魔人大学生 第四話 絶対的正義感
咲花 望。彼が表の世界へやってきたのは2歳のころである。事故によって魔人の象徴である角を失くしてしまったがために、親から気味悪がられ、捨てられた。角のない魔人、その見た目は人間と全く同じであり、魔人としてのオーラを持っていながらも、他の魔人からも迫害された。手に負えない魔獣や、迫害を受ける魔人の行きつく先は、表の世界への追放である。彼もまた、表の世界へと追放された。
種族名、ウーママ・ナトゥラ・オクパット。この魔人は人を自分自身に惹き込ませ、人を意のままに操ることができる。2歳であった咲花 望は魔人の特性からか、精神年齢の発達が異常なほど早く、体は人間の2歳と変わらなくも、精神年齢は人間の中学生と同等であった。
表の世界にきたころの彼は魔人としての特性がフルに働いており、孤児院へと潜入した。周囲の人間すべてを自分の意のままに操り、見事人間社会へと溶け込んだ。決してそれは人間に害を加えるためではない。裏の世界で生きることのできなかった魔人が表の世界で生きていくために行ったことだ。彼は人として生きることを選んだ。
咲花 望という名前は孤児院の名前、咲花院から苗字をとった。そして名前は彼の本名であるウィズ。魔界用語で「望み」をそのまま表の世界風に訳した。
現在の咲花 望は16年という長い歳月を表の世界で過ごしてしたこともあり、魔人としての特性はほとんど失ってしまっている。人間を意のままに操るなど今の彼にはできない。だが、完全に失っているわけではなく、周囲の人間が彼自身を信じやすかったり、好意を抱きやすかったり、親しみを持ちやすいという程度の力は残している。これゆえに、彼は楓花の男嫌いを治せるという自信があったのだ。
そして、彼が未来やきらりに自身が魔人と暴露した理由、それは楓花を追っていくに従い、自分が魔人だとばれる日も来るであろう。そのときに彼女たちと接点を持たず、魔術自衛官に通報されれば、自分の身が危ない。
「僕は表の世界に来てからもうかれこれ16年になる。決して人間に害を与えてきたわけでもないし、僕はもう魔人ではなく、人間として生きている。だから、僕を魔術自衛官に売るようなことだけはしないでくれないかな。」
そう、こう言っておけば彼の魔人としての特性が働き、未来ときらりは自分を信じるようになる。
「そうだったんだ!魔人にもいい人はいるんだね!ん?いい人じゃなくていい魔人だった!」
「いや、いい人という扱いにしておいて。一応僕は人間として生きてるから。」
きらりは簡単に咲花を信じ切った。しかし、きらりの隣にいる女性はそうはいかなかった。
「小野瀬さん。あなた魔術自衛官を目指しているんでしょ。魔人を目の前にして見逃していいとおもっているの?」
「だって!この人はいい人なんだよ!」
「どこにそんな根拠があるっていうの?魔人や魔獣が長い歴史の中で私たち人間をどれほど苦しめてきたことか・・・。私は認めない。魔人がいていいはずがないのよ!」
まずい・・・。この子は魔人の存在自体を忌み嫌っている。ここまで自我が強いと僕じゃおさえきれない。
「だからって・・・・どうするんだ?君の検索魔法は世間的に認知されている魔法じゃない。君が僕を魔人だと言い張ったところで誰も信じてくれたりしないぞ!何せ僕は魔人特有の角を失っている!どうすることもできないぞ!」
咲花は思考をめぐらす。自分の身を守るために何かいい手がないか真剣に考える。
「世間が信じないのなら、私があなたを殺す。」
「ダメだよ未来ちゃん!この人何にも悪いことしていない!それに攻撃魔法なんて私たちまだ使えないよ!」
「そ、そうだ!たとえ使えたとしても免許もないのに使ったら、君は捕まるぞ!」
闘志をむき出しにしていた未来は、一度深呼吸をして息を整えた。
「そうね。あなたの言う通り。」
咲花はほっとする。
「でも!私はあなたの存在を認めたりしない。決めたわ。私が魔術自衛官の免許を取ったら、真っ先にあなたを殺しに行く。覚えておきなさい。」
「未来ちゃん・・・・。」
「そ・・・そうか。そりゃあ・・・楽しみにしとくよ。」
この子は時間をかけてゆっくり自分を信じ込ませていくしかない。そう咲花は思った。できなければ自分は殺される。大学に入って早々、命を失いかけたり、命を狙われたりと本当に大変である。
未来は後ろを向き、黒く長い髪をなびかせながら立ち去って行った。その後ろ姿はなんとも凛々しく、かっこよさが感じられた。
「ごめんね。未来ちゃんは頭がかちんこちんなの。」
「えっと、きらりちゃんだっけ?きらりちゃんの友達は怖いんだな。」
「違うって!斉藤さんだよ!」
「いや、もうそれいいから。」
「そうだ!連絡先交換しとこ!未来ちゃんにまた狙われたらきらりに言って!」
咲花は正直頼れるとは思えないと思いつつも、とりあえず連絡先を交換した。
「じゃあ!またね!」
きらりは咲花に向かって手を振りながら去っていく。ずっと後ろ向きで歩いていたため、きらりはとめてある自転車につまずいた。
咲花は正門で楓花を待たせてあることを思い出し、急いで向かった。
「ど・・・どうだった・・・の?」
「いや、何でもない。とりあえずもう楓花に尾行はしてこないから大丈夫。」