勇者の力
…おかしい。
こんなことってあるのか?
「どういうことだ?」
僕とガリウスさんは困惑していた。
それもそのはず。
魔物を倒し始めて1週間がたったのに、僕のレベルが1のままなのだ。
僕よりレベルが高いガリウスさんでさえ、3つもレベルが上がったというのに。
「何故レベルが上がらないんだろう?」
僕は内心焦っていた。
このままじゃまた役立たずのままで終わってしまうと。
「んーわからん。本当にどーなってやがる。こんなレベルが上がりにくいやつ、初めて見たぞ」
ガリウスさんもわからないみたいだ。
「ユウトのレベルはまだ上がっていないが、暗くなってきたからな。今日はもう終わりにしよう」
そう言われたが、レベルが上がらず焦っている僕はもう少しと提案する。
「あの、あと少しだけ」
「ダメだ!ユウトは何故今まで夕方には終わっていたかわかるか?暗いと戦いにくいというのも勿論あるが、本当の理由は夜になると魔物が強くなるからだ」
「強くなる?」
「ああ、まあ強くなると言っても昼間にいた魔物が夜になると強くなるというわけではないぞ。あたりが暗くなると、夜行性の魔物が発生するってことだ」
強い魔物。
倒せたらレベル上がるかな?
「ユウト、いくらレベルを上げたいからって夜に魔物を倒しにいくのはやめろよ。俺はあんな危険すぎる場所ごめんだからな」
「は、はい」
返事はしたが、焦っているこのときの優人は、強い魔物が出現するということをうけ、冷静な判断ができないでいた。
まあ、いくら強くても、逃げさえすれば大丈夫なはず。この1週間で弱いながらもだいぶ戦えるようになってきたし。
…と。
□
その日の夜、僕はいつもお世話になっている宿をこっそり抜け、いつも狩りをしている草原に向かっていた。
何故村の近くに魔物がいるのに、村に侵入してこないの?と思うかもしれない。
僕も最初はそう疑問に思っていた。
しかし、話によると、どうやら結界がはってあるらしい。
何でも歴代の勇者達がはっていったんだとか。
村をでて5分ほど歩くと、魔物が出現する、いつも狩りをしている場所にたどり着いた。
そしてすぐに驚く。
「なっ!?」
おかしい。おかしいのだ。
今、僕の前方にいる魔物の大きさが。
軽く3メートルをこえてるように見える。
その魔物はまるでうさぎのようだ。
うさぎと聞いて安心する人もいるかもしれないが、ちょっと待ってほしい。
うさぎはうさぎでも僕が知っているのとは違うのだ。
まず、3メートル近い身体、さながらボディービルダーのような筋肉、そしてまるで肉食の動物であるかのような長く鋭く大きな牙。
さらには人間のように二本足で立っている。
正直ものすごく怖い。
普段倒してる魔物は1メートルにも満たない大きさなのだから。
何故、昼と夜でここまで変わる?
そんなことを考えていると、魔物がこちらに気づいたようだ。
「やば!」
優人はその場から逃げる。
しかし、魔物は3メートル近くありながら僕より速いスピードで追ってくる。
「なっ!?」
僕は困惑した。
魔物の方をしっかりを向くと、頭の中に魔物の情報が流れてきた。
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ルインラビット Lv.35 ♂
体力 240
攻撃 136
防御 121
敏捷 164
魔法 29
魔耐 24
スキル 破滅の剛爪
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やばいやばいやばいやばい。
強すぎる。
昼と違いすぎるだろ。
ちくしょう。
こんな場所、こなければよかった。
しっかりガリウスさんのいうことを聞いていれば。
僕はバカだ。
本当にバカだ。
そんなことを考えているうちにも、ルインラビットとの距離はどんどん詰まっていく。
僕はもうダメだな。
優人は諦めて走るのをやめた。
そして…ついにルインラビットの爪がとどく距離まで近づいた。
はあ、異世界で皆より劣っているだけでなく、誰よりも早く死ぬことになるなんて。
あぁ、弱いんだから早く死ぬには当たり前か。
もっと強いステータスでこの世界に来ていれば。
神様めー。ちくしょう。
ルインラビットの爪が振り上げられる。
全く、こいつも容赦がないよなー。
こっちはもう戦意喪失してるのに。
そしてルインラビットが爪を振り下ろす。
くっ!
僕は痛みを恐れて目を瞑った。
……
なんだ?痛みが襲ってこない。どういうことだ?
その時、
「ぐふっ」
誰かのうめき声が聞こえた。
何か聞き覚えがあるような声が。
僕はゆっくりと目を開ける。
目の前には、ガリウスさんが倒れていた。
腹の部分に大きな傷跡があった。
「なっ、あっ、ガリウスさん!」
僕は動揺していた。
どうしてガリウスさんが!
…と。
ガリウスさんはとても苦しそうだった。
ガリウスさんっ!
しかしそんな時でもルインラビットは容赦はしない。
今にも爪を振り下ろし、ガリウスさんを殺そうとしている。
させるかっ!
僕はその前にガリウスさんを抱える。
そしてその場から逃げ出した。
怪我人は安静にさせてなければいけないことはわかっている。
だが、だが今はしょうがない。
ガリウスさんが生きるためにはこうするしかないんだから。
僕は走る、走りまくる。
不思議とルインラビットは走って追っては来なかったが、それでも走った。
すると、大きな木を見つけた。
あそこで一度。
その時、もう周りには魔物の姿はなかった。
僕は一度ガリウスさんを木の下におろした。
するとガリウスさんが弱々しい声で話出した。
「おぉ、ユウト…大丈夫、だったか?」
「僕は大丈夫!でもガリウスさんは、傷が。僕なんかを庇ったばっかりに」
「僕なんかとか…いうなよ。お前は、俺の弟子、だろ?弟子の面倒を見るのが…師匠の役目ってもん…だろ?」
「ガリウスさん!もう喋らないでください!傷から、傷から血が溢れてますから!」
しかし、ガリウスさんは話すのをやめない。
「俺に、口答えとか…お前も、随分偉くなったもん、だな。だが、俺は話すぞ…どうせこの傷じゃ、もう助からない。なぁ…ユウト」
「なんですか?ガリウスさん!」
僕は泣いていた。
ガリウスさんの傷はあまりにも酷く、僕の目からももう助からないと思ってしまったからだ。
だから僕は涙ながらに、力強く返事をした。
しかし、次のガリウスさんの言葉に衝撃を受ける。
「…俺を、俺を、お前の手で…殺してくれないか?」
「なっ!?何を言ってるんですか!ガリウスさん!そんなことできるわけ…」
「頼むよ。もう、辛いんだ。この痛みに耐えるのが…」
ガリウスさんの声は弱々しかった。
しかしガリウスさんはまだ続ける。
「なあ、ユウト。俺はな、お前の、優しさが好きだ。魔物を倒した時、魔物相手にいつも悲しそうな顔をしている、お前の、優しさが好きだ。最近、遠くの国で…勇者が召喚されたそうだ。俺は、思うんだ。お前は…その仲間、じゃないのか?」
僕は驚く。
だが、正直にはっきりと答えた。
「はい。そうです」
ガリウスさんは笑みを浮かべていた。
「やっぱり…か。俺は、勇者の話を聞いたときから、ずっとそうなんじゃないか、と思っていた。だって、お前は似ている…から。その優しさが…俺が聞いた勇者の情報と。だから、だから、そんなお前に頼むんだ。頼む、俺を、俺を楽にしてくれ」
僕は頷く。
早く楽にしてあげたかったから。
話している時のガリウスさんの顔には笑みの裏に辛いという感情が浮かんでいたから。
「はい。僕に…任せてください」
僕は泣きながら、優しく微笑む。
そして…ガリウスさんの体力を0にした。
「なんで、なんでガリウスさんは微笑んでいるんだよ!僕の、僕のせいで死ぬことになってしまったのに!」
「ちくしょう。ちくしょう!」
僕は泣き叫んだ。
普段の僕では考えられない、空に響き渡るような大きな声で。
その時…脳内に効果音が響き渡り、その後に声が聞こえてた。
『ピロリーン。レベル2になりました。これより勇者の願望を解放します』
すると少し力が湧いてきたような気がした。
僕はステータスを確認してみる。
すると、本当にレベルが上がり、ステータスが上昇していた。
そしてスキル欄には…
ハテナが一つ消え代わりに「勇者の願望」と書かれている。
「勇者の…願望?」
その力は今からルインラビットと戦えるものではない。
しかし、すぐにルインラビット戦えるようになる力。
そんな時、先程のルインラビットが見える位置まで近づいてきた。
僕は、戦わず、
…ガリウスさんを抱えて、
…その場から逃げた。
こんにちは!
投稿が少し遅くなってしまいました。
すいませんでした。
さて、今回はついに勇者の力が解放されました。
え?力の内容を教えろって?
それは、次回のお楽しみということで!
そんな次回のタイトルは、
「敵討ち」
の予定です。
お楽しみに!
あ、みなさん!
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そして、これからもよろしくお願いします!