敵討ち
遅くなりました。
逃げ出してから30分が経過した。
おかしなことに逃げ始めた時よりも今の方が楽に走れている。
こころなしか、走る速さも速くなっているように感じる。
その理由は多分これだろう。
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倉島 優人 Lv.26 16歳 男
体力 130
攻撃 130
防御 130
敏捷 130
魔法 130
魔耐 130
スキル 勇者の願望 ???? ???? ????
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スキル 勇者の願望が解放されて僅か30分でレベルが24も上がった。
まぁ、びっくりしたと思うが、説明は後ほどに回そうと思う。
呑気に説明できるほど僕の心は安定していないのだ。
ガリウスさんの死…
それは僕に多大な影響を与えた。
涙が止まらない。
30分がたった今もだ。
ただ、今はまだやることがある。
それは、僕がガリウスさんを村まで届けることだ。
ガリウスさんが愛した村、愛した家族の元に連れて行ってあげること。
これこそが、僕ができる恩返しの1つだと思う。
そのためにはまずガリウスさんを魔物がいない安全な場所へ連れて行かなければならない。
そう思いながら僕は走り続けている。
そんな時だ。
目の前に大きな一本の木が見えた。
幸いに、この付近では今の所魔物の存在は確認できなかった。
だから僕はガリウスさんを木の下に寝かせておくことにした。
「ガリウスさん、ゆっくり休んでいてください。僕は、少し出かけてきます。このまま村に帰ったら、僕はどうにかなってしまいそうなので」
ガリウスさんからの返事はない。
あの僕に元気を与えてくれた声が聞こえてこない。
それはガリウスさんが死んでしまったという事実を強くあらわしている。
その事実を再認識させられ、優人の心はより深く傷つく。
ガリウスさんが死んでしまったのは僕が甘い考えでいたからだ。
なんとかなると楽観的に考えていたばっかりに。
結果的にガリウスさんを殺したのは僕と魔物だ。
だが、僕は死ねない。
僕が死んだらガリウスさんが僕を守ってくれた意味がなくなってしまう。
そんなことをしたらガリウスさんは無駄死にしたことになる。
それだけは、絶対に許されない。
じゃあ、僕はどうすればいい?
自分を殺せない以上、僕にできることはただ一つ。
ガリウスさんを殺した魔物を殺すこと。
ガリウスさんの敵討ちをすることだ。
今のレベルはあれから2レベ上がり28だ。
ステータス的にはまだ不安が残るが、ルインラビットを倒せるくらいはある。
だが、今やらないと。
今、敵討ちをしないと僕は本当に壊れてしまうかもしれない。
僕はそう思い敵討ちをするという決意を胸に先ほどのルインラビットがいた場所へと向かった。
それから5分後、先ほどのルインラビットを見つけた。
僕の方へ歩いてきている。
どうやらまだ諦めずに追いかけてきていたようだ。
どうやって僕たちがいる方を把握しているのか。
走って追ってこなかったのは余裕あらわれか?
だが、都合がいい。
向こうがおってきてくれたおかげで、ガリウスさんを殺したルインラビットをすぐにみつけられた。
さらに、今いる場所は逃げている時、一度も魔物を見なかった場所だ。
だから邪魔は入らない。
僕はルインラビットを見つめる。
向こうも僕を見つめている。
その目には余裕があらわれているように見える。
完全に舐められている。
多分今も、諦めて殺されに来たか?とでも思っているんじゃないだろうか。
だが、それも都合が良い。
僕を舐めている今なら攻撃を与えるチャンスは生まれやすくなっているだろう。
この世界には、剣術や槍術といった武器の扱いに対するスキルはない。
まぁ、地球にもないわけだが。
だから剣の腕は純粋な個人の腕だ。
剣なんて使ったことがない僕に、ガリウスさんが指導してくれて身につけた剣の腕。
ガリウスさんと僕でつくった僕だけの剣術。
何の変哲もないただの剣術。
されど僕だけの剣術。
これから戦う相手は強い。
でも、ガリウスさんが与えてくれた力で僕は相手に立ち向かう。
気弱な僕にガリウスさんが与えてくれた元気と勇気で相手に立ち向かう。
全てはガリウスさんの敵討ちのために。
僕は勢いよく剣を抜き、ルインラビットに向かって走る。
その距離約10メートル。
その距離を強化された敏捷力で一気に埋める。
そして余裕をかましているルインラビットの腹を思いっきり斬りつけた。
ルインラビットは僕を攻撃されても大したことない雑魚だと思っていたのだろう。
真っ正面からの僕の攻撃は守られることなくルインラビットに当たった。
思っていた以上の手応えがあった。
僕の振るった剣先はルインラビットの筋肉質な肉を3cmほどえぐった。
そのあとすぐに距離をとる。
ルインラビットは僕よりも敏捷力が高い。
だからあまりくっついていると、攻撃したあとにカウンターを食らうだろう。
そうするとあまり深いと僕は死ぬ。
だから今回は深くは入りこまず、相手の死角となりそうな場所から薄く削り、よけるを繰り返そうと思っている。
先ほどの不意打ちで、ルインラビットは僕の攻撃を脅威と見て、本気になってくると思う。
だから懐に入られないように、考えてはしらなければ。
ルインラビットは予想通り僕に警戒しているようだ。
ちくしょう。なかなか懐に入れない。
そう、ルインラビットが思ったよりも冷静だったのだ。
優人の考えではルインラビットが怒り狂いながら追いかけてくるはずだった。
だが、なかなか動かない。
怯えているわけではなく、タイミングをはかっているかのように見える。
くそっ!スピードでは勝てない。
だから冷静に攻撃してきたら多分よけるのは厳しいだろう。
くそっ、どうする。どうする!
そんな僕の焦りを感じたのか、ルインラビットが走ってきた。
なっ!?くそっ、油断した!
僕とルインラビットの距離が一気に詰まる。
ルインラビットは攻撃しようと腕を振り上げている。
僕はその攻撃をよけることに集中する。
ルインラビットは振り上げた右手を思いっきり振り下ろした。
右手の振り下ろし攻撃は、ガリウスさんが守ってくれた時に見たため、なんとなくの軌道と速度はつかめている。
優人は思いっきりルインラビットの左側に跳んだ。
足先に爪が少しかする。
だが、ルインラビットは思いっきり振り下ろした腕をよけられ、少しバランスを崩す。
よし、今なら!
僕は、振り下ろされた右腕を巻き込みながらルインラビットの腹を斬りつけた。
すぐにルインラビットが腕を振り上げるが、警戒していた僕はそれをよけ、距離をとった。
よし、攻撃が入ったおかげで、ルインラビットの動きが鈍ってきた。
今ならいける。
僕は相手の左側にまわり、軽く腕を斬りつけた。
反撃をしてくるが、やはり反応が遅くなっている。
攻撃をよけ、少し距離を取った後、今度は右側にまわりこみ、腕を深めに斬りつけた。
相手の反撃は簡単によけれるほどに、遅くなっている。
ルインラビット自体の速さも全体的に遅くなっており、僕よりも遅いだろう速さになっている。
もう、これで終わりだな。
僕は相手の真正面にまわり、三度、思いっきり斬りつけた。
バックステップをし、距離を取るが、反撃はかえってこない。
今の僕の攻撃で力尽きたのだろう。
後ろに倒れ、数秒後に光となって霧散した。
それをみたとたん急に体から力が抜けた。
ガリウスさん…敵は討てたよね。
僕は周りをかえりみずに、力なく思いっきり泣いた。
□
その後、僕はガリウスさんを抱え村に戻った。
ガリウスさんを見た村の皆はひどく悲しんでいた。
当然だろう。
誰にでも優しく、元気な人だ。
悲しまないひとなんていないだろう。
アルミーナさんは悲しみのあまり泣き崩れてしまった。
こんな僕を誰かが責めるだろうと思っていた。
ガリウスさんが死んだのに僕だけのこのこと帰ってきたからだ。
だが、村の誰も僕を責めなかった。
皆が僕の心配をしてくれた。
僕は泣いた。本当に思いっきり泣いた。
悲しみを涙と一緒に流れ出そうと。
村の皆も僕の心配をしながらもガリウスさんの死を現実と受け止め、思いっきり泣いた。
ポツポツと降り始めた雨と一緒に、村の皆は一様に涙を流した。
□
その後1週間、僕は泊まっていた宿に引きこもった。
そんな時、アルミーナさんは僕の宿にきた。
そして引きこもり、項垂れた僕にこう言った。
「優人様!ガリウスの死を無駄にはしないでください!精一杯生きてください!」
…と。
そうだよ。僕はなにしてるんだよ。
これじゃ、ガリウスさんが命をかけた意味が、僕を守ってくれた意味がなくなってしまう。
そんなのは絶対に許されない。
そうだよ、ガリウスさんの分まで精一杯生きなくてどうするんだよ!
…アルミーナさんは一番辛いはずなのに、僕にそのことを気づかせてくれた。
ほんと、この夫婦には迷惑をかけてばかりだな。
だから、少しでも、ほんの少しでもアルミーナさんを安心させるために、僕はガリウスさんのように力強くそして決意のこもった目でこう答えた。
「絶対にガリウスさんの死を無駄にしません。精一杯、ガリウスさんの分も生きます。生きて、生きて、もう悲劇を起こさないように…。僕は…俺はっ…頑張りますから!」
と。
そして2日後、ガリウスさんの墓に感謝と決意を伝えた後、村の皆の声におくられ、近くにある街へと歩き出した。
ガリウスさんの分も精一杯生きるために
こんにちは!
少し遅くなりました。
すいません。
さて、今回は敵討ちということでしたがどうだったでしょうか?
最後が少し急ぎすぎたような気がしますが、まぁ、許してください。
戦闘描写も初めてだったので、うまくかけついるのかどうか。
戦闘描写についてなにかアドバイスとかいただけると嬉しいです。
あ、そうでした。
もう少しでついにヒロインが登場となります。
そして、ここまで暗い雰囲気が続いてましたが、これからは明るい雰囲気になっていくと思いますので、どうぞお楽しみに!