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キスをする5秒前~kiss.kiss.kiss~  作者: 夏野 みかん
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葉月・・・叱られる。

「そうよ!!葉月ちゃん!私も反対よ!」

と続けざまに、聞こえた声は…そう…こ、この声は…このハスキーな声は…間違いないと思うけど…。鍛え上げられた前腕筋群、上腕二頭筋の筋肉が、順番に私の首に掛かった。


…やっぱり…あの人だ。

「の、野々村さん…。」


「いや~ん、ジョセフィーヌと呼んでと言っていたでしょう。」


192cmの背丈に7cmヒール…

逞しい大胸筋の前に、両手の指を交互に絡めるようにして組み、私にジョセフィーヌと呼んでと、見つめるこの人は…


1階に住む…野々村 大吾さん(本人はジョセフィーヌと言っているけど…)

自称…24歳(たぶん…かなり上だと思うんだけど…)

私の住んでるアパートの大家さん。


「あはは…」乾いた笑いしか出てこなくて、そんな私にもう一度雷が…


「葉月、これは猫や犬じゃねぇってことは…わかってんだろうなぁ。」

そう言って、理香さんは足元のダンボールと新聞の山を蹴りながら…バックからタバコを出すと…口に咥え


「おまえ…食われたいんか…」とひとこと言って、火を付けた。

私は、頭を横にめちゃめちゃ…振って否定したが、理香さんの据わった目を見て、青褪めてしまった。


マジ…理香さん…切れそうだ。


2年前…切れた理香さんを見た。

「あたし、今夜…虫の居所が悪いんだ。」とひとこと言って、2人の男の人をボコボコにしたあの鬼神が…また出てきそうで、つばを飲み込み「あの…」と言った私の横で、野々村さん…もとい

ジョセフィーヌさんが…


「理香ちゃん、女の子なんだから…そんな汚い言葉を使って、葉月ちゃんを追い込まないの。葉月ちゃん泣きそうよ。ごめんね、葉月ちゃん、理香は今日お店で嫌なことがあったらしくて、珍しく酔って私に迎えに来いって連絡してきたの。だから…ごめんね。」


「大吾!おまえに女の子って、言われたくねぇよ。男のおまえのほうが…料理も裁縫も…うまいんだから…こっちが惨めになる。」


そう言って、顔を歪め

「あぁ…悪かったよ…葉月。だが、葉月が男を連れ込むのは許さねぇぞ!」


「あっ…でも…」


そのとき…頭の中に…真っ黒な目を潤ませて見つめる、あの子犬の姿とこのカッコいいお兄さんが被った。だけど…理香さんにはお見通しで、


「この容姿だ。こいつは、ただのワン公じゃない。寧ろ…狼だろうよ。犬のような振りで近づいて…葉月、おまえなんか…パックンだ!」


「パ、パックン…。」

ほんのさっきまでそう思っていたから…思わず頷いてしまったが、でも…この人、すごく寂しそうで…このまま放っておくと、寂しさのあまり…


「ウサギじゃねぇーからなぁ。寂しくて…死んじゃうかも…なんて口にしたら、ぶん殴るぞ…。」

 

ぁ、当たりだ。理香さんは…超能力者か?!と思ったことが顔に出たのか…すごい目で見られてしまい、愛想笑いを浮かべ…小さく溜め息をついたのが…ジョセフィーヌ(大吾)さんに聞こえたのか…助け舟を出してくれた。


「理香ちゃん、今日はすごく冷えるらしいわよ。一晩ぐらいだったら…私の部屋に…」


「……泊めんのか…」


「と、泊めるんですか?!」


「もう…なにそれ…。この人、私の好きなタイプじゃないもの。襲ったりしないわよ。でも…今晩…彼は私と恋に落ちるかもしれないけど…」


「・・」


「・・」


「い、いやだ!!ここは、(そんな事、あるわけないでしょう。)って、突っ込みをいれるところよ~!!笑うところよ~」


そう…だ。笑わないと、ジョセフィーヌ(大吾)さんを疑う事に…

引きつった笑いをした私を横目でチラッと見た理香さんが、タバコを簡易灰皿に押し付けると


「大吾…、ぜっ~~たい!絶対!だぞ。襲うなよ。悲鳴が聞こえたら…お前の部屋をぶち破るからなぁ。」


「理香ちゃん…信じてよ。彼が私に一目惚れはあるかもしれないけど…襲ったりしない。」


「大吾…」


「はい、理香ちゃん。」


「一目惚れは…ない。」


「…はい。…理香ちゃん…」


ジョセフィーヌ(大吾)さんの大きな体が縮こまる姿に…

理香さんの大きな溜め息に…


私は申し訳なくて、

「あ…あの…ごめんなさい。でも私…」


葉月ちゃん、雨が降ってきたし…この人をこのままにしておけないわ。」

と言って、ジョセフィーヌ(大吾)さんは、新聞の山を掘り起こして、男の人を担いだ。


「すみません…私…」


「葉月ちゃん…大丈夫だから」


「葉月…。自分と重ねるなよ。」


ふたりの言葉に苦笑し、私は頭を横に降ると笑った。


…2年前。

私もこうやって、理香さんとジョセフィーヌ(大吾)さんに助けられた。ジョセフィーヌ(大吾)さんの背中で、ブランドのスーツを着た男の人が揺れているのを見て、確かに…ちょっぴり思い出したけど…


今は平気。

理香さんやジョセフィーヌ(大吾)さんがいるから…


…この男の人にも、今の私と同じように元気になって欲しいと、片方の靴がないその人の足元を見て、そう思っていた。



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