最悪の結果
「勇者様、ようこそエスプリトゥ王国へ!」
白いローブのようなものを被った男がそう叫ぶ。
やけに静かなこの神殿にはその声が良く響き渡った。
皆まだ状況をしっかり把握できていないのかもしれない。
その時、1番早くを現状を把握した浩太が少し声色を強めて言った。
「ここはどこだよ!そして勇者召喚ってなんだ!説明してくれ!」
もっともである。
いきなり連れてこられたあげく、説明なしってのは酷いからね。
「申し訳ありません勇者様方。では説明させていただきます。まずはこの世界について、この世界の名はイレイーゼ。そして勇者様方を召喚した我が国の名はエスプリトゥ王国です。勇者様方を召喚したわけは、これからこの世界に訪れるだろう、災厄を打ち払って頂きたいからです。何卒お力をお貸しください勇者様方!」
よくある勇者召喚だなー。前に本で読んだみたいだ。でも違うのは勇者、じゃなくて勇者様方と勇者が複数いることかな?
そんなことよりも、急に連れてこられて災厄を打ち払ってって言われても、混乱するだけなんだよな。
「その災厄ってのは何なんですか?」
落ち着きを取り戻した浩太たが聞く。
「その災厄というのは、つまり魔王の復活です。我が国は精霊の力が豊富にある国です。我が国の王はその力で「予言」をしました。
「予言」は我が国の王しか使えないもので、今まで外れたことがないのです。その予言によると魔王の復活は今から1年後ということになりました。魔王が復活する、又復活が近づくと、魔物の数が一気に増えます。だからこの世界を救っていただくため、勇者様方を召喚させていただきました」
「精霊の力って、何〜?」
と、美緒。
「精霊の力とは、精霊が放出するエネルギーのことです。精霊とは、この世界のあらゆる所に存在するといわれている、目には見えないほど小さな生物です。その精霊が放つエネルギーを精霊の力、又は魔力と私たちは呼んでいるのです」
「んなことはどうでもいいんだよ!無理矢理連れてきやがって!何で俺たちなんだよ!早く俺たちを地球に返せ!」
と、山岡。
確かにそれは僕も思ったことだ。
何故僕達なのかと。
「今、勇者様方を元の世界に返すことはできません。そしてあなた方を選んだのは最も力を持った方々だったからです」
「!?」
「んなっ!?帰れない?何だよそれ!無理矢理連れてきたくせにふざけんじゃねーよ!」
山岡が叫ぶ。
それにクラスメートは乗っかり、皆、不満わ言っていた。
そんな時、大地が口を開く。
「今は返せないってことは、返せるときがくるってことか?」
白ローブの男が答える。
「はい。勇者様方を元の世界に返せる日はきます。それは魔王を倒した日です。魔王を倒していただければ返すことができます」
なんか胡散臭いな。
返すことができますじゃなくて、魔王を倒していただければ、もう用は無いので、返すことにしますじゃないのか?
だって魔王が復活していないのに、倒せば帰れるとかそんなことわからないでしょ。
「ってことは、魔王を倒せば返していただけるんですね?」
「はい。その通りでございます。是非お力をお貸しください勇者様」
「もう一つ聞きたい。何故、復活の1年前に呼んだ?復活の直前じゃダメなのか?まあ理由は何となくわかるが一応だ」
うわー、グイグイいくなー大地。
やっぱ頼りになるなー。すごいなー!。
「1年前に呼んだのにはちゃんと理由があります。勇者様方にこの世界での戦い方を学んで欲しいのです。いくら勇者様でも訓練しなければ、持っている力を出し切れないと思いまして。レベル上げや、スキルの精度を上げたりと、やることは山ほどあるのです」
「なるほど」
この世界にはレベルやスキルなんてあるんだー。
何か本当にゲームの中にいるみたいだな。
「ってことは、何だ?最低でも1年は帰れないってことか?マジかよ」
山岡がまた叫ぶ。
皆やっぱり不安みたいだ。
本当だよね。急に連れてこられて、魔王を倒せなんて。
「無理矢理連れてきてしまったことは、本当に申し訳ないと思っています。ですが、どうか私達に力を貸していただきたい」
ローブの人は頭を下げた。
流石に年上の人に頭を下げられると気まずいみたいで、みんな落ち着きがない。
「やろう!頭まで下げられたんだ。力を貸そうじゃないか!そして、早く終わらせてみんなで地球へ帰ろう!」
と、浩太が言う。
「そうだね。早く終わらせれば帰れるんだし早く終わらせちゃう方がいいよね」
「よし、やるぞ」
「勇者っていうのも、案外悪くないしな」
皆の士気が上がった。
やっぱり、浩太もすごいや。
「おー!やっていただけますか。ありがたい本当にありがたい!勇者様方、私達も全力でサポートさせていただきます!皆で頑張りましょうぞ!」
「「「「「「「「おー!!」」」」」」」
ローブの人も、やる気になって、皆もやる気になって…やっぱり、これも浩太の力なのかな。やっぱりすごいな。本当に、かなわないな。
「まず、今日はゆっくり休んでください、勇者様方。部屋は王宮に用意してありますので。あ、それともし何かございましたら、私、ローウィンの所にお申し付けください。ささっ、勇者様方案内しますので、どうぞこちらへ」
僕達はローウィンさんに連れられ、王宮に向かった。
□
次の日、王宮内の訓練場にて。
「 いやー、王宮ってすごいよなー、部屋は広いし、飯はめちゃくちゃ美味いし、使用人さん達は面倒をみてくれるし。俺、ここに住んでもいいくらいだわー。なー!優人!」
「う、うん、そうだね」
僕は苦笑いでそう答えた。
「今日はなんだっけ?ステータスプレートの確認だっけ?」
「そう言ってたよね、確か」
「なんでもステータスは、ほとんどがその人の前の世界での力が反映された値らしいじゃん。優人とかどうよ、絶対最強でしょ!」
「そんなことないよ。僕なんか」
「そんな謙遜すんなって。まあ、ステータスみりゃわかることだしな。気楽に行こうぜ」
「うん、そうだね」
「あ、俺大地に話があるんだった。じゃ、また後でな、優人!」
「うん、また後で」
この時僕は思っていた。
誰よりも強ければいいな、と。
浩太達には恩返しを、クラスメートを助けられるように、と。
僕は柄にもなく、期待していた。
皆の力になれるような、そんな気がして。
だが、現実はそう上手くいくものではなかったのだ。
優人の力も、クラスメートとの仲も。
□
そんな、こんなことって。
優人は絶望した。
クラスメートからは嘲笑の声やあきらかな見下しの目が向けられる。
浩太達も僕にあわれむような目を向けている。
僕が、皆を守るって、浩太達に恩返ししようって思っていたのに。
こんなの、あんまりだよ。
皆に見下されるのも当たり前だよ。
こんな、こんな非力な僕じゃ、誰の、
…誰の力にもなれないじゃないか。
僕の力は皆の10分の1にも満たなかった。
クラスメートや、浩太達のステータスの平均は100、皆がそうだ。
また、皆には魔法などの力のあるスキルがたくさんついている。
だが、僕のステータスは全てが5。
そしてスキルは、1つもない。
スキル欄には????が並んでいるだけだ。
「ゆ、優人…」
浩太が、気にしてくれる。
やっぱり、優しいな、浩太は。
でも、今は、今はそんな優しさが、
…心に、痛い。
□
皆がステータスの確認をした。
あんだけ帰りたがっていた皆も自分のステータスには、興味があったみたいだな。
俺、相原浩太も皆と同様だった。
皆、ステータスを確認している。
何か異世界の人はステータス補正がついていて、通常より強く設定されているみたいだ。俺のステータスも、やはりすごかった。
==================================
相原 浩太 Lv.1 16歳 男
体力 100
攻撃 100
防御 100
敏捷 100
魔法 100
魔耐 100
スキル 攻撃UP(大) 防御UP(大) 敏捷UP(大)
魔法UP(大) 魔耐UP(大)
==================================
皆、基本こんな感じらしい。
この世界のステータスの平均は10らしいから本当皆強すぎだよな。
スキルや、ステータスは、人によって少しは違うようだけど。
これも異世界人補正のせいかな。
あ、ちなみにステータスUP(大)の効果はレベルに依存するらしい。
レベルが上がるにつれ、スキルによるステータスの上昇量も上がるんだとか。
全く、チートもいいとこだよ。
これは、優人のステータスが楽しみだな。 どんだけ強いのか。
本当に楽しみだな。
「「わはははは!なんだこれ。しょぼすぎんだろー!」」
ん?どうしたんだろう。
皆が笑ってる。
大地達は、なんか悲しそうな顔。
ローウィンさんも、難しい顔してる。
そして、笑われてるのは、辛そうな顔をしているのは。優人!?
「おい、優人!?どうしたんだよ!お前等もなに笑ってんだよ!」
優人に駆け寄る浩太。
「大地も、美緒も、優香も優人が笑われてんのに見てるだけかよ!」
皆目を伏せている。
何でそんな悲しそうな顔をすんだよ!
何があったんだ!くそ!
「おい、優人、どうしたんだよ?何かあったのか?」
優人は何も答えない。
そんな優人の目の前にはステータスプレートが落ちていた。
ステータスプレートは名前の通り、ステータスが書かれた板だ。そんなステータスプレートは持ち主がステータスプレートを閉じずに手を離すと実体化し、誰にでも見えるようになるのだ。
優人のステータスプレートか、?
俺はそれを拾い、見てみた。
「なっ!?」
それをみた俺は動揺を隠せなかった。
==================================
倉島 優人 Lv.1 16歳 男
体力 5
攻撃 5
防御 5
敏捷 5
魔法 5
魔耐 5
スキル ???? ???? ???? ????
==================================
「どーなってんだよ!ローウィンさん!こんなのってあんまりだろ!」
俺はローウィンさんに言ってもしょうがないとわかっていながら感情をぶつけるしかなかった。
「すいません。私にもわかりません。何故こんなことが起こったのか。はっきりいいますとこの世界の人でもこんなステータスはなかなか見ません」
「ちっ!」
「わはははは、いつも調子に乗ってるからこうなるんだよ!」
と、山岡。
それに合わせて皆が優人を見て笑う。
何で皆笑ってんだよ!優人が何か悪いことでもしたのかよ!くそっ!
「ゆ、優人…」
優人は下を向き、何も答えなかった。
絶望の顔をしている。
くっ!
俺は、優人に何もしてやれないのかよ!
こんな時こそ、こんな時こそ助けてあげなければならないのに。
優人に、あの時の恩返しをしなければならないのに!
だが、俺は絶望する優人に何も言葉をかけることができなかった。
□
ステータスを確認した次の日。
皆は自分のスキルを磨くために訓練場にいた。
俺も、訓練場にいる。
あの後、優人は部屋に戻ったきり、一度も外にでてこなかった。夕食の時も、風呂の時も。
俺は、あの時何も言えなかった。
そんな自分が情けない。
だから俺は決意した。
訓練後に優人を元気付けにいこうと。
それが、優人にどんな影響を及ぼすかわからないけど。けど、今俺には、そうすることしか出来ないのだから
そんな時、大地、美緒、優香が集まってきた。
皆決意を固めたような目をしている。
「浩太、私達、優人を励ましに行きたいな〜って思ってて、勿論それが逆に優人を傷つけることになってしまうかもしれない。けど、私あの時何も言えなかった。だから、だからこんなことしか出来ないけど…私は優人の力になりたいの…!」
普段は明るく、どんな時でも軽い美緒が涙を浮かべながら、そう言った。
「私達、優人くんの力になりたいの!」
「俺もだ、優人には世話になってるしな」
大地と優香からも決意の色が見てとれた。
やっぱり、皆考えてることは一緒なんだな。
「俺も、訓練後に行こうと思ってた。皆が同じ気持ちでいてくれて嬉しいよ。皆で、優人を元気付けてやろうぜ」
「浩太…」
「うん、そうだねっ」
「ああ、勿論だ」
そして俺たちは練習後、優人の部屋へと向かった。
□
「何やってんだろ、僕は」
ステータスを確認した後、僕は部屋に篭ったっきり、一度も外にでていない。
部屋に篭って皆から逃げてる自分が憎い。
だけどこんな力じゃ、皆な力になれない。
僕は、一人で悩んでいた。
コンコン
「優人、いるか?」
え、浩太?
浩太の声が聞こえる。
もしかして、僕を元気付けに来てくれたのかな、やっぱり優しいなー。
僕は立ち上がり、部屋の鍵を開けた。
カチャッ
ドアが空くと、そこには幼馴染の皆が立っていた。
「みんな…」
僕は皆を部屋に招いた。
「まあ、座ってよ」
「ありがと、優人」
皆が僕の前に並んで座る。
そして皆は僕に、
「「「「ごめんなさい」」」」
謝った。
「え、どうしたの?みんな」
「俺、あの時優人に何も言ってやれなかった本当に最低だ、俺は!」
「私も、あの時何も言えなかった所か、目をそらせちゃった。本当にごめんね。辛いときに何もしてあげられなくて…!」
浩太に続き、美緒、大地、優香が謝ってきた。
「そんな、皆が謝ることじゃないよ。僕の力が足りないことが悪いんだ。だから、皆は悪くないよ」
「いや、俺たちが悪いんだ!困ってるときに助けてやれなかった。だからせめて…」
「俺たちが手伝うからさ頑張ってみようぜ!俺たちが優人を全力でサポートするから。もしかしたら、強くなるかもしれないじゃないか。頑張る前から諦めちゃだめだよ。だから一緒に頑張ろうぜ!」
皆が決意の目を僕に向けていた。
皆が涙を浮かべながら僕に手を差し伸べてくれる。
はあ、また助けられちゃったな、皆に。
いつも皆は僕を助けてくれる。
だからこそ、皆のために頑張って強くなって恩返しをしなきゃ。
「うん、ありがとう。みんなっ!僕、頑張って強くなるよ…!」
僕は涙を流しながら、決意をした。
頑張って、強くなるぞっ、と。
だが、優人に待っている未来は、優人により絶望を与えるような、
…そんな未来だった。
こんにちは!
第2話です。
お楽しみいただけたでしょうか?
さて、今は暗い展開が続いています。
が、これから段々と明るくなっていくと思います。
すぐに、優人の力が目覚めますしね。
ヒロインの方も、もう少し話が進んでから出てきますので、お楽しみに!
さあ、次の話で優人に訪れる絶望とは!?
お楽しみに!