魔人大学生 第一話 検索
東帝魔術大学防衛学科、それは裏の世界から迷い込む魔人や魔獣による襲撃から市民を守る魔術自衛官の育成機関である。
大河内 未来。彼女もまた咲花たちと時を同じくして、この大学に入った。防衛学科は回復学科と一変し、男子率が9割を超える。未来はその中でも数少ない女子生徒である。
今日は大学の授業が開始され、初めての昼休みである。未来は数少ない女子の中でなんとか友達を一人作り、学生食堂で二人仲良く、とまではまだいかないがランチを共にする。
「ねぇ。未来ちゃん。」
「何?」
何も語らない未来に対し、友達の 小野瀬 きらり(おのせ きらり)が話しかける。
「未来ちゃんって物体浮遊以外で何か魔法使える?」
物体浮遊。それは義務教育9年間において習うただ一つの基礎魔法である。小学一年生なら紙一枚を動かすことができれば合格点であり、中学卒業までに自身の体重と同じものを浮かせるようになるまで訓練する。よって、普通は物体浮遊以外の魔法を使える者はほとんどいない。火を操ったり、攻撃系の魔法を取得するには免許が必要であり、特別な教育を受けなければならない。
「ええ。まぁ。」
「ホント!!?どんなのどんなの!?目からビーーーム!みたいなのとか!?」
突如として興奮するきらり。目をランランとさせ、未来に対し興味津々である。
「目からビームは出せないわ。一体どこの世界のロボットアニメよ。まぁ伝説級の大魔法使い様ならもしかしたらできるかもしれないわね。」
「目からビームとか出してみたいなー!こうビビビーって!」
「話がずれてるわ。私が使える魔法について聞きたいんじゃなかったの?」
「そうだったそうだったごめんごめん。」
出会ってからまだ4日であるが、どうにもこのきらりのペースにはなかなかついていけない未来である。
「私は検索魔法が使えるわ。」
「建築魔法?何それ?お城とか作れちゃうの?」
「検索魔法よ。近くにいる魔人や魔獣を検索できるの。非常時に逃げるのに役立つわ。」
「なぁんだ・・・でも何でそんな魔法使えるの?誰かから教わったの?」
あからさまに興味を失ったきらりである。しかし、そんな態度など未来は気にも留めない。
「私の両親は魔術自衛官なの。だから、非常のときに逃げられるよう教えてくれたわ。まぁ、魔人や魔獣の襲撃なんて滅多に起こらないし、私が住んでた町は田舎だったから一度も使うときなんてなかったわ。」
「そうだよねー。確かもう何十年も前だよね。魔獣大襲来だったっけ?きらりたちが生まれる前に起こった。」
「27年前ね。あの事件以降は1匹、2匹がたまに私たちの世界に迷い込むくらいで、特に何もないわね。」
「きらり、魔人とか一度は見てみたいなー。そして魔術自衛官のきらりは魔人の前でこう言うの!魔法少女きらり参上!悪事を働く悪い子はこのきらりがおしりぺんぺんだ!」
「テレビの見すぎよ。それに、自衛官になったころは少女じゃなくて、もう立派なおばさんよ。」
「いいじゃん!きらりの心はいつまでも少女なんだから!それよりさ、見せてよ建築魔法!」
一向に自分の間違いを正さないきらり。ただ、この極端に明るい性格が未来の心を妙に照らしてくれる。未来は心の底から、一番にできた友達がきらりでよかったと思っている。
「分かったわ。ただし、この魔法周囲200mくらいしか使えないの。だから、期待しても魔人や魔獣なんて出てこないからね。」
「えーー!つまんなーい!魔獣来いっ!魔人出てこいっ!」
あまりに不謹慎な言葉である。
未来は1枚のルーズリーフを取り出し、その上に手をかざした。
「クォレーレ!」
検索魔法の呪文を唱えたとたんに、ルーズリーフに大学内とその周辺の地図が浮き上がった。
学生食堂内の周りの人間も、見慣れない魔法に食いつき、未来ときらりをじっと見る。
「わぁ!すごい!思ってたのよりなんかわくわくする!魔人こーい!」
「出てくるわけないじゃない。もしいたら、地図の中に紫色の点で表示されるのよ。」
「紫色?それってこれ?」
きらりが地図の中の一点を指で指す。すると、確かにそこに紫色の点が浮かび上がっていた。しかも、大学内である。