29 シルヴィの叫び
晴れていた上空は、いつの間にか黒い雲が広がり雨が降り出しそうだ。
「向こうから兵隊が来るぞ!」
一人の下っ端が言った。王都がある方向から兵隊が向かってきていた。その先頭には、アレシアがいた。
「ど、どうするよ!」
「どうするって……」
「そんなの逃げるに決まってるだろう!」
アレシアが率いてきた兵隊の数に怯えた下っ端たちが震えて叫びながら逃げまどう。
「兵士よ!雷鳴の一団を殲滅せよ!ただし逃げる者を追わなくていいです!」
アレシアの言葉で列をなして走り始める兵士はまるで、津波のようだった。
「姫様!どうしてここに!」
「フィオナさん。良かった無事のようですね」
アレシアを見つけたフィオナが駆け寄る。
「危険なことはしないでください」
「私だって力になりたいのです」
「……手のかかる姫様だ」
アレシアが率いてきた兵士が下っ端をほとんど制圧した。
「もう、ここは私の兵士たちに任せてください」
「あとは、レオン殿だな」
フィオナがレオンっと言った瞬間アレシアが驚いた表情をする。
「レ、レオン?い、いるのですか!」
「少し前に現れたんです。向こうで雷鳴のリーダーと戦ってるはずです」
「私を連れて行ってください!お願いします」
アレシアの願に一回溜息を漏らす。
「やれやれ、分かりました。私から離れないでください」
「はい!」
「そこの貴女!一人で大丈夫か!?」
ゴルドとまだ戦っていたシャールに大声で聞いた。
「任せろ!」
「それじゃ行きましょう、こちらです」
バルゾフとレオンの戦いも終盤を迎えていた。お互いの身体は、傷跡だらけでボロボロになっていた。共に呼吸が荒く苦しそうだ。
「そろそろ……終わりにするか小僧」
「……あぁ。いいぜ」
すると、ポツンポツンっと上空から雫が落ちてきた。雨だ。次第に雨が強くなり始めた。レオンの身体が震えはじめそれを見ていたシルヴィが駆け寄る。
「まずい!レオン様!お下がりください!私がやります!」
「大丈夫だシルヴィ!」
ピタッと足を止める。
「俺がやる……見ててくれシルヴィ。俺は、変わるんだ」
「レ、レオン様」
「話はそこまでだぁぁぁ!」
一気に距離を詰めてレオンの胸にめがけて大剣を突き刺しにきた。レオンは、それをかわそうとした時だった。雨で濡れた地面に足を滑らせてしまい、態勢を崩してしまった。
「もらった!」
バルゾフの大剣は、レオンの胸に直撃した。
「いやぁぁぁぁぁ!レオン様ぁぁぁぁぁ!」
バルゾフとレオンは、その場で止まった状態でシルヴィの叫び声が響き渡った。