2人の過去
「私が何故ここに住んでいるか…ですか?」
「そうだ。言いにくいならいいんだけどな」
できれば知りたかった。
俺たちの様に何かないかぎりは基本この森の奥地までだれもこないはずだからだ。
迷子の森というだけあって奥地まで来てしまえば抜け出すのは容易ではなくなってしまう。
そこに住んでいるのだ。
何かしら理由があるとしか思えない。
この俺の質問にフィアは少し黙ったあと、語ってくれた。
「わたしが住んでいた村はこのイゴマの森の近くにありましたーー」
フィアは話ている最中まるで何かを噛み締めているかのようであった。
そんなフィアの話を聞き終わった時、俺は憤慨した。
自分と同じ人族のあまりの卑劣さに。
「ひどい…」
ティアラがそう呟いた。
俺もティアラと同じ気持ちであった。
フィアの話はこうだ。
フィア達兎人族はイゴマの森の近くでひっそりと暮らしていた。
基本的に兎人族は温厚で誰にでも優しい人ばかりであった。
そんな村でフィアは楽しく、そして充実した日々を送っていた。
ある日、人族の鎧を着た男が2人、森の近くに血まみれで倒れていた。
兎人族はその2人を見つけ村で保護をした。
幸いにも回復魔法を使える者が居たため
2人の体調はみるみるよくなっていった。
そんな時、その2人と同じ鎧を着た者が50人、村に尋ねてきた。
いや、襲ってきたの方が正しいか。
あろうことか、彼らは人族を拉致したと言いながら武器を持ち、村の民に攻撃してきたのだ。
兎人族の男は皆殺し、そして女は性奴隷として売るため、そして自分達が使うために捕らえていった。
幸か不幸か、兎人族の女は容姿が優れたものが多いため、高値で取引されるのだ。
次々に捕られ、あるいは殺されていく村の人々。
…この時フィアは村にはいなかった。
彼女は獣人としては珍しく、総魔力量が極端に多く、また魔力の操作に長けていたため、村のために近くにあるイゴマの森へ狩りにきていたのだ。
彼女の武器は弓。
そこにつがえる矢に魔力を流し留めることで矢を強化する。
その貫通力はすさまじく、また命中率も高いため、基本一撃で仕留めてしまうほどなのだ。
そんな彼女が狩りに行っている間に、村は全滅。
村の異変を感じ戻った時、そこには生存者はだれもいなかった。
彼女が悲しみにくれ、呆然としている時、村を襲った奴らと出くわしてしまう。
村を襲った次の日なのだが、奴らはまだ生存者がいるかもしれないと再び赴いたのだ。
いくら自分に力があると言っても、数の差でそこは埋められてしまう。
さらに奴らの視線、まるで自分の身体を舐め回すような視線を恐れ、イゴマの森へと逃げた。
当然奴らも追ってくるが、イゴマの森に入った所で上手くまくことができた。
それでも完全に恐怖したフィアはそのまま奥へ奥へと逃げ、気がついたときにはこの場所にいた。
……というわけだ。
「わたしは…あの時何もできませんでした!村を襲ったのはあの人達だとすぐに分かりましたが恐くて恐くて、逃げるしかできなくて…」
泣き出すフィア。
溜まっていたものが溢れたのだろう。
「ごめん、フィア。辛いことを思い出させてしまった。本当にごめん」
この時、俺にはただ謝ることしかできなかった。
慰めることができなかった。
村を襲ったのは自分と同じ人族、その負い目を感じてしまったからだ。
……この時、こんな時に何もできない無力な自分がとにかく
……恨めしかった。
□
「落ち着きましたか?」
「はい、すみません。取り乱してしまいまして」
「俺が話させたのが悪かったよな。…本当にごめん」
「もういいですよ、ユウトさん。私はユウトさんに憎みを感じていたりしませんし…」
「「「…………」」」
暗い雰囲気になってしまい、その空気に耐えられず黙りこむ3人。
ここでティアラが俺に話をふってきた。
「あっ!そういえば私、ユウト様のことを何も知りません。あの、ユウト様。どうか教えていただけませんか?」
「私も聞きたいです〜!」
フィアがいつもの調子に戻ったようだ。
少し安心。
にしても俺についてか…。
異世界から勇者として召喚されましたーとかはまだ言わない方が言い気がする。
別に2人が信用できないわけではない。
ただ、まだ自分にそれを伝え受け入れて貰えるか自信がないのだ。
んー、まぁあれでも話すか。
正直話す内容は暗いものしか浮かび上がってこない。
また暗い雰囲気になりそうだと思いながら話すことにきめた。
「俺にはな、両親がいないんだ」
……………
ここで早くも気まずい雰囲気になる。
だが、どうやらティアラ、フィアの2人もいない様だ。
フィアの両親は村が襲われる前に亡くなっていたため、一人暮らしをしていたそうだ。
「……話、続けていいか?」
「あ、は、はい!お願いします。ユウト様」
「両親はな、俺が6歳の時に突然行方不明になったんだ。それも2人同じ日に」
ちなみに、その後は母方の祖父母に引き取られた。
当然転校することになる。
まぁ、ここらへんは話てもわからないだろうから、2人には言わない。
「その時はな、親を失って…とにかく悲しかった。毎日毎日泣いて祖父母を困らせていた」
今考えると本当に祖父母には迷惑をかけたな。
「そんな中でな、俺は近所に住む子たちにいじめられるようになったんだ。昔はとにかくなよなよしてて皆と会話することもままならないくらいだったからな」
2人は悲しい顔をしながらも絶句している。
まじで!?って顔だ。
正直今も話せるようにはなったが、自身の心の弱さは改善していないように思う。
それと実際には近所の子ではなくて学校の子だったんだが、まぁいいか。
「毎日が辛かった。両親がいなくなり、さらにいじめられた。抗おうとはしたが、抗えなかった。本当に辛かった…」
あの時のことを思い出す。
本当に辛かった。
…でも。
「でも、そんな時にな、ヒーローが現れたんだ」
子供っぽい表現かもしれないが、この時は本当にそう見えた。
「そのヒーローはな、俺を救ってくれた。両親のいない俺の心を少しずつ暖めてくれた。その日から毎日がとにかく楽しかった。あいかわらず性格は変わらなかったけど、とにかく充実した毎日だった。そのヒーロー達はコウタ、ダイチ、ミオ、ユウカって言うんだけどな。今でもこんな俺を親友だといってくれている。だからな、いつか俺は4人に恩返しをするんだ。どんな形でも良い。俺を救ってくれた、支えになってくれた4人に何か返したいんだ。……元気にしてるかな皆」
こんなに話したのは初めてかもな。
話してるうちに止まらなくなってしまった。
2人の方を見ると俺を見て固まっている。
どうしたんだ?
ティアラが口を開く。
「ユウト様…私、ユウト様の今のようなお顔は初めて見ました」
顔…?
「ユウト様、気づいておりますか?今、優しくて暖かくなるような…そんなお顔をしております」
あ、今俺……ほほえんでるんだ。
この世界で、幼馴染とはなれ、ガリウスさんとはなれ、すっかり忘れていた顔。
昔は自然にできていたが、今までできなくなっていた顔。
「ユウトさんは、本当に良い方と巡り会えたのですね」
「あぁ、両親がそして祖父母も居なくなってしまった俺の中で一番かけがえのない人たちだ…」
そこまで聞いて、ティアラは微笑みながらも少し顔を歪めながら言った。
「ユウト様をここまで優しい笑顔にさせる方々。ユウト様にとっての一番ですか…。なんだか少し妬いてしまいますっ!」
それに答えるユウト。
「大丈夫、今ティアラは2番だ」
「それ、フォローになっていませんよ!?」
「では、私は何番でしょうか?」
今度はフィアがたずねてきた。
「フィアは……2番かな」
「…やったです!」
「え、ユウト様!?私の方が付き合いが長いのに今あったばかりのフィアと同じですか!?フィアがずるいです!」
「え、あぁ、そうか」
若干ティアラの凄まじい剣幕に押されながらも答えるユウト。
その後も3人の談笑は続いた。
とにかく楽しかった。
その時のユウトはなにか重いものがとれたような、優しくて、暖かい笑顔だったのだそうだ。
この時、3人の元にあるものが近づいてきているのだが……
………この時の3人はまだ知らない。
今回はフィアとユウトの過去の話でした。
少し暗くなってしまったでしょうか…?
あと、ここで幼なじみとの出会い、そしてユウトの思いが出てきました。
これらの事はこれからも密接に絡んでくるので、よろしくお願いします。
さて、次回は「記憶」です。
それでは、次回でまた会いましょう!