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キスをする5秒前~kiss.kiss.kiss~  作者: 夏野 みかん
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樹・・・!

「日本で外国籍のパートナーと結婚する手続きは、二通りある。ひとつは最初に日本の役所に婚姻届けを出し、後で相手国(在日大使館・領事館)に届出をするか、ふたつめはその逆、最初に相手国(在日大使館・領事館)に届出をし、その後日本の役所に届出をする方法なんだ。


殿下は弥生さんと気持ちを確かめた後、すぐに帰国し父であるウッドフォード国王に結婚の許しを得ると、詳しい月日はわからないが…結婚の儀は一年後の春にと、急いで話を進めたらしい。国内の不穏な風を感じていらしたからだろうなぁ。


だが…弥生さんは葉月を妊娠した。


そのときの二人は、どう考えたかはわからないが…子供のために先に籍を入れようとしたんだろう。それは最初に話した手続きのひとつ、日本の役所に婚姻の届出があったからわかった。だが…それからすぐだ、飛行機事故でウッドフォード国王が亡くなり、国が混乱したことが原因だろうと思われるが、その後ウッドフォード国の在日大使館・領事館への結婚の届出は出されてはいない。」


理香さんは、下を向き

[飛行機事故でウッドフォード国王が亡くなったことで、王太子はすぐにセオドール殿下に帰国するように命じられた。おそらく王太子は、今後国のことを考え、二人の結婚を反対したんだと思うんだ。」


「王太子が…?」


「あぁたぶん、諸手を挙げて賛成ではなかったはずだ。王太子はセオドール殿下と他国の王家との婚姻を、模索していらしたことが調査書には書かれてあったしな。


王家とは違うが、久住家が婚姻による家の拡大を、そして磐石な基盤を考えるように…ウッドフォード国の王太子も王が亡くなって、国の基盤が緩み、焦って考えたのが、婚姻によるものだったんだろう。まぁ、セオドール殿下の祖国ウッドフォード国で、弥生さんとの結婚の届けが出ていない以上、未婚だからなぁ…。それでも、2年あまりはセオドール殿下は日本へ、いや弥生さんや葉月の元へ何度も帰って来ていた。だが王太子の病死で一変した。亡命していた第二王子が、ここぞとばかりに出てきて、ウッドフォード国はまた混乱に陥り、その時二人が選んだのは…別れだった。」



数千万人の国民を守るために…別れたと言うのか…。

国家元首と社長では比べられるものではないが、数万人の従業員を守るために、会社の利益になる女性と結婚する。まさに俺が久住本家の養子になったのもそのため…。


どこの世界にでも…なにかを守るために、なにかを捨てなくてはならない人達がいるんだ。



「樹。」


「はい。」


「いろいろ調べたんだが…」

と言って、理香さんは俺を見た。


「樹の意見を聞きたい。」


「理香さん…。」


「これはあくまであたしの推測だが…葉月の両親が別れたのは葉月が2~3歳ぐらいだ。それから一年も経たないうちに、弥生さんは葉月と二人で暮らしの生活がままならず、葉月を施設に預けた。弥生さんが親しくしていたスナックのママによると、水商売に入ったのはその5年後だ。それから葉月との生活を取り戻すために、弥生さんは相当頑張ったんだろうなぁ。葉月の教育資金が、預貯金に残されていたよ。だが、おそらく同時期だろう、施設に葉月を引き取りたいと父親から連絡があったのは…。」


そう言って、右手持ったタバコを指先で弄りながら


「なぜ、弥生さんは実家に戻らず、ウッドフォード国からの金銭の援助も断り、隠れるようにして生きてきたと思う?もちろん、第2王子との王座の争いもあったが…一度は話し合って別れたのに、セオドール殿下は弥生さんをそして葉月をあきらめ切れなくて、結婚を先延ばししていたからだ。


だから弥生さんは消えたんだ。


このままだと、ウッドフォード国に混乱を招き、葉月とて幸せになれるとは思えなかった弥生さんは、いずれ王となるであろうセオドール殿下と王妃様になられる方との間に、子供ができるまではと思って隠れていたんだと思う。それほどまでの覚悟を持っていたのに、それが突然、母親の弥生さんは、葉月を引き取りたいと、施設にウッドフォード国から連絡があったということだけで、葉月をあきらめた。何年も何年も…葉月のために、葉月と一緒に暮らすために働いてきたというのに…。葉月がウッドフォード国へ行ったことを確かめせずに、葉月がいた施設に会いに行く事も、いや連絡さえも絶った。樹…お前はこれをどう思う?」


「…直接、弥生さんに…ウッドフォード国が働きかけ、すでに葉月ちゃんは日本を離れ、ウッドフォード国へ行ったと思わせた。でも、なぜ?そう思わせたのか…、いくらウッドフォード国へ葉月ちゃんを連れて行きたいと思っても…そんなことをするでしょうか?俺にはセオドール王が…今聞いた話だけですが、そういうことをする方だとは思えないのですが…」


「あぁ、私もそう思う。セオドール王は、弥生さんと葉月ちゃんと別れた3年後、他国の王家から妻を貰ったと調査書にはそう書かれてある。ご結婚されて16年だが、セオドール王と王妃の間には、確かに子供はいない。その為に葉月を…と考えたが、少し無理があるんだ。」


「女性には王位継承権がない。」


「そうだ。現在王位継承資格者はふたり。第2王子のイーニアス王子とその息子、現在18歳のワイアット王子だ。だがイーニアス王子は軍を用いて、一旦は国を力で治めようとした人物だ。そんな男を…国民が受け入れるはずはない。だからセオドール王と違って国民に嫌われている。その息子もかなりの放蕩息子だ。同様に国民に受けがいいはずはない。もし…おまえなら…どうする。穏便にそして確実に王位を手に入れようとしたら…」


「…俺なら…従姉妹にあたるセオドール王の娘…葉月ちゃんと婚姻を結ぶ。」


「あたしと同じ答えだ。」


「…ということは、弥生さんに直接働きかけたのは第2王子のイーニアス王子。」


「おそらく、第2王子のイーニアス王子は息子のワイアット王子と葉月の婚姻を考えたんだと思う。だが…モタモタしているうちに、葉月はウッドフォード国の成人年齢18歳になってしまい、本人の意思を無視して連れて行く事ができなくなってしまった。おまけに…葉月は姿を消した。と言っても、これは偶然あたしらと知り合い、Maison des fleurs(花の館)に住むことになったからだ。」


「俺に葉月ちゃんを守ってくれと言ったのは…第2王子のイーニアス王子一派からということですか?」


「あぁ…国を自分のものにしたいがために、父を殺し、兄を殺した男だ。何をするかわからない。」


「えっ?事故…や病死では…ないというのですか?」


理香さんはにやりと笑い

「第2王子のイーニアス王子の都合が言い様に、目の上のたんこぶがそう簡単に消えるかよ。運がいい王子様と言って差し上げたいが…証拠があるんだよ。」


「腕がいい、弁護士さんだ。」


「企業法務専門にやっているが…刑事事件(犯罪に関わる弁護を行う活動)や渉外事件(外国の企業や外国の法律が関わる事件)もやって、一旗あげるか…!」と言って、理香さんは笑ったが、その笑い声は長く続かず


「ほんとに…そうすりゃ良かった。」


「理香さん…」


「まぁ、一弁護士が頑張ったって、どうにもならないか…。ましてや15年程前は、あたしも学生だ。どうにもならないがなぁ…」



15年程前…俺は12歳か。まったく話にもならない。

俺は頭を振り、葉月ちゃんが去っていった方向を見つめる理香さんと同じように目をやった。



『あの人は私の唇に触れる寸前に…キスをする寸前に…こう言ったの。


自分の祖国に不穏な動きがある、だから君をこれ以上愛したら、君を不幸にするかもしれない。


でも君が欲しい、その唇が欲しいんだ。キスをしたら、もう気持ちを止められない。


…5秒待つ、返事をしてくれ。そうあの人は言ったの。』


と言っていたという弥生さんの声が聞こえた気がした。



キス…で運命を変えてしまった、弥生さんとセオドール殿下。

キス…で運命を変えようとした俺。


唇を手の甲で拭い、目を瞑った。


10年前の恋を終わらせると言うことは、由梨奈を自由にしてやることだと思う。でも…病気で俺に救いを求める由梨奈をどうしてやればいいだろう。


だが、葉月ちゃんを守るためには、俺の10年前の恋を終わらせる事が先決だ。どうすればいい。


俺は由梨奈の顔を思い出し唇を噛んだ。そんな俺の耳に突然、理香さんの厳しい声が飛び込んできた。


「あの由梨奈嬢となにがあった。」



それはまるで、俺の思っていることがわかったかのような、理香さんの問いに、俺は返事が出来なかった。


「あの由梨奈嬢となにがあった。」

小さな声でまたそう言って、理香さんは俺に視線を外すことなく近づくと


「男の優しさは…時には女にとっては…もっとも残酷なものなんだぜ。」


と言って、理香さんは微笑むと、俺の首に手を回した。


「理香さん!」


唇が触れる寸前…

「いいか、絶対動くなよ。」と言って、顔を寄せてきた。



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