ぶっ飛び少女 第四話 物体浮遊女子の進歩
3人は近くの公園のベンチで弁当を食べた。まだ花見もできる時期であったので、公園で弁当を食べる人は他にもいた。
というか、咲花の弁当の出来栄えが異常であった。盛り付けや味付け、何をとっても文句のつけようがなかった。
「咲花君すごいじゃん!私こんなお弁当作れないよ!なぁ楓花!こいつお嫁にもらっちまえよ!」
「ふああっっ!?ちち・・・違うよ!私がもらわれるほうだから!」
「え?咲花君に?」
「いや~~照れるな。」
「ふああああああっっっ!!?」
楓花は自分の言ったことが誤解を招く言い方だったことを直ちに理解した。その瞬間、咲花の体はもうベンチの上ではなかった。
「あ・・・楓花やっちまったな。」
咲花は砂場の上に落ちた。頭からつま先まで砂をかぶり、食べかけの弁当はもうだめになってしまった。
「だ、だって朱音ちゃんが変なこというから!」
楓花は急いで咲花のところまで駆け寄る。
「ご、ごめんなさい!またやっちゃて・・・。」
「いや、いいんだ。これくらいのことは覚悟してきてるし。そうだ!かばんの中にまだ手作りのクッキーがあるから食べようぜ。」
「なんか・・・咲花君って女の子みたいだね。」
「は!?はぁ!?うるせぇな!弁当作って、クッキー作る男がいてもいいだろ!僕は女の子見たいって言われるの嫌なんだ!名前だって完全に女の子だし!」
二人が話す様子を見て、朱音はなんだかほっこりとした。
朱音は高校から楓花と一緒であるが、楓花が男とあれだけ会話をする姿を今まで一度も見たことがなかった。というより、楓花も男に近づかなければ、男も楓花に近づかなかっただけなのだが。それにしてもあの咲花という人物は何か不思議な感じがした。男らしからぬ男という雰囲気からか、どうにも朱音自身も親しみを持って接することができる。咲花は中性的な顔立ちであるがため、より一層男らしさが感じられない。
「なぁ楓花。」
「何?朱音ちゃん。」
「私、急用ができちゃった。」
もちろん嘘である。
「ええっ!?帰っちゃうの?」
「なんか友達の友達の友達が急にバイトに来れなくなっちゃったみたいでさ。行かなきゃ。」
「ちょ、ちょっと待って!朱音ちゃんバイトしてるなんて聞いてない!それに友達の友達の友達って友達の友達がバイト入ったらいいんじゃないの!?」
「いやいや、友達の友達の友達って言うのは私の友達だから。私の友達をAさんとしてAさんの友達をBさんとすると、私にとっての友達の友達はBさんであって、Bさんから見たらAさんは友達でしょ?つまり友達の友達の友達って、最後の友達の部分は私の方向に戻ってきてるんだって。」
「じゃあふつーに友達って言ったらいいじゃん!」
「まぁそういうことだから。咲花君と仲良く映画楽しんできて!」
「ちょっと!朱音ちゃん!」
朱音は嵐のように去っていった。いや、本当は物陰に隠れて見守ることにしただけだ。
その場に立ち尽くす楓花だった。
「じゃあ、映画行くか。」
自分には無関係と言わんばかりに咲花は言った。
~~~・・・・~~~
このあとの二人の映画デートだったのだが、ふつーに何事もなく終わった。
咲花が楓花の手を握るわけでもなく、ただ黙って二人は映画に見入った。
「た、楽しかったね。」
映画館のロビーにあるソファに二人は座る。一見何も知らない人が見れば、どう考えても恋人だと思うシーンである。この二人がまさか出会って数日だとは思えない。もし、ここで大学内、回復学科の生徒が目撃したりすれば、間違いなく噂される。
「そうだな!まさか死んだはずの主人公が生き返ってまた死ぬとは思わなかった。」
「あれは意外だったね。」
影から朱音は見ていたが、今の光景には驚くばかりである。あの何年も男とまともに話せなかった楓花がたったこの数時間で咲花と目を見て話しているのである。一体何がそうさせるのか。いずれにせよ、あの咲花 望という男は事実楓花の男嫌いを克服させうる力を持つことは確かなことに思えてきた。それはいいことであるはずなのだが、なんだか恐ろしくも感じた。
「ねぇ・・・軽井沢さん。」
「な、なに・・・?」
楓花は咲花の目に吸い込まれそうな感覚を覚える。
「もし、よかったらなんだけど・・・・僕と付き合ってくれないかな?」
「え・・・・・?」
その瞬間、楓花の中で静まっていたものが突然暴れだした。まるで魔法が解けたかのようにそれは突然だった。
「ふあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!!!!!?」
その光景を見て、なんだかほっとしてしまう朱音なのであった。
~~~・・・・~~~
結局、楓花は咲花と付き合うことはなかった。さすがにそれは出会ってから早すぎるというのと、男嫌いを克服したというわけではないという理由からだった。
ただ、それでも楓花が咲花に会った際に、あいさつができるようになったことは楓花にとって大きな進歩であった。