あだ名は狼さん
あたしは猫。あたしには大事な肉親のお兄ちゃん猫がいる。とても優しくてかっこいい自慢の兄だ。
でも、そんな自慢の兄でも欠点が一つだけある。それは―――
「お兄ちゃん、いい加減お魚食べようよ」
「いや、妹よそれはダメだ!」
「どうして?食べないと体がもたないよ?お兄ちゃんお魚大好きだったよね?」
「好きだ・・・・・が、お兄ちゃんは今日からお魚じゃなくてお肉を好きになろうと思うんだ。ほら、お兄ちゃんたちは肉食だろ?魚が好きだなんて変だと思うんだ」
「えーと・・お兄ちゃん。あたしたちは確かに肉食だけど、魚が好きでも大丈夫だよ?」
「あっははは!いやダメだよ。誇り高い狼が魚が大好物だなんて変じゃないか!」
「お兄ちゃん・・」
そう、大好きな兄の唯一の欠点。それは種族を狼だと勘違いしていることだった。
あたしたちの恰好のどこをどう見たら狼に見えるのか。何故か小さい頃から兄は狼であることを誇りに思っていた。
言っておくがあたしたち兄妹はどこからどう見ても猫だ。長いしっぽもあればチャームポイントの耳だって健在だ。
兄は自分の姿を鏡で見たことがないのか、はたまた頭の弱い可哀想なやつなのか。出来れば妹としては前者であってほしい・・・。
「ふう、やっぱり顔を洗うと気持ちがいいな!うん今日も良い顔色だ。ほら妹よ、お前も鏡で寝癖を直すといい」
後者のようです。ですよね?生まれてから一度も鏡を見たことがないなんて、あるわけないですよね。
この種族の勘違い、家でだけなら別にいいんです。あたしだったら「あーはいはい」程度に終わらせることができるので。
でも、外となると話は別だ。本物の狼に遭遇したときに、同族並の挨拶を笑顔でやってのける兄に軽く失笑するしかないあたし。
そしてそれを見た狼の「何コイツバカじゃね?」みたいな鼻で笑っている顔を見ただけで、泣きそうになります。しかし兄は気づいていないのか、それとも気づいているけど無視しているのか鋼の根性で「またな!」とか言ってお別れをしていた。ある意味尊敬します。
この間、我慢の限界がきたのでありったけの勇気を振り絞って、あたしたちは猫であると大声を出して言ってみた。が、兄の返しはこうだった。
「ははっどうしたんだ?誰かに罰ゲームでも言いつけられたのか?お兄ちゃんが叱ってきてやろうか」
叱ってあげてください、自分を。あたしのありったけの勇気を返してほしい本当に。
何を言っても無駄な兄に外でついたあだ名は『狼さん』だった。もちろん皆冗談半分、からかい半分で言ってることであり、喜んでいるのは当人のみだった。あたしは喜んでいる兄の隣で静かに涙を流していた。もちろん嬉し泣きではない。
「はー・・」
「ん?どうしたんだ妹よ。そんな暗い顔してたら幸せが逃げて行くぞ?ほら、お前の可愛い笑顔を見せてごらん」
「・・・・・へへっ」
こんな面倒臭い兄だけどあたしの自慢の大好きな、とっても大好きなたった一匹の大切な家族なのだ。
「さあ!うさぎを狩りに行くぞ!今日の晩ご飯だ」
「兄上・・・猫はうさぎなんて狩りに行きませんけど」
目を逸らしたくなるぐらいの可哀想なヤツと一緒でも、皆から笑われようとこれがあたしの日常だ。
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
猫は肉食だとこの話を書いて初めて知りました。