる。」
その眼の鋭さに、言葉を返す事ができず、私は逃げるように一歩後ろへと下がった。




